鎖影の庭   作:土斑猫

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【キミに願いを】

「ふんぎゃろ〜もんがろ〜ふんがろ〜」

 カーテンを閉めた薄暗い部屋の中。淡く輝く水晶玉。その光を見つめながら、メイショウドトウは親友が唱える珍妙な呪文に耳を傾けていた。

 ここは、マチカネフクキタルの部屋。ルームメイトのマチカネタンホイザと何故かいるテイエムオペラオーが見つめる中で、メイショウドトウは占いを受けていた。

 悩みがある。

 悩みに悩みに悩み抜いたけれど、答えに辿り着く事は今だ叶わず。もはやコレまでと行き着いたのは神頼み。

 相も変わらずと思われ様と、此度ばかりは。

 自分の事なら構わない。

 と言うか、寧ろそうである方が気持ちは楽に違いない。

 己の不幸など、心持ち次第で幾らでも飲み込めよう。元より高位のネガティヴ娘。そんなもの、慣れっこで通常運転。弱音は吐けど、何だかんだでやり過ごす自信はある。乗り越えるんじゃないんかい!? とか突っ込まれそうな気もするが、言わないで欲しいいつもソレじゃ疲れるのだ。そんな奮闘は年に1、2回で十分なのだ。健康、大事。ストレス、フリー。

