やはり俺の○ル○ナは間違っている   作:hung

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視点がコロッコロ変わります
ご注意ください

因みにグリッドマンに嵌ったのは当サイトのルシエドさんの短編読んでから
あの歌詞の解釈好き
そこからリコリコ(千束&たきなを見てあかねと六花じゃん!)、ダイナゼノン(夢芽&ちせの声を聞いてたきなと千束じゃん!)、ユニバース(オーイシさんの主題歌、いいよね)って流れ
なのでルシエドさんは神です

どこかで見たちせ=恋愛弱者千束、夢芽=恋愛強者たきな的な解釈笑いました
自分の中では、たきなはしれっとゴールインしそうなイメージなので解釈一致です


比企谷八幡と青い部屋

????

 

 白い白い螺旋階段を昇っていく

 

 一段一段を淀みない足取りで

 

 ぐるぐると柱の周囲を回るように少しずつ

 

 昇る

 

 昇る

 

 昇っていく

 

 比企谷八幡は上に逝く

 

 

「今、考えてみればって話だが、多分あれだったんだろうな」

 

 

 独り、何処とも知れない場所で足を動かす彼はそうひとりごちる

 

 刈り取るものと言う『死の気配』をこれでもかと主張する存在

 

 それこそが雪乃との買い物から続くデジャブの原因だと、勘違いした

 

 けれど、あんなものは言ってしまえばどうとでも回避が出来るものだった

 

 機転を回して逃げる事が出来るのなら、脅威ではあっても障害にはならない

 

 

「あんな露骨な強敵のくせして、本命は別にありました。しかも逃走不可の不意打ち一発で確定死亡とか…それはズルくねえか」

 

 

 ぶつくさと文句を言いながら自分たちの見落としの結果を受け入れる

 

 コツコツと一定のリズムで足音を立てながら心の整理をつけるように

 

 彼が昇っていた階段はいつの間にか姿を変え、平坦な暗い道となり、遥か先には大きな川が見える

 

 川はぼんやりと揺らぎ、その姿は駅や洞窟にも見えるが、おおよそあらゆる神話やお伽噺で冥界に繋がるとされる姿にダブって見える

 

 多分あれがあの世への道(三途の川)なんだろうな、と何となしに理解した

 

 唐突な死への愚痴は吐きながらも、彼の心は不思議と落ち着いていた

 

 いいや、納得していたとも言っていい

 

 やっべ、六文銭とかねえぞとか、クッキーでケルベロスがどうにかなるならマッカンでどうにか代用できないかなとか、そんな事を考えながらも止まる事無く足を進めていく

 

 

…ホー……………ヒー

 

 

 そんな彼の耳になんとも言いにくい声が聞こえてくる

 

 少しずつ大きくなってくるその声はどこか愉快そうで、頭が空っぽになりそうな響きをしているようなしていないような

 

 具体的に言えば

 

 

「ひー……ほー……ひー…ほー…」

 

 

 なんだか気が抜けるような

 

 

「ヒホ?」

 

 

 そう、ヒホ…ひほ?

 

 

「………」

 

「………」

 

 

 滑らかに動いていた八幡の脚がピタリと止まる

 

 立ち止まった彼の目の前には白色と青色が特徴的な、しかしその配色よりも更に特徴的な(異彩を放つ)蝶を模した仮面を着けた雪だるまが存在していて

 

 その雪だるまは指をアゴ(らしき場所)に指を当て、見上げるように彼をみつめ

 

 

「ひほ?」

 

「お前さん、なんでまたこんなとこに来てるホ!???」

 

 

 内心「ひほってなんだ?」が口をついてしまった八幡を他所に、ピョーンと跳ねるように驚愕を全身で表現した

 

 八幡は身体がビクッてなった

 

 

「あぁそういう…世話が焼けるホね! あなたのいく所はこっちじゃない、というか何を高速成仏しようとしてるホ」

 

「えっ、えっ?」

 

 

 自身の身体を反転させ、グイグイと尻を押してくる雪だるま(?)に困惑を隠せない八幡

 

 しかし、雪だるまはその困惑を一顧だにせず無理矢理に方向転換させ、階段のあっただろう方向とは、また別の方向へと八幡の身体を押し込む

 

 

「ひとまずあっちの部屋で時間を潰してるホ。ペルソナ(精神の一部)の死を勘違いして本当に死んじゃうアホの居場所はこっちにはないホー!」

 

「え? 勘違い? ちょっと、その辺くわしく」

 

