この作品はこんな感じの文章になるという雰囲気を掴んでくだされば幸いです
以降は週一更新出来ればいいなくらいに気長に待ってください
4月6日(金)夕方
「………うす」
「こんにちは」
非情に渋い顔をしながら、嫌々な雰囲気を隠しもせずに比企谷八幡は奉仕部の部室へと入室し、先入者に挨拶をする。
倦怠感が残る身体を労わる為にと学校をさぼろうとしても妹からは仮病乙と普段のさぼり癖から信じてもらえず、せめてさっさと帰ろうとしても平塚先生からは信用の無さから特別棟の一室に強制連行された八幡。
それに対し、ちらりと横目を向けて淡々と返答する雪ノ下雪乃。
「………やっぱ、あれは気の迷いだ。間違いない」
先日の笑顔とのギャップに風邪をひきそうな程の落差を感じながら、ぶつくさと椅子を用意して座る。
なお、その後に電撃を食らったせいでそれ以降の出来事は記憶から消去されている。
もしかすると、八幡の防衛本能が働いたから消えたのかもしれないが、真相はアメノサ霧の中である。
「ようやく来たか、ハチマン! 待ってたぜ!」
「…なんで、猫が喋ってんだ? つかその声はまさか」
「おいおい、冷てーやつだな。昨日はお前の命の危機を救ってやった恩人様に向ける言葉か?」
「もしかしてモルガナか?」
ひょこっと雪乃のカバンから顔を出して、その勢いのままにダッシュで八幡の足元でニャーと鳴く黒猫かと思えば人語を話してくる様子に吃驚仰天する。
薄れそうな記憶の中から、そう言えばこんな感じの声してた猫がいたなと当て推量でその正体に目星を付ける。
ちなみに、駆け足で離れられた雪乃の顔は少しばかりショボンとしていた。
「そうさ、ワガハイの現世の身体はこの猫って訳だ。まぁ深い事情もあるんだが、今は置いておこう。
よく来てくれたハチマン、いやマジで待ってたぜ。来てくれなかったらどうしようかと思ってたところだ」
「そ、そうか」
昨日の記憶の限りでは2~3頭身のデフォルメされた2足歩行の猫であったはずの存在が、見るからに普通の猫の姿で流暢に日本語を話している姿に違和感を拭えずに引き気味の八幡であるが、それ以外にもモルガナの言葉からにじみ出る必死さも引いている原因かもしれない。
よくよく注視してみれば、その毛並はツヤツヤとしているが顔色はどこか優れない、と言うか見るからにゲッソリしている。
ヒョイと身軽に八幡の肩に飛び乗り耳打ちするモルガナ。
「おめーが倒れた後、雪乃殿の部屋に厄介になったんだがな。文字通り猫可愛がりされすぎてこのままじゃ身がもたねー」
ボソボソと小声で打ち明けてくる内容に、へーと他人事の様に流す。
「ワガハイは猫の姿ではあるが、その実メンタルは人間と同じみてーなもんだ。キャットフードとかよりも普通の飯がいいし構われすぎるのも好きじゃねえ。むしろ雪乃殿の構い方だとワガハイ禿げちまう」
「そうか、狙い目は一人暮らしの老人宅とか鍵付き倉庫とかがないコンビニのゴミ捨て場だぞ。コンビニは廃棄弁当とかメッチャ多いし、孤独を持て余してるジジババなら野良でも丁重に扱ってくれるだろ」
「何でいきなり野良猫にならなきゃいけねぇんだ! そこはお前がワガハイの世話をする為に引き取る所だろうが!」
「いや、うち既に一匹猫飼ってるから」
モルガナが何を求めているかを精確に理解した上でのこの言動である。
空気を読めないんじゃない、読んだ上でわざと無視してるんですがなにか? と言わんばかりにスルー。
「ん、んんっ。もう良いかしら」
すわモルガナ八幡のケンカ勃発と思いきや、わざとらしく咳をした雪乃がニッコリと二人に水を向ける。
モルガナは昨日からの雪乃に対する苦手意識、八幡は昨日の電撃(記憶には残っていないが無意識レベル)のトラウマからシュバババっと席に着く。
「ひとまず、昨日比企谷くんが倒れてからの事態の共有から始めましょう」
