鎖影の庭   作:土斑猫

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【止まらずに】

 ーー此の禍々しき怪物は、地獄の業火に灼かれながら。

 それでも、天国に憧れるーー。

 

 ◆

 

「ブルボンさん!」

「介入しないでください!」

 思わず立ち上がったゼンノロブロイを、ミホノブルボンの強い声が制した。

「……申し訳ありません」

 ビクリと固まるゼンノロブロイに謝り、そして続ける。

「ですが、此れは私とライスの……いいえ、『私』の問題です。介入は、拒否します」

「で、でも……」

 食い下がるゼンノロブロイには目を向ける事なく。

「……私は、ライスを守ると約束しました。けれど、その約束をクリアする事が出来ませんでした」

 向ける先は、薄笑みを浮かべるライスシャワーの形をしたモノ。自身の咎の具現。

「だから、私は今度こそ遂行しなければなりません。ライスを取り戻すと言う、使命(ミッション)を。そう、例え……」

 

 何を代償にしようとも。

 

 言葉の意味に息を飲むゼンノロブロイと対象に、ライスシャワーの姿をした彼女は破顔する。

 とてもとても。嬉しそうに。

「アハハ! それじゃあブルボンさん、ライスの言う通りにしてくれるんだね?」

「……確認します。それをクリアすれば、ライスが戻ってくる事は、確定事項なのですね?」

「『ライス』は嘘なんてつかないよ。特に、ブルボンさんには絶対」

「……分かりました」

 ミホノブルボンが頷くと同時に、ゼンノロブロイは飛び出した。

 絶対に、止めなければならなかったから。

 確かに、ライスシャワーは大事な親友で。

 囚われたままになんて、しておけないけれど。

 だからって、その対価にミホノブルボンが犠牲になるなど論外。

 彼女達、どちらも欠けてはいけない。

 そんなのは、絶対に嫌だ。

 けれど。

 彼女が駆け寄る前に、偽ライスが何かを投げた。

 飛んで来たモノが、あの短剣だと気付くと同時。その切先がゼンノロブロイの鳩尾にめり込んだ。

「かふっ!?」

「ロブロイさん!?」

 突き抜けた衝撃に苦悶の声を上げ、崩れ落ちる。

 イミテーションとは言え、それなりの重量も硬さもある。それが、ウマ娘の膂力を持って急所に叩き付けられた。

 頑強なウマ娘の身体であっても、挫くには十分に過ぎる。

 床に転がり、腹を押さえて悶絶するゼンノロブロイ。駆け寄ろうとしたミホノブルボンの身体が、ガクンと止まる。

 彼女の腕を、偽ライスの手が掴んでいた。

「駄目だよ、ブルボンさん。ブルボンさんは、もうライスのモノなんだから。他の女の子なんて見ちゃ、駄目」

「! ……貴女は!?」

「見るのやめてくれないなら、見ても意味無い様にしちゃうよ? ロブロイさんの事」

「……!」

 悪びれの無い、だからこそ恐ろしい本気の意志。察したミホノブルボンは抵抗を止める。

「うふふ、協力してくれてありがとう。ロブロイさん」

 ミホノブルボンに抱き付きながら、そんな事を。苦悶の中、ゼンノロブロイは悟る。

 彼女が自分を介入出来る場所に置いたのは、この為。

 自分を人質とする事で、ミホノブルボンの抵抗を封じる為。

 迂闊としか、言い様が無かった。

 少し考えれば、思い至れる可能性。けれど、つけ込まれた。本物のライスシャワーを助ける鍵が掴めるかも知れないと言う可能性と、何より親友そのままの顔形に絆されて。

 身に降りかかり、初めて実感する。

 そっくりさんと言う化け物が、友人の姿と言う武器を悪意を持って繰る恐ろしさ。

 分かっていた筈なのに。

 言葉でも。

 理屈でも。

「グズグスしてたら、また邪魔が入っちゃうね。早く済ませちゃおうか。ブルボンさん?」

 偽ライスが笑う。

 まるで、何気ない日常に恋人を誘う様に。

「……図書室(ここ)では、拒否します」

「どうして?」

「図書室(ここ)は、ライスとロブロイさんの大切な場所です。汚したくはありません」

