やはり俺の○ル○ナは間違っている   作:hung

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死の安らぎは等しく訪れよう
人に非ずとも悪魔に非ずとも
大いなる意思の導きにて

新女神転生Ⅲ-NOCTURNE


三浦優美子の決心の理由を今はまだ誰も知らない

6月10日(日) 梅雨

 

 千葉が誇る大型商業施設、東京BAYららぽーと、通称ららぽの一角に何とも楽し気な声が響く。

 

 

「初対面なのにゲッ、って酷くないかな。そこのだんしー! もうお姉さんプンプンだよ?」

 

 

 腰に手を当て、眼に見えて「私怒ってます」なんてイメージ図に描かれているようなポーズで少し頬を膨らませて八幡の至近に近寄り、ずいっと顔を近寄らせる。

 

 あまりの急接近に反射的に身を反らし顔も逸らし、なんなら意識そのものまで逸らし。なんとかパーソナルスペースを少しでも確保しようとするも、その反応に意外そうな顔をした陽乃が何とも面白そうなモノを見る目で笑う。

 

 

「ていうか、雪乃ちゃん。お姉ちゃんの事、彼氏に話してたんだね。いっがいーー!」

 

「彼氏ではないわ」

 

「えー、そんなオシャレして男子と二人きりでお出かけして彼氏じゃないなんてうっそだー。

 ね、君知ってる? 二つ結びって案外難しいんだよ。特に雪乃ちゃんみたいなさらさらした髪だと特に」

 

「はぁ、まあ知ってますけど。と言うか近いんで離れてもらえます」

 

「…正確には二人きりと言う訳でもないし、元々他の人も呼んでいたのだから姉さんのそれは邪推と言うのよ。良いから離れなさい」

 

「あぁん、つまんなぁい」

 

 

 ぺいっと、八幡の超近距離に迫り寄る陽乃を身内故の無遠慮さで引きはがす雪乃。

 

 実際、雪乃、八幡に加えてモルガナも居るし、小町も呼ぶ予定だったのだからこれはそう言った物ではないのはまぁ嘘ではない。

 

 そのまま離れてくれればと、雪乃の淡い期待とは反対に、陽乃は手に持っていた買い物袋をベンチに置いて改めて二人に向き合った。

 

 

「姉さんの方こそ、こんな所でどうしたのよ」

 

「んー。ちょっとお家の付き合いってやつ。まぁ、うちのお母さんとは反対な、女所帯のうちが隣の芝生な小父様とショッピングしてたんだ。で、途中で雪乃ちゃんを見つけておもし、楽しそうだなって」

 

「本音が隠れてないんだよなぁ…いや、隠そうとしてないのか」

 

 

 ぼそりと呟いたそれに「んー?」と顔を向けてくるが「何か言った?」と副音声が聞こえてくる満点の笑顔に「いえ、何でもないです」と冷や汗をかきながら視線を逸らす。

 

 八幡にとって、雪ノ下陽乃の事はビジョンクエストで雪乃と都築という運転手の会話でしか知らない。

 

 

 『陽乃様もあの時分は元気が有り余っておられましたから』

 『傍若無人でトラブルメーカーだった、というのを言い繕うとそうなるわね』

 『今は随分と大人に相応しい落ち着きを持たれました』

 『その分悪辣さと面倒くささは増したけれど』

 『姉さんは可愛がりながらプレッシャーで猫を殺すタイプ』

 

 

 そうしたある種一面的な情報しかないが、それでも事前情報と目の前の実物を照合すればある程度八幡にも雪ノ下陽乃と言う女性の為人(ひととなり)は分かる。

 

 見るからに陽キャで、誰にも分け隔てなくスキンシップを取れる距離感の近いモテない男の理想像…を演じる、その奥底は誰にも興味が無い、もしくは全てを娯楽とする愉快犯。

 

 好きの反対は無関心とはよく言われる事ではあるが、おそらく人好きのするこの性格はそうした仮面。パレスの中でもないのにペルソナ大活躍じゃねえかよ。とかなんとか思ってしまう。

 

 八幡が思わずうへぇと舌を出したくなるのもむべなるかな。

 

 こんな強烈な身内が居ては気が休まる暇も無く、だから妹さんはこんなキレッキレな性格に育ったんですね。やっぱり放任主義こそ至高、金と家事とお世話される放任主義…あれ、それ畜産業じゃない? とか考えている。