「あぁ、すまんがそれで頼む」
「ところで、比企谷くんは何処まで覚えているかしら。眼の腐りが感染して脳にまで影響しているのなら何も覚えていないとしても寛大な心で許してあげるけれど」
「言葉の頭に要らん物を付けずとも大体は覚えてるよ。何かよく分からん物がペルソナになってモルガナが華麗に見参、雪ノ下もペルソナ使えるようになってめでたしめでたし、って所だろ。
そっからは何故か記憶になくて気が付いたら平塚先生の車で揺られてたんだが、あれからどうなったんだ? 平塚先生の無事だけは確認出来てたから焦ってはなかったけど、あんまりにも現実味がねえから夢でも見たのかと思ってたんだが」
八幡の言葉に長机の下でグッと握り拳を作る雪乃。
どうやら電撃ビリビリのあった最後の部分だけ、都合良く記憶から失われているようだ。
その雪乃の様子にシラーっとした白い目をつい向けてしまうモルガナ。
しかし、それに言及する事はない。恐らくは雪乃に連れられて猫可愛がりされていた昨夜に、何かしらの密約があったのだろう。具体的には刺身とか。
「そこまで覚えているのなら詳細の必要もないわね。なら、ざっと説明するわ」
そうして雪乃は八幡が気絶した後について説明する。
曰く、八幡が気絶した後すぐに平塚教諭は水晶体から元の身体に戻り、モルガナも今の猫その物の姿に変化したらしい。
平塚教諭は水晶になっていた間の事は一切把握しておらず、何故か時間だけが過ぎていた事に首を傾げて、八幡が気絶している事にも疑問を覚えたようだが、雪乃の口八丁で誤魔化されたらしい。
その一環で何故か八幡が発情して雪乃に襲い掛かろうとしたとかしてないとか、それを撃退する為に悪即斬されたとかされてないとか、そんな悪評をぶちまけられたとかなんとか。
「それ、俺の社会生命的に致命傷じゃねえか、何つーことしてくれてんだよ」
「安心なさい。どうせあの先生は私の言い訳を鵜呑みにする訳も無いし、多分あの人の中では私があなたに罵倒しすぎて我慢しきれずについ手が出てしまって撃退した、程度に納得しているでしょう。
そもそもあなたの社会生命なんて存在していたのかしら? 人に認知されていないのに?」
「いや、確かに存在してなかったけど、致命傷は致命傷だからな? いや、俺のリスク管理への信頼喪失と、お前の口の悪さの周知で痛み分けって所か」
元からなかった信頼とトレードオフなら悪いモノでもなかったか、とか露悪的な考えで内心苦笑いする八幡であった。
「説明を続けるわ」
曰く、気絶した八幡はそのまま平塚教諭が送り届けられ、残された雪乃とモルガナは一端雪乃の自宅へと帰宅。
極限にまで疲労していたのか帰宅と同時に雪乃は意識を飛ばし、起きた時には夜中になっていたらしい。
そのままちょっとした話し合いをして猫可愛がりして翌朝、つまり今日の朝を迎えカバンにモルガナを突っ込んで登校、そして今に至る。
「モルガナちゃんは何か目的があってあなたを助けに来たらしいけれど、詳しい説明は今まで待たされていたから私も詳細は知らないわ。ひとまずあなたの気絶からの流れはこう、理解できたかしら」
「OK。で、モルガナさんよ。あのペルソナってのは何なんだ。で、お前の目的ってやつはペルソナとどう関係してくるんだ?」
ジッと雪乃の説明が終わるまで八幡の隣の椅子に座っていた黒猫、モルガナは二人分の視線を受け止めてゆっくり頷く。
