やはり俺の○ル○ナは間違っている   作:hung

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いつでも雪ノ下雪乃は負けず嫌いである

4月5日(木)夕方

 

 

「ペルソナ!『アマノジャク』!!」

 

 

 真っ白な狩衣をはためかせた異形が総武高校特別棟の一室に出現する。

 

 どこからか吹く風で揺れる袖からは鋭利なカギヅメが光っている。

 

 顔には硬質な仮面、と言うよりも歌舞伎などで使われるような鬼の面を被っている。

 

 

「よし! 上手い事ペルソナに覚醒できたな!」

 

「これが、ペルソナ…」

 

 

 何故か人語を話す二足歩行の黒猫? のモルガナが快哉を上げる。

 

 八幡のペルソナ覚醒で生じた衝撃で間合いを離された黒く染まった雪乃は、じりと未知の脅威を前に様子を見ている。

 

 当の八幡本人はまさか逆切れのように「死にたくないでござる! 絶対に死にたくないでござる!」とか叫んだら変なモンが自分から出てきた事に放心気味にペルソナ、己の一側面『アマノジャク』を見つめている。

 

 

「いいか、ペルソナはもう一人の自分って言っていいもんだ…おめー、名前は?」

 

「比企谷八幡」

 

「そうか、ハチマン。ペルソナ使いは常に自分の心に負けないようにしねーといけねー。集合無意識からのエネルギーを押さえている自我が揺るげば暴走しちまうからな。

 いい例が目の前の女の子だ。あんなふうに集合的無意識から溢れたエネルギーが泥のようにまとわりついてシャドウって状態になっちまう」

 

「思春期の男子高校生に酷な事をいいなさる」

 

「一回ペルソナに覚醒しちまったら早々簡単には暴走するこたねえよ。それよりヤッコさんの痺れが切れそうだ、油断すんじゃねえぞ」

 

 

 ぐるりと下げていたシミターを小さい肩に担ぎ直し戦闘態勢に戻るモルガナが黒くなった雪乃、シャドウ雪乃に集中する。

 

 二対一、数の上で劣勢になったシャドウ雪乃。

 

 しかし暴走してしまっている自我が降伏と言う選択肢を取ることはない。

 

 この状態になってしまったら一度完膚なきまでに打ち負かしておとなしくさせてから暴走の原因を解消するか、無理やりにでも集合無意識の泥を吹き飛ばす、もしくはその生命を断つしかない。

 

 

「つうことで、良いかハチマン。あの女の子を殺したくなきゃあんまやりすぎちゃダメだし、ワガハイがついてるとは言え負けたら普通に殺されちまうだろうから気を抜きすぎんなよ」

 

「俺、喧嘩もしたこともない普通の男子高校生なんだけど。手加減とか殺されないよう戦うとか」

 

「来るぞ!」「あっ、抗弁も無しっすか」

 

 

 平塚先生に雪ノ下にと、つくづく今日は話を聞いてもらえない日だな、いや元から話を聞いてもらえる日とかなかったな。

 大体ぼっちだから学校では話をする事もないし、家ではほとんどが妹の小町かかあちゃんの意見が強いから「いいよね?」と最終確認だけされる事しかねえし。

 

 ガギン!!

 

 そんな遠い目をする余裕もなく、先よりも更に鋭さを増した拳をシミターで捌く音に無理矢理現実に引き戻される。

 

 

「ハチマン! 無駄に考えるな! ペルソナは集合的無意識から生まれたもんだ!

 おめー本人が戦い方をしらずとも、ある程度は集合的無意識から刷り込まれてる!」

 

「むしろ知らない知識とか経験が有る方が怖いんですけど! うわ、本当に自然と身体が動きそうだよ、こえー」

 

「無駄口叩いてねーで早く手伝え! この女の子、ペルソナ抜きじゃワガハイ一人だとキツイ!

