ガハマさんの件はひとまずこれで一段落なので今回はこれで終了です
溜めていた話が大分削れたので、ストックが10~15話くらいまで増えたら5話くらいで区切りの良い所まで毎日更新と言う形に変更します
今のストック?6話分しかないから当分先になります
4月13日(金)夕方 ザイモクザパレス
「ここがあの男のハウスね」
「言いたい事は分かるけれど、どうしていきなり気持ち悪い言葉遣いをしているのかしら。去勢されたいの? ごめんなさい、今ペーパーナイフしか持っていないから死ぬほど苦しいと思うわ。いえ、もしかしなくても死ぬわね、死んでくれる?」
「違うからね、サラッと男からの卒業どころか人生からの卒業まで進めないでくれる? まだ70年くらいは在籍してる予定だから」
モルガナが示した方向に真っすぐと進み、道中のピクシーやオンモラキ、ドワーフやカタキラウワと言ったシャドウは開幕『ガル』、シミターによる一撃で即座に塵になった。
言っていた通りに、
少し歩けば前方に天守閣のようなものが見えて来て、そこまで歩くことなく目的地に到着した。
水のはられていない堀、石垣の底から見て15~20m弱程だろうか。威容の在る天守がそびえたっている。
かけられた跳ね橋を渡り、開かれた門の前で呟いた一言に過剰反応する雪乃。落ち着いた様子ではある物の、余裕が持てている訳ではないのだろう。
なお余談だが、カタキラウワの伝承には股をくぐられると死ぬとか、性機能がダメになるとか言うのがある。
「緊張で動けねえよりはいいが、こっからは無駄口叩いてはいられねえぞ。
今までの森はあくまで余禄みたいなもんで、この城の中こそがザイモクザの心の中。防衛反応としてシャドウも多くなる。
これまでは一気に一匹しか出てこなかったが、複数出て来て不意を打たれたらフォローしきれねえ時もあるんだからな」
「それにしては堀とか橋とか、本来の城の防衛機能が何一つ動作してないのが疑問だがな。
俺に匹敵するレベルのぼっちなのに、何でこんなにオープンなんだよ。普通もっと閉ざされてしかるべきだろ」
「何かしらの理由があって入り口を閉ざしていない、とも考えられるわね。悪神の欠片に暴走させられていたとしても、奉仕部に来た彼には何か相談したい事があったのかもしれない。けれど、今は置いておきましょう」
「ま、考えるのは後でも出来るからな。それより、雪乃殿。さっき言ってたペーパーナイフは出せるか?」
「お前も俺を去勢しようとするのなら小町に動物病院に連れて行かせるからな。目には目を歯には歯を、やられたら10倍返しするから覚悟しとけ」
「ちげーよ!!」
がなりあう八幡とモルガナ。
それに取り合わず、ポケットに入れておいた刃物とも言えない刃物を取り出す。
「これがどうしたのかしら」
「よし、まぁ、無いよりましだな。ハチマン、お前はさっきから振り回してる棒を構えとけ。それがお前らの『武器』だ」
それ以上言及せずに「行くぜ」と合図で開かれていた門を潜り抜ける。
一歩取り残されそうになって、少しだけ躊躇していたが後に続き、二人とも門を抜ける。すると目の前に広がっていたのは
「ここは」
「学校、だな」
「色合いはどう言い繕っても趣味が良いとは言えないわね」
先までの日本然とした和風のテイストが綺麗に消え去り、代わりに展開されていたのは日常のテイスト。
普段から自分たちが通っている学び舎の姿が存在していた。
ただし、壁や教室の扉などの配色はカラフルでファンシーさを醸していて、一目で現実とは違うと分かる。
「幸先が良いな。おそらくここが結衣殿のフロアだ」
「なら、ここのどこかに居る由比ヶ浜さんを見つけて心の闇の暴走を止めればいいのね」
あまりの雰囲気の変貌に、この風景がこのパレスの主である材木座が主体となって作られたものではないと看破する。
ならばやることの優先順位は結衣の救出が最優先となる。
周囲をきょろきょろとみていた八幡が、窓の外に見える街の風景がぐちゃぐちゃに乱れて現実からかけ離れている様子で若干引いている。
「って、なんじゃこりゃ!」
「っ! 急に奇声を上げないでくれるかしら、心臓を止められるのがお望み…えっ」
驚愕の悲鳴をあげた事にビクンと身体を跳ねさせ、当人に文句をつけようとするが最後まで言い切る前に自分も戸惑ってしまう。
なぜなら、彼ら二人の手には門をくぐるまで持っていた物とは様変わりした『武器』が収まっていたのだから。
「雪乃殿はナイフ、いや短剣か。ある程度刃渡りもあるし、切れ味もよさそうだ。なにより握りのデザインセンスが良い! 流石雪乃殿だ!
