やはり俺の○ル○ナは間違っている   作:hung

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バトル(描写)嫌い
難しい

推しの子二次多くなったなぁ
せや!押しの子二次で主要キャラ全員原作知識持ち転生者(カミキ役だけそれを知らない勘違い物)とか、さりなちゃんが逆行してアイに転生!とか思い付いて、自分には面白く調理する腕がねえやと諦めました

同じく呪術廻戦の夏油()が本誌でいいリアクション(顔芸)してるのを見て、リアクション…パン屋…焼きたてジャパン?
あの世界を焼きたてジャパンだと思いこんだ主人公がパンを食わせてリアクションで色々解決するギャグとかも考えましたが、焼きたてジャパンが記憶の彼方で無理でした。あと、今週のvs夏油()さんが面白すぎてダメだ、ちょっと勝てない
天内に見張り役(天元様同化を躊躇わないよう洗脳の為に幼い頃から)オリ主を付けてどんどん絆されていくやつとか!誰か書いて


きっと比企谷八幡がアマノジャクな理由はこの為に

6月15日(金) ハルノパレス

 

 商業施設の屋上、邪魔のない空間に微かな音が断続的に響く。

 

 それは衣擦れの音だったり、位置取りを変えようとして動かされる足音だったり。

 

 けれど、打突音だとか、衝撃音と言った強い音は聞こえない。

 

 その理由は至極単純だった。

 

 

「す、すごい」

 

「ぬ、ぬぅん。ま、まぁ我が真の魂が覚醒(めざ)めればなんという事もない。が、称賛に値するであろう」

 

「うっそでしょ」

 

 

 感嘆の声を上げるのは三人。

 

 戸塚、材木座、優美子はそれぞれペルソナを使えるようになってからあまり経験を積んでいない。

 

 優美子は単純にペルソナを使えるようになってからの時間が短く。

 

 材木座はこれでもプライベートで遊んだり、執筆時間(原作よりも真面目に取り組んでいる)、戸塚も部活動優先なので、雪乃の行動に付き合えない事が多く。

 

 結果的に習熟度的には似たり寄ったりと言っても良い。

 

 頭一つ抜けるのは記憶が封印されていても経験の一部で優越するモルガナと、とにかく便利屋扱いされ振り回されまくる八幡。

 

 もっとも、八幡のペルソナは打点が無いため、宝の持ち腐れなのは言うまでもない。

 

 結衣も前者三名に比べれば慣れているのだが、優美子との付き合いを優先したり、そもそもが争いに向かない性格なのもあり、やはり一歩劣る。

 

 ならば、最も好戦的で、努力家で、負けず嫌いで、更に天に二物どころかもっと与えられている天稟とも言える雪乃は?

 

 

「投げ、いや締めようとしたのか? それを雪乃殿が躱して、打撃をフェイントに足元を崩そうとしたのをカウンターで崩し返そうとしたのを読心で読み切った…???? ワガハイでも出来んぞこんなの」

 

「掴まれもしない、当たりもしない、こんな静かな攻防…すごすぎるよ」

 

 

 何を教わっても三日もあれば卒なくこなし、本腰を入れれば経験者が泣きを入れる。

 

 原作にて雪ノ下雪乃はテニスで無双し、柔道で経験者に空気投げを実践した。

 

 才に溢れた雪乃の特大の弱点は、体力の無さ。

 

 テニス一試合分どころか数回点の取り合いになっただけで動けなくなる程。

 

 そんな雪ノ下雪乃がパレスと言う体力ではなく精神が優位となる空間で、本気となったら。

 

 そして、その相手が雪ノ下雪乃をして勝ちを奪えないと半ば諦めきってしまっていた人物なら。

 

 苛烈な性格となり、変化への強迫観念を持った原因の一つ。

 

 雪ノ下陽乃(越えられない姉)であれば。

 

 そう、至極単純だ。

 

 本気で攻める雪乃とそれをいなしながら反撃しようとするも(ことごと)くをスカされるハルノ。

 

 互いに有効打どころか全てを見切ってカスリもしない沈黙の舞踏が繰り広げられているのだった。

 

 

『本当、オカルトってすごいね。こんな使い方で追いつかれるとは思っても無かったや』

 

「姉さんの真似事みたいで大変遺憾ではあるのだけれど、この際手段を選んでいられないわ。なんとしてもそのスカした綺麗な顔をグシャグシャにしてあげる」

 