 

 そんな益体も無い考えに勘付いているのか、ますます陽乃と八幡の距離が短くなる。まるで珍しい実験動物でも見つけたような興味津々さで。

 

 だからこそ、その横でコソコソとしている陰に直前まで気付かなかった。

 

 

「君、面白いね。よかったら、これから雪乃ちゃんと一緒にご飯でも―って猫ちゃん? 人の荷物に悪戯しちゃダメだぞ?」

 

「うげっ!」

 

「はっ? 何してんのモルガナ?」

 

 

 ベンチに置いていた買い物袋に、誰にも気づかれないうちに頭を突っ込んでもごもごとしていた黒猫がヒョイと白い腕に捕まれ、うにょーんと抱き上げられる。

 

 じたばたと掴まれた腕から逃れようとするその口には鋭い目つきと爪を携えた白黒のパンダのぬいぐるみが咥えられていて、雪乃が「パンさん? どうして、姉さんが」と訝しんでいる。

 

 

「もう悪い子だなぁ。君の猫? ダメでしょ、ちゃんと躾、しておかないとね」

 

「あぁ、すみません。ほれ、モルガナ何をそんな必死になって「ふぉ、ふぉれが(これが)! あくひんの(悪神の)はへら(欠片)あんあよ(なんだよ)!!」あく?」

 

「っ! そのままかみ砕いて!!」

 

「雪乃ちゃん? えっ」

 

 

 百点満点の笑み、まるで舞台女優のような笑顔ではい、と伸ばした腕と一緒に差し出された黒猫を受け取ろうとした瞬間、モガモガと動かしづらい口で精いっぱいの主張が叫ばれる。

 

 よく聞き取れなかった八幡とは異なり、一瞬の思考のすぐ後に正しくモルガナの言葉を理解した雪乃が僅かに逡巡しながらもモルガナへ指示を飛ばすが、普段の様子から豹変した妹の様子にどうしたのかとビクッと腕を引っ込めてしまい、その拍子にパンダのぬいぐるみが陽乃に接触してしまう。

 

 その途端、白と黒の身体がギュルンと渦巻き、真っ黒な球体を形作ると

 

 

「なに、これ…」

 

 

 あまりの事に、雪乃からすると非常に珍しい呆然とした陽乃の身体を瞬く間に飲み込み

 

 

「くそっ、間に合わなかったか!!」

 

 

 取り落とされ着地したモルガナの叫びと共に黒が爆発的に周囲全てを巻き込んだ。

 

 

6月10日(日) パレス内部 梅雨

 

「すまねえ。悪神の気配を感じて直ぐに確保に動いたんだが、そいつを目前にして欲をかいちまった。

 もしも、雪乃殿の姉上殿。陽乃殿がこいつをどうやって手に入れたのか分かれば、一気に進展するかと思って現物を前に躊躇っちまった」

 

 

 ちょこんと短い体躯を更に縮こまらせてモルガナが誠心誠意頭を下げる。

 

 実際、モルガナの言う通りに入手経路が分かれば、犯人、もしくは悪神本体へと一気に近づけたのも事実。

 

 そうであるならば、あまり責める訳にもいかず、仕方のない事だったと納得するのは八幡にも雪乃にも難しい事ではない。

 

 理性と理論で感情に蓋をするのは慣れている面子だ。

 

 だから、モルガナの謝罪はある種儀礼めいた一面を持っている。

 

 謝罪したと言う事実があれば、それを許す事に躊躇は無い。

 

 けれど、それで納得しない人間が一人居る。

 

 

「ほんっと、ありえないんだけど! マジめーわくだし」

 

「ごめんなさい、三浦さん。あなたまで巻き込んでしまって」

 

 

 そう、同一施設内で海老名と共にぶらついていた三浦優美子その人は、結衣の友達らしく理性よりも感情に大きく振れている人間だから、むかついたらむかつくと直情的に表現する。

 

 折角の楽しい時間をぶち壊されたら怒るし、友達が危ない場面に巻き込まれたら(いきどお)る。

 

 海老名と二人、あれこれ相談しながら楽しんでいた所、案外雪乃達の近くに居た優美子は気付けば巻き込まれていた。

 