で、ハチマンは棍だな。飾り気もねえ何ともシンプルな」
モルガナの言葉通りの、持ち歩いていたら銃砲刀剣類所持等取締法違反でしょっぴかれる物体があった。
「これも認知の効果なのかしら」
「話が早い。雪乃殿が持っていたペーパーナイフ、ハチマンが振り回してた棒切れ。
だが、ワガハイがそれを『武器』だと言った。んで、武器だと認識した、だから形が変化した。
ま、シャドウって脅威を前に立ち向かえる武器を求めていたって前提があるが、そう言う事だ」
ほえーと感心しながら手の中の物を玩ぶ。
怪盗団で活動していた際、パレスの中では本物と見間違う程の精巧なエアガンから実弾顔負けの威力でぶっ放していたのだ。それと比べればペーパーナイフの刃渡りが長くなって鋭利になるのも、棒切れが頑丈で長くなるのも些細な事だろう。
最低限の取り扱いはペルソナを通じて心の海から流れ込んでくるから、どう扱えばいいのか分からないと言う事も無い。
まぁ、棍だとか言っていても所詮は人類最古の武器、投石とか拳の同年代、棍棒と言えば扱いはシンプルだ。お隣の大陸のお猿さんが出てくるお伽噺のような取り回しなどは望めなくとも不自由など出るだろうか。
「シャドウも単体の強さはどうってことはねえから不慣れでもなんとかなるさ。広さが気になるが時間さえかければどうにでもなるな」
「若干ではあるけれど、廊下の先が霧がかったように霞んで見えるわね。物理法則が正常に作用していないのか、現実のような配置になっているなんて考え方だと足元をすくわれそうね。せめてどの方角に彼女が居るのか分かれば」
「多分あっちだな」
「え?」
急に手に入った武器から意識を戻す為、先の展望を口にする。
懸念を口に出した雪乃に被さるように八幡が指を指しながら告げる。
「…どうしてあなたに由比ヶ浜さんの居る場所が分かるのかしら。もしかしてストーカー?」
「ちげえし、知らねえよ…違うからな。なんかここに入った途端に、良く分かんねえ感覚が頭ん中に浮かんできて、ひときわ大きい違和感が二つ感じられたんだよ。いや、これは力のデカさ…?」
「アナライズの応用か、もしかしたらハチマンのペルソナの特徴かもしれねえな」
八幡のペルソナ『アマノジャク』の持つ魔法はタルンダ、ラクンダと言う人の足を引っ張るデバフだが、もう一つは対象を解析するアナライズ。
パレスを解析しておぼろげながらも周辺の地形や力の大小を把握できても不思議ではないと納得する。
もちろん、確実にそうといえるわけではないが今はその点を追及している場合じゃないのは共通認識だった。
「とにかく、ハチマンにはマッピングとナビを任せるぞ」
「あなたを水先案内人にするだなんてどこの冥界に繋がるか分からないけれど、その先に由比ヶ浜さんが居ると言うのなら飲み込みましょう」
「へいへい、六文銭が無くとも乗船拒否はしないから安心しろ」
軽口を叩きながら各々が得物を構え直して霧のように見づらい廊下を歩み始める。
「早速お出ましだ! ピクシー二体だ、武器の扱いに慣れろ!」
モルガナがフォローに待機しながら戦闘のイロハを教えてもらい
「あいつはちょっとお前らじゃキツイな。ワガハイのペルソナ捌きをよく見とけよ」
三日月の頭をしたザントマン(アナライズ結果Lv8)が出てくればペルソナ捌きと言う名のレベルの暴力を見せつけ
「すんすん。お宝の匂いだ! こっちか! 発見にゃはふふ~…エナドリ?」
「エナドリだな」
「どうしてこんなものが大仰な宝箱に?」
「さあ?」
「あっ、でも飲んだら体力は回復するな!」
「なんでいきなり飲んじゃってんの」
宝箱を察知して急にテンションが変わったりしながら、順調に踏破していった。
そうして八幡が二つあると言った大きな力の一つ、その手前の教室で小休止をしてから扉の前で息を整える。
扉の上には『フォウ死部』と書かれたプレートが掲げられている。奉仕部の書き損じか、どことなく人理継続保障機関とかに生息してそうな小動物を彷彿とさせる。マーリン死すべしフォ~ウ!
