やはり俺の○ル○ナは間違っている   作:hung

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予想外な強敵には助っ人こそが手っ取り早い

5月15日(火) サカイパレス

 

「ひとまず、理解はしたよ。…納得はしてないけどね」

 

 

 はんっ、と息をつく沙希の様子にほっと安堵する八幡。

 

 腰を抜かして涙目になっている彼女をなんとか落ち着かせ(モルガナが)。

 

 ざっとだが認知世界の概要を伝え(やっぱりモルガナが)。

 

 自分たちにまかせてくれれば万事解決だと請け負った(モル以下略)ところ、ようやく拳を収めた。

 

 そうなるまでに顔を紅くした沙希が「記憶を失えぇ!」と振り下ろした拳骨で八幡がダウンしたり。

 

 沙希に猫アレルギー症状があらわれない事を不可思議に思ったり。

 

 蹲る彼が「やっぱ不良って駄目だわ」と呟いたら追撃のグランバイパくらったり。

 

 半分自業自得、半分八つ当たりな顛末だったが、それは置いておこう。

 

 ちなみにここでようやく彼らは彼女のフルネームを知りえた。

 

 

「ここまで話して良かったのか?」

 

「パレスで認知存在になり替わってないって事は、沙希殿にもペルソナの素養があるのとイコールだ。

 下手に誤魔化してまた後をつけてこられても困るだろ。ハヤマみてえに切羽詰まった状況でもねえしな」

 

 

 前回のパレスは時間を掛ければ優美子(実際は戸塚だったのだが)の命が危ない事が前提だった。

 

 だからこそ、不確定だったが隼人と言う戦力を遊ばせている余裕はなかった。

 

 しかし、今回の状況では話が違う。

 

 

「なぁに、ワガハイも大分力が戻って来たし、ちょっとしたパレス位なんてことねえさ。

 悪神みたいな外圧も無い状態から人一人の歪みから生まれたシャドウに後れを取るはずもねえ」

 

 

 自信満々のモルガナに「ほんとにござるかぁ?」と胡乱な目になってしまうが、事ここに至って援軍を要請するには遅すぎる。

 

 内緒話をしている二人を腕組みしながら指トントンしている沙希も、普通の喧嘩みたいな腕っぷしは強そうだが、即ボス戦になりそうな状況でいきなりペルソナを使わせてみる博打は打つ必要も無いと言うのは同意できる。

 

 結局はモルガナの思惑通りに、八幡とモルガナだけで対処する事になるのだろう。

 

 やだなぁ、こわいなぁ、絶対なんか予想外の事が起きるって。

 

 嫌な予感を覚えながらも、沙希を口八丁で丸め込んで待っていてもらうように頼み。

 

 気を取り直してパレスとなった『SaSa』の扉に手をかける。

 

 現実の時と変わりない入店のベルが鳴り

 

 

『歓迎しよう! 盛大にね!!』

 

「「えっ」」

 

 

 大げさに腕を広げたポーズで待ち構えていた男性の叫びと共に、扉を踏み越えた二人へと一斉にシャドウが襲い掛かる。

 

 

 モンスターハウスだ!!

 

 

『キャハハ! ジオ』

 

『ガル ジャ』

 

『グルルル アギ』

 

『シニナサイ ブフ』

 

『ダメダメダヨ ムド…アレ キカナイ? シカタナイネ アバレマクル シカナイ ネ』

 

 前方、側方、上方、下方から無数の炎、氷、風、雷が巻き起こり

 

 その陰に隠れ小さなシャドウが何体も突貫

 

 盛大な爆発音を立てて、二人は一瞬で入って来た扉から叩き出された。

 

 

「なにやってんの、あんたら」

 

「卑劣な罠だ」

 

「あばばば。じ、ジオが効くぅ」

 

 

 大口叩きながら速攻で真っ黒焦げになってヤムチャしてる二塊を醒めた目つきで見下ろす沙希。

 