「諦めが悪い方が良い男ってもんだホ。じゃ、当分こっちに来るなよ~ひほ~」

 

 

 取って付けたような語尾にわざとらしさとうさん臭さを感じながら、強制的に向けられた方へと最後の一押しと言わんばかりに蹴り飛ばされる

 

 たたらを踏みながらも、止まっていた足は直ぐに淀みなく彼の身体を運んでいく

 

 謎の雪だるまを確認しようと後ろを振り返ろうにも、何故か身体は自由が利かずにひたすら前に前に進むしかない

 

 諦める事に関しては一家言ある八幡は光速で考えるを止め、その流れに逆らわない事を決めた

 

 

 

6月15日(金)ハルノパレス

 

 

「ウソであろう…そんな馬鹿な事があってよいわけがない。こんなあっさりと、なにを為す事も無くお主が! 道半ばで倒れる訳が無かろうが! 八幡! 眼を開けよ!!」

 

「息、してないし」

 

 

 崩れた身体に後衛として下がっていた三人が群がり、あっけない死と言う結果に騒然とする。

 

 特に戸塚、材木座の焦り様は尋常ではなく、先までのハルノにパニックを起こしていた事を忘れて八幡の死体へと縋りついていた。

 

 唯一、そこまで親交の無かった優美子は比較的冷静に見えるが、理不尽()をもたらした対象に強い目線を投げている。

 

 あまりの呆気なさと、そしてハルノと言う存在の正体に気付いたモルガナも固まってしまっていて…

 

 

「総員傾注!! 戸塚くん『リカーム』!!」

 

 

 冷静さを保っていたたった一人、雪乃の叫びにその場の全員が驚きを覚えた。

 

 

「えっ、でも」

 

「いいから早く!!! 本当に間に合わなくなるわよ!」

 

「う、うん…分かった! お願い八幡を助けて『ノヅチ』!!」

 

 

 ペストマスクをかぶったペルソナが八幡の身体に光を降らせる。

 

 『リカーム』それは復活の魔法

 

 しかし、その魔法は死者を復活させる効果ではない。

 

 本質は

 

 

『な~るほど、精神の回復効果を持つ魔法ってわけね。

 なら、ペルソナ(精神の一部)消し飛ばされ(殺され)た彼も生き返るってこと』

 

 

 ハルノの呟きに萎えかけた戦意が盛り返す。

 

 そう。リカームの効果は死者の蘇生ではなく、()()()()()

 

 気力が足りずにペルソナを使えなくなった、立ち上がる事すら困難。

 

 精神が上位に位置するパレスと言う空間での、そうした状態を回復させる魔法なのだ。

 

 ペルソナと言う精神の、心の一部が死んだと言う事で八幡の身体は『本当に自分が死んだ』と勘違いしてしまった。

 

 言ってしまえば、思い込みで死んだのだ。

 

 だからこそ、精神(ペルソナ)を復活させればつられて生き返る事も有り得る。

 

 それもまた、精神(認知)が主体となるパレスならではの現象だ。

 

 事実、八幡の呼吸は再開し頬に赤みがさした。

 

 後は意識を取り戻すだけだろう。

 

 戸塚は後ろに立つもう一人の自分(ノヅチ)に目を潤ませながら感謝する。

 

 そう。『リカーム』とはそうした効果を持っていて、ユミコ戦の時に実際に同様の魔法を受けた()()()()そこに一縷の望みをかけるというのはおかしくない。

 

 けれど

 

 

『どうやったらそんな発想が咄嗟に出てくるのかな。お姉ちゃん、ちょっとびっくりしちゃった』

 

 

 それは尋常な考えをしていては出てくることも無い突拍子の無い発想だ。

 

 心を要因として死んだ人間は、心が復活すれば蘇生する。

 

 そんな事を思いつき、()()()()()()()程に確信を持つのはなおの事。

 

 

「姉さんこそ、()()()()()()()()()()()かのような考察ね」

 

『そりゃ、私は雪乃ちゃんのお姉ちゃんだからね。雪乃ちゃんが考えそうなことは大体わかっちゃうんだよ』

 

 

 全く笑って見えない眼をした笑顔で睨み合う姉妹。

 

 寸毫の沈黙を破ったのは妹(雪乃)だった。

 

 

「いえ、実際に心を読んでいるのではないかしら? その身に宿した()()()()で」

 

『………………へぇ』

 

 

 張り付けた笑顔が抜け落ちる。

 

 

 

 

 

 

 ?????

