やはり俺の○ル○ナは間違っている   作:hung

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連日更新はこれで一旦終わります
多分次の更新は一ヶ月単位で先になると思いますので、気長にお待ちください
なにも無くても二週間で三話くらいしか書けない遅筆なもので、それが更にポケモンで遅れていると考えたら今年中の更新も難しいかと
書き溜めも殆どなくなったので


彼/彼女らはつまびらかに明かす

4月30日(月) 夜 カラオケボックス

 

 トレイをテーブルに乗せて、座る場所が小町に奪われている事を確認して手近にあった椅子を引っ張ってきて座る八幡。

 

 

「つか、人の過去を勝手に喋らないでくれる?

 自慢じゃないが、今までの人生9割黒歴史なんだよ。

 自分で言うならともかく人に言われるとダメージがでかいんだけど」

 

「ほ、ほんとに自慢になってない」

 

「知ってる。だが、小町は反省しない! お兄ちゃんってば貯め込むばっかりで小町がこうやって世話やかないと。

 じゃなきゃ勝手に完結して人間関係までおしまいになっちゃうんだから。あっ今の小町的にポイント高い」

 

 

 正鵠を射ている言に、へいへいと生返事する八幡。

 

 別にその程度で終わる人間関係なんて最初から終わらせてしまっても変わらない。

 

 そんなひねた考えを持つ八幡に大きくため息を溢す小町である。

 

 何度言っても治らないこの悪癖をどうにかできない物か…できないかなぁ、これ一種の病気だよ。

 

 

「とにかく、俺が今まで事故の事を雪ノ下に言わなかったのはそんな事どうでもよかったからで、それ以外の理由はない」

 

「うわっ、デリカシー0回答。ポイント低いよ」

 

「やかましい」

 

 

 お気楽な兄妹の掛け合いがモニターから流れるCMと通路から聞こえてくる音漏れ以外に音がしない部屋に反響する。

 

 実際、八幡は雪乃が事故の事を黙っていた事に対してなんら思う所はなかった。

 

 結衣が(八幡の失言の所為で)気付いたからこそ気まずい思いをしたが、言ってしまえばそれだけ。

 

 

「実際、示談は成立してて比企谷家はお金をもらってハッピー、雪ノ下家は裁判沙汰にならなくてハッピー。

 俺は事故以降、実はちょっとだけ小遣いアップしたからハッピー」

 

「あっ、それ高校生になったら元々上げる予定だったらしいよ」

 

「なん、だと」

 

 

 通常運転の彼に口を抑えて絶句してしまう。

 

 何だと言うのだ。

 

 普通はもっと違うのではないのか。

 

 加害者は糾弾されてしかるべきで、罪を隠していた嘘吐きは弾劾されてしかるべきではないのか。

 

 たとえ己にできたことなど皆無だったとしても、それでも何かしらの感情を持つのではないのか。

 

 例えば、そこで気まずそうな表情をしている彼女のように。

 

 

「だから…「あのぉ」戸塚?」

 

 

 三者三様な感情の坩堝に陥りかけたその時、控えめな自己主張が挙げられる。

 

 戸塚はおずおずと小さな身体を更に縮こませながら白い手を肩先まで上げている。

 

 

「込み入った話をしてるんだろうけど、これって僕たちが聞いちゃってよかったの…かな?」

 

「は、はぽん。空気が、空気が薄く」

 

 

 陸ではねる魚めいた窒息死寸前の材木座が空気を求めている。

 

 確かに、有無を言わさず突然ぶちまけてしまったが、デリケートな話題なのは間違いない。

 

 彼ら二人は場違い感をひしひしと受けながら、壁の一部になろうとした。

 

 しかし、これを放っておけば更に込み入った内容に踏み込んでしまう。

 

 それを居合わせただけの自分たちが聞いていいものか。

 

 もちろん、気にしていないと公言している八幡はいいのかもしれないが、自分含む他の人からすれば違うかもしれない。

 