 とにかく、今回の問題は自身の事ではなく。

 彼女の事。

 日に日に病んで、疲弊していくのが分かる。

 我慢出来なくなって報告したら、結果として生徒会との衝突を招いてしまった。

 生徒会の配慮で表沙汰にはならずに済んだけど、このままではいずれまた。

 こんな事、絶対におかしい。

 あの人は怖いけど優しい人で。

 鬱陶しそうな顔をしながら、助けて欲しい時には必ず手を差し伸べてくれる人。

 こんな形で、台無しになってはいけない人。

 どうにかしたい。

 どうにかしたいけど、どうすればいいか分からない。

 否、分からない訳じゃない。

 知っている。

 自分や生徒会じゃ届かないけど。必ず届いてくれる人がいる。

 けれど、その人も今は難しい立場にあって。

 それを理解しているからこその、彼女の今の有り様であって。

 果たしてそこに、ノコノコ割り込んで良いのだろうか。

 何の責任を負う事も叶わない、自分なぞが。

 出口の見えない苦悩のループ。彷徨いながら歩いていると、テイエムオペラオーと行き合った。

 一目で何かを察したのだろう。

 彼女はメイショウドトウを捕まえると、そのまま引っ張って行った。

 二人を見たマチカネフクキタルも待っていたかの様に素早く準備を整えて、今に至る。

「……一目で、かぁ……」

 占いの様子を眺めていたマチカネタンホイザが、隣のテイエムオペラオーをチラリと見る。

「その割には、随分とお仕事が早くありませんかー? オペラオーさん」

 ニヤリと笑む様を見て、『あー、やっぱり』と此方もニヤリ。

「全部、お二人の仕込みですかー」

 メイショウドトウには聞こえない様に、ズバリ。もっとも、本人は占いに見入っててそもそも聞こえそうにないが。

「ドトウはボクにとって唯一無二の好敵手(ライバル)だからね。その彼女がボク以外の女性で頭がいっぱいだなんて、何とも癪に触るじゃないか?」

「ほうほう、それはそれは。何とも独占欲が強いですなぁ」

「何の事かな? ボクはライバルには常に万全でいて欲しいだけさ。いつでも、舞台の相手を務めて貰える様にね」

「左様ですかー」

 彼女なりの照れ隠しなのは見え見えなので、適当に合わせておく。その通り。ドトウの親友である彼女やマチカネフクキタルが今の有り様を放置する筈もない。

「ボクやフクキタルさんが口を出そうかとも思ったのだけどね。多分ソレはソレでボク達を巻き込んでしまったと思われてしまう恐れがあるからね」

 あー、ありそうだな……と言うか、あるな。と納得する。

 そんな事を気にする皆じゃないと分かってはいようが、その過剰な思いやりも彼女達のまた良い所。

「なら、やっぱり自分で踏み出した方が良いと思ってね。一芝居……と言う程のモノではないけれど図らせて貰った訳さ」

「ふんぎゃろ! 出ました!」

 言葉に合わせる様に飛んで来た〆の声。身を乗り出すメイショウドトウ。

「ど、どうなのでしょう? フクキタルさん……」

「はい、シラオキ様のお言葉によりますと……」

 煌めく水晶玉に手をかざしながら、神妙な顔で告げる。

「ドトウさん。貴女が介入する事で、あのお二人は大変な危機に陥る事になるでしょう」

「ひぃ!?」

 悲痛な声が上がる。

「そ、そんなぁ! 救いは!? 救いは無いのですかぁ!??」

「ただし!」

 お目々をグルグルしながら詰め寄るメイショウドトウを押し留め、続ける。

「それは、お二人が次のステージに進む為。越える事が必然となるモノです。乗り越えずして先は無い……」

 覗く水晶の中の宇宙。星読みの意思。

 受け取った導を、友の元へ。

「つまりはドトウさん! 貴女の介入無くしては、お二人は其処に辿り着く事も叶わないのです!」

 ドジャーンと突き付ける指。

 ガーンと衝撃。

「な、何と言う事でしょう……!」

「結論を言ってしまえば、問題はただ一つ。ドトウさんがお二人を信じられるかどうかなのです。さあ、どうです?」

 顔を寄せるフクキタル。

 彼女の星の瞳に映る自分。ジッと見つめて。

「わ、分かりました!」

 意を決した様に頷き、立ち上がる。

「私は、お二人を信じますぅ! 私より、ずっと強いあのお二人なら、必ず!!」

 その勢いのまま飛び出して行こうとするメイショウドトウをテイエムオペラオーが呼び止める。振り返る彼女に、キラリと笑いかけ。

「次のレースでの勝負、楽しみにしているよ。全力万全で挑んできたまえ。My favourites!」

 ビッと立てる親指に、満面の笑顔で頷いて。

「はい!」

 と返事して、名前の通り怒涛の勢いで飛び出して行った。

「あ〜やれやれ、一時はどうなるかと思ったよー」

 見送ったマチカネタンホイザ、安堵の息を漏らす。

「あんな事言うんだもん、シラオキ様も人?がわるいよねー」

「あ、アレ。シラオキ様のお言葉じゃないですよ?」

「何て!?」

 マチカネフクキタルの台詞に、ビックリするタンホイザ。

「ああ、やっぱり。アレは君自身の言葉だね? フクキタルさん」

「ハイ、シラオキ様にそう言われましたので」

「ほわぁああっと!!?」

 さも当たり前の様に言葉のキャッチボール始めるテイエムオペラオーとマチカネフクキタルに置いてけぼり食らってまた絶叫。

「いやいや、チョイ待って! どう言う事ナンデス!?」

「いや、ですからね。確かにシラオキ様にお伺いは立てたのですが、御告げはこうだったのです。『汝の望みの通りに』と。だから、さっきの言葉はほぼほぼ私が練ったモノです」

「で、でもソレじゃあ……」

「シラオキ様の御告げの通りにしたんだ。騙した事にはならないさ」

 テンパるマチカネタンホイザの肩を叩くテイエムオペラオー。

「神話に宗教。大抵の神は好き勝手に人生に介入してメチャクチャにしてしまうモノだけど、シラオキ様は自分よりも友人であるフクキタルさんの言葉の方が相応しいと言ってくれた……」

 マチカネフクキタルの水晶玉に、敬意を示す様に一礼。

「一介のウマ娘も、自分の巫女も大事にする良い神様だよ」

「まあ。コレで上手くいかなかったら、わたしが責任取らなきゃですけどね〜」

 大事な存在を称えられた嬉しさにニヤけながら、そんな事を言うマチカネフクキタルの肩を、テイエムオペラオーが叩く。

「その時は、ボクも一緒さ。ここまで連んだんだ。今さら仲間外れは無しだよ」

 『ソレは残念』などと言って笑い合う二人の背後から、ジットリとした視線。

「あの〜、私の事忘れてませんか〜?」

 不満この上無いと言った顔のマチカネタンホイザ。

「いや、でもキミは……」

「いやいやいや、ここまで巻き込んどいて今更関係ナッシングはそれこそナッシングでしょ〜よ? 問答無用、がっつり組ませて貰います。むん!」

 ビシッと言い切り、さらにヌフフと笑んで。

「ソレに、戦犯が多い程お沙汰はやり辛くなると言うモノではなくて?」

「ああ、成程」

 聞いたマチカネフクキタルも、ニカリと笑って悪い顔。

「お主も、ワルよの〜」

「いえいえ、お代官様には及びませぬ〜」

 そんな二人を愛しげに見つめながら、テイエムオペラオーは耳を澄ます。

 遠くからは、愛するライバルが怒涛の勢いで走る音。

 願わくば、キミの思いが彼女達にも届く事を。

 でまあ、ダメだったらやっぱり自分が出て行こうとかはまだ思ってたり。我が愛いライバルの美しい願いを不意にするなぞ、大罪にも程があると言うモノなので。

(その時は、先輩とて容赦はしない。覚悟しておきたまえ。シャカールさん、ファインさん) 

 などとコッチも大概悪い事を考えていると。

 ドンガラガッチャーン!