 案外優秀な耐性を持つ『アマノジャク』は破魔属性でない限り簡単に崩れないが、奇襲されれば全部が弱点になると言う説話を由来とする欠点があるし、モルガナの『ゾロ』は電撃弱点。

 

 開幕のジオでweakをつかれ、怯んだ隙にフルボッコになっていた。まえがみえねえ。

 

 電撃と炎熱のコンボの所為なのか、髪の毛がチリチリになってしまっている。大ダメージだ(八幡の将来的な毛根に)。

 

 現実で迂闊な言動でボコられた経験が地味に八幡に苦痛耐性をもたらしていたのは幸か不幸か。

 

 攻撃してきたシャドウはピクシーやドワーフ、ガキなどの雑魚ではあった。

 

 イヌガミ(Lv10半ば)も見えたが、それでも予想の上限を越えてはいない。

 

 その点はモルガナの見込み通りだった。

 

 しかし、その数が想定外。

 

 

「おい、こら。これのどこが楽勝なんだよ」

 

「妙だな」

 

「意味深な態度を取れば何とかなると思ってんじゃねえぞ」

 

「あいたたたあ!!」

 

 

 ゲーム的に言えば、彼らのレベルは20を超えている。

 

 ピクシーやドワーフのレベルは5前後。

 

 存在の格を示すレベルが10以上も離れれば痛痒も…まぁ少しは感じるだろうが、致命打にはなりえない。

 

 具体的に言えば、weakをつかれてもHPダメージが10以下に抑えられるし、耐性属性なら0だ。

 

 だからこそ、それを予期していたモルガナはああも自信満々だったのだろう。

 

 だからこそ、八幡がアイアンクローでモルガナを責めるのも当然。

 

 

「妙だな。ワガハイの見立てだと、精々イヌガミクラスの中ボスが1体か取り巻きの雑魚数体。それくらいが限界だと思ったんだが」

 

「妙だな、で済ますんじゃねえよ。マジで死にかけたんだが、分かってる? この罪の重さ」

 

「待て、話せばわか…う”な”ぁ”!」

 

 

 プラーンと吊るされたモルガナが汚い悲鳴を上げて沈黙する。

 

 

「とにかく、俺とお前だけだとどうにもならんことは分かったんだ。あとは雪ノ下達に救援出して「そいつはダメだ!」は?」

 

 

 ぺっ、とモルガナを放り投げて、スマホを取り出して最も簡単な解決法を取ろうとした彼に制止の声がかかる。

 

 現状を認識するのなら、戦力である八幡とモルガナ。

 

 その一方である八幡はデバフ、アナライズ特化で打点を持たない。

 

 一瞬の侵入ではあったが、パレスの大きさはさっき見えたバーの一室だけ。

 

 つまり、ナビをする必要も無く、レベル差によって取り巻きに負けはなくとも数の差によって足止めしかできない。

 

 更にもう一方であるモルガナはマハガルで雑魚を退ける事は出来るだろうが、中に混じる中ボス個体に足を止められる。

 

 つまり、最も重要なパレスの主に手が届かないのだ。

 

 モルガナが初手で雑魚を殲滅してから中ボスを八幡に任せればもしかすると? と考えても、増援がくるかもしれないし、ピクシー筆頭に『ガル』に耐性を持つシャドウが居ればじり貧。

 

 無茶をすればどうにかなるかもしれないが、する必要のある無茶かと言われれば断じて違う。

 

 ここに至って、広域攻撃手段が『マハガル』しかないのが痛恨の極みだった。

 

 

「絶対的に手が足りないだろうが。相手の数が少なかったら俺が足止めして、その隙にお前がボスをどうにかできたんだろうが、その計算はもう狂ってるんだろ。最初の手段に固執して同じ失敗を繰り返すのは嫌だぞ、俺は」

 

「だが、あぁも啖呵を切った手前、今更助けてくれなんて言うのはカッコ悪いじゃねえか」

 

「死ね。タヒねじゃなくて、死ね」

 

「だぁ! 躊躇なく雪乃殿たちに連絡しようとするんじゃねえ!!」

 