 ミホノブルボンの言葉にキョトンとして、何を心配してるかに気が付いて。また笑った。

「アハハ、大丈夫だよ。血なんて出ないよ? 何なら、『身体』だって遺らない」

「……どう言う事です?」

「言ったでしょ? ライスはブルボンさんの全部が欲しいの。ライスのじゃない世界(ここ)になんか、欠片だって遺してあげない。全部全部、持って逝くの」

 得体の知れぬ、けれど怖さだけが募る声を歌いながら。偽ライスは卓の上に開いてあった本を手に取る。

「ブルボンさん、『コレ』分かる?」

「ソレは……」

 良く知る本だった。

 異国の絵本。

 ライスシャワーのお気に入り。

 ファインモーションの、寄贈品。

 そして、恐らくは。

「そうだよ。『プーカが入ってた絵本』。全部、ファインさまがコレを手に取った時に始まったの」

「!」

 つまりは、今の災禍全ての種。

 ライスシャワーと共に眺めた時には唯の絵本だったソレが、今は酷く禍しく見える。

「ここ」

 開いたページを、ミホノブルボンに向かって晒す。

 何も描かれていない。否、古びてセピアに変色した紙面の中にわざとらしく形を残す白い跡。明らかな人型の下に書かれた文字は。

 

 ーー『púca』ーー。

 

「そうだよ。プーカはこのページに閉じ込められていたの」

 ゴクリと息を飲むミホノブルボンを見て、楽しそうに。

「見ての通り、もう此処にプーカはいない。空っぽだよ。だから……」

 

 ライスとブルボンさんが、この中に入るの。

 

 しばし、間の抜けた時間が流れた。

「……意味を、理解しかねます」

「言ったまんま。ライスとブルボンさんで、この絵本の一ページになろう?」

 笑いながらも、真剣な声。

「分かるよね? この本は、普通の本じゃないよ? プーカを捉えてた、牢獄。そして、その檻は今は空っぽ。寂しがってるから、望めば受け入れてくれる」

 ページを開いたまま、卓の上に置き。

「『ライス』が戻る条件は、ライスが『この世界』からいなくなる事。だから、ライスは本の世界って言う別の世界のモノになる。大好きな絵本に閉じ込められて、ずっとずっと在り続けるの。プーカみたいに」

 夢を語るに蕩けた瞳には、確かな狂気の色。

「でも、一人じゃ寂しいから……」

 伸びて来た手が、絡む様に重なって。

「ブルボンさんも、一緒だよ? ずっと、ずっと、永遠に」

 戯言では無い。

 そも、彼女自体が人智外のモノで。

 その彼女が言う事ならば、それは確かな事象なのだろう。

 恐怖はある。

 当たり前。

 終わりは怖い。

 同じ様に、未知も怖い。

 そんな怖い終わりが、怖い未知に飲み込まれると言う形で訪れる。

 二冠バだ、サイボーグだと世間に強い面ばかりが強調されるとも。

 ミホノブルボンとて、本質はまだ人の道も浅き小娘に過ぎない。

 怖いモノは、怖い。

 まして、ソレが欲するのが己の命とも

 逃げたいと思った。

 何もかも投げ出して。

 それでも。

(……ライスさん……)

 

 捨てる事なんて、出来ないモノがある。

 

「……どうすれば、良いのでしょう?」

 魔性の瞳が歓喜に瞬き、振り絞ったゼンノロブロイの叫びは遠く。

「こうするの」

 偽ライスが背後に回り、細い腰を抱く。

「うふふ、良い香り……」

 ミホノブルボンの命を満喫しながら、彼女の手を掴んで導く先は白痴のページ。

「手を置いて。学園(此処)はもう、プーカの手の中。現と夢の境は曖昧。扉に触れて願えば、求める門は開くの」

 言われるままに、ページに手を置く。

 偽ライスが、何かを呟く。

 途端。

「!」

 目の前に広がった光景に、息を飲む。

 薄っすらと想像していた、牢獄の光景ではなく。

 広い、一目では限りが見えない程に広い空間。否、『世界』。

 宵闇の昏さと、揺蕩う白霧。その向こうに見えた建物の影に、再度驚いた。

「トレセン学園……?」

「トレセン学園だけど、トレセン学園じゃない」

 背後で囁く声。

「アレは『庭』だよ。ライス達と同じ、トレセンの影から造られたそっくりさん」

 庭?