 しかも、最低でも安全地帯を見つけるまではパレスからは出ることが出来ないと言うのも優美子の機嫌を損ねた。

 

 予想できなかったとはいえ、責任感の強い雪乃と最近あまり良いところが無くしょぼくれたモルガナは揃って優美子に頭を下げている。

 

 

「…まぁ、ふかこうりょくってやつじゃん? 雪ノ下さんとそっちのヒキオには怒ってないし。でもそっちの馬鹿猫はいつか絶対〆るかんね」

 

「そん時は甘んじて受けるさ。言い訳のしようもねえくらいにワガハイが悪い。優美子殿の気が済むまでやってくれ」

 

「でも三浦さん、幼気(いたいけ)な猫なのだから手心だけは」

 

「あぁ!! もう! これだとあーしがわがまま言ってるみたいじゃん! ひとまずこっから出る! んで、猫には一発ゲンコ! それでおしまい! いい!?」

 

 

 そして、彼女はKYだったり立場をかさに着て態度が大きくなることは有っても、(余程の事が無い限り)あからさまに弱気な存在をいたぶるほどには性格が悪くない。

 

 

「つか、リアルだとこいつマジな猫だから、それをおもっきし張っ倒したら動物虐待じゃん。はぁ、もう。とにかくそっちのヒキオも落ち込んでないでいい加減切り替えなよ」

 

 

 あと、まぁトップカーストの女子リーダーとして、下の立場な人間への面倒見の良さが身についているのが憎み切れない所か。

 

 下げられていた頭をあげさせて、横で気落ちした様子の八幡にまで気遣おうと声をかける。

 

 

「…いや、俺は落ち込んでるとかじゃなくて」

 

「はぁ?! んな露骨にテンションぶち下げてて何言ってんの。良いからサッサと行くよ。

 今回は海老名も巻き込まれてないから一人だろうし心配じゃん。早くリアルに戻りたいからグダグダしてんなし」

 

「唯一良かった点を挙げるなら、姉さんのパレスはペルソナ持ち以外には作用していない事ね」

 

 

 そう言ってグルリと周囲を見渡す雪乃。

 

 周りには先ほどまでとまるで変わらない景色、ららぽーとの景観が残されている。

 

 店も、商品も、若干暗くなった色彩以外は変わりなく、そのまま。

 

 違うのは、雪乃、八幡、モルガナ、優美子以外の存在。

 

 さっきまでは休日らしく様々な来客で賑わっていたそこに、三人と一匹以外の気配が()()しないと言う事だった。

 

 雪乃の時のように他の人は象徴化して鉱石に挿し代わる事も、戸塚/優美子の時のようにNPCのような改変がされているわけでもない。

 

 したがって優美子と共に居た海老名も巻き込まれておらず、突然消えた優美子を心配しているだろうが、危険な目には合わない事は不幸中の幸いと言えるだろう。

 

 

「お前の姉ちゃん、どんだけ人の事嫌いなの。いや、雪ノ下も人嫌いだから似た者姉妹か」

 

「あーしも、流石にちょっとこれは引くわ」

 

「ノーコメントで。あと、比企谷くん。あとで覚えてなさい」

 

「人っ子一人、どころかシャドウまで気配がしねえぜ」

 

 

 ひたすらに無人の静寂な空間に成り替わっていた。

 

 それこそ、普通ならば絶対に居る筈の情報存在であるシャドウまで影も形も見当たらない。

 

 静謐さと商業施設の広大さに、耳鳴りまでしてしまうまである。

 

 あまりのあまりさに、妹である雪乃も絶句してしまった。

 

 

「とりま、こっから出られるまでは着いてくから。途中、バトんなきゃいけないなら無理しない程度には手伝ってあげるし」

 

「ええ。責任を持って無理はさせずに三浦さんを現実まで送り届けるわ…比企谷くんが」

 

「俺かよ」

 

「あら、普段から人を嫌って避けているのだから、接敵せずに逃げる位できるでしょう?」

 

「さっき、似た者姉妹って言ったのめっちゃ根に持ってるじゃん。ちなみに俺は人を嫌って避けてるんじゃなくて、人が俺を嫌って避けられているんだからな。甘くみんなよ」

 

「威張っていう事じゃないぜ。どこに誇らしさを見出してんだおめえは」

 

