やはり俺の○ル○ナは間違っている   作:hung

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ポケモン購入前の予約投稿なので、ポケモンを楽しんでいるかは分かりません


見てはいけない物を比企谷八幡は見てしまう

4月30日(月) 夕方 ???

 

 さっきまでカメラの頭をした変態が躍っていたスクリーンに、今は街並みが映されている。

 

 その光景自体は全くおかしい物じゃない。

 

 その景色が流れるように移り変わることで、そこそこの速度で移動している事が分かる。

 

 何の変哲も無い景色、見慣れた千葉の街並み。

 

 左右には住宅が有り、電柱があり、ガードレールがある。

 

 畢竟、車に乗っているのだろう。

 

 視点が街並みから変わる。

 

 運転席の背中と、バックミラー、道路が視界に入る。

 

 

「新入生代表としての挨拶をされるとのことですが、気負いはございますか」

 

 

 正面から渋みのある男の声が聞こえてくる。

 

 その声音にはからかうような陽気さに隠れてわずかばかりの心配が透けて見えた。

 

 心配の気配もわざと分かるようにしているのだろうと察する。

 

 そして()の口は意識とは裏腹に勝手に開かれる。

 

 

「愚問ね。たかが壇上で決まり切った定型文を読み上げるだけ。

 何か起こるわけも、特別な事も一切ないのだから、都築が気にする必要はないわ」

 

 

 そう言ってまた視線を横に流す。

 

 薄ぼんやりとガラスに映った姿は、普段の俺の顔かたちではなくなっていた。

 

 代わりに視界に入ったのは普段は横目で見たり、真正面から見ないようにしている彼女の顔。

 

 つまりは

 

 

「陽乃様もお母様も、お気を配られていましたよ」

 

「母さんは、姉さんがやらかした事態を心配しているだけでしょう。

 心配されなくとも、破天荒を通り越して非常識な事なんてするわけがないわ」

 

「左様でございますか」

 

 

 奉仕部部長、雪ノ下雪乃の姿が映されていた。

 

 訳が分からなかった。

 

 ついさっきまで俺の横に座っていた雪ノ下が、何故かスクリーンに映されていて、

 

 何故か俺の意識は俺のままだと言うのに、雪ノ下の思考がまるで自分の物のように思えてしまう。

 

 

「陽乃様もあの時分は元気が有り余っておられましたから」

 

「傍若無人でトラブルメーカーだった、というのを言い繕うとそうなるわね」

 

「今は随分と大人に相応しい落ち着きを持たれました」

 

「その分悪辣さと面倒くささは増したけれど」

 

 

 心底嫌そうな気持ちで吐き捨てる。

 

 未だ見ぬ雪ノ下陽乃とやらの心象が「うわぁ、関わりたくねえ」と思ってしまう位。

 

 こいつどんだけ姉貴の事嫌いなの?

 

 運転手さん、なんて言っていいのか分かんないって感じで困った顔してんじゃん。

 

 人に迷惑かけるくらいなら関わるな、これボッチの鉄則な。

 

 関わらない事で結局迷惑をかけてしまうのは不可抗力だから仕方ない。

 

 

「もう少し、雪乃様が歩み寄り、陽乃様が距離を置いてくだされば理想的な姉妹仲になると思うのですが」

 

「姉さんは可愛がりながらプレッシャーで猫を殺すタイプだから無理ね」

 

 

 バックミラー越しに雪ノ下の顔を窺い、なんとも言えない表情に運転手はくつりと笑い、指で口元を押さえた。

 

 

「っ、都築!!」

 

「むぅ!!!」

 

 

 刹那だった。

 

 視界を前に戻した瞬間、道路に茶色い塊が飛び出してくるのが目に入った。

 

 それは小さな犬で、あまりの急な事態にブレーキも間に合わない。

 

 慣性の法則は正しく動作し、その結末は眼に見えていたのかもしれない。

 

 あまりの事に目を閉じる事さえできず、逆に見開いてしまう。

 

 スローになる景色、こちらを見つめるつぶらな瞳、ガードレールの向こうから伸ばされる腕。

 