 

 八幡の歩んでいる道はいつの間にか平坦な道ではなくなり、かと言って最初に昇っていた階段でもなくなっていた

 

 気が付けば彼の脚は歩く事を止めていて、それでいて身体は止まる事無く進み続ける

 

 上に、上に

 

 静かな駆動音をたてながら

 

 ゆっくりとゆっくりと

 

 動く階段、エスカレーターが八幡を押し上げていく

 

 周囲には八幡が乗っているのと同じ色形をした夥しい数のエスカレーターが縦横無尽に走っている

 

 それぞれの行先は霞んでいて見えないが、先ほどの雪だるまの言を信じるなら八幡が乗っているエスカレーターの先は何かしらの空間に通じているのだろう

 

 一体いつまで乗っていればいいのかとうんざりし始めてきた彼の目の前に、道の途中だと言うのに、まるで踊り場かのような佇まいをした部屋が現れる

 

 彼は流れのままその踊り場めいた、エスカレーターの途中で流れに逆らいその場に止まり続ける部屋の扉の前に投げ出され

 

 

「青い…扉?」

 

 

 きっとこれが雪だるまの言っていた時間潰し用の部屋なのだろうと、テレビゲームでもあればいいなと若干の期待をしながらドアノブを回し軽い気分で入室した

 

 

「はて?」

 

「はい?」

 

 

 そして、扉から直線距離2mに鎮座する鼻長の老人と互いに見つめ合い

 

 双方ともに首をかしげ、ピタリと静止するのであった

 

 

「………いやはや、なんともなんとも。これはまた懐かしい限りですな」

 

「あ、す、すんません。何か勝手にお邪魔しちゃって。こっちに行けって言われたんです俺は悪くないんです、変な蝶の仮面した雪だるまがここで時間潰せって。だから、不法侵入で通報するのは止めてくださいお願いします」

 

 

 沈黙を破った老翁に対し、八幡が起こした行動は雪乃に宣言した通り超絶にみっともないスムーズな土下座姿だった…流石に靴舐めはしてない

 

 こんな不思議空間(しかも死出の旅路の途中)に居る存在がまともな訳がないだろ、いい加減にしろ

 

 なんとも判断の早い事で、これには鱗滝師匠もにっこりするに違いない

 

 

「いえいえ。構いませんとも。ここに偶然と言うモノは存在しえない。

 で、あるならば貴方様がここにいらっしゃるのもまた必然。

 そう、ここベルベットルームにおいて起こる事は、全て必然なのですから」

 

 

 そう言って可愛らしいセンスをした木製の机上で手を合わせて普段通りの表情を崩さない老翁は―ベルベットルームの主であり、モルガナの主でもあるイゴールは―しわがれた甲高い声でそう告げたのであった

 

 なお、八幡の内心は「なんだこの爺さん、イカレテンナ」位の物だった

 

 

 

 

 

6月15日(金)ハルノパレス

 

「どうしたのかしら、姉さん。図星だった、いえ、見破れるはずがないと思っていた私に指摘されるのは余程堪えたというところ?」

 

 

 表情の抜け落ちたハルノに向かい、笑みすら浮かべたまま雪乃が言い募る。

 

 雪乃の言を信じるのなら、ハルノは悪神の欠片に寄生されながらもペルソナ能力を使っていると言う事になる。

 

 しかし、そのような事が可能なのだろうか?

 

 この場で悪神の欠片に被害を受けていない者は居ない。

 

 特に実際悪神の欠片に取り込まれた彼らは(戸塚は実際悪神に寄生されていないが)、当時の事を思い返してその実行可能性を訝しむ。

 

 そこにモルガナの叫びが重なった。

 

 

「っそうか! そう言う事か! おかしいんだ! いくら断片、欠片って言っても悪神の影響下でまともな精神を保てるわけがねえ!

 それはいくらペルソナ能力(精神の取り扱い)に熟知していても不可能だ! 余程、相性の良い人間でも変質は免れない!

 だけど、元からペルソナの才能があれば! そしてそのペルソナが心を司る権能を持っていたとしたら!