『きゃーこわーい』

 

 

 軽口を叩きながらも、手も足も流れるように動く身体は一瞬たりとも止まりはしない。

 

 さて、雪乃はどのようにしてハルノに追いすがっているのか。

 

 火事場の馬鹿力だとか、真の力に目覚めたり、怒りで覚醒したとかではない。

 

 彼女は勤勉家である。

 

 目の前にあるものに対し、思考し、理解し、自分に取り込む。

 

 普段から勉学に励む彼女の精神性はペルソナ『ライジン』に一つのスキルを所持させた。

 

 それは『猛勉強』。ゲームで言うなら獲得経験値上昇でしかないスキル。

 

 しかし、現実で経験値を多めに貰えるとはどのような事か?

 

 眼で見て、肌で感じて、頭で理解し、身体で実践する事に多大な補正がかかると言う事。

 

 そんな雪乃の目の前に悪神の欠片を利用したとはいえ、『ペルソナと同一化して存在の枠組みを乗り越えた』実物が存在する。

 

 

『そんな簡単に真似できるものじゃないと思うんだけどなぁ。もう一人の自分(ペルソナ)を自分に憑依させるって』

 

「ペルソナに関して言えば、姉さんよりも私の方がよほど一日の長があるのよ」

 

 

 ジト目で睨んでくる姉を鼻で笑いながら押し込もうとする雪乃の身体はボンヤリと光り、制服姿の身体にうっすらと重なる様に黒の狩衣が、背後にはライジンの物である鼓が浮かんでいるのがチラチラと見える。

 

 そう、単純な出力差を補うために、雪乃は不倶戴天とまで認識する姉の真似をしたのだ。

 

 悪神の欠片を利用してペルソナと合体した? よろしい。ならば私は自力でやってみせよう。

 

 そんな負けず嫌いと怒りがミックスして、連日のようにペルソナを使いまくっていた経験が悪魔合体した……と言う訳でもない。

 

 実際はハルノのようにペルソナ(自己の別側面)を触媒(悪神)で一体化したわけではなく、ペルソナを完全に出し切る直前で押しとどめてペルソナの能力を生身で発揮しているだけ。

 

 シャーマンキングを知っている人ならば、雪乃は憑依合体のみ、ハルノは憑依合体(悪神)しつつO.S.(ペルソナ)してると言えば少しはイメージが出来る…いや余計にややこしいか。

 

 

 

 

 ともかく八幡の分析のように、ハルノのレベルをおおよそレベル40程と仮定しよう。

 

 レベル40程のシャドウの力のステータスは特化型でも35程。バランス型であれば30を切る。

 

 見るからにハルノのペルソナ『サトリ』は物理特化型どころか、直接戦闘にすら向いているとは言いにくい。

 

 読心による回避や、反射魔法等のトリッキーな動きで相手を翻弄するタイプなら、高めに見積もっても25。

 

 であれば、雪乃のペルソナが魔法偏重物理併用型で大体レベル25前後と考えて20位。

 

 レベル差が20(ダブルスコア)あっても、能力値的に言えば5離れているかどうか。

 

 もちろん、生身で発揮できる力としては脅威だろう。

 

 魔人としての格から底上げもされているだろう。

 

 実際、屋上の床の一部、ハルノの開幕の一撃で陥没した箇所を見て油断などしていられない。

 

 

「けれど、自分が同じステージに立てるのなら、負けはしないわ」

 

 

 自分の動きと全く同時にペルソナと言う超常の力を動かし、生身の力とペルソナの力を合わせられるのなら手も足も出ないと言う訳ではなくなる。

 

 

『だけど、勝てもしない。違う?』

 

「…」

 

 

 ハルノの指摘に思わず沈黙してしまう雪乃。

 

 生身で超常の力を使えるとはいえ、それもあくまで紛い物。

 

 ペルソナの膂力と昔取った杵柄である技巧は十全に使えるが、中途半端なペルソナの顕現は代償として魔法の使用ができない。その余裕が無い。

 

 魔法に偏重したペルソナ『ライジン』が魔法を使えないと単純に火力不足、つまり千日手。

 

 ならば他の面子に火力を頼ろうにも、下手に遠距離から魔法を放てば反射(マカラカーン)されてしまう懸念が拭えずに動けない。

 

 

『後ろのあの子達、私達の動きに全くついてこれてない。つまり、援護は無理。

 私も慣れてない力で疲れては来るけど、私には外付けの回路(悪神の欠片)があるから、一人で無茶してる雪乃ちゃんと比べて段違いに疲労度は軽い。

 負けはしない、って言っても疲れてくれば結局は眼に見えてるでしょう?