 デッカイ音と悲鳴。

「……転んだみたいだね」

 ドッタンガラゴロ!!

 別の音と悲鳴(二度目)

「そのまま階段に突っ込んだ様です」

 ドベッシャーン!!!

 ry,

 ついでに別の誰かさん(多分、リトルココン)の悲鳴。

「……巻き込んだね」

 必死に謝る声と、沈黙する被害者に呼びかける悲痛な声(多分、ビターグラッセ)を聞きながら。

(……やっぱり、大丈夫かな……?)

 てな感じで一つになる皆の心。

 

「救いは! 救いはないのですかー!?」

 

 ◆

 

「タキオンしゃん!」

「タキオン!」

「タキオンさん!」

「おや?、デジタル君にスイープ君にスカーレット君。珍しい組み合わせじゃないか。どうしたんだい?」

 一斉に部屋に雪崩れ込んで来た三人を見て、アグネスタキオンは彼女としては珍しく、ちょっとだけ目を丸くした。

「ああ、良かった! ご無事でしたか!?」

「無事、とは?」

 アグネスデジタルの言葉に、小首を傾げる。

「だってほら、昨夜は寮室にお帰りにならなかったじゃないですか!? どうしたのかなーって思ってたら不審者騒ぎなんて起こっちゃって! だからまさか何かあったんじゃないかと……!」

 捲し立てるアグネスデジタルと、ウンウンと頷く他二人。

「ああ、成程……」

 事情を察して笑う。

「いや、心配かけて済まなかった。ご覧の通り、私は無事だよ。昨夜はちょっと事情があってね。マンハッタンカフェと二人、此処で夜明かししたのさ」

「な、ナンデスと!? 推しカプが個室で一夜を!!?」

 即時起動するは、デジタルの中の存在しない記憶製造機。

 脳内で流れ出す、お耽美なメロディー。

 

……霧の向こうで月が咽ぶ深夜。

 静まり返った研究室の中、唐突に響く甲高い破砕音。

 手に紅茶のカップを持ったアグネスタキオンが、物憂げな眼差しを其方に向ける。

 其処には、手にしていたコーヒーカップを落としたマンハッタンカフェの姿。

「どうしたのかな? 君がコーヒーを粗雑に扱かうとは、随分と珍しいじゃないか」

 しかし、当のマンハッタンカフェにアグネスタキオンの皮肉に答える余裕は無かった。

 震える手で跳ね踊る心臓を抑えながら、霞む眼差しで見下ろすアグネスタキオンを睨む。

「……タキオン、さん……何か……コーヒーに……?」

 向けられた問いに、妖しい笑みで返す。

「ああ、心配しなくて良い。そう難しい代物じゃない。少しばかり、肉体的欲求が強くなるだけの代物さ」

 意味を察し、マンハッタンカフェは戦慄く。

「どうして……そんな事……?」

「どうして? 決まっているじゃないか」

 空にしたカップを置くと、アグネスタキオンはソファの上から動けないマンハッタンカフェに歩み寄る。

 腰を屈めて視線を合わせると、彼女の長く艶やかな黒髪を一房無造作に手に取る。

「ひ……!」

 小さく漏れる喘ぎ。

 薬で異常に敏感になった神経は、そんな些細な挙動にすら強い反応を促す。

「ああ、実に良い具合に染まっているね」

 そう言ってほくそ笑むと、アグネスタキオンは手にした髪を己の唇で舐める様に愛撫する。

「理由なんて、決まっているだろう? この長く無意な夜を、せめても有意義なモノにする為さ」

 白衣の袖が、マンハッタンカフェの胸を押す。弛緩した身体は、それだけで容易くソファの上に転がった。

「あ……ダメです……」

 覆い被さってくるアグネスタキオンを、押しのけようとするマンハッタンカフェ。けれど、薬に犯され切った力は余りに儚い。

「やめて、ください……私は……こんな……」

「ふぅん?」

 白い首筋に舌を這わせながら、アグネスタキオンは笑う。

「それなら、逆に聞こうか? カフェ」

「……?」

「そこまで拒むなら、君は何故あのコーヒーを飲んだんだい?」

「……え……?」

 戸惑うマンハッタンカフェの顔すれすれに、アグネスタキオンは己の顔を寄せる。

「あの薬は確かに無味ではあるが、無臭ではなかった」

「!」

 強張る身体が、ビクリと震える。

「コーヒーを愛する君が、その違和感に気づかない筈は無いと思うが? 否、それ以前に。私を熟知している筈の君が、何故この状況で何の警戒もせずに私が煎れたコーヒーを受け入れたのかな?」