 かといってワガハイのペルソナだとやり過ぎちまう可能性がたけー! つか、何でこんな強いんだよ!! いや、ワガハイが弱体化しすぎてるのか!?」

 

「お、おう。えっと、じゃあ、いくか『アマノジャク』」

 

 

 おそるおそる、と脇に浮かぶ己の一側面と言われたペルソナに伺いを立てる。

 

 つか、自分の側面として出てくるのが天の邪鬼ってそんなに俺ってひねくれてるかな? とか考えている。

 

 未だに何処か及び腰なそんな本体に呆れているのか、まるで嘆息するように顔を下げて『アマノジャク』はのっそりと激しい剣撃の場に向かう。

 

 

「迂闊に拳の届く所には近付くなよ! ワガハイだからなんとかなってるが、こいつの拳は覚醒したてのペルソナだと下手すりゃ一撃でダウンを取られちまう!」

 

「なら、何をすればいいんだよ」

 

「ペルソナは魔法が使える! それで遠距離から牽制してくれるだけで十分だ! 決定的な隙さえできれば、あとはワガハイのペルソナで戦闘不能まで持ち込める!」

 

 

 モルガナの言葉に確かにこうも戦い馴れている存在に任せるのが最適解か、と己のペルソナに指示を出そうとする。

 

 内心わくわくしていた。

 

 もちろん、いきなり命の危機に巻き込まれた状況に不満はある。

 

 こうやって切った張ったは自分に合わないと自覚もしている。

 

 しかし、元中二病患者として妖怪だとしても神話の存在を己の力として従えて闘う。

 

 これだけでもご飯50杯はお代わりできそうな気分だったのに、魔法まで使えると言うのだ。

 

 かつての妄想の様に主神級の存在でない事も不満だが、充分に右脇腹にあるとされる回路がギュンギュンに廻っている気分だった。

 

 ここから比企谷八幡の華麗なる武勇伝が始まるのだ! とさえも思っていなくも無かった。

 

 だから、内心ではワクワクしながら己のペルソナが使える魔法を声高々に叫んだ。

 

 いったいどれだけの威力を持った魔法が発生するのか、どれだけ応用力のある魔法なのか、俺TUEEE! が待っていると信じ切ったままで。

 

 

「『タルンダ』!! …あれ?」

 

 

 だからこそ、その魔法を叫んでも目立った現象が発生しなかった事に固まってしまった。

 

 

「くっ! やべー! そっち行ったぞ、ペルソナで防げ!」

 

「えっ、あっ、た『タルンダ』!」

 

 

 何も起こらなかった拍子抜けに固まると言う隙を見せてしまった八幡に、シャドウ雪乃がモルガナのシミターを弾いて襲い掛かる。

 

 八幡は運動神経が悪い訳ではない。

 

 頑張ればそこそこの動きが出来るし、チームプレイを前提としないならば様々な種目でそこそこの活躍をする事も夢ではないだろう。

 

 しかし、致命的に生命の危機には弱かった。

 

 目の前に差し迫った暴力に対し、何も起こらなかった事を何かの間違いじゃないかと、棒立ちで叫ぶしかない程度には弱かった。

 

 

鬱陶シい!!

 

「えっ、痛え!」

 

「ハチマン!!」

 

 

 がっ、とシャドウ雪乃の拳が『アマノジャク』の腹部に突き刺さる。

 

 それはモルガナの言に反して、大きなダメージを与えたわけではなかったが暴力と言う分野と縁遠い生活をしていた八幡にはすこぶる痛く感じられた。

 

 

「な、なんで、こんなに痛いんだよ! つか、俺の魔法は何で」

 

「落ち着け! ペルソナは自分の心の一側面を表出させたモンだっつったろ! 自分の心をぶん殴られて痛くねえわけあるか!

 んで、『タルンダ』は相手の力を弱める魔法だ! 攻撃用の魔法じゃあねえ!」

 

あぁ! 煩わしイ! 私を知らないkuseニ! 私の言葉ヲ理解シモせず! 人の足をヒクことしか出来ない下賤ナ低能ドモ!