 そう危惧した故の主張だった。

 

 

「そう、だね。出来ればこの件は、あたしはゆきのんとヒッキーとだけ話したい、かも」

 

「…由比ヶ浜さんがそう言うのであれば、それを…いえ、私もあまり余人に聞かせたくはないわ」

 

 

 結衣の意見に便乗しようとして、その弱さを振り切って自分の意見だと言い直す。

 

 

「だよね。じゃ、今日はこれで解散って事で」

 

「異議なしである!!」

 

 

 そうして解散する。

 

 最終的に気まずい事になってしまったが、当初の目的であるテニスラケットの買い直しが出来たことに改めてお礼をして戸塚は材木座と連れたって帰宅する。

 

 雪乃はすぐそこの駅に、結衣は近くだからと(小町から促された)送りを断り帰る。

 

 妹と二人歩いていると、ポケットがバイブする。

 

 

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To 比企谷八幡

To 由比ヶ浜結衣

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From 雪ノ下雪乃

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Title事故の件に関して

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 表題の件について少し話がしたいのだ

けれど、明日の放課後、部活が終わった

後、予定は空いているかしら

 多分、今後の私たちの関係について重

要な内容になると思うから、三人で話し

たいと

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To 比企谷八幡

To 雪ノ下雪乃

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From 由比ヶ浜結衣

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Title Re:事故の件に関して

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大丈夫空いてる

ううん空けとく

 

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 大きくため息をついて短く一言「了解」とだけ返信する。

 

 

「ちょっとしか話せなかったけど、皆良い人たちだね。うん、お兄ちゃんにはもったいないくらい」

 

「知ってる」

 

 

 言葉少なに覗き見てきた小町の頭を押しのける。

 

 

「ちゃんと、向き合いなよ」

 

「善処する」

 

 

 その時、八幡の頭に不思議な声が囁く

 

 

<汝は我、我は汝>

 

<我、新たなる繋がりを得たり>

 

<繋がりは即ち、前を向く支えとなる縁なり>

 

<我、太陽のペルソナに一つの柱を見出したる>

 

 

 明日は大切な約束がある。

 

 疲れもある、今日は早めに寝よう。

 

 

5月1日(火) 夕方

 

 数週間前には同じ時間でも斜陽の差していた特別棟の一室。

 

 少しずつ陽の出ている時間が長くなり、真昼よりも落ち着いた陽光が照らす。

 

 いつもと同じように開店休業の奉仕部。

 

 その内部はいつもと異なり、重苦しい空気が蔓延していた。

 

 結衣は携帯を、八幡と雪乃はそれぞれ本を手にしているが集中しきれていないのは明白。

 

 普段はぬるぬると動く指はスクロールも忘れ、ページは一枚もめくられない。

 

 モルガナは結局、あの後帰ってきていないし、戸塚はテニス部、材木座は元々来たり来なかったりで不定期。

 

 もっとも、昨日の件もあって寄らないようにしていると言うのもあるだろう。

 

 そうしてチラリと本日何度目かの時刻確認をしてパタンと本が閉じられる音がする。

 

 

「少し、早いけれど」

 

「…うん」

 

 

 具体的には告げずともそれだけで察し、帰る準備をする。

 

 元々片付けるものも殆どなかった為、すぐに終わり最後に雪乃が部室を退室し鍵をかける。

 

 職員室に鍵を返し、靴箱へ向かう。

 

 

「少し、歩きましょう」

 

 

 同じクラスの棚から来る二人に振り向き、踵を返す。

 

 そのまま先導していく。

 

 視線を交わし、頷き後に続く。

 

 

「あの時。一年前の入学式の日、私は親が手配した車で通学していた。

 それは首席で入学できた私に向けた父親の心遣いだった」

 

 

 唐突に雪乃が語り始める。

 