「大前提の話をしよう。銀河の状況よりは短いが少し長くなるぞ。まず生命の精神は全て無意識で繋がっている。これは集合的無意識って言葉でお前らも知ってるだろワガハイたちは心の海って呼んでるな。そこには全生命の精神活動のエネルギーが存在しているんだ。良く言うよな、感情はすげーエネルギーを持っているって。で、ペルソナはここから溢れるエネルギーを自在に制御する手段だ。まぁ人間がそんな心の海なんつー不特定多数って言葉ですらおこがましい数の生命からの精神活動を一部でも受け入れられるなんて一種の才能がねえと無理だな。自我が確立しきっている大人には心の海に接続する事がそもそも難しい。精神が幼過ぎたら飲み込まれて暴走、シャドウになっちまう。ここで一つ問題だ。仮に高次元の精神活動をする人類が、そうだな、心の奥底では死を望んでいたとすればどうなると思う? ほら、最近過労死だとか災害だとかなんだで社会情勢の見通しが立たない不安が蔓延してるだろ。そうだ、莫大なエネルギーが全生命に対して死を強制しようとするんだ。無気力症候群って昔流行らなかったか? やっぱりな。あれは死を願う人類が増えたことで起こった一つの事件だ。まぁこれはもう終わっちまった事だから今はどうでもいいな。つまり、高次元の感情エネルギーを持つ人類の大多数がネガティブな方向に行っちまったらやべえコトになるって事を理解しとけ。んで、ワガハイの目的だがさらに前提を追加するぞ。まずワガハイは猫の姿をしちゃいるが、その本質はシャドウと似たようなもんだ。違うのはシャドウってのは怒りだとか悲しみみたいな負の感情とかエネルギーに支配されたもんで、ワガハイは希望とかそう言う正の感情みたいなエネルギーで作られた造魔とでも言うべきもんだ。ワガハイは怠惰に染まり始めた人類が生み出した統制神、全ての人類を感情までも管理して支配しようとした悪神ヤルダバオトをトリックスター達怪盗団と一緒に討ち倒した。誰かに全てを任せたいと怠惰に染まった民衆を改心したことで、事件は解決した。そこでワガハイは本来消えるはずだった。ワガハイが生まれた理由は言っちまえば悪神を打ち倒す事で、それを為した以上、心の海に戻るのが当然だったんだ。だけど、ワガハイの仲間、怪盗団の皆はワガハイを忘れずに認知し続けてくれたからワガハイは広大な心の海からまた現世に戻ってくる事が出来た。まぁ猫の姿のままってのはちょっと不満だけどな。本題はここからだ。ワガハイたち怪盗団の活躍で人類は人任せで生きていたいと言う歪みが正されて、大多数の人間は改心された。だけどな、全人類が完璧にその怠惰を失くしたわけじゃねえ。心の底には残っちまってるし、改心した後にも人任せで楽に生きたいって思う奴は出てくる。だから、これはワガハイの油断だ。心の海から現世に戻る時、ワガハイにくっついて悪神の欠片が現世に着いてきちまった。もちろん、殆どの人間が他人任せにしない社会になったばかりだったから、放っておけばそのまま消えちまっただろう。だけどそうはならなかった。悪神の欠片は転生とか、転移の概念を利用してここに漂着した。それに気付いたワガハイとワガハイの創造主である主は対処するべくワガハイの一部の記憶と能力を封印してこうやって来たって訳だ。悪神の欠片は極端に弱っちゃいるが、そもそもの力が莫大だから放置してたら碌なことにならねえ。感情を肥大化させて暴走させたり、何てことの無い問題を拡大して社会情勢を悪化させたり、小さな問題を大きくさせるのは容易に想像がつく。ワガハイの不始末のせいで悪いとは思うが、愚者のアルカナを持つペルソナ能力者ってのは騒動に巻き込まれやすい。さっきも言ったがペルソナ能力ってのはよっぽどの才能とか運がねえ限りは自力で目覚めることなんて不可能なはずだ。なら、お前らがペルソナ能力に目覚めたのは悪神の欠片が影響している可能性ってのはたけえ。未然に防ぐためにもぜひワガハイに協力してくれ」
「なげえよ、三行で纏めろ」
「ワガハイのせいで厄ネタがお前らに降りかかるかもしれねえ。
その厄ネタは多分お前らにも既に関係している可能性が高い。
なら、お互いにwin-winな協力関係を結ぼうぜ。ほら三行だ」
見事に三行に纏めたモルガナにずらずらと長話を聞かされてうんざりしていた八幡がため息を溢す。