 

 それぞれがようやく落ち着きだし、雪乃と八幡の掛け合いも普段の調子を取り戻している事にモルガナもホッとする。

 

 

「警戒だけは怠らないように、進むぞ」

 

 

 気を取り直して立ち上がったモルガナが鼻をフンフンとしながら、シミターを担いで先導し始める。

 

 雪乃がツインにしていた髪をほどいて手早く後ろで一つに纏めその後に続き、優美子もしゃーなしとスカートを一度はたいてついていく。

 

 最後に八幡がのそのそと歩き始めるが、その顔は声の調子とは違っていつも揶揄される眼と同じように死んでいるように蒼白だった。

 

 言いようも無い、漠然としたナニカが硬質な音を立てて這寄ってくる気がして、開きそうになった距離を慌てて縮めた。

 

 

6月10日(日) 梅雨

 

比企谷八幡の独白

 

 言い訳だとか後だしじゃんけんになるかもしれないが、今日は朝からとにかく気が乗らなかった。

 

 別に由比ヶ浜への誕プレ買い出しがどうのだとか、雪ノ下と一緒に買い物がどうのだとか言う訳ではない。

 

 いや、それはそれで気分が乗る話ではないのだが、そんなのはいつもの事だ。

 

 なんなら息をして食べて生きているだけで十分重労働なのだから、休みなのに出かけなければいけないなんて褒められてもいい偉業に違いない。

 

 世の労働者はもっと自分を褒めてあげるべきであり、働く事を生きがいだとかそんなおためごかしで自分を誤魔化さずに素直になるのが一番だ。

 

 大抵の人は仕事が楽しくて働いている訳が無く、休日の為に働いてるんだよ。その辺ちゃんと管理側の人間は理解してほしい。ホイホイ仕事積み上げんな、調子に乗ってんじゃねえぞbyうちのダメ親父。

 

 であれば、俺が二つ返事で了承してしまった雪ノ下の誘いを直前になって行きたくなくなるのはなんらおかしい事ではない。

 

 ただ、いつもならいざ家を出てしまえば、もしくは現地に着いてしまえば諦めの境地に至ってしまうのだが、今日だけは違った。

 

 足取りが普段よりも重かったのは雨の所為だけだったのだろうか。

 

 由比ヶ浜へのプレゼントをあまり悩まずに選べたのは俺のセンスが磨かれたからだろうか。

 

 三浦達と偶然出会った時に、言葉に詰まって何も反応しなかったのはスタンスの違いの所為なのだろうか。

 

 それとも…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝起きてからずっと続いている、謎の既視感のせいなのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 雪ノ下の姉が声を上げて、その存在を認識した時からどんどん鮮明になり続けているデジャブ。

 

 まるで、既にこの時を一度経験しているかのような不快な感覚がずっと付きまとっていて…

 

 

「ふっ…ふっ…」

 

「む、むぅ(ヒキオ)」

 

 

 俺の腕の中にすっぽりと包まれている三浦が何かを主張しようとしているが、止めてくれ。

 

 三浦の口を抑えている掌が湿ってくるのは、彼女の呼気なのか、それとも俺の手汗か。

 

 全身に流れる冷や汗の気持ち悪さも、カタカタと震えてしまうのも、そんな事はどうでも良い。

 

 今はただ

 

 

ジャラリ

 

 

「お願い…そのままどこかに行って」

 

 

 雪ノ下の小さな祈りに同調して、浅くなっている呼吸が更に早く浅くなる。

 

 今はただ、物陰に隠れて、身をすくめて、縮こまって。

 

 とにかく小さくなって、恐ろしいそれにひたすら見つからない事を祈る。

 

 ()()()を響かせて徘徊する、それに見つからないよう

 

 

ジャラリ…ジャラリ…

 

 

 血まみれのコートと、両腕のある場所からズイと伸びる銃身、身体の周囲には鎖が浮かぶそれの気配をペルソナの感知で感じ取った瞬間、雷に打たれる様な死の恐怖が直撃した。

 

 戦おうだなんて考えは一かけらも思い浮かばなかった。

 

 ただ、()()を感じ取った瞬間

 

 鎖の音が聞こえた刹那『トラフーリ』を使って、少しでも安全だと思える場所に飛び込んだ。

 