 その口調は訥々と感情を排された口調だった。

 

 しかし、ぽそりと続いた「父さん、娘には甘いの」には少しだけ笑みがこぼれる。

 

 少しだけ曲がったままの白いガードレールに指を這わせ、少し汚れた指をこすり合わせる。

 

 

「その時に起こったことは、詳しく説明する必要も無いでしょう。

 ただ結果を語るのなら、突然の出来事に私は何も出来なかった」

 

「それは」

 

「事実よ。私はその時も、その後も何も出来なかった」

 

 

 言い訳になりそうな弁護をする気はないのだろう。

 

 結衣の言葉をバッサリと切り、断言する。

 

 ビジョンクエストでの体験から想像が、いや実感がある彼もまた言及しない。

 

 

「だけれど、私はそれが許せなかった。母さんが言う通りなままな気がして。

 自分が何も出来ない子供だと言う事が、何も背負う事の出来ない弱い自分が」

 

 

 独白は続く。

 

 寂し気な、諦観を滲ませた静かな口調で粛々と。

 

 

「だから私は平塚先生に誘われるまま奉仕部に入部した。

 誰かに何かを出来る人間なのだと証明したくて。

 自分には人を導くに値する価値があるのだと言い聞かせたくて」

 

 

 それはまるで懺悔するように

 

 罪を雪ぐ為のように

 

 うなだれているようにも見えた。

 

 

「そんな様は余程痛々しく見えたのか、平塚先生が荒療治にと比企谷くんを連れて来て、由比ヶ浜さんも送り込まれてきた。

 情けないわよね。自分の身の丈を大きく見積もりすぎて、溜め込んで、比企谷くんと会った瞬間に感情がぐちゃぐちゃになった」

 

 

 ようやく振り向いて顔を見せる雪乃。

 

 その瞳に涙は見えなかったが、まるで迷子が泣きはらした後のように痛々しさが浮かんでいた。

 

 

「自分は何も変わっていない、変われていないと突きつけられるようで八つ当たりして。

 本当の事を明かす勇気すらなくて、生ぬるい馴れ合いに心地よさを感じて。

 ペルソナなんて特別な力に酔いしれて、ひたすら逃げ続けた」

 

 

 一瞬手が正面へと浮かびかけて、そして浮かぶ事無くだらんと投げ出される。

 

 

「これが私。弱くて、汚くて、幼稚な駄々をこねる醜い嘘吐きが雪ノ下雪乃っていう人間よ」

 

 

 言わなければいけないことは全て言ったと、晴れやかな笑みを浮かべる。

 

 しかしその笑顔は普段のそれとは違い、むしろ投げやりにしか見えなかった。

 

 だから

 

 

「ゆきのん、今からあたしすっごい酷い事言うね」

 

「ええ、私はあなた達にはどれだけの罵詈雑言を浴びせかけられても当然だもの」

 

 

 寂寥感に満ちた告白に「そう」とだけ頷いて、大きく深呼吸する。

 

 ゆっくりと息をした結衣はキッと雪乃を正面から射抜いて

 

 

「それ普通じゃん」

 

「え?」

 

 

 ほにゃんと力を抜いて言い切った。

 

 

「ゆきのんは自分がもっと出来る子だと思ってて、だけど上手く出来なくてそれが悔しかった。

 あたしも、もっと料理とか出来ると思ってたし、テストも平均点取れないとか思ってなかった」

 

「そう言う事じゃ」

 

「同じだよ」

 

 

 否定しようとする雪乃を否定する。

 

 有無を言わさぬ力があった。

 

 

「弱い自分が嫌で、もっともっと強いはずだって信じてて。

 でも、本当は知ってるの。自分は自分の思ってるほど頭良くなくて強くも無いって事」

 

 

 ストレートに貫くように言葉で突く。

 

 