「こっちにwinがないし、そもそもそっちの不手際ならそっちが全面的に責任を負うのが筋と言うモノではないかしら」
「それを言われちまうとワガハイも何とも言えねーな」
「そこはにゃんとも言えねーにゃ、とか猫キャラ際立たせろよ」
モルガナのひっかく。八幡は手の甲に爪痕がつけられた。
銘々が一息ついて少し落ち着かせてから話を再開させる。
「確かにこれから先、ワガハイのせいで蘇っちまった悪神の欠片がおめーらに迷惑をかけるのはワガハイにも責任がある。
だがな、お前がペルソナに目覚めた以上は将来的には無関係じゃいられねえって事だけは覚えとけ」
「?」
「ちょっと待て。その口ぶりだとまるで昨日の俺達にその悪神とか言うのが関わってないように聞こえるんだが…
いや嘘だろ、昨日のあの突発的な修羅場は悪神の欠片とかが雪ノ下に取り付いて暴走しちまったとかそう言うニュアンスじゃないのか」
モルガナの言葉に違和感を覚え、焦って問いただす。
将来的に無関係じゃいられない、という事は、現時点では無関係だと言う意味を含んでいる様に聞こえるからだ。
「嘘も何もそう言ってるんだ。ワガハイは確かに悪神の欠片を追いかけて来たが、どこに在るかが分かってたわけじゃねえ。
だから、ワガハイは最も悪神の欠片に繋がる可能性が高い『愚者』のアルカナを持つペルソナの反応を見つけてそこに飛び込んだだけだ。
始まりを意味する『愚者』のアルカナは騒動に巻き込まれる事が約束されたようなもんだからな」
「コンゴトモヨロシク! モルガナさん!」
「恐ろしいまでの早さの変わり身ね」
呆れ顔を浮かべる雪乃に何が悪いと言わんばかりのドヤ顔八幡。
実際、愚者のアルカナ、と言うかペルソナを複数持つ事のできるワイルドの特質を持つ人間は世界や人類の危機に見舞われている。
むしろ、世界の危機があるからこそワイルドと言う存在が生まれるのか? これは鶏卵としか言えない以上、愚者のペルソナである『アマノジャク』を持つ八幡にもトラブルが引き寄せられる可能性は高い為モルガナの言は否定出来ない。
ワイルドと呼ばれる彼らが出す初めのペルソナのアルカナは須らく愚者であったのだから。
ちなみに、八幡や雪乃がペルソナを出す時は4の様にアルカナカードは出て来ない。
全身を黒く包まれて剥がれ落ちた中からペルソナが生まれ出る様に出てくる為、当人以外にペルソナのアルカナは分からないし、それがどのような性質なのかは本人すら分からない。
しかし、例え、そのアルカナの危険性がモルガナの言だけだとしても、無視するには危険性が高過ぎると判断したのだろう。
「もちろんワガハイの寝床は?」
「我が家に準備しておきますとも! 飯はちゅーるか?」
そんな半ば脅してくるような猫に対して全力で媚を売る男子高校生の姿がそこにはあった。
流石に「寿司がいい! それも特上な!」との戯言には、そうかシー○キンかとスルーする。
「まとめると、ワガハイは悪神の欠片を回収、ないしは抹消を目的として愚者のアルカナ持ちの八幡を利用する。
で、八幡は愚者のアルカナの性質で確実に訪れるトラブルに対処するのにワガハイを利用する」
「これこそがWin-Winの関係ってやつだな」
ハハハと空空しい笑みで黒猫と男子が笑い合う。
ある程度を昨夜のうちにモルガナから聞いていた雪乃としても、こうまで露骨だと呆れるしかない。
だとしてもこの展開は彼女にとっては都合が良いのだから、わざわざ混ぜ返す必要もない。
若干、いや大分、もっと言うなら断腸の思いをしてモルガナ(猫)を自宅にお迎え出来ない事を納得するしかないのが唯一のデメリットだった。
「話はついたようね。なら、これから先のお話しをしましょう」
「あー、つかお前もペルソナ使えるようになったんだっけ。けど、これは俺とモルガナの問題だからお前は関係なくねえか」