 なら、今あなたがやっているのはただの悪あがきにしかなっていない』

 

「それがどうかした?」

 

『…足手まとい連れて勝とうとも思わずに相手されるのは、流石にお姉ちゃんもムカついちゃうなぁってね』

 

「言ってなさい。吠え面かくのは姉さんよ」

 

『なら、やってみなさい。お姉ちゃんが優しく殺してあげる』

 

 

 一層激しく、けれど反面静かに攻防は続いていく。

 

 

6月15日(金) ベルベットルーム

 

「確かに、魔人は強敵でございます。死と災厄をまき散らす存在。

 ただの異能者とは存在の格が違う。正面から打倒できるのはそれこそ、運命に愛されし者(人修羅やハーモナイザー所持者等)だけでございましょう。

 けれど、未だ彼の者は力に慣れておりません。現に、今も攻めあぐねて良い勝負になっております」

 

「それだけで勝てるんすか」

 

「いいえ、勝てません」

 

 

 八幡の疑問にきっぱりと断言するイゴール

 

 かてへんのかーい、と心の何処かに存在するかもしれない関西弁八幡が内心でずっこける

 

 

「魔人はそれぞれ特化したナニカを持ちます。例えば、周囲に攻撃()をばらまく事に、音に乗せて弱体()を運ぶ事に、そのものずばり、問答無用の死を強制する事に。

 貴方達の相手をしている者の恐ろしい所は、魔人(死をもたらす者)としては未熟であっても己の別側面(ペルソナ)を合わせる事でそれを超越している所です」

 

「読心」

 

 

 まさしく、としわがれた甲高い声で同意を示す

 

 ハルノの格は雪乃達を圧倒的に上回っているが、魔人としては大分格下である

 

 例えば黙示録の四騎士等には到底及ばない

 

 なら、少しは勝ち目があるかと言えば、無い

 

 それがハルノのペルソナ『サトリ』の能力の強みだ

 

 

「例え有効な攻撃を当てようとしても、読まれてりゃ当たらない。当たらなかったらそれは意味が無く、存在しないのと同じ。下手すりゃ反射されて硬直してる状況が一気に壊滅する」

 

「読まれても意味が無い、当たるしかないと言う状況に追い詰める事が出来れば話は変わりますが…」

 

「今の戦力じゃ無理無茶無謀ってやつですか」

 

 

 飽和攻撃も、戦術的追い込みも、ハルノとまともに戦いとなるのが無茶している雪乃だけである今のメンバーの戦力では不可能

 

 

「で、あるからこそ、貴方様の力が勝ち目を生むのでございます」

 

「…『アマノジャク』」

 

 

 自分の心の海に沈む別側面に意識を向け、確かにこいつだからこそ打てる手が存在している事を理解する

 

 

「ええ。『アマノジャク』の逸話は調べておられますかな? 結構。

 では、『サトリ』と言う怪異については? よろしい。

 ならば、もう答えは明白でございましょう」

 

 

 そう告げて、イゴールは扉を指さす

 

 答えは得た

 

 ならば後は実行するだけだ

 

 長々と居座り続けていた身体を起き上がらせ、入って来た扉へと向かう

 

 扉を開き、そこをくぐれば現実

 

 出来れば相対したくも無い、恐怖の化身と向き合わなければいけない現実

 

 けれど、扉を開く彼の手は震えることなく、しっかりとノブを回すのであった

 

 

「…そう言えば、何でこんな親切にしてくれたんですか」

 

「………では、いってらっしゃいませ」

 

 

 扉をくぐる直前、ふと気になった事を訊ねてみるも、答えられることなく送り出される

 

 八幡の身体が光に包まれ、意識がグルグルと遠くなっていく

 

 そうして彼が完全に居なくなった後、青い部屋に一人残る老翁はぽつりとつぶやく

 

 

「変わりなく、お元気そうでなによりでございます」

 

 

 三日月に弧を描いた常の口元は、普段よりも更に曲がって見えるのであった

 