「でも、それって誰でもおんなじだよ。あたしもそうだし、優美子もそうだし、隼人君もそうで、多分…ヒッキーも同じ。

 ゆきのんは自分の内面を特別視しすぎてるだけで、そんなのなにも特別じゃないの」

 

 

 真実なのだろう。

 

 子供は自意識を成長と共に少しずつ大きくしていく。

 

 そして指数関数的に肥大化していく自意識を周囲との付き合いでコテンパンに打ちのめされ萎ませる。

 

 そうやって自分に出来る事と出来ない事を理解し、己を知った後の成れの果て事こそが大人と呼ばれるのだ。

 

 しかし、雪乃は肥大化した自意識が萎んでなお他人よりも大きかった、ただそれだけなのだ。

 

 理想と現実のギャップにあげた魂の悲鳴こそが、あの映画館で彼が観た雪乃。

 

 

「自分に自信を持ってるゆきのんはカッコいいと思う。

 だけど、そんなゆきのんにとって本当に酷い事を言うと、ゆきのんの悩みって別に珍しい事ないからね。

 何となく言いづらくて後回しにしちゃった、だけど悪気はなかったの、ごめんね。で済んじゃうんだよ、今回の件は」

 

「…たったそれだけで済む話じゃ」

 

「済むんだよ」

 

 

 ふるふるとお団子頭を揺すって、断固として雪乃の言葉を切り捨てる。

 

 彼女の悩みは確かに特別ではないかもしれない。

 

 隠して、装って、そして偽ったことに罪悪感を覚える。

 

 誰にでもあるし、星の数ほども存在しているだろう。

 

 だが、それでも当人にとっては特別でない事ではないのだ。

 

 特別でなければならないのだと頑なになってしまう位に、一年と言う空白期間は長かった。

 

 それを由比ヶ浜結衣は肯定しない。

 

 なぜなら雪ノ下雪乃が絶対的に特別な存在ではないとしても

 

 

「だって、それで許せちゃうくらいにはあたしにとってゆきのんが特別なんだよ」

 

「え」

 

 

 雪乃が特別な人間ではないとしても、結衣にとって大切な存在ではないと言う訳ではないのだから。

 

 

「特別な事情があるから許せるんじゃないの。

 特別な事情が無いから許せないんじゃないの。

 ゆきのんがあたしにとって友達で、大切で。

 だから仕方ないなって思っちゃうの。

 たった一ヶ月しか過ごしてないけど、たった一ヶ月で済ませちゃいたくないくらいあたしはこれからも一緒に居たいから」

 

「だから、私を許したいと、そう言うの?」

 

「うん」

 

「そんなの、そんなの理屈に合ってないわ。許せる事情があるんじゃなくて、許したい感情があるからなんて…」

 

 

 結衣が語るのは筋道ばった理論の話ではない。

 

 彼女はずっとそうだった。

 

 由比ヶ浜結衣と言う女の子は『すべき』というものではなく、いつだって『したい』という感情で動いてきた。

 

 だからこそ、彼女は『雪乃を許したい』と思ったのなら既に許しているのだ。

 

 それは雪乃と、あと後ろで背景になっている八幡とは真逆の性質だ。

 

 正反対の彼女らは『すべき』という理屈で生きてきた。

 

 そんな二人にとって、彼女は眩しくして仕方ない。

 

 視界が滲むのも、その眩しさに当てられたが故。

 

 

「もちろん、これはあたしだから言える事だし、そもそもあたしがあの事故の原因なんだから、むしろゆきのんじゃなくてあたしがそうやって悩むはずのポジじゃない?」

 

「あ、あなたが悩まないから、私が代わりに悩んでいるのよ」

 

「それはそれでなんかおかしくない!?」

 

 

 グシグシと零れそうな涙を拭いながらいつものようなやり取りをする。

 

 もしも雪乃の事情を知るのがもう少し遅れたら。

 

 もしも雪乃が自分から明かさずにいたのなら。

 