 ではアレが、タキオンが言っていた『鎖影の庭』? ならば、ライスはあそこに。

 けれど、何故。

「そう。『ライス』は、嘘はつかない」

 後ろで、彼女が呟く。

「でも、ライスは『ライス』じゃない」

「!?」

 強く、背中が押された。

 突かれた不意。堪える事もままならず、つんのめる。

 『庭』の、領域へ。

 踏み込んだ瞬間、誰かとすれ違う感覚。

 

「案内(ナビゲート)は此処までです。後は、貴女方次第です」

 

 囁いたのは、余りにも知り過ぎる声。

 振り向いた目の前で、『扉』は閉まった。

 

「え……な……?」

 ようやく立ち上がったゼンノロブロイは、困惑の声を洩らす。

 目の前には、ライスシャワーの姿をした彼女が一人。

 共にいた筈の、ミホノブルボンの姿は無い。

 本は閉じられていた。

 偽ライスの手によって。

「ブルボンさん、は……?」

「行っちゃったよ」

 震える問いに、彼女はそう答えた。

「『向こう』に、行っちゃった」

 言葉の意味が脳漿に溶けるにつれて、身体の震えは増して来る。

「向こう……って……?」

「聞いてたよね?」

 分かっている。けれど、それなら。

「じゃあ……何で、貴女……は……?」

「最初から、行く気無かったよ? ライス」

「な……!?」

 乾き切った喉が、引き攣れる。

「だって……だって、嘘はつかないって!?」

「ライスは、『ライス』じゃないもの」

 鈍器で殴られる様な衝撃。

「どうして、そんな顔するの?」

 強張るゼンノロブロイを、冷ややかに見て。

 

「ライスを『ライス』って認めてくれないのは、貴女達なのに」

 

「ーーーーっ!!」

 思わず掴み掛かろうとした肩を、誰かが掴んだ。そのまま、投げ捨てられて転がる。

 巻き込んだ椅子や机の中から、痛みに声を詰まらせて上げた視線。映った姿に、また息を飲む。

「ブルボン……さん……?」

 憐れむ様な眼差しを向けて来る彼女は、紛れも無く消えた筈のミホノブルボン。

 けれど。

 違う。

 彼女が身に纏う違和感。隣に立つ偽ライスと同じモノ。

「ブルボンさんの……そっくりさん……?」

「そのアンサーを、肯定します」

 誤魔化しもしない態度に、再びの悪寒。

「ど、どうして……?」

「分かってる筈だよ?」

 偽ライスが、答える。

「世界に在れる個人は一人だけ。だから、オリジナルとそっくりさん(ライス達)はどちらかしか世界(此処)には居れない。オリジナルが戻るには、そっくりさん(ライス達)が消えなきゃならない。そして、そっくりさん(ライス達)がこっちに来るには……」

 

 オリジナルが、居なくなれば良い。

 

「ーーーーっ!!」

 愕然とするゼンノロブロイの前で、偽ライスは偽ブルボンに見を寄せる。

「どんなに想ったって、オリジナルのブルボンさんが想うのは『ライス』だけだもの。それなら、ライスもこっちのブルボンさんと番うの。おかしい事は、無いよね?」

「……あ、貴女は……貴女達は……!」

 気が狂いそうな程の怒りと嘔吐しそうな嫌悪に身を震わせながら、ゼンノロブロイは絞り出す。

「ーー化け物っ!!」

 迸った叫びに、偽ライスの肩がピクリと震える。

「貴女達は、やっぱり化け物……ウマ娘の形をした怪物です! こんな……こんな酷い事……」

 

 私は、絶対に許さない……!