 

「くそっ! 攻撃の勢いは弱まったが、隙には繋がりそうもねえ! つか激昂してる分差し引きマイナスじゃねえかこれ!? ハチマン! 他に使えそうな魔法はねえのか!」

 

 

 再度振りかぶられた拳を今度は何とかカギヅメで受け止める。

 

 その間になんとか体勢を立て直したモルガナがアマノジャクとシャドウ雪乃との間に割り込み、またしても剣撃を開始させる。

 

 八幡の使った魔法『タルンダ』は相手の力を弱める魔法であり、本来であればモルガナが苦戦するほどに強敵なシャドウ雪乃相手に十分に効果を発揮するはずであった。

 

 もちろん、『タルンダ』が割合デバフの為、序盤ではあまり恩恵が無い―100を1割現状させれば10減るが、10を1割減らしても1しか減らない―と言う点もあるが、それでも十分に支援となるはずだった。

 

 しかし、雪ノ下雪乃と言う人間は他人から足を引っ張られると言う行為に対して極端に嫌悪を持っている。

 

 それは中学時代のトラウマ―容姿端麗、成績優秀を妬んだ同級生からのいじめ(報復済み)―もある。

 

 加えて、変革を目指す自身に対する妨害を跳ね除けてきた過去が逆に己を強化させるのだ。

 

 これによって、シャドウ雪乃には弱体化、デバフは逆効果だったと言う事実。

 

 ゲーム的に言えば、デバフを受けた際1ターン後にデバフを解除し一段階攻撃力を上げるカウンター能力を所持していると言えば、何となく分かるだろうか。

 

 

「えっと、『タルンダ』の他に使える魔法は『ラクンダ』」

 

「相手の防御を下げる弱体化だ!」

 

「『アナライズ』!」

 

「ことばのまんまに相手の弱点とか探る魔法だ!」

 

「以上!」

 

「牽制に使える魔法が一個もねえじゃねえか!!」

 

「知るか!!」

 

 

 一応、とアナライズで耐性を調べてみるが、結果としては『耐性、弱点、共に無し、文句なしの強敵でござるな』と言う無残な表示が脳内に示されるのみ。

 

 ペルソナに目覚めた瞬間(Lv1)から三つの魔法を使えると言うだけで才能はまあ、あったのだろうが現在の状況からそれの何処が役に立つのか? 産廃と言うほかない。

 

 

「普通、こういう最序盤の敵って物理弱点とか、自分が使える魔法に弱点があったりするのがお約束だろ。人生ってやっぱクソゲー、早くもこのスレは終了ですね」

 

 

 ここで終わってしまっては終了するのは自分の人生だと言う事に気付いているのだろうか。

 

 アトラス恒例、序盤敵によってパトられる羽目になるのか。

 

 

「くそっ、こうなったら一か八かになっちまうがワガハイのペルソナで無理矢理吹き飛ばすしかねえか」

 

「その問題点はなんだ」

 

「ちゃんと集中して手加減しねーと威力が高すぎてお陀仏になっちまう可能性もあるって事だ!」

 

「却下だ馬鹿野郎」

 

 

 モルガナは主、ベルベットルームの住人であるイゴールから一部の記憶を封印されている。

 

 記憶がなければ絆も無いも同然であり、絆の力によって超覚醒したペルソナを呼び出す事は出来ない。

 

 よって呼び出されるのは『怪盗ゾロ』、それも一度消えて復活した際に弱体化した状態だ。

 

 それでもなお、かつて世界を悪神の手から救った怪盗団の一員としての実力は残っている。

 

 具体的に言えば、ステータスはLv20相当。かつての四分の一程度と随分弱っているが、シャドウ雪乃のLvはアナライズデータではLv1。例えガル等の初期魔法であってもステータスの暴力は致命的。

 

 弱点ではなくとも、シャドウ雪乃のHPや防御力、当たり所によっては一撃死もありうる。

 

 モルガナはそれを厭んでシャドウ雪乃に対して手加減している状態だった。

 

 もっとも、その手加減を彼女がどう思うのかは、おそらく読者のみが知る。

 

 しかし、さらに攻勢を強めていく様子を見て、何が琴線に触れたのかは分からずとも激昂している事は分かる。

 

 雪ノ下雪乃と言う少女は負けず嫌いで、目の前にある壁に対して挑む姿勢を崩さずに済まないのだ。

 

 