 そして、飛び込んでくる「比企谷八幡()

 

 我がことながら、その顔は必死さが滲み出すぎて超不細工。

 

 例えるなら普段がフォトショ八幡だとしたら、今映っている俺は証明写真八幡。

 

 真実が写される証明写真でここまで必死とか、ダイ・ハード位じゃないだろうか。

 

 つまり俺マジブルースウィリス。

 

 クリスマスの夜には駐禁キップ切られちゃう。

 

 ゴンと鈍い音に衝撃と急旋回、急ブレーキと騒音が響く。

 

 細い指が扉へと伸び

 

 

「雪乃様は車中でお待ちを!」

 

 

 運転手が咄嗟にロックを掛けて後部座席の扉が開かなくなる。

 

 

「わた…」

 

「くれぐれも、外には出ようとしませぬよう」

 

 

 そう告げて老紳士らしい運転手は外に向かった。

 

 伸ばされた指は掴みどころを失い、ただ空をさまよった。

 

 けたたましいサイレンが鳴っても、外で同年代らしき女の子がわんわん泣いても。

 

 雪ノ下雪乃()は何一つ動く事が出来なかった。

 

 

 

 

「母さん、昨日の事だけれど」

 

「あら、雪乃は気にしなくてもいいのよ」

 

 

 景色が変わり、どこかの部屋で座る女性に雪ノ下が声をかける。

 

 和装の鋭い雰囲気を匂わせる美人が雪ノ下の声で振り返る。

 

 雪ノ下に母と呼ばれたその女性は何か事務処理をしていたのか、

 

 書類を持ったまま雪乃に相対する。

 

 そうしてにっこりと、そつのない、当たり障りのない表情で安心するように言う。

 

 

「ただ車に乗っていただけで、雪乃は何も悪くないんだから」

 

「それでも、居合わせた一人として顔を出すくらいは」

 

 

 へぇ、雪ノ下もお見舞いに来てくれてたんかね。

 

 まぁ、1ヶ月くらい意識が戻らなかったから、来てくれてたとしても俺は知らないんだけど。

 

 と言うか、例え意識があったとして、来てもらってもこっちとしては困っただろうけどな。

 

 別に雪ノ下に含むものが在るわけじゃないが、正直何を言われても「あっ、はい」としか返せなかったし。

 

 どうせ気まずい時間にしかならないなら、それはただの時間の無駄だ。

 

 

「雪乃」

 

 

 けども

 

 

「先方の被害者の男の子は意識不明の重態だそうよ」

 

「っ」

 

 

 手に持っていた書類を静かに置いて、雪ノ下母は落ち着いた様子で宣言する。

 

 

「もちろん、こちらが車である以上一定の有責は仕方ないわ。

 でも、急に飛び出した犬を助けるためとはいえ、飛び込んできたのは向こうよ。

 一般論としてある程度の慰謝料は払う事はあっても、全面的にこちらに非があるわけではないの」

 

「それと何の関係が」

 

「恨むに恨めない被害者家族の複雑な感情を飲み込む覚悟はあるのかしらと、聞いているの」

 

「………!」

 

「多少の想像はつくでしょう。

 事故の原因となった女の子を恨めばいいのか。

 直接の被害を与えたうちを責めればいいのか。

 無茶をしでかした身内に対し怒ればいいのか。

 万が一、彼がそのまま息を引き取ったり、このまま意識が戻らなかったり。

 最悪の事態を考えてしまうでしょうね。

 そんなぐちゃぐちゃな心を受け止める事なんて出来ないでしょう?

