白兎行進   作:六無位

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思いつきで書いちゃいました


白兎、オラリオの地へ

 

 

迷宮都市オラリオ。

 

『ダンジョン』と通称される地下迷宮を保有する−−−−−というより、迷宮の上に築き上げられた巨大都市だ。

 

ここには冒険者に夢を見て、富や名声、名誉であったり、はたまた出会いであったりと多種多様な目的で多くの人が集まってくる。

 

しかしダンジョンには多くの夢が詰まっている反面、それと同時に多くの危険も内包されている。

 

それゆえあっけなく命を落とし、志半ばに散っていった者も少なくない。

 

これは周知の事実だ。

 

それでもこのオラリオを訪れ、冒険者になって夢を叶えようとする者が後を絶たないのは、ほんの一握りとは言え偉業を成し遂げこの世に名を上げた例がいくつもあるからだろう。

 

自分も同じように成功して世界中に名を知らしめることができたら……なんて夢を見てしまうのも、それは仕方がないことなのかもしれない。

 

そして、かくいう僕も、そんな夢を抱いてこの地にやってきた内の一人だった。

 

僕の名前はベル・クラネル。

 

つい先日、育ての親の祖父が亡くなり、保護者を失った僕は、残った財産を持って村を飛び出した。

 

夢への渇望はもちろん、おじいちゃんからの遺言があったからだ。

 

『ベルよ。儂がいなくなったらオラリオへ行け。そこにお前の望む未来がある。英雄になる夢も、可愛い女の子との出会いも! 男なら、ハーレムを目指さなきゃな!』

 

今思えば、おじいちゃんは自分がいなくなることを予期していたかのようだった。

 

僕はそんなおじいちゃんの遺言に後押しされるかのように、数々の英雄の活躍の舞台となったこのオラリオへやってきたのだ。

 

とりあえず当面の目標は、どこかのファミリアに加入することだ。

 

ファミリアに加わり、神様の眷属になることで僕たち下界の子供たちは『恩恵』を授かる。この『恩恵』のご利益は僕らにとって無視できないもので、一度授かってしまえば、どんな人でも下等のモンスターなら撃退できるようになってしまう。

 

逆に言えば、最低限『恩恵』がなければダンジョンに潜ることさえ許可されないらしく、ファミリアに所属し、『恩恵』を得ていることが冒険者登録の最低条件というわけだ。

 

とまぁ得意げに話してみたものの、実は全部ギルドの人に聞いた話なんだけどね。

 

 

というわけでファミリアを探してオラリオ中を駆け巡ることはや二日。

「まさか全滅だなんて……」

 

僕はいまだにファミリアに入れずにいた。

 

とほほ……と溜め息を零しながら、近くにあった石段に腰を下ろす。

 

どこのファミリアのホームを訪ねても、「お前のようなヒョロくさいガキなんかが冒険者になれるわけないだろ」と、ことごとく門前払いを受けてしまったのだ。

 

そんなに弱そうに見えるのかな、僕……。

 

確かに線は細いかもしれないけど、英雄を目指すと決めた日からトレーニングは欠かさず続けていたのでそれなりに筋肉はついている……と思うし、それに村の用心棒のおじさんに稽古をつけてもらっていたこともあり、ナイフの扱いなども一般人よりは長けている自信もあるんだけどなぁ。

 

ギルドの受付けをしていたエイナさんに貰ったおすすめのファミリアのリストも、残すところロキ・ファミリアだけになってしまった。

 

とはいえ、ロキ・ファミリアは田舎者の僕でも知っているような最大手のファミリアだ。僕なんかが入れるわけがないと選択肢から外していたけど……こうなったら行くしかないよね。でもここも断られたらいよいよどうしよう……。

 

そんな不安を抱きつつも、立ち上がってロキ・ファミリアのホームを目指して歩き始める。

 

と、その時だった。

 

「なぁ少年。もしかして自分、ファミリア探しとんの?」

 

すぐ後ろから声をかけられた。

 

振り返ると、朱色の髪をした女性が立っていた。

 