「(考えろ。モルガナって猫らしき奴はどうやらこのペルソナってチカラに慣れている。そんで、見るからに手加減しながらいなす事も出来ている。つまりある程度の余裕があるって事だ。考えていられる時間は長くはなくとも、短いってわけでもねえ。俺の戦力は『アマノジャク』、俺自身は多分あいつ相手に殴りかかった瞬間に右ストレートでぶっ飛ばされるくらいには喧嘩慣れしてなくて、ペルソナの魔法もデバフ特化らしいから、華麗に参上比企谷八幡! で解決する事は無理だった。つか無理矢理参戦したら悲惨な惨状死体の八幡にしかならない件)」

 

 

 眼で追いきることも難しいくらいにテンポの速い攻防を横目に思考を巡らせる。それこそが現状の自分に出来る唯一だと。

 

 そうしてチラリと己の一側面であるペルソナ『アマノジャク』に視線を向けると、先ほど剣撃の間に向かわせた時と同じように今にも嘆息しそうな様子を見せている。

 

 何をぐずぐずしているのか、と呆れるように。

 

 己の分際をわきまえていない、と蔑むように。

 

 出来る事をやればいいのだと、励ますように。

 

 自分にはそれが出来るのだと、信じているように。

 

 答えは最初から見えているのに、気付かない己と向き合うプロセスがそれだった。

 

 解は出た。ならばあとはそれを実行するだけで良いのだ。たとえそれがどれ程の痛みを伴うとしても。

 

 

「そうだよな。俺みたいなやつがペルソナなんて特殊能力に目覚められるなんてのは何かの間違いだよな」

 

「何をぶつくさ言ってやがる! このままだとマジでやばいんだぞ!」

 

よくワかっていルじゃない。あなタのyoうな変化を拒む人間ガナニカの特別にナンテなれるはずがナイのよ

 

 

 内心ごもっとも、と納得する八幡。

 

 腹をくくるしかねーか、と覚悟を決めようとするモルガナ。

 

 しかし、その覚悟は為されることなく、気合は空ぶることが決まっていた。

 

 

「確かに俺が特別なチカラを持てる訳がない。つまり、俺みたいな奴に出来たって事はこれは何ら特別なチカラってわけじゃないって事だ」

 

「いや、ペルソナを使えるって事は「ちょっと黙ってろ!」ハチマン?!」

 

 

 なぜならモルガナがする前に、覚悟は一足先に八幡が済ませていたから。

 

 口をはさんできたモルガナに対して常では出さないような大声で制止する。

 

 必要なのは自覚だった。

 

 何が出来るかでもなく、何を為したいかではなく、何をしているのかという自覚が必要だった。

 

 

あれあれぇ?! そんな俺にできたことなのに、国際教養科の、いや総武高校で学年トップの成績な雪ノ下雪乃さんは何でペルソナを使えてないのかなぁ!!!??

 

「『は?』」

 

 

 総武高校特別棟の一部屋に北風が吹いた気がした。

 

 

「いや、分かるぜ。こんな事に学校の成績とか関係ないよな。だけどよ、人は変わるべきとか、恵まれし者が手を差し伸べるとかあんだけ上から目線でお説教かましてくれてたあの、雪ノ下建築のご令嬢様が才能のないただの一般庶民が難なく出来てる事が出来ないとか意外過ぎて…あっ、すまん。これじゃあただの自慢だな。分かってる分かってる、雪ノ下さん今はただちょっと戸惑ってるだけだよな、いや俺はもう最初っからこんな感じでペルソナを使える程度には才能が有ったみたいだけどあの容姿端麗な雪ノ下さんが俺みたいなやつでも出来る事が出来ない訳ないもんな。その気になったら一瞬でペルソナを出せるんだろ、慣らし運転は必要ってはっきりわかんだね。さあ早くやってみせてみろよ。あれ、出来ないの?」

 

「は、ハチマン?」

 

 

 プークスクスと口ではあざ笑い軽口を叩いているが、背中に流れる冷や汗がべっとりとシャツを濡らしていく感覚が極度の緊張を自覚させる。

 