 悪神の影響を最小限に、自分の心を、精神を保持して力だけを引き出してしまえば! それを利用して存在の位階を無理矢理に引き上げたってのか!!」

 

 

 悪神が人を利用する時、人の心に、精神に潜り込み変質させる。

 

 そして、変質した箇所を己の物として心の海、集合無意識から力を引き出す。

 

 しかし、その変質を受け入れた上で、自己を保つことができたなら。

 

 愚者から異能者へと、更にその上の階梯の頂点たる超人等と言う枠組みに収まり切らない程の力を持つこととなる。

 

 なぜなら、悪神とはそもそもがそう言った枠の外側に存在するモノなのだから。

 

 

 

 人を越えし人、()の化身と融合した()()()()()()()()()()()

 

 

 

 オカルト業界に属す人々はそうした理外の存在を総じて、こう呼ぶ

 

 

 

 

魔人

 

 

 

 

カカカッ 魔人 ハルノ ノ 正体 ヲ 見破ッタ

 

 

 

 

 

6月15日(金) ベルベットルーム

 

 

「事情の方は説明いただかなくても結構でございます。

 貴方様の事に関しては既に存じ上げております故。ええ、ええ。

 比企谷八幡殿とその周囲の内情は、モルガナを通して見聞きしておりますれば」

 

「…あぁ、あんたがあいつの言ってた(あるじ)って人か」

 

「そのようなものでございます。我が名はイゴール。

 ここベルベットルームにいらっしゃるお客人に、道を示したりなどしております」

 

 

 どうぞ、と勧められたイゴールの正面に在る椅子へと腰を下ろしながらようやく八幡は周囲の状況を把握に動けた

 

 きょろきょろと忙しなく視線を動かして観れば、青一色で染め上げられた色彩は狂っているとしか言いようがない

 

 しかし、色彩以外の家具のセンス、例えばイゴールと名乗る老翁の座る机は勉強机であり、ベッドの上にあるぬいぐるみだとか、収納棚に見える茶器と言った物は高級感と持ち主の趣味とが入り混じって、かつ融和して見える

 

 なにより、全体的に

 

 

「(所々に垣間見える趣味系、机の上の小物を見る限り爺さんっぽくない部屋だな。あと、何か良い匂いする」

 

「そう言った類の事はあまり口に出さない方がよいかと、老婆心ながら」

 

「ひ、ひゃい」

 

 

 スンスンと鼻を鳴らしているところにツッコミを入れられて恐縮するのであった

 

 なお、心が読まれたのではなく八幡の内心が口からこぼれていたせいである

 

 

「ふむ。しかし…これはまた難儀な事になっていますな。魔人、でございますか」

 

「魔人?」

 

「貴方方が直面しているモノを我々はそう呼びます。

 人にして人に非ず、悪魔にして悪魔に非ず、存在そのものが死を振りまき、圧倒的なチカラを持つ。

 恐らく、悪神を利用し、自身への影響を最小限に、自分の本質を曲げぬ(ペルソナが使える状態の)まま己の位階の枠組みを壊したのでしょうな。

 であれば、今の皆様方には荷が重いと言わざるを得ないでしょう」

 

「それは…」

 

 

 ()()()老翁が諭すように八幡に真実を突き付ける

 

 実際、弱体化に特化している彼のペルソナが最大限力を発揮できる、不意打ちでのデバフを物ともせずに殺された(死んでない)のだ

 

 極端に強い膂力だけで戦いあぐね、デバフを重ねて勝てると思った瞬間に魔法の反射、しかも超技巧を見せつけられた

 

 タケミカヅチの時とは違い、力自慢をどうにかすればいいと言う訳ではない

 

 今すぐに意識を取り戻し、助力に回ったとしても勝てるイメージがわかない

 

 むしろ、濃密な死の気配を纏っていた彼女に、今度はペルソナではなく生身の肉体を消し飛ばされて死ぬ想像の方が容易に思い浮かべられる

 

 雪乃、モルガナと言う主戦力が合わさって素の雪ノ下陽乃と同等として、その雪ノ下陽乃がペルソナの力と魔人とやらの力を本気で振るえば、勝ち目は薄い

 

 何せ、最大火力の魔法の一斉射が通用しないのだ

 

 あとは物理しかないが、そもそも魔法が反射(マカラカーン)されたのだから、物理も反射(テトラカーン)されないとも断言できない

 

 一度撤退して前言を翻す恥を忍んで物理特化の沙希に助力を乞うても、有効打にならないかもしれない

 

 意表をついてどうにかできないかと考えるも

 

 

「多分、あの人のペルソナは人の心を読むんだろうな。それが深層心理まで読めるのか、表層までなのかは分かんねえが」

 

 

 雪乃と同様の結論に至った彼には非常に難しい問題だった

 

 

 

 

 