 唐突な出来事に目を白黒させる三浦を押し倒し、余計な音をたてないよう口を手でふさいで。

 

 もちろん、三浦は騒ぎそうになった。

 

 が、普段の俺なら決してしない行動、切羽詰まった様子を感じ取って。

 

 更に雪ノ下とモルガナの様子もおかしい事を悟って静かにしてもらえたのは非常に助かった。

 

 そうして鎖の音が近づいてきて三浦も今の非常事態を、わが身を持って実感している事だろう。

 

 

 

 

 あれは

 

 ダメだ

 

 

 

 

 見た目のおどろおどろしさではない

 

 圧倒的な強さを感じ取れるプレッシャーでもない

 

 あの鎖を纏うそれ自体が放つ気配が、異常なまでに『死』であることが致命

 

 ただあれの前に立つだけで、自身の身体が自死を選んでしまいかねない

 

 もしくは死んでしまったと勘違いして、そのまま本当に死んでしまいかねない程にまで圧縮された『死』

 

 無理矢理言語化するのなら、そんな『死』に対する根源的恐怖が俺達を襲っている。

 

 

ジャラリ…ジャラリ…ジャラ………ジャ

 

 

 1分か2分か…おそらくその程度しか経っていないが、あまりに長く感じる時間で鎖の音が遠ざかっていった。

 

 そこからたっぷり5分ほどかけて、俺達は恐怖に強張る身体を何とかほぐせたのだった。

 

 その後は三浦に苦言を呈されたが、まぁあれの事を考えれば緊急避難的に仕方のない事だと拳骨一発で許してもらえたのは喜ばしい事なのだろう。

 

 握った拳が震えていたのは、武士の情けで言及しないでやるよ! と一応の切り替えを済ませて足早に鎖の音が消えていった方向とは逆方向へ進む。

 

 しかし、ペルソナと言う異常現象に慣れたことで『死』が待ち受けていたのをほんの僅かにでも感じ取れていたのなら、今日一日の自分にあった不調も当然だと。

 

 

 

 

 

 

 そう誤解した。

 

 

 

 

 

 

6月10日(日) 梅雨 陽乃パレス

 

「あれは『刈り取るもの』って言う特別なシャドウだ。

 恐怖、悲しみ、怒り、様々な負の感情が凝り固まって発生する。

 通常のシャドウよりも膨大な力を持ち、特殊な『死神』のアルカナが特徴だな。

 メメントスのようなあらゆる人間と接続できる場所じゃなけりゃ発生もしないはずなんだが…

 おそらく、このパレスの広大さとシャドウの影も無い状況は無関係じゃないだろうぜ」

 

「ほんとはもっとシャドウに溢れてるが、それが凝縮されてあれになったってわけか」

 

「多分な。あれに関しちゃ、分かってることの方が少ねえからあくまで推測だ。

 分かってるのは、悪神本体に負けず劣らず強力だってことくらいだ」

 

 

 無人の、象徴化された人どころかシャドウの姿すら見えない異様なパレスを突き進む。

 

 モルガナがあの鎖の主に言及しながら、せかせかと進むのに合わせて雪乃、優美子、八幡がおなじように早足で続く。

 

 全員が『刈り取るもの』に対する恐怖を忘れられず、とにかく動く事で紛らせている。

 

 シャドウが出ないから脚が鈍くなる事も無かったが、それでも時間がかかっているのはこのパレスの広さ。

 

 現実と変わらない商業施設と同じ広さなのでとにかく時間を取られる。

 

 そんな広々としているのに、閑散とした空間が広がっているので余計に空虚さを感じざるを得ない。

 

 全員の心中が穏やかになれず、口数だけが増えていく。

 

 八幡、雪乃、優美子、モルガナの隊列で横に膨れながらも一列に歩いてる中、優美子が一つの話題を挙げた。

 

 

「そいえばさ、雪ノ下さんって隼人と幼馴染って事だったよね」

 

「…それがどうかしたかしら」

 

 

 それは以前のユミコのパレスで明かさざるを得なかった事実。

 

 この場には既に事情を知っている人だけだと、雪乃も変に誤魔化さず肯定するがあまり愉快そうではないのは表情から透けて見える。

 

 