「そ……それは……」

 答えられない。それが、答え。

 満足気に顔を歪め、アグネスタキオンは愛しい彼女の頬に口付ける。

「さ、話は終わりだ。私の方も、良い加減抑えが効かないのでね」

 頬を滑った唇が、彼女の口を塞ぐ。

 刹那、熱い吐息の中に。覚えのある甘い香り。

(ああ……この人も……)

 霞がかる思考は、すぐに蕩け合う快楽の中n

 

「ふぉおおおおおーーーーっっ!!!」

「ひぇ!?」

「な、何事!?」

 恍惚の嬌声と共に煙を上げてぶっ倒れるアグネスデジタル。

 スイープトウショウとダイワスカーレット、普通にビビる。

「ち、ちょっと……?」

「し、死んだ……?」

「ああ、心配いらないよ。いつもの発作だ。何か琴線に触れたんだろう。五分程で再起動するだろうから、そのままにしておいて構わない」

「はあ……」

「そうなの……?」

 まあ、確かに凄い幸せそうな顔してるので。

 そんなモンかと無理矢理納得。

「それよりも、興味深い事を言っていたね。不審者騒ぎだって?」

「は、はい。そうなんです」

 我に返ったダイワスカーレットが説明する。

「昨日の夕方頃から、学園敷地内のあちこちで部外者らしいウマ娘が目撃されてて……。結構な数の生徒が声をかけられたって……」

「ふぅん……。私達はトレーニング後はずっと此処にいたからねぇ。全く気付かなかったよ。犯人の風貌は? それだけ目撃者がいたのなら、ある程度は分かるだろう?」

「……高めの背。痩せ型。長くて黒い髪。金色の目。真っ黒い衣装に、沢山の鎖がぶら下がってたそうよ」

「黒髪に金色の目……。ああ、ソレでか……」

 スイープトウショウの説明に、何やら納得するアグネスタキオン。

 『?』な顔のダイワスカーレットに、続けて質問。

「被害は? 遭遇した生徒は、何かしらの実害を受けたのかい?」

「無いわ」

 答えたのはスイープトウショウ。

「暴力を振るわれた子もいないし、精神的な傷を負った子もいない。勿論、『アッチ』の被害も」

 『アッチ』の言葉に、ダイワスカーレットが顔を赤らめて咳払いをする。

 『アッチ』。つまりは、ウマ娘が女性である以上真っ先に被害を考えなければいけない事柄。

 それが無かったと言うだけで、僥倖。

「成程。では、取り敢えず問題は無かったと言う事で良いのかな?」

 アグネスタキオンの確認に、二人の表情に影が射した。

「そう、なんですけど……」

 言い淀むダイワスカーレットと、酷く不快そうなスイープトウショウを見てピンと来る。

「……成程。件の不審者に遭遇した面子の中に、ウオッカ君とキタ君も入っていたか」

 ギョッとする二人。図星だった。

「……鋭いわね。流石と言った所かしら」

「君ら二人がそんな顔をするのは、あの二人に関して以外まず有り得ない。考察以前の話さ」

 言いながら手早く紅茶を淹れると、二人分を机に置く。

「おいで。話を聞こう」

 促されるまま、二人は席に着いた。

 

 ◆

 

「……ケンカ、したんです。ウオッカ(あいつ)と。それで、帰りが別々になっちゃって……」

 話は、さして珍しいモノでは決してなく。

 彼女とウオッカの関係は現状、思春期特有の親友以上恋人未満。互いに想い合うも、その先に踏み込む事は怖くて。けどソレが焦ったく、些細な意地の張り合いで衝突を繰り返す。