「あ、えと……はい! この街に来たばかりで、冒険者になるためにファミリアを探していました!」

 

突然のことに驚き一瞬言葉が出てこなかったけど、すぐに持ち直して言葉を返す。

 

すると女の人は「待ってました」と言わんばかりに口の端を吊り上げ、人差し指を立てた。

 

「なら、うちのファミリアの入団試験、受けてみん?」

 

「えっ、いいんですかっ!?」

 

その一言に、僕は食い付いた。

 

「まぁ受かるかは自分次第やけどな」

 

「いやったぁぁ!」

 

思わず喜びの声が漏れる。

 

「なんや自分。試験を受けれるってだけで喜び過ぎやろ」

 

くすくすと目の前の女性が笑う。

 

「あ、す、すみません。どこのファミリアも門前払いで、入団試験を受けることすらできてなかったので……って、そういえば『うちのファミリア』って言ってましたけど、どこのファミリアの方なんですか?」

 

その質問に対し、彼女はさらに面白そうに笑った。

 

「うちって言ったらうちや。うちの名前はロキ。ロキ・ファミリアの主神様やで」

 

それを聞いた僕は理解が追いつかず、完全に硬直してしまった。

 

「え……え、え……か、か、神様ぁぁぁあっ!?」

 

 

 

 

 

「あっはっはっはっは!! 自分面白過ぎやろ! うちの名前聞いた瞬間ぶっ倒れるとかっ!」

 

どうやら僕は驚きのあまり気絶してしまったらしい。

 

「う、うぅ……すみません」

 

隣で大爆笑しているこの方は、どうやらロキ・ファミリアの主神であるロキ様だったらしい。

 

まさか神様の方から声をかけてくるだなんて思わないでしょ、普通。しかもオラリオで一、二を争うファミリアの主神様なら余計に。

 

「いやぁ、笑わせてもらったわ。んで、聞きそびれてたけど、自分名前なんていうん?」

 

「あ、すみません! 僕はベル・クラネルって言います!」

 

「ベルたんかぁ。ええ名前やん。ベルたんはなんで冒険者になりたいん?」

 

「えっと、英雄になりたくて……」

 

「英雄?」

 

「はい。小さい頃におじいちゃんがよく英雄譚を読み聞かせてくれてて、それで僕もそんな英雄になりたいなって」

 

子供っぽすぎるかと思ったけれど、神様はバカにすることなく真剣に話を聞いてくれた。

 

「へぇ、かっこええなぁ」

 

「そういうロキ様はどうして僕に声を?」

 

「んー、分からん!」

 

「えっ?」

 

「なんかピーン! ときたんや。直感や直感。フィーリング的な」

 

「そ、そうだったんですね」

 

「だからうちのためにも頑張って合格してな?」

 

「は、はい! もちろん頑張ります!」

 

そんなことを話していると、いつの間にかロキ・ファミリアのホームに到着していた。

 

門番の人に挨拶をして、建物の中へと進んでいく。

 

神様に案内されるがまま後をついていくと、大きな部屋の前へと辿り着いた。

 

「ちょっとここで待っててなー」

 

神様はそう言うと、先に扉を開けて中へと入っていった。

 

そして待つこと数分。

 

「ベルたん、入ってきー」

 

「は、はい!」

 

部屋の中には、団員と思われる二人の男性と、一人の女性がすでに椅子に腰掛けて僕を待っていた。

 

「ロキから話は聞いたよ。入団希望だそうだね」

 

「は、はい!」

 

「そんな緊張しなくていいよ」

 

「は、はい!」

 

あれ、僕さっきから「は、はい!」しか言ってなくない? botかな?