「まず、その馴れ馴れしく『お前』と呼ぶのを止めてくれるかしら。特別な力に目覚めたからと言ってあなた自身が特別になった訳ではないし、私にとってあなたが特別なわけではないのだから勘違いしないように。それに最初に言ったでしょう、持つモノは持たざるモノに慈悲の心をもって与える、それがこの奉仕部なのだと」
モルガナの話では必要になるのは愚者のアルカナ持ちである八幡だけであり、雪乃にはペルソナが使えるようになったとしても関わる理由が存在しない筈だった。
そう考えていたからこその発言だったのだが、ぞんざいに扱われたのだと思いカチンときて反撃。
一言多いのは性格なのか、反撃の言葉にそこまで言われる謂れはないんじゃねえかとイラッと来るがここは男の度量の見せ所だと落ち着いてから、駄々っ子シャドウな雪ノ下、略して出汁の下さんと言い返そうと
駄々っ子シャドウな雪ノ下、略して出汁の下さん
→雪ノ下と呼び直す
×むしろ雪乃と呼ぶ(度胸が『肝練り』以上必要のようだ)
キッと鋭い目つきでにらまれてしまい、キャインと彼の心の中の獣が縮こまって日和った呼び方しかできなかった。
いや、今の目つきマジでやばいから。多分俺の事をウイルスとか細菌程度にしか見てなかった。顕微鏡越しに観察して、さぁどの薬がこれを殺せるのかしらとか位の温度しかなかった。
もしも呼び捨てとかしてたら黄泉醜女をけしかけられてたまである。
「ひとまずワガハイは進捗を主に報告しないといけねえから一端席を外すぜ。ハチマン、お前が帰る時間、完全下校時刻って言ったか、それまでには戻ってくるから早く部活が終わったからって先に帰るんじゃねえぞ。あと晩飯はカレーがいい」
そう言い放って、ひらりと椅子から飛び降りたモルガナが換気用? の下窓から抜け出した。
言い逃げじゃねえか、と文句を言いながらもスマホで妹の小町に今晩の飯はカレーがいいなと連絡を入れる。初手妹へのおねだりとか兄として恥が無いのか。
「ん、んんっ! んんっ」
今日は小町委員会の仕事で遅れて帰るからカレー位、自分で作ってねと返事が来て、あれぇ? 委員会の仕事は昨日の事、しかも朝の話じゃなかったかしら、スルーされたと落ち込む。
家に帰ってからカレー作りが確定してしまった事に嘆きながらポケットにスマホを片付けようとすると向かい側から小さく、しかし控えめと言うには大きい咳払いがまたもや聞こえてくる。
ちなみに、八幡とモルガナが雪乃の威勢に負けて座ったのは長机の長辺側、原作読了勢、アニメ視聴勢から言うのなら依頼人側であり彼女はその反対に位置している。
斜め前から聞こえてきた小さな自己主張に顔を向けてみると、案外近い位置に雪乃の顔があり若干戸惑う思春期男子だった。
閑話休題
ともあれ、意外と近くに座っている雪乃の姿を見逃す訳も無く、その手元にある白色のカバーをつけた長方形の多機能通話機も余さず見えていた。
「その…これからモルガナちゃんに協力していくにあたって、咄嗟の時に対処が出来ないと言うのは文字通り命取りになると言っても過言ではないわ。幾ら私達にペルソナというチカラが備わっているとしても一人で出来る事には限りがあるでしょう。特にあなたのペルソナは妨害特化らしいじゃない。万が一あなたが一人で居る時に昨日のような事態に巻き込まれて話しかけても返事が無い状態になってしまっては心優しい私としては気に病んでしまうかもしれないし、なによりモルガナちゃんの目的を遂げにくくなってしまうのは避けなければいけない。なら、非常に不本意ではあるのだけれど緊急事態に限りではあるけれどあなたが私に対して連絡を取れるようにしておくのはあなたにとっても有益だと思うの」
「お、おう」
非常に早口でまくしたてられる勢いに負けてどもる。
まぁ前略、連絡先交換しようよ、後略である。