 その中で少しずつ理解を深め、青い実を熟れさせていく。

 ライバルとして。

 パートナーとして。

 だから、そんな小さなすれ違いはいつもの事。

 憤りの熱も、わだかまりの疼きも。ちょっとだけ距離を取って頭を冷やせば、氷菓の様に溶けて失せて。

 部屋でまた、一緒になって。

 どちらともなく声かけて。

 照れて。

 笑って。

 また少し、お互いを知って元通り。

 いつもの事。

 二人だけの、毎日。

 けれど。

 昨日は。

「あいつ、さっぱり帰って来なくて。探しに行こうって思った時に帰って来て。思わず怒鳴りつけたんだけど……けど……」

 言葉に詰まるダイワスカーレット。まるで、表現すべき型を見つけられないとでも言う様に。

「……キタサン『過ぎる』のよ」

 それを助ける様に、スイープトウショウが言った。

「……どう言う事だい?」

 不貞腐れた様に続ける。

「言ったまんま。キタサンよ。アソコにいるのは、間違いなく『キタサンブラック』。ただし、気持ち悪いくらい『完全』なキタサン」

「完全?」

「ええ。ホント、完全よ。行動、口調、挙句には走り方も記録も。完全過ぎて、あんなの……」

 

ーーもう、『何処にも行けない』ーー。

 

 吐き捨てる様に、そう言った。

「……何処にも行けない、か……」

 『そちらもかい?』と言う様に、視線を送る。

 頷く、ダイワスカーレット。

「サトノ君は、どんな様子かな?」

 キタサンブラックに関する事。スイープトウショウと同等か、それ以上に彼女との関係が深いサトノダイヤモンドの事を訊くのは道理。

「……訊かないでよ。そんな事」

 返って来たのは、今までに増して苛立たしげな声。

「アイツも、オカシイわ……」

 何かを察した様に頷き、改めて二人に問う。

「事情は把握した。しかし、正直に言えば現状では私に出来る事はないな。ウオッカ君かキタ君に自白剤を投与して真実を聞き出そうと言うのなら、話は別だが」

「い、いやいやいやいや!」

「馬鹿じゃないの!? アタシ達の勘違いだったらどうすんのよ!?」

 真っ青になって否定する二人。

 当然である。

「だろうねぇ」

「残念そうな顔すんな!!」

 ツッコミ疲れでゼェゼェ息切らすスイープトウショウに、『では何故、私の所に?』と言いかけて、『ああ、成程』と自己完結する。

「用があるのは、私じゃなくてカフェの方か」

「は、はい」

「癪に触るけど、こっちの方面に関してはまだアイツの方が一日の長があるのは否めないわ」

 マンハッタンカフェが、この世とは別の世界を見ている事は一部の生徒の間では周知の事実。

 二人は、その未知の感覚に頼ろうとしたのだ。

「しかし、それなら些かタイミングが悪かったねぇ」

 苦笑いするタキオン。確かに、いつも彼女に影の様に付き添っている筈の姿がない。

「カフェさん、どうかしたんですか?」

「さっき呼び出しがあったんだよ。生徒会からね」

「は!?」

 思わぬ展開に、目を丸くする二人。

「あの子、何やらかしたのよ!?」

「何もしてないんだがねぇ」

「じゃあ、何で……」

「思い出してごらんよ」

「何を!?」  

「例の不審者君の見た目さ」

「不審者のって……」

 長くて黒い髪。

 真っ黒な衣装。

 ダメ押しに、金色の目。

「あ……」

「そう言う事さ」

 固まる二人を見て、アグネスタキオンはヤレヤレと苦笑した。

 

 今だ加福の表情で彼岸を彷徨うアグネスデジタルの紙を、涼しい風が揺らして過ぎる。

 

 ◆

 

 メイショウドトウは走っていた。

 懸命に。

 一心不乱に。

 まさに、怒涛の如く。

 さっき起こした人身事故の怪我の痛みも忘れて(取り敢えず、リトルココンも無事だった)

 行くのだ。

 あの人の所へ。

 届けるのだ。

 あの人の心へ。

 大好きで大切な。

 友達の為に。

 救いは、与えられるのを待つのではなく。

 この手で引き寄せるものなのだから。

 気配がした。

 声がした。

 あの人の。

 見つけた。

 捕まえた。

 きっとコレだけは。

 シラオキ様の。

 親友の守り神様の。

 細やかな助け。

 だから。

 後は私が。

 曲がった角の先。

 驚いた様に振り向く彼女に。

「ファインさん!」

 この、願いを。

「シャカールさんを、助けてください!」

 

 何処か虚ろだったファインモーションの瞳。

 確かな光が灯る。

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