「ん~、小っちゃいころの隼人の事とか知りたかったんだけど…話したくないなら別にいいし。

 あっ、もういっこ。幼馴染ってやっぱ家族ぐるみの付き合いとかあったりすんの?」

 

「まあ、そうね。親同士は仕事の話をする事も多かったし、そう言う時は年齢も近い子供はひとまとめにされていたわ。ああいうのって酷く気が重かったわ」

 

「ふぅん」

 

 

 どうにも声の節々から話したくないオーラを滲ませる雪乃に、これ以上言及しても空気を更に悪くするだけかと引き下がる優美子。

 

 二人の女子の何とも言えない空気感にやだなぁ、怖いなぁとなる八幡。

 

 さて、優美子の質問に何の意味があったのか。

 

 そのあたりを追求するよりも前に、またしても鎖の音が聞こえようとして

 

 

「まぁ、逃げるだけなら何とかなるってのは朗報だな」

 

 

 すぐさま『トラフーリ』を唱えて、聞こえてきた方向、濃厚な『死』の気配がする方向とは逆方向に突っ走る。

 

 逆送の直前、雪乃の『ライジン』が『毒針』を浮かせ、モルガナの『ゾロ』が『ガルーラ』で出鱈目な方向に飛ばす。

 

 直ぐに『アマノジャク』が沙希の一件で新たに覚えた魔法、『エストマ』で自分たちの気配を消す。

 

 

「あれから、何度遭遇しそうになったかしら…」

 

「3回から先は数えんの止めたし」

 

「5回は先回りして逃げられたが、2回くらいニアミスしかけた時はマジで死ぬかと思ったぜ」

 

「普通のシャドウの代わりに出てるんじゃねえのって頻度。

 戦闘もしてないのに、『トラフーリ』と『エストマ』からの全力疾走とかめっちゃ疲れるんだが」

 

「そのおかげで何とか誘導も出来たでしょ」

 

 

 これで数えて8回目の刈り取るものとの接触寸前と言う事で各々、少しずつ感覚が慣れ(マヒし)てきている。

 

 けれど、何度も刈り取るものとエンカウントしかけた精神的な疲労で、全員が疲れ切っている。

 

 その中でも索敵、ナビ、逃亡と全ての感覚をフル活用し続けた八幡の疲弊度は一際激しい。

 

 途中からは八幡の思い付きで雪乃とモルガナの魔法を使って、気配を誤認させると言う小技で更に安全に逃げられているが、その分疲弊度は加速度的に溜まる。

 

 だが、そうした無理の甲斐もあって、ようやく希望の気配をモルガナが見つける。

 

 

「スンスン…どうやら、この先の店舗は陽乃殿の認知が弱い場所のようだ。ここからなら現実に戻れるぜ!」

 

「マジ?! ようやく帰れるし…」

 

 

 どうやらキッズ用品の店には陽乃の注意が向いていないようで、パレスからの帰還ポイントとして利用できるようなのをモルガナが見抜いた。

 

 パレスの中では実際の体力に依存しないからと言っても、刈り取るもののせいで精神的疲弊も負いながらの逃走劇を何度も繰り返したのだ。

 

 JC時代のスポーツ女子として昔取った杵柄で平均的なJKよりも体力はあっても、パレスに慣れていない優美子にとっては限界も近かった中での安全地帯だ。

 

 喜びも一入(ひとしお)と言った様子で、そのショップに飛び込み、雪乃達も後に続く。

 

 

「とりあえず、少し休憩してから現実に戻るから、優美子殿は身だしなみを整えて待っていてくれ。ハチマン、ワガハイたちはちょっと話し合うぞ」

 

「へいへい」

 

 

 元々、巻き込まれた優美子を現実に戻すのを優先目標にしてきたのだ。

 

 いくら陽乃と言う雪乃の身内がパレス、悪神に囚われているからといって、これまでの経験上すぐに陽乃の命が危ないと言う訳でもないと知っている。

 

 無関係の優美子をなし崩しに巻き込み続ける訳にもいかないので、一旦ここから出るのは既定路線。

 

 だが、すぐに現実に戻っては悪神の欠片に支配された陽乃にまた捕まると八幡たちがウンウンと額を突き合わせているのを横に、一息ついて座り込んだ優美子がボーっと宙を見つめる。

 

 彼女もどうやら何かを考え込んでいるようだが?