「ええい、離せ! お前の下らんプライドで俺の腹は膨れんのだ! それに無理そうなら連絡するって約束だろうが!!」

 

「後生、後生だ! ハチマン、お前のその良く回る舌と斜め下にいく発想力で雪乃殿や結衣殿に知られることなく何とかしてくれ!!」

 

 

 なんとも言い難い理由が返ってきた瞬間スマホを構えるが、必死の形相でモルガナが縋りつく。

 

 まぁ、言いたい事は分かる。

 

 わざわざ隠し事をしていると宣言して、独力で(八幡は巻き込まれているが)なんとかすると大見得を切っておきながらのヘルプコールは確かに情けない。

 

 しかし、彼にとってしてみれば、プライド? なにそれ俺の人生にそれが必要なの? といわんばかりの人生だったのだから、こういう時に躊躇を覚える事はない。

 

 もちろん、ただの難事なら八幡も人に頼ろうとは思わなかったが、ことは命にかかわるのだ。

 

 もしかすると、そう言った人を頼れるような選択肢を選べるようになったのは一つの成長とも言えるのではないか?

 

 以前の彼ならば、抱え込んでしまっていただろうから。

 

 

「で、あんたら、どうすんの」

 

「「あっ」」

 

 

 蚊帳の外に放っておかれて、どんどんと目つきが鋭くなっていた沙希がもみくちゃになっている二人に声をかけることでようやくその存在を思い出された。

 

 頭の冷えた(強制)一同は今の状態ではどうにもできないと、一度現実に戻ることにしたのだった。

 

 

5月15日(火) 夜 ファミレス

 

 

「で、説明してくれんでしょ」

 

「はい、させていただきます…なんで俺が」

 

「なんか言った?」

 

「いえ、何でもありましぇん」

 

 

 ぎろり、強い視線に反骨心がへし折れる。

 

 そうして、パレス内部では軽く済ませた説明を詳細に話す。

 

 ドリンクバーから二杯目のおかわりを持ってくる頃には大事な点は伝え終えたが、視線の鋭さは変わっていない。

 

 初めて会った時からこうだから、もしかすれば、彼女の普段通りの素顔がこうなのではないだろうか。

 

 沙希は現実に目にした事態に対してあぁだこうだと反論するよりも、とりあえずはと受け入れたので話は大分スムーズに進んだ。

 

 

「その『おたから』ってのをどうにかしたら、あいつの奇行は収まるんだね」

 

「多分」

 

「多分?」

 

「いえ、絶対に!」

 

「…ふぅん」

 

「だから、なんで主犯のモルガナじゃなくて、俺が詰められるんだよ」

 

 

 暴走したのも、安請け合いしたのも、戦力を見誤ったのも、どうにかなる助っ人を拒んでいるのも、全部モルガナのせいなのに、とグチグチ思ってしまうのを止められない。

 

 腰を落ち着けたのが、モルガナが顔を出せない飲食店だったのが悪い。

 

 シャリとグラスに浮かぶ氷をストローでつつき、眉間にしわを寄せて思案気な表情を作る沙希に居心地悪さを感じながら、彼女の返答を待つ。

 

 八幡とモルガナだけでは相当な無茶をしなければどうにもならない。

 

 だが、モルガナの独断で救援は望めない。

 

 ただでさえ現実離れした事態に沙希が取れる手段は無いハズで、そもそも理解を示そうとしているだけでも適応力が高いと言える。

 

 なお、雪乃と結衣にばれないように出来て、八幡が取れる手段として材木座と言う存在が居るのだが、二人とも忘れてしまっている。

 

 まぁ、彼のペルソナ『ギュウキ』も得意属性が衝撃でモルガナと一部被っていて、もう一つの得意属性の呪殺『マハエイハ』は天使系には突き刺さるが弱点とするシャドウが多くない。

 

 それでも、無茶が無茶ではなくなるだろうに選択肢として昇らないどころか、思い出されないのはなんとも言えない。

 

 戸塚? 彼をこんな面倒くさい事に巻き込めるか! と過保護を発揮した誰かさんが真っ先に却下している。

 