「この中に由比ヶ浜さんが居るのね」
「多分だからな。確実に居るとは俺は言ってないから、もし居なくても俺の責任じゃないからな」
「そこまで念を押さなくても、もし居なかったらまた探すだけさ」
「いや、もし居ないんだったら、由比ヶ浜の代わりにこの強い力を持ったシャドウが居る訳で…初級ダンジョンの隠し部屋に裏ボスが居るとかもお約束じゃん」
「行くわよ」
「あっ、ちょっ待って」
ビビり散らしているのを尻目に、さっさと扉をスライドさせて入室する。それに続き一歩遅れて教室に入る。
そこにはさっきまでの妙な色合いをした学校の廊下や、外側からみた日本の城のような景観ではなく普通の部屋が広がり、そこでのんびりとしている黒一色に染まった結衣が居た。
『あ~あ、来ちゃった』
「ここ、は。もしかして」
「由比ヶ浜の私室、か?」
『うん。そうだよ。アタシの部屋へようこそ。お茶でも飲む?』
暴走しているとは何だったのか、真っ黒に染まった結衣は何でもないように話しかける。
白い壁紙に、少し古ぼけた、だけど使っている気配を感じさせない勉強机。
反面、そこに座っている姿を幻視できる程にくたびれたクッションと、その近くに散らばる女性誌。
制服のままベッドに腰掛けて座る様に勧める姿に、一瞬、先までの非現実が本当に存在しなかったのではないかとすら思えてしまう。
「っ、おいモルガナが居ねえぞ!」
「モルガナちゃん?!」
『あっ、ヒッキーと一緒に居た猫はちょっと違う所に飛ばしたんだ。ほら、アタシ猫苦手だし。すごい強いっぽいし多少シャドウに囲まれても、一匹でも問題ないでしょ』
さらっと返って来た言葉に絶句する。
例えここが材木座を主とする心の闇の中であっても、それに準ずる力を行使できるのだと。
のほほんとした声色だが、それでも感じられるプレッシャーは全く減らない。
『それにお邪魔虫は居ない方が良いでしょ? ねえユキノン』
だが、続けられた言葉には隠そうともしない敵意と嫌悪で染まっていた。
「ゆい、がはまさん?」
闇に染まって、なお煌々と輝く瞳が強く雪乃を刺す。
『ほんとはヒッキーだけ入れるつもりだったんだけど、どうしてこうなっちゃうのかな』
「…俺に何か用があったのか」
『まぁ、用って言えば用、なのかな』
う~ん、と顎に指を当てて悩むが、すぐににぱっと笑う。
『ごめんね、ヒッキー。痛かったでしょ、辛かったでしょ。
だけど、もう大丈夫だよ。ここにはもう、ヒッキーを傷つけるモノはないから』
「は?」
そうして続けられた言葉に呆ける。
『でも、大丈夫。ここはアタシの中だから。もうヒッキーを傷つける理由は無くなったの!』
「何を言って」
『あれ? まだ分かってなかったのかな? ここはアタシの心の中。優しくできて、皆に好かれて、言いたい事も我慢しなくてよくて、ここに有る全部がアタシの心で、全部がアタシ。だから、ここに居るヒッキーもアタシの一部なんだよ!!』
ゾワリと結衣と対峙する二人の背中に寒気が走る。
『もう大丈夫だよ。アタシが全部から守ってあげる。アタシが全部を与えてあげる。本当はヒッキーだけでよかったけど、ヒッキーにとってユキノンも大切なんだね、お情けで入れてあげる。だけど、仲間はずれにはしないから、安心してね。だってもうアタシなんだから、アタシが自分を仲間はずれにする訳ないじゃん? じゃあ、最初は何しよっか? トランプ? ウノ? ゲームはちょっと持ってないからごめんね。あっ、ユキノン、お揃いの服とか着てみない? ヒッキーとユキノンのペルソナが似た格好してて良いなぁって思ったんだよね』
無邪気に、楽し気な声色で、完全に善意でもって。
致命的にずれた言動をする結衣に八幡は吐き気すら覚えた。
何に対して謝っているのか、誰に対して言っているのか、何を話題としているのか。
それすら曖昧で、飛躍する理解不能な存在にしか思えないと逃げ出したくなる。