 

 

「正直、現実の姉さんを煙に巻くのは非常に面倒だと…」

 

「その辺は性格を知ってる雪ノ下にだな…」

 

「口八丁はおめえの得意分野だろ…」

 

「次、再侵入した時に、またあの鎖の化け物が同じように出たら…」

 

「可能性は高いが、同じようにハチマンに頑張ってもらう…」

 

「余力を残しておかないと、姉さんの変異体はきっと強力でしょうから…」

 

 

 そんな話し合いをしている中、ぼうっとしていた優美子の眼に力が戻り、パンとスカートをはたいて力強く立ち上がり宣言する。

 

 

「うし! 決めた。次、あんたらがここに来るとき、あーしも手伝ってあげるし」

 

「「「は/へ/え?」」」

 

「あーしと、このペルソナ『ムジナ』でね」

 

 

 唐突な言葉に三人ともがキョトンとした声をあげるが、それを無視して「決まりね」と断言する。

 

 優美子の瞳とその後ろに立つ『ムジナ』はメラメラと燃えていた。

 

 

 

 その時、八幡の頭に不思議な声が囁く

 

 

 

<汝は我、我は汝>

 

<我、新たなる繋がりを得たり>

 

<繋がりは即ち、前を向く支えとなる縁なり>

 

<我、戦車のペルソナに一つの柱を見出したる>

 

 

 

 




 ペルソナメモ
 鎖の音が聞こえてくる。それは恐ろしい気配と共にやってくる。そのモノの名前は刈り取るもの。Pシリーズ3以降でダンジョンにやってくる裏ボス。生半可なレベル、ペルソナでは100%勝てない。最低でもレベルは60後半必要、カンストでも下手しなくても普通にパトる。上級全体魔法『マハ~ダイン』上級万能魔法『メギドラオン』を『コンセントレイト』でぶちかましてきたり、シリーズや条件によっては二回行動してくるし、油断したら破魔呪殺で全体即死もバンバンしてくる。ただ、無印P5ではインフルエンザの時期には確率で絶望状態になって勝手に自滅するらしい。もちろん、今作ではそんな仕様ではないが、そもそも戦う事はないので勝ち負けにもならない。


 ムジナ…狸や狐と言った人を化かす妖怪の総称である。下総(千葉、茨城)にもかぶきり小僧という人に化ける怪異が伝わっているらしい。狐であれば傾国の妖狐、狸であれば刑部狸などが挙げられ、東洋にて知名度の高い妖怪の一種と言える。余談として、デビルチルドレンでは柴田○美のキャラがタヌキのナマモノとして登場する。

アルカナ…戦車

ステータス…氷結、破魔耐性。呪殺弱点

スキル…ブフーラ、アギラオ、シバブー、セクシーアイ、マハブフ、マハラギ

 完全に魔法特化のペルソナ。物理スキル? なんで自分から動かないといけないんですか? とか言っちゃうまである。氷結、火炎の相反する属性を得意とするが、メドローアは打てない。心はクール、頭(性格)はホットな彼女の性質からくる。雪乃は多分それと反対の性質なので相性は良くないが、原作初期に比べてある程度折り合いをつけている。詳しくは次話以降。状態異常も得意。長いファーを天女の羽衣のようにひらひらと浮かべて黒い隈取の仮面をしている艶やかなペルソナ。丸い耳が頭部にひょこんと着いているので恐らく狸のほうのムジナ。

戦車のアルカナの正位置には『行動力、独立性』逆位置には『暴走、独善』と言った意味が含まれる。


愚者……比企谷八幡(アマノジャク)
魔術師…材木座義輝(ギュウキ)Rank2
女教皇…雪ノ下雪乃(ライジン)Rank2
女帝…平塚静 Rank2
皇帝…葉山隼人(ツチグモ)Rank1
法王…川崎沙希(オニ)Rank2

恋愛…由比ヶ浜結衣(ザシキワラシ)Rank2
戦車…三浦優美子(ムジナ)Rank1 New
正義…鶴見留美 Rank2
隠者
運命…戸塚彩加(ノヅチ)Rank2
剛毅(力)

刑死者
死神
節制
悪魔




太陽…比企谷小町 Rank1
審判…佐々木三燕(今石燕) Rank2
世界…奉仕部 Rank2




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