 しかし、マシンガントークを収めるつもりはない様だ。

 

 みしり、と空間が歪んだ気がした。

 

 

「つかさ、世界が悪い? 自分を認めろ? 何を言っちゃってるんですかね、そんなに雪ノ下さんって特別な訳? 俺にすら出来てるペルソナってチカラも使えない癖に?」

 

 

 心底から軽蔑しているような目つき(元々の腐った眼と批評されるそれと相まって、非常にムカつく目)で見上げながら見下す。

 

 

あァ! う、ルサイ、五月蠅イ! 私は正しI、ワタシは努力しテイル! なら、認められるベキでしょう!

 

「努力が無条件に認められるのはちっちゃいころだけなのはお前も分かって『うるサい!』がっ!!」

 

 

 激昂から目先の脅威であったモルガナから、八幡へと矛先を向けるがすかさずフォローに入るアマノジャク。

 

 ガスガスと重い音を立てて、『アマノジャク』の身体に雪乃の拳が突き刺さる。

 

 一部は『アマノジャク』の腕から伸びるカギヅメで受け止めるが、殆どが止められずにモロに入る。

 

 

「ぞ、『ゾロ』!! 『ディア』」

 

 

 咄嗟にモルガナがペルソナを呼び出し、回復魔法を使い八幡のダメージを癒す。

 

 さっきまでモルガナと戦っていた時とは異なり、今の雪ノ下は駄々をこねる子供のように力を振り回すのみだった。

 

 そうでなければモルガナが苦戦していたシャドウ雪乃の攻撃に八幡が耐えられるわけが無かった。

 

 

「さっき、言ったよな。変わって前に進まないと悩みは解決しないし、誰も救われないって。それで変わり続けて、進み続けて、お前はどこに行きたいんだ」

 

『っ! わ、waたしは、私は何処に?』

 

「さっきから雪ノ下さんの言葉には否定と、悲観しか聞こえてこねえ。『こんなのおかしい』『分かってくれない』ってな。俺はこの命の危機に対して、前を向いたぞ」

 

「大分後ろ向きと言うか斜め下方向の前の向き方だったけどな」

 

 

 雪乃が怯んだ様子を確認してから、八幡は心底嫌そうな顔をしながら否定の言葉を吐き出す。

 

 モルガナが茶々を入れてきているが意識して無視する。

 

 

「こんな事で死んでたまるか! 将来は専業主夫で大往生だ! どんなにおかしい言葉でも俺はこんな状況でも前を向けたのになぁ!

 総武高校で学年一の天才とかいわれてる雪ノ下雪乃さんは俺が出来ることも出来ないんだぁ! 幻滅だなぁ!!」

 

ビキィ!!!!!

 

 

 その瞬間、閉じた教室に異音が響き渡った。

 

 

「変わらないと悩みをどうにもできなくて、変わり続けないと誰かを救う事も出来ないなんて言い訳をして逃げるとか、ただ単に行動する自信が無いだけじゃね? むしろ、日々ぼっちとしてスクールカースト上位の皆さんに不快な思いをさせないようにしている俺の方が役に立ってるんじゃね? あれ? って事は雪ノ下さんって、もしかして」

 

 

 雪ノ下雪乃は負けず嫌いである。

 

 雪ノ下雪乃本人はその負けず嫌いと言う事を自覚している。

 

 しかし、雪ノ下雪乃は負けず嫌いではあるものの、遥かに高い壁には挑戦する前に諦めてしまう癖がある。

 

 おのれの上位互換とも言える姉に口だけは挑んでいるように見えながら、適わないと諦めている。さながら志々雄に対する宇水のように。

 

 それを認めきれずにいられるからこそ、雪乃は主張するのだ。

 

『変わらなければならない』と。

 

 心だけでなく、劣っていると認めて言葉にしてしまえばそこで止まってしまいそうだから。

 

 だからこそ自覚が必要なのだ。

 

 このままだと、目の前の眼の腐った男子以下の状態になっちゃうんだよ? と言う反骨心を爆発させずにはいられない状況に。

 

 

「俺以下の存在なんz『ビキィイイイイイイイ!!!!』ヒェッ」

 