 

そんな僕の様子がおかしかったのか、神様を含めたその場にいた全員の表情が綻ぶ。

 

は、恥ずかしい……。

 

「ふふっ、僕はロキ・ファミリアの団長、フィン・ディムナだ。よろしく。それから隣に座っている二人が……」

 

「副団長を務めているリヴェリアだ」

 

「儂はガレスじゃ。よろしくな、少年」

 

その名前を聞き、僕はさらに身体を強ばらせる。

 

なぜならこの三人は誰もが知っているであろう有名人だったからだ。

 

『勇者』フィン・ディムナさん。『九魔姫』リヴェリア・リヨス・アールヴさん。『重傑』ガレス・ランドロックさん。こんな人たちを前にして平静でいられるはずがない。

 

「さてと、そろそろ面接を始めても大丈夫かな?」

 

少しして僕が落ち着いた頃合いを見計らって、フィンさんが声をかけてきてくれた。

 

「だ、大丈夫です! よろしくお願いします!」

 

「まぁ面接と言っても、いくつか簡単な質問をするだけだからそこまで気負う必要はないよ。それじゃあまず初めにベル、君はどうして冒険者になろうと思ったんだい?」

 

さっき神様にも聞かれた質問だ。

 

僕は焦らず、しっかりと答える。

 

「英雄に、なりたかったからです」

 

「へぇ、英雄か……それはどうして?」

 

「小さい頃におじいちゃんによく英雄譚を読んでもらってたんですけど、その中に登場する英雄たちみたいに…… どんな怪物もやっつけて、たくさんの人たちを笑顔にして、悲劇のヒロインなんてどこにもいなくて、みんなを救ってみせる……そんな英雄になりたいって、思ったんです」

 

紛れもない、僕の本心。僕の憧れ。そして、僕の夢だ。

 

「なるほどね。だけど、英雄になると言っても簡単な話じゃない。半端な覚悟や、生半可な努力では到底辿り着くことのできない、辛く険しいものになるだろう。もしかしたら逃げ出したくなるほど過酷な道のりになるかもしれない。それだけの覚悟がベル、君にはあるのかい?」

 

「あります」

 

僕は即答した。

 

「(即答、か。だけど、決して考えなしに、適当に答えたわけじゃない。これは彼の覚悟そのもの、か。ロキもおもしろい子を見つけてきたね)」

 

フィンさんは少し考えるように顎に手を当て、すぐに微笑んだ。

 

「うん。さすがロキが見つけてきた子だね」

 

「せやろせやろ?」

 

「さて、二人はどうだい?」

 

「ふむ。なかなかに見どころのありそうな少年じゃ。いいんではないか?」

 

「私も同意見だ。いい目をしている。これは掘り出し物かもしれんな」

 

尋ねられた二人の言葉は、僕の合格を肯定してくれるようなものだった。嬉しさのあまり、思わず心臓が跳ねる。

 

「あ、あの、じゃあ結果は……」

 

「そう慌てなくていいさ。正直、ロキが連れてきたという時点でほとんど合格は決まっていたようなものだからね」

 

「ってことは!」

 

「ああ、だけどその前に僕から一つ条件がある」

 

「じょ、条件ですか?」

 

合格目前に怪しくなった雲行きに、少し及び腰になってしまう。

 

「合格のための条件、それは今から僕と模擬戦を行い、そこで僕に実力を認めさせることだよ」

 

「ふぃ、フィンさんと模擬戦ですかっ!?」

 

唐突に突きつけられた難題に、目を見開く。

 

しかしそれは僕だけじゃなかったようで、リヴェリアさんやガレスさんも割って入ってきた。

 

「フィン、さすがにそれは……どういうつもりだ?」

 

「なに、ベルの力量を見てみたいだけだよ」

 

「とは言っても恩恵のない小僧と、レベル6のお前とでは話にならんじゃろう。それともまた『アレ』か?」

 

「ああ。親指が、疼いたのさ」

 

フィンさんがそれだけ答えると、二人は難しそうな顔をしながらも身を引いた。

 

どういう意味なんだろう、親指が疼いたって……。

 

「それで、ベル、どうするんだい? 受けるのか、受けないのか」

 

挑発的なフィンさんの問い。

 

ここで受けないなんて選択肢、僕にはない!

 

「う、受けますっ!」

 

「うん、いい返事だ。それじゃあついておいで。訓練用の広場まで案内するよ」

 

こうして僕は合格を賭けてフィンさんと模擬戦をすることになったのだった。

 

 

 




次回入団試験
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