 もしも雪乃ではない第三者が関わってきたなら。

 

 もっともっと面倒な関係になってしまったかもしれない。

 

 だが、それはあくまでIf…であり、切っ掛けがあれだったとはいえ、自分から真実を告げた。

 

 真実と共に実情を吐露し、謝罪したからこそ結衣は許した。

 

 つまり雪乃は間に合ったのだ。

 

 

「で、ヒッキーはどうするの?」

 

 

 そして結衣は八幡へと水を向ける。

 

 4つの眼に見られた彼は自分に話を振られると思っていなかったのか、びくっと身体を強張らせる。

 

 雪乃の眼を見て結衣の眼を見て、二人の眼から顔を逸らす。

 

 

「前も言ったけど、こういう話の持って行き方されたらここで俺が許さん! って言えなくない? ずるくない?」

 

「女の子はみんな、ずるいんだよ?」

 

 

 まるで小町のような言い草に頭をガシガシとかいてしまう。

 

 本当にずるい。

 

 いくら周りに迎合する事を嫌悪するボッチであっても、ここで自分だけ拒否できるだろうか。

 

 いや、常ならば、それでも拒否できただろう。

 

 しかし

 

 

「つか、事故の直接的な原因になった由比ヶ浜の事を不問にしてるのに、ここで雪ノ下を責めたりしたら、それこそ理屈に合わないだろ」

 

 

 既に八幡自身が雪乃を許しているのならば、それはただ場の雰囲気に流されたのではない。

 

 自身の中の信念が出す声に曇りなく従っている。

 

 だからこうして軽口を叩ける。

 

 

「それに、雪ノ下が心の底でドロドロ考えてるとか、ペルソナ覚醒した初っ端で暴露されてるから今更言われても幻滅のしようがないというか」

 

「ちょっと、その事を今言及するのは反則でしょう!」

 

 

 世界が変わらない事を、自分が報われない事を、彼女は初対面でぶちまけているのだ。

 

 醜態なら初めから知っていた。

 

 普段からどれだけ自分を高く見せようとも、初めから等身大を知っていた。

 

 幻滅するまでもなく、彼の中の彼女は誇張無く彼女自身だった。

 

 大前提からひっくり返された雪乃が、顔を真っ赤にして八幡に殴りかかる。

 

 ちからなくぺしんと肩を叩かれて、いやでもなぁ、となんとも言えない顔をする。

 

 

「えへへ」

 

 

 余計なモノから解放された特別ではない大切な彼女をみて、にへらと笑うのであった。

 

 

 雪乃との仲が深まった気がする

 

 

5月1日(火) 夜 自宅

 

「結論から言うなら、レッドマンとやらが言っていた事は本当らしい。

 だからあそこを利用する分には危険は、まあシャドウと戦うと言う点を除けばないってよ」

 

「…お帰り」

 

 

 先月の半ばからずっとわだかまっていた懸念が解消されて気持ちよく寝れる。

 

 布団に入り込んでいざ夢の世界に旅立とうとした彼の腹に適度な重みが加わると同時。

 

 最近聞き慣れてしまった黒猫の声が聞こえて来て、ちょっとだけ不機嫌になりながらお帰りだけはちゃんと告げる。

 

 

「お前がよく言ってる主の情報ってのがどこまで信用できるのかはともかく」

 

「てめえハチマン、主を馬鹿にしたらただじゃあおかねえぞ。

 異界、悪魔、世界の理に関して我が主以上に詳しい存在はそういねえんだ」

 

「ともかく、問題はないってことでいいんだな」

 

 

 念を押すように懐に座る黒猫に尋ねる。

 

 その返答は頷きだけであったが、余程『主』とやらを信用しているのか。

 

 表情には一欠けらの疑念も浮かんでいない。

 

 

「ただ…」

 

「なんだよ、他に何かあんのか」

 

 

 だが、続けられた言葉に孕む感情は信頼だけではなさそうだった。

 