「あだっ!」

 

 

 俺以下、と言った瞬間、雪乃の全身を覆っていた黒が八幡のペルソナが生まれた時と同じように雪乃の身体から剥離、刹那ヒビ割れ、爆散。

 

 吹き飛んだ黒い欠片がモルガナの頭にぶつかり悲鳴を上げるが、それを気にしていられるわけも無い。

 

 

「随分」

 

「「ヒィッ」」

 

 

 顔を俯けて垂らされた黒髪がホラーテイストチックに彩る雪乃。

 

 地獄の底から絞り出されるような小さな音で、しかし、明瞭な声を出す。

 

 その声音の恐ろしさにモルガナまでもが悲鳴を上げて身体を震わせる。

 

 

「随分、好き勝手に言ってくれたわね」

 

「いや、その、違うんですよ。そこの黒猫、モルガナって言うんですけど集合無意識からのエネルギーをペルソナって物にするには心の強さだとか覚悟だとか真理の扉を開く必要があるっていうから、雪ノ下さんが発奮するしかない状況に追い込まないと行けなくてですね、この中で一番強いモルガナがなんとか出来ないのが悪いっていうか、クソ強な猫があそこまで追い込まれてる状況で逆効果にしかならない魔法しか使えないこのペルソナが悪いっていうか」

 

「ワガハイの責任重すぎねえか? 仮にもおめーのピンチを助けてやったんだぞ」

 

「ペルソナは自分の一側面と言うのならば、それはつまりあなた自身が悪いと言う事ではないのかしら」

 

「そ、そうとも言う事は無きにしも非ずと考えられない事も無いようなきがしなくもなくなくないと」

 

「そう考えた結果が、あの罵倒の羅列だと言うのなら、あなたは余程考えなしだと言う訳ね」

 

「あっ、はい、その節は誠に申し訳なく思う次第で「少し、黙っていて頂戴」サーイエッサー!」

 

 

 俯いたまま、雪乃はブツブツと口の中で様々な言葉を転がしている。

 

 恐怖と、例え他に手段を思いつかなかったとしても、初対面の女子に散々言いたい放題してしまった罪悪感と、これから先の己の進退への憂鬱で敬礼したまま固まっている。

 

 モルガナ? 何か『ワガハイ空気じゃねえか』と、最も奮闘したはずの自分を蚊帳の外にされている状況に内心突っ込みながら、面倒くさそうな人間たちのあれこれに巻き込まれる事を嫌って黙ったまま平塚教諭だったと思しき水晶にもたれかかる。

 

 そんな不思議空間が数分続いて、そろそろ同じ体勢続けるのキツイと思い始めた時。

 

 ようやく、雪乃が大きく嘆息して、攻防によって散乱した椅子を立て直してから深く座り込んだ。

 

 

「今回のこの事態は私があなたの口車にのって口論したことがそもそもの原因だと考察できるわ。もちろん、こんな事になるだなんて私にも分かるはずがないのだから、責任があると言われても困るのだけれど、もう少し私があなたのような哀れむべき存在に寛容になれていれば発生しなかったのだとも予想できる以上、あなたの暴言に関しては私が暴走して暴力を振るった事と差し引いてチャラと言う事にしないかしら」

 

「あっ、えっとところどころ辛辣すぎるが、それで良いならそのほうがありがたい…だけどいいのか?」

 

「その代わり無様を晒した醜態は双方がこの場限りにする、そう契約するのであれば私からはそれでいいわ」

 

 

 俯いていた頭を上げて見せた雪乃の顔は少し、何か吹っ切れたような軽い様子に澄ましているようだった。

 

 ま、それで全てがチャラになるのなら、無理にカーストトップらしき存在に対して少ししか思っていない暴言をつらつらと並べた甲斐があるというものだ、と納得しようとする。

 

 

「比企谷くん」

 

「あ?」

 

 

 そうして意識を雪乃から逸らして、さてこれからどうしたものか、この変な空間とか水晶に変わってしまった平塚先生どうしようとか、まぁ訳知り顔で後方師匠面してきそうな偉そうな猫を締め上げたらなんとかなるかなとか考え始めた八幡にこえをかけて意識を引き留める。