 当然よね。こんな事、普通の大人の人でも難しいわ」

 

 

 正論だ。

 

 俺が目を覚ました時、妹は随分と憔悴した顔つきだったし、目の下には隈が出来ていた。

 

 ものすごい勢いで抱き着かれておいおいと泣かれもした。

 

 両親も「死に損なったな」と軽口を言ってきたけど、それでも病室から出てすすり泣いていたと妹から告げ口があった。

 

 あにはからんや、事故近日における比企谷家の心境は、それはもう複雑すぎて素人が触った知恵の輪レベルだっただろう。

 

 法に寄りすぎる意見でも、感情に支配された衝動でもない。

 

 雪ノ下母の見解は正しく、人間的と言っても過言ではない。

 

 それでも

 

 

「それでも、私は」

 

 

 けれども、それが子供の選択を潰すモノならば、正解だなんて言えるわけがない。

 

 

「はぁ…仕方ないわね」

 

「えっ」

 

 

 大きくため息をついて、雪ノ下母は小さく首を振った。

 

 品のある扇子を取り出し、口元にゆるりと当てる。

 

 

「あなたが単独で直接先方に接触するのは許可できないわ。

 これは事故当事者間の拗れを予防する必要な処置。

 だけれど、私は何度か大人として顔を見せる必要もあるの。

 そこに当事者であるあなたが居ても、監督者が居る以上うるさく言われないでしょう」

 

「母さん」

 

「本当は、責任なんてものは大きくなれば嫌でも直面するのだから、急ぐ必要も無いとは思うけれど、一つの糧になさい」

 

「ええ、ありがとう」

 

 

 己の意見が条件付きとはいえ、通ったことで沈んでいた心が少しだけ浮き上がる。

 

 だから、きっと雪ノ下はちゃんと理解できていなかったのかもしれない。

 

 

「それが良きにしろ悪きにしろ」

 

 

 小さく呟かれた、その言葉に。

 

 いや、理解できるのなら、雪ノ下母の忠告の時点で悟っていた筈なのだ。

 

 それが出来ていなかった以上、この先の展開は必然。

 

 子供が、現実に打ちのめされると言うだけ。

 

 

 

 

「帰ってくれませんか?」

 

「え?」

 

 

 親の顔より良く見たとか言う定型文があるが、比企谷家ではあまり比喩表現にならない。

 

 なぜなら、朝は子供が起きるよりも早く出社し、晩飯も家族そろって食えることも少ない。

 

 更に休日は死んだように眠る事も多い。

 

 そんな「こんな世界で働くとかやってらんねえ」みたいな感想しか抱けない社畜が我が両親だ。

 

 だが、そんな俺でも見たことが無いような程に、雪ノ下の前にいる見慣れた筈の両親の顔は変貌していた。

 

 

「私は比企谷さんにせめてお見舞いを」

 

「雪乃」

 

 

 制止の声も一歩遅く、口をついた言葉は戻るわけが無く。

 

 

「あなたたちが悪くないことは分かっています。

 それでも、私たちは当の加害者に恨みつらみを覚えない程に聖人君子ではないですし、

 ただ居合わせた息子と同じ年の子供に八つ当たりできる程に醜くはなりたくないです」

 

「このたびは」

 

「慰謝料はいただきます。息子の治療にいくらかかるか、今後入用ですから。

 ですが、長引かせるつもりも無いですから、額に関しては気にしませんのでとにかく手早く済ませてください」

 

 

 湿ったハンカチを握りしめて淡々と告げる俺の母親に言葉を遮られた雪ノ下母は何も言わない。

 

 むしろ当然のことだと、一切表情を変えず、沈痛そうな様子を崩さないだけだった。

 

 

「今後、全てのやり取りは保険会社や弁護士等の第三者を通してお願いします」

 

「本日は失礼しました。保証は可能な限りをお約束いたします」

 

 

 言葉少なに雪ノ下母は一つ頭を下げて病室を後にする。

 

 おぼつかない足つきの雪ノ下の背中を押して退出した扉を閉める。

 

 そのまま待たせていた行きで使ったタクシーに乗り込み、口を開く。

 

 

「責められると思った? 許してもらえると思った?