 

 きっと、残りの人生でこれ程の憎悪を抱く事はもう有り得ない。

 自分達を睨むゼンノロブロイを見て、ミホノブルボンの姿の彼女が口を開いた。

「その目、諦めてはいないと理解します」

 眼鏡の奥で涙に濡れて、それでも輝きを失わず己らを見つめる眼差しに。安堵した様な声で。

「ならば、信じてください」

「今更、何を!?」

「『私達』ではありません」

 激昂しかけた声を遮って。

「信じるのは、『貴女の』ライスシャワーとミホノブルボンです」

「……え?」

 意を図りかねるゼンノロブロイに、偽ブルボンは背を向ける。

「行きましょう、ライス」

「うん。ブルボンさん」

 頷いた偽ライスが、肩越しにゼンノロブロイを見る。

「ねえ、ロブロイさん。貴女の言った通りだよ」

 届いた声は、妙に澄んでいて。

「ライス達は怪物だ。ウマ娘(貴女達)の澱から引っ張り出された、影の怪物。そんな在り方しか知らないし、出来ない。だけど……」

 ほんの少し、息を溜めて。

「禍々しき怪物は、地獄の業火に灼かれながら。それでも、天国に憧れるんだよ?」

 小説『オペラ座の怪人』の一説。悲しき怪人(ファントム)の言葉。

 呆気に取られるゼンノロブロイに寂しげに微笑んで、待っていた偽ブルボンに腕を絡める。

 仮初めの。それでも求め合いながら部屋を出て行く二人の姿を、ゼンノロブロイはただただ見送るだけだった。

 

 ◆

 

 廊下に出てしばし。偽ブルボンが不意に足を止めた。『どうしたの?』と言いかけた偽ライスも、すぐに気付く。

 行手の先。

 朝焼けの色のまま静止した世界の中に、誰かが立っていた。

「……見てたの? ずっと?」

 

ーー見てはおらぬ。観てはいたーー。

 

 偽ライスの問いに『彼女』が返した声は、良く知ってはいるが知らぬ声。

 言葉の意味も響きも、妙に『浮いて』いる。

「なら、どうだった? 満足、した?」

 

ーー汝らの成したるに、不足は在らず。故、謝意を示すーー。

 

 聞いた偽ブルボンが言う。

「返答を、ミッションの評価と受け取ります。従って報酬を要求させていただきます」

 

ーー然りーー。

 

 頷く声が、法(のり)を説く。

 

ーー是より、汝らの在は他なる者の意の外となる。誰も関わらぬ。介入せぬ。意に止めぬ。汝らから、説かぬ限りはーー。

 

「……重畳です。これで、私達は誰に脅かされる事も無く……」

 残りの時間を、愉しめる。

 言葉とは合わない、寂しげな声が呟いた。

「……凄いんだね……」

 偽ライスが、『彼女』を見つめ。

「そんな事が出来るのに、何で皆を助けてくれないの?」

 確かな非難の響きで、そう問うた。

 

ーー其が、世の摂理なればーー。

 

 返す聲は、淡々と。

 

ーー我らの成すは、恵に非ず。等価の交換によりて生ぜし対価なればーー。

 

「今回の事も?」

 

ーー然りーー。

 

「……『彼女』の為では無いと?」

 

ーー然りーー。

 

 聲は、微塵も揺るがない。

 ただ、真理を説くばかり。

 

ーー此な娘は、対価として己が生の一欠けを捧げた。我は、其に対して此度を成した。其だけの事ーー。

 

「……冷たいんだね。その子は、あんなに『貴方』の事を信じているのに」

 

ーー此な娘が望むは、汝が姉女(あねびと)の御影を通せし我である。其で良い。我が聲を直に受けば、人は壊るる。正気では、おれぬ。所詮ーー。

 

ーー『神』は、『魔』の異面に過ぎぬのだからーー。

 

 ゾクリと這う悪寒。

 強張る彼女らに、『彼女』はなお説く。

 

ーー救いを祈るな。恵を求むな。心せよ。迂闊に唱え、神が受ければ。必ずや対価は奪われる。魔との契約。其と等しく。転じて言わば、対価を捧ぐと約定すればこそーー。

 