 

 

「コンゴトモ ヨロシク ね」

 

「お、おう」

 

 

 そうして雪乃に対して向き直った八幡が目にしたのは穏やかな笑みを称えた美少女の顔であり、不意打ち気味に向けられた笑顔にどもってしまうのであった。

 

 

 その時、八幡の頭に不思議な声が囁く

 

 

<汝は我、我は汝>

 

<我、新たなる繋がりを得たり>

 

<繋がりは即ち、前を向く支えとなる縁なり>

 

<我、女教皇のペルソナに一つの柱を見出したる>

 

 

「ところで」

 

「ん?」

 

「暴言に関してはチャラでいいけれど、女の子の肌を傷物にした事に関しては一発やり返しても正当な応報ではないかしら?」

 

 

 さっきの笑顔よりも不自然に爽やかさを増した雪乃が、うっすらと血のにじむ拳を誇示する。

 

 八幡のペルソナのアマノジャクは腕がカギヅメとなっていた。

 

 雪乃の攻撃は殆どをモルガナがしのいでいた。

 

 それも刃物の腹でいなすように受け止める形で。

 

 よってモルガナは雪乃に対して攻撃を加えてもいなければ、怪我をさせるような真似もしていない。

 

 つまり、今指から滲む血液の原因はバトル初心者の八幡が暴言によって挑発した際に突き出された拳をカギヅメで受け止めたことであるのは明白であった。

 

 いや、それは確かにそうだが、俺思いっきりお前にぶん殴られたんだけど? そう言い訳をしようとするが凄絶な笑顔に上手く舌が回ってくれない。

 

 繰り返して断言しよう。

 

 比企谷八幡には生命の危機に対しての才能が皆無なのだと。

 

 

「え、あの、その、雪ノ下さ」

 

「大丈夫、一発だけだから」

 

 

 にっこりと、青筋を立てながら、闘志をみなぎらせて椅子から立ち上がる彼女から後ずさる。

 

 

「ぺ、ペリュソナァ!」

 

 

 迸る殺気に、反射的にアマノジャクを呼び出す。

 

 疲労感からフラフラではあるが、それでも普通の人間には太刀打ちできない存在にホッと「ペルソナ」

 

 

「へ?」

 

 

 ホッとすることなどさせじ、と同じ文言を唱える。

 

 同じ言葉を唱えた雪乃の背後に八幡のアマノジャクとは対照的に黒い狩衣を纏い、その背中に小さな鼓を複数浮かばせている存在が出現する。

 

 

「あなたのおかげで私もペルソナを使えるようになったの。だから、これはそう、お礼とも言えるわね。よくもああも言いたい放題言ってくれたわね、あふれ出る感謝をむせび泣きながら受け取りなさい」

 

「それって言わばお礼はお礼でもお礼参りの方じゃねえか!! つかチャラにするっつったじゃねえか!」

 

「あら、これはお礼だと言っているでしょう。私、借りはちゃんと返すようにしているの」

 

 

 ぎゃーぎゃーと騒ぐ男女を見ながら一匹の黒猫があくびをする。

 

 

「やれやれだぜ」

 

 

 面倒くさい二人を見て、これから先自分がここに来た理由を説明して助力を得る為の説得にかかる労力が途方も無いものだとため息をつく。

 

 しかし、モルガナは諦める事はない。

 

 ここに自分が来たと言う事は、つまりそう言う事なのだと思いながら。

 

 トリックスターはおらずとも、こいつらこそが渦の中心になるのだと。

 

 

「あ、アマノジャク! 俺が逃げるまで足止めしてろ!」

 

「あなたのペルソナは妨害特化なのよ、なら私のペルソナに勝てるわけがないでしょう」

 

 

 冷気すら漂う雪乃に、すかさずペルソナを捨て駒にした八幡はこの空間から逃げられなかった事を忘れて、扉へと走り出す。

 

 

「ペルソナ! 『ライジン』! 『ジオ』!!!」

 

「くぁwせdrftgyふじこlp!!!」

 