「ていうか、おま、雪ノ下もマジであの猫に協力するわけ? ペルソナなんつー徐々に奇妙になっていきそうな能力があった以上、説得力はあるが俺的にはいまいち信用できねえし、俺が協力するのも将来的な損を避ける為に最低限で済ませて積極的に手伝わない事でリスク管理しようと思ってたんだが」
だから、お前はこんな危険な事に首突っ込まないでいいんじゃない? むしろ変に話が大きくなったらいざという時に自分が逃げられなくなるからあんまり関わってほしくないんだけど。
そんな後ろ向きな心情をあまり表に出さないように退けようとする。
「さっきも言ったでしょう。奉仕部の理念は持つモノは持たざるモノに慈悲の心をもって与えると、それに優れた者は哀れな者を救う義務もあると平塚先生も言っていたわ。
ペルソナと言う力を持ってしまった以上、そこに私は責任が生じると私は思う。先々、モルガナちゃんの言った悪神の欠片が人々を苦しめることが分かっているのなら、それに対して動かないのは怠惰だし、私はその怠惰を許容しないわ」
リスク管理と言った彼を批判するような内容ではあるが、まるで自身に言い聞かせるかのような声音と小さく握られた拳だけが彼女の覚悟を表していた。
危険は確実にあると予想できる。
先の脅威がどれ程なのかは己の想像でしかない以上、この覚悟を後悔する時もきっとくる。
その時になってみればみっともなく泣いて喚いて怨嗟を叫ぶかもしれない。
だけど、そんな未来の格好悪い姿は関係なく、目の前にある小さな覚悟はそれでも尊いのだと、そう思った。
「さいで」
「ええ」
一言だけ返すと、ポケットにしまいかけていたスマホを机の上に置いて差し出す。
「えっと」
「連絡先の登録とか良く分からんから、そっちで適当にやってくれ」
戸惑う彼女に、彼はそう告げて画面のロックがかかっていない事だけ実践して、後は任せたと放置した。
一瞬呆れそうになったようだが、ゆっくりと黒いカバーに覆われたスマホに手を伸ばし
「あの、どうやって登録するのかしら」
自分の使っているスマホと操作方法が違うからか、それとも今までの友人関係の数の関係からか、電話帳の登録方法が分からずペチペチとタッチしていた手が中空をさまよった。
結局、二人してああでもないこうでもないと悪戦苦闘して登録した後LINEだったら簡単だったんじゃないかと気づき、そっちも登録しようとして、またしてもやり方が分からず頭を突き合わせながらモルガナが帰ってくるまでわちゃわちゃとしたのであった。友達登録? モルガナが一瞬でやってくれたよ。
ペルソナメモ
パラメータ…ペルソナ3以降のシリーズにてお約束的にある指標の一つ。知識、度胸、魅力等の3~5つの要素で、主人公の選択の幅を広げてくれる。具体的には度胸があれば『誰が落ち武者だ』と先生に突っ込んだり、知識があれば早い時期に『生徒会長とお近づき』になれたりする。
今作では
・知識………偏りがある、そこそこ、なかなか、博識、???
・度胸………びびり、なくはない、ここぞで違う、肝練り、???
・コミュ力…さっぱり、つっかえる、耳に残る、言霊使い、???
・根気………ゆとり、さとり、木工ボンド並、マジぱないわー、???
・器用さ……ぶきっちょ、ぎこちない、見れるレベル、凄腕、???
の五つ。肝練りレベルに度胸が必要とされる雪乃との会話って…
アルカナのランク…キャラとコミュする事で対応するアルカナのランクが上がる。ペルソナをベルベットルームで合体する際にお得だったり、キャラに対応するアルカナのランクを上げると役立つスキルを得られたりする。今作ではランクは5までの予定だが、比企谷八幡は愚者ではあるがワイルドではないので、殆どフレーバーである。役立ちスキルを考えるが面倒だったともいう。
全アルカナのコミュ(P5ではコープ)をマックスにしたら隠しエンディング、もしくはトゥルーエンドに辿り着いたりする程度には重要な要素。