 

 

 

6月15日(金) ハルノパレス

 

 三浦優美子は自分の事が好きだ。

 

 だから本気で頑張っている人が好きだ。それは自分が何より本気だから。

 

 中学ではテニスを本気でやった。やりきったから止めた。

 

 今は本気で女子高生を楽しもうとしている。

 

 その時その時で目の前にある事に対して彼女は本気なのだ。

 

 だから本気で幸せになろうとしている人はそれだけで好感を覚える。

 

 今のクラスのグループのメンバーも全員が『ちゃんとした高校生』を本気でやっている。

 

 同じ位に一癖あったり生き方が不器用だったり面倒な奴も嫌いではない。

 

 人付き合いが器用なくせに好みに癖がある結衣だったり、生き方が器用なくせに心持ちが面倒な海老名だったり。

 

 

 だから、三浦優美子は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 もちろん性格の相性的には良くないし、苦手ではある。

 

 かと言って無理矢理に引き出した本音を聞いた時に思ったのだ。

 

 ―あぁ、こいつはとんでもなく生き方が不器用でも色々本気で生きてきたんだなと。

 

 だから、突っかかり続けるのは止めて(負い目もあるし)一歩譲るのはそれもまた良しと思えた。

 

 しかし、雪乃とは逆に…

 

 

「何でも出来ますって(ツラ)して、マジになったら何でもやれんだって勘違いしてる思い上がり女ってほんっとに嫌いなんだよね」

 

 

 本気にもならずに片手間で、まるで自分の事をモブのように見下してくる上から目線。いいや、視野にすら入れようともしない陽乃の事は雪乃以上に相性が悪く、ぶっちゃけ嫌いだった。

 

 更にもう一つ言えば

 

 

「これで隼人がこの場に居たらピンチを救われるヒロインってシーンなのがもっと気に入らないし」

 

 

 今回の件を隼人に伝えなかった理由の一つ、()()()()()()()も多分にある。

 

 端折って言えば、敵に洗脳される幼馴染ヒロイン救出シーンとか許してたらルート爆走しちゃうでしょってこと。幼馴染ヒロインはそこで乾いていくべきそうすべき(暴言)。

 

 

 

 三浦優美子は激情家だ。

 

 熱しやすく冷めやすい。

 

 機嫌の良し悪しは直ぐに表情に出るし、自分の思い通りにならない事には簡単に激発してしまう。

 

 けれど、この性格はクラスのカーストを維持する為に、多少なりとも誇張して演技している面もある。

 

 上に立つ人間は分かりやすい方が周囲も対応が楽だろうと。

 

 実際、彼女の言動がクラス内の秩序に対して、ある種の指標になっている事も否めない。

 

 意思表示を明確にする方が、女子特有のドロドロした面を隼人に近づけずに済むと言う打算もある。

 

 だからこそ、彼女は必要とあらば自分の感情を律する事も、それを貯め込んで発するタイミングを図る事も出来る。

 

 ずっと、ずっと、溢れそうになる感情に蓋をしたまま激発するチャンスを虎視眈々と窺っている。

 

 そして、その時はすぐそこに迫っていた。

 

 

 

「むむむ! 雪ノ下嬢の精神のすり減りが眼に見えて厳しくなってきておるぞモルガナ! 手出し無用と言っておる故従っているが、これで本当に良いのか?!」

 

「まだだ、まだ。…ワガハイですら下手に手を出したら雪乃殿の足を引っ張っちまう。せめて、大きな隙が出来ない限りは逆効果にしかならねえ」

 

「しかしだなぁ」

 

「材木座君」

 

 

 一進一退の硬直状態に材木座の我慢の限界が近く、焦れて貧乏ゆすりが止まらなくなってきている。

 

 モルガナが変わらずに制止するが、終わりが目に見えて来てしまう状態は彼らの共通認識で、共通のストレスだった。

 

 しかし、一人だけ、揺らがずにじっと待ち続けている戸塚が材木座に声をかける。

 

 未だに意識が戻らない八幡を膝枕しながら、己のやるべきことを定めている戸塚は動揺しない。

 

 戸塚彩加は雪乃や優美子に比べて火力を出せないし、材木座に比べて殲滅に向いている話でもない。

 

 八幡のように柔軟な思考はできないし、モルガナや結衣のような攻守別だが補助役にも一歩劣る。

 