だが、一方で結衣の言葉の一部が雪乃の琴線に触れた。
「おな、さけ?」
『あれ、どうしたの?』
ここで雪ノ下雪乃と言う女子の生態の一部を紹介しよう。
彼女は日々の努力で自身を高める事に余念は無いし、その努力を苦にしない秀才である。
更に、嘘が嫌いな性格をしていたり、猫が好きだったりするが、今は関係が無いので置いておこう。
重要なのは、彼女にはその努力に相応の高いプライドが存在している事だ。
「そこの男が誰かに受け入れられても、別にどうとも思わないけれど、私がその付録? お情けで、何かを与えられる?」
「ふざけないで」
『ひぅぅう!!?』
絶対零度の声で、むしろ、本当に冷気すら感じられるほどのプレッシャーが雪乃から溢れる。
八幡は前方の修羅、更に前方のUMAに走り去りたい気分だった。足が震える。モルガナけして走らず急いで歩いてきてそして早く俺を助けて、略してモスケテ。
「私は、私が望むものは自分から努力して手に入れるようにしてきたわ。なぜなら、施される物に価値を見出せないから。
勝手に与えられて、勝手に取り上げられる。そんな仮初にいったい何の価値があるのかしら」
『…それはユキノンが強いから言えるんだよ』
「だったら、あなたは強くあろうとしたの? そう努力したの?」
『頑張ったじゃん! あたしすごい頑張ったよ! 二人が何か秘密にしてるのも気付いてないふりして! 蚊帳の外にされても気にしてないようにふるまって! もっとちゃんと話してほしいのに踏み込まないようにして! だけど待っても言ってくれなかったじゃん!』
「あっ」
気付いていた。
何か共通の秘密がある事を。
自分には打ち明けてくれない事があるのだと。
気付かない訳が無かった。
だって、彼女は友達なのだ。
視線の先に何かあるなんて分かっていた。
それでも待とうと信じていた。
信じ続けようとしていた。
あまり待たされるのなら待っていないで踏み込もうとも思っていた。
出会ってからの時間が短いと言う事も関係なく、疎外感を覚え続けていたのがこの結果だった。
『ずるいじゃん…あたしがすっごい欲しくてたまらないモノをユキノンは当然のように持ってるんだもん。
アタシが我慢し続けないといけないなんて、それってすごいずるいじゃん』
それは小さな小さな不満。
由比ヶ浜結衣と言う少女の心の中に在るとしても100の内1程小さくなくとも3にも満たない小さな文句。
「…」
例えその秘密が彼女を積極的に巻き込まない為のものだとしても。
彼女との関係が心地よく離れがたいものだと思い始めていたからだとしても。
それでも彼女を蔑ろにしていたのは事実だった。
中途半端に秘密から遠ざけて。
中途半端に近づくのを良しとした。
そんなどっちつかずのスタンスが彼女に闇を芽ばえさせて、今回で無理矢理爆発させられた。
だからこそ、向けられた叫びに責任を取るべき二人は何も言葉を返す事が出来なかった。
『あたしに隠し事してもいいよ、全部アタシにしちゃうから。
あたしを遠ざけてもいいよ、絶対に離れてあげないから。
あたしと話さなくていいよ、アタシが話し続けるから』
言葉を吐き出す度、どろりどろりと結衣を取り巻く闇が膨らんでいく。
闇が大きくなる度、周囲の家具類がふわりふわりと浮かび始めていく。
覆われる闇の表面に無数の口が生えて、それぞれの口が奇声を発する。
金切り声を、ブツブツと、陽気な笑い声を、泣き声を、ケラケラと。
『だから二人ともアタシと一緒になろう?』
摂食過剰 ユイガハマユイ Lv1 ガ アラワレ
「ペルソナ『ライジン』! 『ジオ』!」
『キャーーーー!!』
「っておい」
そして体勢が整う直前に雪乃の魔法が直撃! アワレ、心の闇を纏いきる前に受けたせいで、ベッドの上に倒れ伏しただの黒く染まった結衣に戻る。
や、やった! さすが雪乃! 俺達に出来ないことを平然とやってのけるッ! そこに痺れている結衣がいるじゃろ?