 

「いや、あそこを利用する事に問題がねえのは変わらねえよ。

 実際、そう言う過去を記録する場所ってのは世界各地に点在してるもんだし、愚者の近くならなおさらだ。

 だが、レッドマンって奴の存在は話が違う」

 

「俺からすれば珍妙な存在って意味なら何も変わらねえけどな」

 

 

 またしても愚者、自分のアルカナかと悪態をつきたくなる。

 

 このままだと地球温暖化までも己が原因だといわれかねないな。

 

 そんな内心の八幡の言葉に、今度はフルフルと首を横に振る。

 

 ジッと見つめて来る瞳に滲む真剣味に軽く返した事を少し悔やむ。

 

 

「そう言った役目の場所があるのはおかしくねえ。

 悪神の欠片やワガハイ、愚者の近くに在るのも当然だ。

 だが、あのレッドマンは『この世界に存在しないはず』で。

 そんな存在がこの世界で役割を持った事は有りえない、ってのが主の意見だ」

 

「…なら、なんであの不思議動物は居たんだよ」

 

「分からねえ」

 

「はぁ?」

 

 

 疑念を煽るだけ煽って、結局は何も分からないのでは意味が無いではないか。

 

 そんな苛立たしさもあって、つい返答にトゲが混じってしまう。

 

 しかし、その反応に頓着せずに黒猫は独白するように紡ぐ。

 

 

「元々、この場に存在しない筈のワガハイと言うイレギュラーが作用したのか。

 それともあの場にあった極限のエネルギーが金剛神界のように時空間を捻じ曲げたか。

 もしくは、他の超常存在が関わっているのか、主にも見通せない運命が渦巻いているのか。

 とにかく、油断だけはしないでくれってことだ」

 

 

 言う事はそれだけだと言わんばかりに、くぁと欠伸をして身体を伸ばしごろんと寝る態勢に入る。

 

 あまりの身勝手さに一言苦情を言わせろとは思ったが、これ以上ケチがついても夢見が悪くなる。

 

 諸々の感情を飲み込んで、ため息一つで済ませ目をつむる。

 

 自覚しておらずとも心労があったのか、そのまますぐに意識は黒くそまっていく。

 

 どこかから透明な声が聞こえた気がするが、多分夢だろう。

 

 





俺ガイルメモ

 原作では成績優秀、眉目秀麗、一匹狼、立身独歩の雪ノ下雪乃に一種の親近感を得て、理想の一つを見た比企谷八幡は、しかし現実には弱い女の子であることを知って幻滅する。そして勝手に理想を押し付けて幻滅したと言う自分を嫌悪する。
 これこそが原点であり、奉仕部が拗れに拗れてしまう始まりだった。原作でお前ら本当に面倒くせえな! となる展開の大部分が三人の自己嫌悪にこそ求められるのではないだろうか。
 もっと早くそれぞれが謝っていれば、ああまで誤っていかずに済んだのではないか…いや、でもなぁ、あの子達本当に面倒くさいからなあ、無理かなぁ? 無理かもしんない。
 なお、理想と言う名の幻想を持つ以前の問題だったため今作ではその辺の問題はオミットします。詳しく知りたいなら是非原作を買おう。(ダイマ)拙作より億倍面白いので。


愚者……比企谷八幡(アマノジャク)
魔術師…材木座義輝(ギュウキ)Rank2
女教皇…雪ノ下雪乃(ライジン)Rank2 Up
女帝…平塚静 Rank1
皇帝…葉山隼人(ツチグモ)
法王

恋愛…由比ヶ浜結衣(ザシキワラシ)Rank2
戦車…三浦優美子(???)
正義
隠者
運命…戸塚彩加(ノヅチ)Rank2
剛毅(力)

刑死者
死神
節制
悪魔




太陽…比企谷小町 Rank1 New
審判
世界…奉仕部 Rank2
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