 だから、戸塚は自分のやる事を定めている。

 

 それはひたすらに人を助ける事。怪我をしたら治し、あと一歩の火力が必要なら後押しする。

 

 出来る事は決定的なキーマンになる事ではなく、穴を埋める事だと。

 

 やる事を決めている人間の行動は迷わない分、いざという時速い。

 

 そう決心してひたすらに我慢する戸塚の膝上がぶるりと震えたのを感じ、彼はようやく戦況が動く事を予感したのだった。

 

 

 

 

『いい加減、しつっこい!』

 

「まだっ、まだよ! ぜぇ…まだまだ、倒れてなるものですか…ぜぇ」

 

 

 最初の静かな攻防とは異なり、鈍い音が混じり始め、呼吸も怪しくなって幾分か経つ。

 

 矛としても盾としても振るい続けた腕は青黒く染まり、顔色は白く髪は振り乱れ、足元は最低限致命傷を避けるようにしか動かず、その様はさながら幽鬼の如く。

 

 明確な格上に、無茶を冒して死力を振り絞って相対し続け精神は極度に疲弊している。

 

 幾ら現実の体力とは関係なく動けるパレスであっても気力の限界を超えてしまっている。

 

 今も動けているのは一重に雪乃の意地だった。

 

 そんな満身創痍の雪乃とは対照的に、ハルノは目立つ傷も一切なく疲労感は見えても顔も歪まず、ただ辟易した態度。

 

 強引に引導を渡そうとするも、雪乃は無理矢理に躱そうとして躱し切れず、それでも直撃よりは結果ダメージは抑えられる。

 

 勢いで押し込もうとするも、後方から支援(回復魔法)が飛び、雪乃の命脈を繋ぎとめる。

 

 さっきから今一歩と言う所で押し切れないフラストレーションがハルノに蓄積されていく。

 

 

『こんなに無理して何になるって言うの。雪乃ちゃん、分かってるでしょ。

 どんなに頑張っても私には敵わないって。あなた達に打てる手はもうないんだって』

 

 

 一歩下がり、満身創痍の雪乃から少しだけ離れて心底鬱陶しそうな口調。

 

 その顔をちらりと疲労から俯きかけた眼に写して一呼吸だけ取り直し、気合だけで再度突撃する。

 

 返事も無かったことで更に苛立ちを覚えながらも、雪乃の内心を読み戦況を覆す策が皆無な事を確認するハルノ。

 

 

『(こんな無謀な突撃、何の意味も無い。破れかぶれ? けど、雪乃ちゃんだし一発逆転の策を、私の『サトリ』で読めない位の深層心理で組み立ててる事を考えたら油断もしたくない…

 後ろの有象無象は成り行きを見守ってるだけで、いざという時は特攻する覚悟は見えても具体策は無し。唯一、あの猫ちゃんだけは読み辛いけど、元々『サトリ』って人の心を読む妖怪だし仕方ない。

 なら、油断なく雪乃ちゃんを相手しながら、猫ちゃんの挙動に注意していれば負けは無い)』

 

 

 雪乃の攻撃を読心で見切り、カウンターを合わせる。

 

 ヤスリで削るように、徐々に徐々に追い詰めていく。

 

 後方でたむろするメンバーに最低限の警戒を残したままですら、雪乃は追いすがれない。

 

 悪神を身に宿したことで増した加虐性と、魔人の特性である破滅性が彼らを壊滅させるのも時間の問題。

 

 そんなリンチとでも言える状況で、ハルノの感覚野が一つの動きを察知した。

 

 

『(これは、さっき殺し損ねちゃった男の子…ふぅん、目が覚めたんだ。けど、今更さっきの魔法で私の力を弱めても遅すぎる。

 どれだけ弱体化させられても雪乃ちゃんって言う、私を何とか出来たかもしれないたった一人の戦力はもう、使い物にはならない。

 雪乃ちゃんの気力が尽きた後は、すりつぶすだけの作業でしかない。…折角面白い事見つかったと思ったんだけど、結局はつまんない結果で終わり、か)』

 

 

 倒れていた男の子がおもむろに立ち上がろうとする気配を感じ、それでも変わらない結末を予知したハルノは、粛々と、けれど退屈そうに予定調和な攻撃を躱し、同じようにカウンターを当てようとした所に、雪乃の膝がカクンと折れた。