変身バンク中は攻撃を待つのはお約束だろうが! そんな感じでがくんと力が抜ける。
ついでにポルターガイストのように浮かび上がり始めていた家具類が『あっ、おつかれっしたー』とぽとぽと落ちている。
「由比ヶ浜さん。私があなたをのけ者にして傷つけたことは、傷ついてしまう振る舞いをしてしまったのは謝るわ、ごめんなさい。
だけれど、それを理由に私は自分の存在理由を他者に依存したくないし、そんな私を私は許せない。だから、全力で、私の本気で、あなたを妨害させてもらったわ。
なにより、この男と一緒くたにされるなんて反吐が出るもの」
「最後の一言必要だった?」
『ず、ずるい』
ピクピクと痺れながらも、雪乃を涙目で睨み付ける。
ベッドの中で痙攣しながら涙目とか『ふぅ~ん、えっちじゃん』なんて内なる悪魔(アクマに非ず)が囁いている煩悩の塊が居たのは別の話。
「そう、私ってずるいのよ。綺麗な自分以外は見せたくないし、弱みを握るならまだしも握られるなんて鳥肌が立つ。強くて勉強が出来て料理も上手で容姿にも恵まれているわ」
「ほんとこいつ存在自体がチートだよな」
『なに、それ自慢?』
痺れて自由に動かない身体を何とか起こして、座り込む彼女の表情は暗い。
ふぁさ、と肩にかかる黒髪を払いのけて自信満々に宣言するのに、『醜態』をあらかじめ知っていた彼だけが続く言葉を理解して落ち着いている。
「切れていないおあげに味の濃すぎるお味噌汁。べちょべちょのお米。埃のまじったほうれん草のおひたし。メインのおかずの生姜焼きは炭になっていたわね」
『え?』
「私が初めて作った料理よ」
少しだけ頬を赤らめて、雪乃は過去の失敗を暴露した。
「泣きながら食べたわ。お父さんに喜んでもらおうって作ったのに、結局お父さんはその日のうちに帰ってこれなかったから、一口も食べてもらうことも出来ないで。
帰りを待ってるうちに完全に冷めて、まずさと寂しさでね」
「完璧超人な雪ノ下でもそう言う事があったんだな」
「何を勘違いしているのか知らないけれど、私は完璧なんかじゃないわ。ただ、人よりも呑み込みが早いだけ。本当に完璧というのは…いえ、今は関係が無いわね。
ともかく、あなたが羨むものは私が努力の末に手に入れた物であって、最初から上手く出来ていたわけではないわ」
その言葉は使い古されたような言葉。
だけど、それが雪乃の口から結衣へと告げられることに意味がある。
「あなたが私に嫉妬に似た感情を持っていたのだと理解したけれど、本当は私はあなたに憧れて貰えるほど大層な人間ではないのよ。不本意ながら、あなたのように心の闇に飲み込まれた時にそれを自覚したの」
少しだけ目線を結衣から別に向ける、一瞬だけだったが確かに視線は交わっていた。
スカートの裾をぎゅっと握りしめながら聞いていた結衣が身体も声も震わせながら声を出す。
『今からでも、間に合うかなぁ?』
その本旨をきっと理解していなかった。
だが、それは特に重要ではない。
「ええ。きっと」
『アタシ直ぐ流されちゃうの』
「流されていたら私がそう言ってあげる」
『嫉妬もしちゃう』
「道を外れなければいいだけでしょう」
『諦めないといけないのに、諦めらんないかも』
「諦めは人を殺すわ」
その問答は懺悔の様にも聞こえてきて、八幡はその場に居るだけで居た堪れなさを感じてきた。
それでも、目を離せなかった。
そうして結衣は酷く躊躇いながら言葉を続けた。