 

「ちっ。一つだけ質問」

 

 

 露骨に舌打ちをして、下を向いていた視線をあげて向き直った沙希が質問を投げかける。

 

 

「もう一人、戦力が有ればなんとかなるんだよね」

 

「まぁ。出来れば広範囲に群がる雑魚を何とか出来れば一番だが」

 

「それは…だけど。ぅん」

 

 

 八幡の返答は望んでいた答えではなかったのか、またしても思案気に顔をしかめる。

 

 単体系の戦力が居れば取り巻きをモルガナに任せられるが、モルガナの意気込みからして対ボス戦を譲るかどうかは不明。

 

 意固地になってしまっている様子を思い出してため息をつく。

 

 また長考に入るかも、とカバンの中に手を突っ込んでスマホに触ろうと

 

 

「フシャーーー!!(スマホを抱きかかえながら)」

 

「クソわよ」

 

 

 した瞬間、モルガナの反発にあって断念する。

 

 どうあっても連絡させる気はない様だ。

 

 予想通り、沙希は再度長考に入ったため、自分もおかわりを淹れてこようと立ち上がる。

 

 のそのそと気乗りしない、とにかく不本意な状況に落ち込みながらグラスをドリンクサーバーに置いてこの先をどうするかと考える。

 

 ボーっとグラスに充填される黒い炭酸飲料を眺めながら立っていると不意に背後から気配を感じ順番待ちかと振り返った。

 

 

「あれ、ヒキタニ君じゃん」

 

「げっ」

 

「どうした、戸部」

 

「げっ(1秒ぶり2回目)」

 

「あぁ。やっ、この前はありがとうな」

 

「いや別になんでもないんで」

 

 

 そこには明るく染めた茶髪をカチューシャで止めたお調子者のクラスメート戸部がグラスを2つ持って立ち、その後ろで手透きの隼人が首を伸ばして様子を窺っている。

 

 八幡の姿を認めると軽く手を挙げて挨拶してくるが、出来るならば関わりたくないのが本音。

 

 ただでさえクラスカーストトップのグループで、更に言えば最近の職場見学のグループ分けでひと悶着あった彼らに校外で出会うのは、八幡からしてみれば面倒の一言でしかなかった。

 

 しかし、その瞬間八幡の灰色の脳細胞に確かな閃きが!

 

 

「…そう言えば、葉山。お前には一つ貸しが有ったよな」

 

「うん? 確かに君にはお世話になったけど…あんまり無茶ぶりはしないでくれよ」

 

「大丈夫大丈夫、何があっても責任は(モルガナが)取るから」

 

「何のハナシ、隼人くん?」

 

 

 店内のどこかで「濃厚なお腐れの匂いがする!」とか聞こえてきたが、多分幻聴。

 

 都合の悪い事は放り投げ(押し付け)て、にやりと目の前の葉山隼人(生贄)を見るのであった。

 

 ナイスタイミングだぜ、はやまくぅん。

 

 そんな八幡の邪悪な思考を察したのか、冷や汗を流す隼人。

 

 残念、逃げられない。

 

 

5月16日(水) サカイパレス

 

 

「まったく、少しの頼みごとのつもりが高くついたな」

 

「タダより高い物はないって経験だ。良かったな、良い人生経験を積めたぞ」

 

「うむむむむ、ハヤマ。絶対にこの事は雪乃殿や結衣殿には秘密だからな」

 

「あはは、うん。男と男の約束だ」

 

 

 明けて翌日の夕方。

 

 昨日と同じサカイパレス、認知世界のBar『SaSa』の前に昨日と同じメンバーの八幡とモルガナが立つ。

 

 その横には苦笑いを抑えきれない隼人の姿が。

 

 

「職場見学の行先にヒキタニ君の手を借りたばっかりに…まぁ仕方ない。こういう危険な事には関わりたくはなかったけど、クラスメートが困っているのなら助けない訳にもいかないからね」

 

「けっ、回答までイケメンかよ」

 