ーー神(我ら)は、道を示すのだーー。

 

「……誘ってるの?」

 

ーー神(我ら)は此より障るは叶わず。其を成す同胞(はらから)をーー。

 

ーー『魔』と呼ぶのだーー。

 

 シンと鎮まる空気。

 やがて、偽ライスが確かめる様に。

「なら、貴方はもうライス達には関わらないんだね?」

 

ーー汝らが、望まぬならばーー。

 

「望む事なんて、無いよ」

 言って、隣の偽ブルボンの腕を取る。

「行こう。もう、邪魔は入らないよ。楽しもう。『終わる』まで。二人っきりで」

「……ええ」

 歩き出した二人が、『彼女』の横を通り過ぎる。互いを、振り返る事もせず。

 

「では、まずは何をしましょうか?」

「そうだね……。じゃあ、レースをしようよ!」

「レース、ですか?」

「そう。二人で、『あの時』みたいに」

「あの時……了解しました。それでは、私も勝負服にチェンジいたします」

「ああ! 良いね、ソレ! とっても素敵!」

 

 無邪気に虚なはしゃぎ声が、遠く遠くへ。

 

 夢をなぞろう。

 録画されただけの記録映像。

 それでも、きっと。

 泡沫の夢には、十分だから。

 

ーー望むであろーー?

 

 振り返らずに、『彼女』は説く。

 

ーー汝らの其の歩もまた、望みあるが故であるーー。

 

ーー望みは、限り有るモノの特権であるーー。

 

ーー望み叶うには、対価が必然ーー。

 

「あれぇ? フクキタルじゃん!」

 かけられた声に、マチカネフクキタルは振り返る。

「これはこれは、テイオーさん。如何なさいましたでしょうか?」

「え、ああ、うん」

 満面の笑顔で応じられ、ちょっと引くトウカイテイオー。けど、すぐに気を取り直し。

「ちょっと、図書室に用があるんだけど……開いてるかなぁ……って」

「おお! ソレは良い縁の巡り!」

 パンと手を打って、またニコリ。

「丁度、開いておられる様ですよ? ロブロイさんも居られます。他にお客様もいらっしゃらない様ですし、きっと良くしてくれましょう!」

「……そうなの?」

 己の言葉に何か不安を覚えた様に問う少女に、いつもの瞳の星とは違う輝きを向け。

「ええ。貴女が、その足を止める事さえしなければ」

 と告げた。

「……そっか」

 トウカイテイオーは何かを得心した様に頷くと、『ありがとう』と頭を下げる。

「いいえいいえ。どういたしまして!」

 笑うマチカネフクキタルに、微笑み返して。トウカイテイオーの姿の彼女は歩き出す。

 その顔に、確かな決意の彩を浮かべて。

 言われたままに、足を止める事無く。

 

ーー望みに飢えるは、生けし者の特権なればーー。

 

 歩む背中を見送りながら、己が巫女の口を借りてかの者は謳う。

 

ーーなれば足掻け。足掻いて魅せよ。其こそが汝らが命の対価ーー。

 

 小さくなる背中は、変わらず儚く。

 虚ではあるが。

 

ーー術は与えぬ。救いは能わず。されど、『道』は示そう。其が筋の果て、見出すを得るは汝ら次第ーー。

 

 満ちる命を見据える目に彩は無く。

 望むは其を彩る在り方のみ。

 其の鮮やかなるをただ想い。

 

ーー足掻けよ。魅せよ。弱く愚かしきウマ娘(愛子)共よーー。

 

 シラオキの神は、ただただ法(のり)が謳うそのままに。

 

 ◆

 

 視界を覆っていた霧が、道を開ける様に流れた。

「これは……」

 開けた目線の先。顕に見える、校舎の影。

「……『行け』と言う事ですか?」

 頷く様に、揺れる霧。

 その奥で、あの娘の声が聞こえた気がして。

 ああ、そうかと理解した。

「了解しました。ミッションを、開始します」

 そして、ミホノブルボンもまた歩き出す。

 想う人と、己自身の命を示す為。

 止まる事無く。

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