 

 ようやく訪れた限界にため息を吐きそうになり、せめて最後は一撃で終わらせてあげようかと慈悲の心を思い浮かべ…

 

 

『(ん?)』

 

 

 倒れかけた雪乃がほんの少し視線を後ろにずらし、後方を見て

 

 

「…ふっ」

 

『っ?! 何を笑って』

 

 

 

 ふわりと微笑んだ

 

 

 

 その笑みを見た瞬間、ハルノは見落としが無いか()()()()()()()

 

 トドメを刺す為の拳はピクリと止まり、咄嗟に『サトリ』で全周囲の読心を行使。

 

 

 探査

『全員の意識が攻撃に向いている』

 

 精査

『切っ掛けはあの男の復活』

 

 考察

『なら、彼の取り得る行動こそが要になる』

 

 対策

『読心で、彼の心を全力で無色透明にすれば(読み切れば)いい!』

 

 実行

 

 

『ペルソナ! 『サトリ』!!! 「残念無念」っ!!??』

 

 

 刹那の思考で最も妥当な行動を取ったハルノが立ち上がった男の子、八幡の思考を読み取ろうと全力の読心を実行。

 

 しかし、八幡の思考を読むことは無く()()()()()()()()()()()()がハルノの頭に走る。

 

 想定外の痛みに先程の雪乃と同じく、グラリと体勢が崩れ…

 

 

「今だ! いいか、やるぞ!!!」

 

 

 僅かな隙も見逃さない様に注視していたモルガナが号令をかけ

 

 その瞬間をずっと待ち続けていた各々が、寸分の遅れも無く

 

 

「『コウガ』!!」

「『エイガ』!!」

「『アギラオ』!!」

「『ガルーラ』ァ!!!!」

 

 

 それぞれが出せる最大火力を一斉にハルノ目掛けて撃ち出した。

 

 

『(~~~っ! 痛ったいなぁ!! なんで、私の読心が!? けど、一瞬の隙だけで何とか出来ると思ったら大間違い!)』

 

 

 最初の焼き直し、いいや多少消耗しているのと、少しばかり火力が増えている点は違うけれど、そんな事は彼女には関係が無い。

 

 心を読めると言う事は、ペルソナ(心の力)を読めると言う事。

 

 例え放たれた後であっても、魔法の軌跡と所有者の狙いさえ分かっていれば、凪のポイントを見つけることも、または自分の心(ペルソナ)を歪ませて精密な(いびつ)さをつければ全反射(反則マカラカーン)する事も可能。

 

 そして、その実行には秒の時間すら要さない。

 

 どれ程の高火力の魔法であっても、距離を一瞬で縮める程の勢いはなく、であるならば対処するには十二分な時間があった。

 

 壮大な威力と衝撃から逃れるように、崩れかけた身体をそのままに、ポケットからポロポロと焼き菓子(回復アイテム)()()()を溢しながら転がり逃げる無様な姿の雪乃を鼻で笑い、持ち直した精神でマカラカーンを張るタイミングを測り…

 

 

「ピッチャー振りかぶって…投げました!」

 

 

 攻撃に参加していなかった男の子(八幡)が一斉射から少し遅れたタイミングで横から何か、小さな石ころを投げてくる様子を『は?』と呆れながらも察知した。

 

 何だろうか、魔法の対処に専念してる所に集中を阻害させるための苦肉の策か?

 

 それとも、たかが石ころが、万が一にも頭にでも当たれば致命傷になるとでも?

 

 既に人間と言う枠を飛び越え、魔人となった身体にただの石ころがなんの効果をもたらすと言うのか。

 

 何とも涙ぐましい努力に一応警戒して魔法への対処が出来つつ、当たらない位置に移動し

 

 

「『()()()()()()』!!」

 

『っ!』

 

 

 少年のペルソナを励起する為の呼びかけの名に、自身のペルソナの読心が効かなかった訳を悟った。

 

 

『(『サトリ』も『アマノジャク』も両方『心を読む』妖怪! しかも他に有名な逸話も無い単特徴な特化型、私は彼の心を読もうとして鏡合わせみたいに跳ね返された。つまり呪詛返し!)』

 

 

 人を呪わば穴二つ

 

 遥か昔から、呪いで人を不幸にした者は自分にも不幸が返ってくるとされていた。

 