「あ、あら?」

 

 

 脱兎の姿勢で振り向いた背中に対して電撃の魔法『ジオ』が飛び、数条の雷撃がアマノジャクにかすった瞬間にこの世の物とは思えないほどの悲鳴を上げてぶっ倒れる。内心ではきっと「やはり俺のペルソナは間違っている」とか考えてるに違いない

 

 予想以上の結果に戸惑い、あれ? 私また何かやっちゃいました? と言わんばかりに冷や汗を垂らす。

 

 

「先が思いやられるな」

 

 

 

 




 ペルソナメモ

 ライジン(雷神)…伊邪那美命が伊邪那岐命に連れられ、黄泉路を辿っている時に伊邪那岐が振り向いた際に伊邪那美の身体に巣くっていた神が様々な雷神であるとされ、伊邪那美の命令で伊邪那岐を追いかける。所謂亡者の将軍と言い換えても良い…あれ? 亡者、目の腐り、その部長、うっ頭が。
 ギリシャ神話でいえばゼウス、北欧神話でいえばトール。尚、トールは真Ⅰではジオ(電撃)が通じると言う謎仕様であった。ジオはめされる雷神とか

 アルカナ…女教皇

 ステータス…電撃、衝撃、呪殺耐性。破魔弱点。

 初期スキル…ジオ、毒針、猛勉強


 完全に攻撃特化の、比較的魔法偏重のペルソナ。雷神の癖に、レベルを上げるとザン、衝撃ブースタを覚える。電撃はどうした。ただし、単体用の魔法、物理スキルしか覚えない為、殲滅力は皆無。雑魚戦は任せられない、電撃衝撃弱点の敵とボス戦のみの運用が主となる。
 なお、初期スキルの後ろ二つは雪ノ下雪乃本人の性質によって付与された固有スキル。毒舌から毒針(本来なら低確率だが、中確率で毒付与)、秀才としての自負から獲得経験値を増やす猛勉強。
 八幡と雪乃二人ともが破魔弱点の為、早くメンバーを増やさないとハマとか一発でパトる危険性がつきまとう。ニフラム!ニフラム!
 容貌については、まるで八幡のペルソナを模したように色違いの黒い狩衣を纏い、獣の顔をした真っ白な仮面を持つ。カギヅメは持たずに背後に浮かぶ鼓から魔法を飛ばす。


 アマノジャク(追記)…人の心を読みからかう妖怪である為、『意想外の出来事』にめっぽう弱い。旅人を襲った時、たき火から弾けたものにビックリして逃げたと言う逸話も。つまり、雪乃の最後の攻撃は背後から撃たれて意識外に突き刺さると言ういわゆる神話再現(例えば北欧神話のバルドルにはヤドリギのみ弱点となる等)の一種であったため、強制弱点、クリティカルであったと言える。本来は雪乃本人の疲労と手加減で少し痺れる程度の威力だったはずなのに、ファンブルって怖いよね(1D10を転がしながら)。ゲーム的に言えば敵の先制攻撃の場合全ての属性が弱点となる。主人公の癖にプレスターン制のアトラスゲームに致命的に合っていない。多分先制されたら難易度easyでも普通にパトる。初心者は難易度safetyにしておこう。もしくはパーティから外せ、主人公だから外せない? 知ら管。

 アルカナ…愚者

 ステータス…物理、呪殺耐性。破魔弱点。

 初期スキル…タルンダ、ラクンダ、アナライズ


 物理と呪殺に耐性があるのはおそらく今までのぞんざいな扱いと言う経験からか? 能力的に言えば、P3で探索も出来なくはない戦闘型ペルソナを持つ桐条美鶴と逆の『戦闘も出来なくはない探索型ペルソナ』。足を引っ張る事、読み解く事に秀でている。一応、育てれば『暴れまくり』くらいの物理スキルは覚えるが、攻撃用の魔法は一切覚えないという基本的にはサポート要員にしかならないペルソナ。


愚者……比企谷八幡(アマノジャク)
魔術師
女教皇…雪ノ下雪乃(ライジン)Rank1 New
女帝
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