「ひがむなひがむな、ハチマンはそのひん曲がった性格をまずは何とかしねえとな」

 

 

 言及するのを後回しにしていたが、近くに迫る中間試験。

 

 そのすぐ後に予定されている職場見学において、自宅を希望して「却下だ小僧」される事を予期した八幡は以前貰った名刺に書かれた場所を書いて提出した。

 

 その際、何故か隼人が同行を希望し、更に今石燕に繋ぎを付けてほしいと言ってきたのだ。

 

 断る必要も無かった(気分的には嫌だが、もう一人の同行者戸塚が賛成した)為、一つ貸しだとした顛末があったのだが、今は置いておこう。

 

 

「川崎さんも、安心して待っててね。俺が守ってみせるからさ」

 

「は? 余計なお世話なんだけど。つか、自分の心配でもしてな」

 

「あ、あはは。振られちゃった、のかな」

 

 

 その後ろでは腕組みをして仁王立ちする沙希。

 

 事の次第を見届けない限りは安心できないと、どう説得しても譲らなかった彼女も昨日と同じくパレスに侵入している。

 

 自信満々な隼人への塩対応も、昨日の無様な二人の一部始終を見ていれば納得のいく対応なのだが、それに巻き込まれる立場からすればより一層苦笑いが深くなるだけだった。

 

 

「とにかく! 予告状は既に出してサカイに読まれた事も確認した! 後はこの中にいるボスを倒してオタカラを盗み出せば万事解決だ!」

 

 

 ぴっ、と懐から1枚の紙きれをかざす。

 

 真っ赤な紙に黒いシルクハットを主体としたデザイン、その裏にはモルガナが予告状と称した文章が書かれていた。

 

『倒錯した性癖を持つ色欲の大罪人 サカイ サカエ 殿

 己の欲望を満たす為、未成年への無茶ぶり

 我々は貴様の迷惑行為を正す事を決めた

 その歪んだ欲望を、頂戴する。

 心の怪盗団 サブリーダー『モナ』』

 

「何か、ちょっと悪趣味じゃないかな」

 

「そうか、カッコいいだろ」

 

「おっ、ハチマンいける口だな。ワガハイも、このデザインはお気に入りなんだぜ」

 

 

 かつての怪盗団の思い出を流用するようだが、モルガナにとっては改心をするのならば『これ』なのだ。

 

 今は奥底に眠らせていて細部は思い出せないが、それでも燦然と輝く絆に想いを馳せる。

 

 軽口を叩いていたが、そろそろ背後からの圧力が無視できないレベルに高まってきたので、よし、と一呼吸いれてバーの扉に手をかける。

 

 

「いいか。扉が開ききったらワガハイとハヤマが同時に入って、周りの雑魚シャドウを全体魔法で蹴散らす。ワガハイが『マハガル』、ハヤマは『マハジオ』、衝撃耐性のシャドウは電撃に弱い事が多いからな。

 ハチマンは射線が通った瞬間を見計らってボスか中ボスに弱体化を飛ばせ。地力はこっちのが上なんだ、力比べになったら順当に勝てる」

 

「分かってるさ、俺は俺の出来る事を全力でやるだけさ」

 

「開けるぞ」

 

 

 開くドア、半分も動く前に一際小さな身体をしたモルガナがするりと滑り込み

 

 

「『マハガル』!!!!」

 

『いま…なにっ!!?』

 

「続け!!」

 

「言われなくても! 『マハサイ』!!!」

 

 

 ()()()()()()()()()()タイミングを図っていたサカイが、ずらされたタイミングに驚愕し、体勢が整っていないシャドウの群れに『マハガル』がぶちこまれる。

 

 そのすぐ後に『マハサイ』が突き刺さり、衝撃で隊列を乱された状態のシャドウ達と共にサカイも千々に飛ぶ。

 

 

「ハヤマの予想通りだったようだな!」

 

「お役に立てて光栄だよ。それに、これはヒキタニ君の対策も刺さったんだから」

 

「お喋りしてねえで、トドメさせ。役目でしょ」

 

 