『………………ゆきのんを殺そうとしちゃった』
今にも泣きそうな声をしながら、顔を覆った。
その懺悔に対して、彼女はとある日に答えを告げていた。
だけど、それを今、彼女が口にするとは思っていなかった。
「知っている? 呪いって現行法上では因果関係を証明できないから有罪にはならないのよ」
『?』
「だから、こういうペルソナみたいな呪いの力にカテゴリされる物での犯罪は立証できない。なら、あなたがそれを気に病む必要はないのよ」
だってそれは、詭弁でしかないのだから。
『…その言い方、ヒッキーみたい』
「酷い侮辱ね。私のガラスのハートが酷く傷ついてしまったわ。これは誠心誠意、行動で償ってもらわないといけないわね」
『あたしも、ゆきのんのせいで大分傷ついたんだけど』
「そう。ならこれからは私も由比ヶ浜さんに誠心誠意、行動で償っていくわ」
『そっか…
「これからを許してくれないかしら」
ピシリ、紅く染まった瞳から暗い闇がひび割れる。
顔から順に皹が広がっていく。
ほんの刹那ではあったが、口元に広がった皹は少しだけ笑っているように見えた。
そう見えたのはきっと気のせいではないのだろう。
「『ごめん』なさい」
喧嘩した後は仲直りが待っているのだから。
全身に皹が回り、砕けた。
確固たる自身を見つけた彼女の背後には紅玉で染まった着物を着崩した童女がゆらりと佇んでいた。
感情を見せない為の硬質な仮面をかぶっているけれど、どこか上機嫌に見えた。
「よろしくね『ザシキワラシ』」
その時、八幡の頭に不思議な声が囁く
<汝は我、我は汝>
<我、新たなる繋がりを得たり>
<繋がりは即ち、前を向く支えとなる縁なり>
<我、恋愛のペルソナに一つの柱を見出したる>
ラッキーアイテムはともかく、選択肢なんて無く、素直になるもないままじゃねえか。
ノックダウンさせたのは雪ノ下だし、愛しいもクソもなく、終始俺部外者じゃん。
やっぱり占いなんてあてにならないもんだな、そう思ったのだった。
ペルソナメモ
ザシキワラシ(座敷童子)…家に住み着き悪戯をするが、子供と一緒に遊んだり、家に幸運をもたらすとも言われる。西洋風に言えば妖精(フェアリー)。
つまり、悪戯好きのピクシーや手助け好きブラウニー、家事好きシルキーと同一視出来るとも言える。また、余談ではあるが、日本人はその性質的に妖精と呼ばれたりもするとか
…地味な時の由比ヶ浜も日本人的な日本人とも言えるかもしれないね、その胸部装甲を除いて。最強ピクシーはメガテンのお約束だが、彼女に最強は難しいかもしれない。
アルカナ…恋愛
ステータス…念動、破魔、呪殺耐性。火炎弱点
初期スキル…サイ、癒しの風、浄化の雨
八幡と同じく、戦闘も出来なくはない探索型ペルソナ。全体を回復する癒しの風、状態異常を回復する浄化の雨と、味方へのサポートを主体とする。ただし、サポートをするには集中する必要があるので、本来は完全に安全圏で待機するのが必須となる。
結衣の性格の問題なのか、攻撃は珍しい念動属性の単体魔法のみ。雑魚の殲滅力は一切上がっていない。モルガナが過労死する前に全体攻撃はよ。
赤の着物を着崩した童女の様なペルソナ
恋愛のアルカナの正位置には『ときめきと情熱・充実した異性関係』逆位置には『失恋、心に振り回される』と言った意味が含まれる。
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