 6月15日(金) ハルノパレス

 

『どうして私が心を読むだなんて思ったのかな』

 

「本気でそれを聞いているのならとんだ侮辱ね。

 そもそも姉さん、本気で隠そうともしていなかったじゃない」

 

 

 嘲笑うかのようにふふんと返す雪乃と、それを無表情に受け取るハルノ。

 

 

「1つ、私と姉さんの柔道を始めとする武道の心得は姉さんに分があるとは言え、圧倒的な差はない。モルガナちゃんと同時に攻めて押し勝てないなんてことはない。

 2つ、魔法での斉射の際、彼らの魔法が放たれる前から動かなければ、無傷で済むのは有り得ない。事前にどのような効果があって、どのような狙いなのか分からなければ」

 

 

 一つ、また一つと指を立てて雪乃は今までの攻防で生まれた疑問を挙げていく。

 

 

「3つ、前回のパレスで、私はそう言う(心を読まれる)経験があったから、荒唐無稽な考えも想像の埒外に置かなかった。

 4つ、最後に『リカーム』に関して私の思考と()()()()()()()()()()を口にしておいて、バレないだなんて本当に思っていたのかしら」

 

『…ふふふ、ふふ、あはははは! そーかそーか! そりゃそうだ。あんまりにも突拍子も無い発想だからついつい雪乃ちゃんの心を読んだまま口にしちゃったのはダメだったか』

 

 

 少しだけ眼を丸くしたと思えばお腹を抱えて笑い出すハルノ。

 

 その身は悪神に呑まれた時に染まった黒ではなく、既に元の状態、薄ぼんやりと瞳だけが光る状態に戻っている。

 

 おそらく、人の心を読む能力を応用し、認識を弄っていたのだろう。

 

 理由? そっちの方が相手の虚をつけるから。

 

 

『うん。正解正解、だいせいかーい。私は正気だよ。と言っても変なモノが入ったせいで、狂ってるって言えば狂ってるんだけど。

 普段の私だったらこんなムカつく状態なんて絶対我慢できないのに、悪神ってやつと共存しても悪くないなぁって思ってるし、力が溢れる高揚感で暴力的になってたり、衝動的に死を振りまきたくなる。

 だけど、根っこは私、雪ノ下陽乃のまんま。だから、こうしてペルソナも使える…おいでなさい『サトリ』』

 

 

 ハルノの言葉に合わせて身体が二重にブレ、その隙間からどろりと黒い泥が溢れ人型となり、ひび割れ爆散。

 

 ひょこんと浮かぶマネキン然とした人形がカタカタと球体関節を鳴らす。

 

 

『この子の能力はすっごく単純。人の心を読んで、相手の行動をそのままお返しするだけ。シンプルで、だからこそとっても強いでしょ。

 でも、もっと力を引き出せる感覚なのに、実際は中途半端にしか出せない。これは慣れかなぁ?』

 

 

 う~ん、と腕組みし(おとがい)に指をトントンと当てながら思案する。

 

 救命行動に専念している戸塚はともかく、材木座と優美子は先ほどの魔法反射から二の足を踏み、モルガナも警戒心から観察に重点を置いている。

 

 ならば雪乃はどうしているのか?

 

 

『けど、一番意外だったのはあの男の子が君たちの中心だったってことかな』

 

「…何を言っているのかしら」

 

『まったまた~。雪乃ちゃんが全体の指示を出してるし、それを立てるように猫ちゃん達も雪乃ちゃんをフォローしてる。

 だけど、彼が倒れた後のあれこれは覚悟が出来てなかった云々じゃないでしょ。そっちの彼女は違ったみたいだけど…

 あのまま本当に死んじゃってたら総崩れしちゃってたんじゃない? なにより…』

 

「なにより?」

 

『そこまで表面上は冷静を装いながら、彼が一度死んでからいっちばん感情的になっているのは雪乃ちゃん自身。私のペルソナは心を読めるんだよ? お・見・通・し、だぞ』

 

 

 今この場で最も責任感が強く、なにより身内の暴走に付き合わせてしまった雪ノ下雪乃が冷静に言葉を交わしている?