 転じて陰陽道等でも人を呪った際、失敗すると二倍返しになると言った説話もありふれている。

 

 読心と跳ね返す事に特化した『サトリ』の能力では、解析と歪ませる事に特化した『アマノジャク』は一種の天敵。

 

 もちろん、双方向に向けての相対関係ではあるが、今重要なのは『ハルノは八幡が何をしようとしているのかを決して読む事が出来ない』点。

 

 

『(何をするつもり? 石は陽動? 二の矢三の矢は? 弱体はさっきのアレが限界なの? 他の魔法の爆炎に紛れて攻撃するつもり?)』

 

 

 何をするのか分からない対象に注意が向き、思考も焦点が合わさり、例え何をされても対処できるように注視する。

 

 必然、他への注意は散漫となり、

 

 

「ブフストーン、起動」

 

『っ、冷たっ!』

 

 

 雪乃が転がりながら逃げる際にまき散らしていた小石から吹き上げる冷気をまともに食らってしまう。

 

 

『(魔法を放つ石!? なんて隠し玉を持ってるのよ雪乃ちゃん! …待って、じゃあ今こっちに飛んできてる石も何かしらの魔法を? それが、今みたいな弱い魔法じゃなかったら?)』

 

 

 グングンと迫りくる多種多様な中級攻撃魔法の群れへの対処を最優先にしながらも、今は警戒対象に繰り上がってしまった小石と男子に、これ以上何があっても誤らないようにともう一度気を取り直そうとしたその時

 

 

「『スクンダ…」

 

 

 ()()()、とまるで自分の身体じゃないかのように、感覚が鈍り一瞬だけ身体が沈む。

 

 奥の手はこれ(精密性ダウン)か! と、もう目前まで迫った爆炎に冷や汗を垂らし、確かにこのタイミングでやられるのが一番効果的だと評価する。

 

 自分の心を無理なく歪ませて全反射できる構造を作るのに必要な集中力を途切れさせ、着弾させられる直前の瞬間に精密性を下げられたら流石に自分も負けることだろう。

 

 この手段の有効性は確かだった、けれど…

 

 

『タイミングが悪「デクンダの石、起動」「…ダダダ(もってけ! おかわりだだだだ!!)』!!!!!」…えっ』

 

 

 下がり切った自身の精密性をすぐさま再確認、掌握

 

 改めて全反射マカラカーンを張ろうとした、まさにその時…

 

 八幡が投げ、ハルノのすぐ横を通り過ぎようとした石からチカッと光が瞬くと、把握し直した自身の身体の感覚がまたしても狂い(弱体化解除)、何が起こったのか理解する前に、またしても―それもさっきよりも更に―自身の身体の感覚が最低ランクまで鈍る(三連続スクンダ)

 

 急激な感覚の変化に、精密な動きを取ろうとしていた反動が抑えきれずにとうとう地面へと膝が着き、キョトンとした顔で聞こえてきた雪乃の声の方へと眼を向けると

 

 

「…ざまみなさい」

 

 

 疲労困憊で倒れ伏し、中性的な少年に起こされて見えるその顔に、それでもなお爛々と輝く瞳と勝ち誇った笑みを称えた表情に

 

 

『…あ~あ、負けちゃった』

 

 

 自身の敗北を受け入れるのであった。

 

 

「弾着! 今!!!」

 

 

 材木座の叫びに合わせるよう、轟音と衝撃がハルノの身体を包み込んだ。

 

 

 




 ペルソナメモ
 雷の魔法が得意なペルソナ(シャドウ、悪魔)は大抵雷の耐性がある。氷なら氷、炎なら炎。ならば、心を読むのが得意な彼らのペルソナは、相互に耐性を持ち合うのが自然ではないだろうか。『サトリ』は心を読んでそれをストレートに利用する、『アマノジャク』は心を読んで正反対に利用する。素直なのか、捻くれてるのかの違いしかそこにはないのではないか? ならば、その心(ペルソナ)は同質と言っても構わないだろう。
 
 ところで、雪乃は自分の弱さを克服、八幡は開き直り、結衣は自分の弱さの受け入れ、材木座は自分の夢の再確認、戸塚は情けない自分への奮起、優美子は情けない自分を認め、沙希は物理、葉山は成り行きでペルソナを使えるようになっています。仲間はずれはだーれだ?

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