 シュタっと立ち位置を調整して格好つけるモルガナと、久しぶりのペルソナに何とも言えない表情の隼人、やることが何もなくなったので後ろからヤジを飛ばす八幡とそれをしらーっとした眼で見る沙希。

 

 彼らはこのパレスに入る前、隼人に事情を説明する時に立てた策が嵌った事にそれぞれ満足していた。

 

 

『そのパレスの規模はすごく小さいんだよね。だったら、外でしていた君たちの会話が聞かれていたんじゃないかな。だから入るタイミングを図られて奇襲された』

 

『それはあるかもな。ワガハイは建物の中だけがパレスだと思ってたが、もしかしたらあの空間全てがサカイのパレスなのかもしれねえ。なら、迂闊な事は言えねえぞ』

 

『じゃあ、欺瞞情報をわざと聞こえるように言ってタイミングをずらして奇襲し返す。やられたらやり返す、目には目を歯には歯をピーナッツには落花生をって昔から言うもんな』

 

『それは言わない』

 

 

 開幕弱点からの集中砲火さえなければこんなもんさ、と言わんばかりのモルガナも。

 

 自分の心情と今やらなければいけない事への対応は別だと割り切る隼人も。

 

 こっそりデバフを継続させている八幡も。

 

 何でもいいから早く終わってくんないかな、と一芝居に付き合った後の役割が無く手持無沙汰な沙希も。

 

 

『あぁ、やはりだ。やはり、僕の考えは間違っていなかった。痛い、痛いよ。こんなにも腕が痛い、足が痛い、胸が痛い、顔が痛い』

 

 

 衝撃魔法で吹き飛ばされた勢いでぶつけられ、割れて散乱したアルコールの臭いとガラスの山の中からガシャガシャと音をさせながら立ち上がる薄暗く瞳が紅いサカイ。

 

 現実でも見た通りのビシリと決まっていたバーテンの姿は滴る水分で台無しになっていて、魔法のダメージと衝突の際に傷ついた箇所からシャドウの証、黒い血が流れている。

 

 フラフラとした様子のサカイに八幡の言う通りこれ以上の油断をしてなるものかと、汚名返上を狙うモルガナが『ゾロ』を出現させてトドメをさそうとする。

 

 見るからに弱り切った状態で、あと一手で終わりだと誰もが思っていた。

 

 

『やっぱり、痛みって言うのは何よりの教訓だ!!』

 

「力が、一気に膨れてっ!?」

 

 

 しかし、その一手が届く寸前。

 

 周囲に飛び散った液体が、サカイから流れ落ちた黒い血が混ざったそれが、ぞる、と不気味な音を立てて急速にサカイの身体を覆い尽くす。

 

 まるで、悪神の欠片が現実の人間を侵食し、パレスを展開する時のように。

 

 

『僕の妻は知らぬ間に他の人を好きになり、元妻になった! その痛みは僕に愛が永遠ではないと教えてくれた。

 僕の子供はもう新しい男をお父さんと呼んでいる! その痛みは記憶がはかないものだと教えてくれた。

 自棄になって酒に溺れていた時に、川崎さん。君は暴れそうになった僕を押さえつけてくれた! その痛みは僕に正気を取り戻してくれた』

 

 

 唯一事情を知る沙希へと目を向けるが、その叫びを肯定するように一つ頷く。

 

 サカイのシャドウが言っている事は事実らしい。

 

 ありふれた…と言うのは乱暴ではあるが、そういう何処にでもある浮気され離婚された男の悲哀。

 

 少し違うのは、そうした何処にでもある痛みをこらえきれずに拗らせて暴走させかけた時に止められた相手が沙希で。

 

 

『痛みは教訓なんだ。僕は、痛くないともう歯止めが効かない。だから、僕にちゃんと痛みを伴わせて止めてくれるママ(沙希さん)が必要なんだ!』

 

 

 止められた相手(沙希)に変な依存の仕方をしてしまった事かなぁ。

 

 同情しかけた各々が、最後の一言でズルッとこけかけた。

 

 

 

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