 

 何の冗談だ。

 

 彼女の内心は比企谷八幡を死の淵に追いやってしまった義憤と、そうした危険に巻き込んでしまった後悔と

 

 

「…ふぅ。そう。なら、冷静ぶっている必要も無いわね。さっきから姉さんのその減らず口ごと叩き潰したくて仕方なかったの」

 

『やれるもんならやってみなさい』

 

 

 自分の弱さと目の前の敵に対する憤怒ではちきれそうになっていたのだから。

 

 

「叩きのめしなさい『ライジン』!」

 

『反照しちゃって『サトリ』』

 

 

 雷による光と轟音が響き渡った。

 

 

 

 

6月15日(金) ベルベットルーム

 

「しかし、なんともまあこじれてしまっていますな。いやはや、そのような有様で良くも」

 

 

 ヒッキー知ってるよ。こんな思わせぶりな言動する輩って基本直接的に手助けしてくれる事はないんだって。俺は詳しいんだ! いやでもワンチャン…

 

 

「モルガナのご主人様って事で、何か助けてもらう事とかできないっすかね」

 

 

 色々考えながらも、まともな手段ではどうにもならないと結論付けた八幡は即座に助けを乞うた

 

 だってだって責任者なら責任を取るべきだもん、モルガナの不始末は責任者であるこの爺さんがどうにかすべきだもん

 

 うーうー言うのは止めなさい! と言わんばかりの内心の駄々っ子っぷりを卑屈さに変えて腰低く八幡は尋ねる

 

 

「はて?」

 

「いやいや、はて? じゃなくって。魔人ってのはすごく強い。それは分かった、身に染みて分かりました、分かりたくなかったけど分かっちゃいました。

 だったら、勝ち目のないどんづまりになってる俺、というかモルガナを助ける意味でも、ちょっとばかし手助けしてもらえないかなぁと」

 

 

 察しの悪い老翁イゴールにヒクヒクと頬を引きつらせながら丁寧に助力を要請するも

 

 

「勝ち目がない、ですか」

 

「いや分かるでしょ。あれ、格が違い過ぎてまともにアナライズ通らなかったですけど、ゲーム的に言えばこっちのレベルが20位だとすれば、あっちは40越えてましたよ。ダブルスコアでしょ、レベル5位下のシャドウとか雑魚に感じるのに、レベル差20位感じるんすよ。鎧袖一触にしかならんでしょ、無理でしょ、逃げられないのがなによりクソゲー。イゴールさんも俺には荷が重いって言ってたでしょ」

 

 

 だからオナシャス! ヘルプミー! と恥も外聞も無く頭を下げる八幡

 

 彼の予想図では意識を取り戻して力を合わせても、全員が倒れ伏す未来しか見えない

 

 刈り取るものではなかった

 

 雪乃との買い物に出かけるときから続いていたデジャブは

 

 これ以上進んではいけないと本能が警告していたのだ

 

 魔人ハルノと言う絶望が待つ未来を、ペルソナと言う超能力で感じ取っていた生存本能

 

 いざ目の前にして何も出来ない己の無力を嘆く

 

 けれど、無力なのは今までの人生でずっと続いていた事だ

 

 ならば、それは比企谷八幡が立ち止まる理由にはならない

 

 生存を諦める理由にはなってはいけない

 

 だったら、残る道は外部からのイレギュラーしかありえない

 

 

「荷が重いとお伝えしたのはあくまで、今対処なされている皆様方だけの話でございます。

 勝ち目と言うならば、()()()()()()()()()()()()でしょう」

 

 

 そんな無力な比企谷八幡だからこそ

 

 彼と彼のペルソナ『アマノジャク』だからこそ、比企谷八幡は魔人ハルノに勝機を生み出す事が出来ると言う事を

 

 

「は??」

 

 

―――彼だけが自覚していなかった

 

 

 




 ペルソナメモ
 リカームの仕様は言うまでも無く独自設定。メガテン系列の創作だと普通に死者の復活に使われる事も多いが、今作ではペルソナや気力の復活にだけ効果がある。簡潔に言えば死者には効かない。あくまでペルソナ(精神)を回復する魔法。ディア系統は普通に怪我を治すだけなので、肉体的損傷からの死は覆せない。

 なお、ペルソナが戦闘不能、消し飛んだりしても普通は死なない。八幡の思い込みが強すぎただけ。あと、地味に不意を打たれる事で神話再現による強制弱点で心神喪失状態に一気に持って行かれた事も大きい。

 アトラスメモ
 ベルベットルームの主イゴールは言葉少なと言う訳ではないが、そこまで饒舌ではない(彼の僕、造魔たちが基本的に応対するから)。また、比企谷八幡がベルベットルームを訪れるのは正真正銘初めてです。赤の真実で断言してもいいです(誰も聞いてない)。
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