 泣いて糾弾されるか、苦笑いで気にしないでいいと言われるとでも?」

 

「わた、しは」

 

 

 品のある扇子をパチンと叩き、現実を突きつける。

 

 それでも声音は厳しさだけではないように思えた。

 

 

「どんな事態でも感情の拗れは厄介なの。

 だから、人は必要な手続きで処理する。

 そうすれば感情が介さないから、自分だけの感情だけを気にしていればいいから。

 決まった事をしていれば感情に飲み込まれないで済むから。

 あなたがやったことは自分の感情だけにしか目が行っていない。

 そう言う無責任な事をする人はね、子供と言うの」

 

「感情に呑まれずに、粛々と動く」

 

 

 手元にだけ目をやっていた雪ノ下が目をつむる。

 

 それだけで俺の視界には何も入らなくなる。

 

 雪ノ下母もこれ以上何か言うつもりも無いのか、エンジンの音だけが聞こえる。

 

 その音もドンドンと小さくなっていき、俺の意識が雪ノ下の身体から離れていくのが分かった。

 

 真っ暗な視界が徐々に薄ぼんやりとした暗さに移り変わっていく。

 

 それと同時に、俺の意識が身体を動かすのが分かる。

 

 自分の意志で瞬きをする、指が動く。

 

 

「元に戻ったの、か? さっきのは一体…っ!!!」

 

 

 

 

 

 戻ってきた八幡の視界には何も映されていないスクリーン。

 

 そして何も映っていない幕の前に小さな体躯で、しかし、巨大な存在感をした猫が一匹。

 

 その猫の周囲には溢れんばかりのエネルギーの流れがある。

 

 人間の眼では見えるはずのない非実体であるエネルギー、それが実体化しているように見える。

 

 

「もる、がな…じゃないよな」

 

 

 異様な雰囲気の猫と言う事で彼の黒猫を思い浮かべるが、当の本猫は彼の足元で伸びている。

 

 改めて、不可思議なエネルギーを纏う猫に目を向けると気付く点が出てくる。

 

 猫の身体からエネルギーが出ているのではない。

 

 その猫の背後に空いた大きな穴。

 

 まるで仙水が開けた次元トンネルのように、暗く、先が見えない穴。

 

 穴からとんでもない熱量が八幡の内に潜むペルソナに叩き付けられている。

 

 もしかすると、それはほんの残滓なのかもしれない。

 

 それでも、切れ端が燃えた後の灰の一粒が発する残り火ですら、世界一つ焼き尽くせると思ってしまう圧倒的なエネルギー。

 

 その穴と八幡を遮るように、なんともないように佇む黒毛の猫が八幡に顔を向ける。

 

 

「私はレッドマン。魂と語り、魂を導く者」

 

「うぉ、猫が喋った!!? しかもバリトンボイスで!?」

 

「ねこ? ねこですって? どこ? ここ?」

 

「むにゃむにゃ、もう食べられねえぜ」

 

「しかも、よく見ると猫浮いてる!!」

 

「空飛ぶ猫、22世紀のロボットかしら?」

 

「あれ? 僕がモルガナで、モルガナが僕で!? …なんだっけ?」

 

 

 落ち着きのない子供たちを前に、レッドマンと名乗った黒猫は一切動じずフワフワと浮いているだけだった。

 

 

 

 




アトラスメモ

 レッドマン、彼はソウルハッカーズにて主人公をヴィジョンクエストに導いた、かつてネイティブアメリカンと呼ばれた者の魂。
 過去、存在していた戦士の魂と主人公の魂を触れ合わせることで真実と記憶を言葉に寄らず余さず伝える事で迫る世界の滅びを回避させようとした。
 彼がヴィジョンクエストに誘う場所として選んだ舞台は映画館であり、パラダイムXと呼ばれる電子空間(今風に言えばVR)、つまり現実と仮想の間と言う状況を利用して、実体と非実体の狭間の存在である魂と接触させた。詳しくはデビルサマナー・ソウルハッカーズをプレイしよう。
 ちなみにメガテン系列では非日常が日常となった(例:崩壊した世界)のが女神転生、非日常が日常を侵食してくる(例:霧が立ち込める稲羽)のがペルソナ、日常に非日常が既に侵食している(例:探偵事務所が悪魔事件解決所)のがデビルサマナーだと個人的に考えています。
 滅んだ世界でイベントが起きるのがメガテン、現代世界でイベントが起きるのがペルソナ、週刊世界の危機が起きるのがデビサマ
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