「焼き肉定食、焼き肉抜きで」
「あ、俺カレーライスと唐揚げで」
ごく普通の高校でごく普通の高校生な俺、幸村隼人は友達…いや向こうは友達と思ってるのかは分からないが、上杉風太郎と一緒に昼ごはんを食堂で食べようとしていた。
「この前のテスト良かったんだから、ご褒美とか考えないの?」
「ご褒美なら家でらいはのカレーが食べれたら充分だ」
「相変わらず妹ダイスキーなことで。唐揚げ一個やるよ」
「悪いな」
風太郎はこの焼き肉抜き焼き肉定食がこの学食の最安値と言う。ライス(200円)だけ頼むより焼き肉定食(400円)から焼き肉皿(200円)を抜くと同じ値段で味噌汁とお新香が付くと。何回も聞かされたから覚えちまったよ。
「水は飲み放題だしな」
「?確かにそうだが、いきなりどうした?」
「いやなんでも。ほら、お前の特等席空いてるぞ」
風太郎はいつもの席を見つけると足早にその席へと向かう。あそこを特等席にしてるせいかあそこを利用している生徒を他に見たことがない。あいつ特有のオーラが他の奴らを遠ざけてるのかもしれない。
だけど、今日は違った。
なんと他の生徒、しかも女子がその席に風太郎とほぼ同時に昼ごはんを置いたのだ。
風太郎がお構いなしに席に座ろうとすると、
「あの!私の方が先でした。隣の席が空いてるので移ってください」
と風太郎に言い放った。こんなことは初めてじゃないか?
「ここは毎日俺が座ってる席だ。あんたが移れ」
「関係ありません!早い者勝ちです!」
「おいおい飯時に言い争いするなって」
そうこう言ってるうちに俺が隣の席に座る。俺としては別にここを特等席にしてるわけじゃないが、まあ何も置かれてないし?
「……じゃあ俺の方が先に座りましたー!!はい俺の席ー!!」
「ちょっ!」
「子供か」
「……ッ!」
イスを奪われた女子はなんと向かい側のソファに座った。この学食史上初、上杉風太郎が女子と相席しているのだ!周りからもやべぇだのやべぇだの聞こえてくる。
「午前中に歩き回って足が限界なんです」
「そういえば君、ウチの制服じゃないけど」
「あ、はい。私は黒薔r「250円のうどんに150円の海老天が2つ、100円のイカ天、かしわ天、さつまいも天、デザートに180円のプリンだと!?昼食に1000円とかセレブかよ……」
「声出てるぞ風太郎」
「人のお昼を計算するのはやめてください!それにあなた、行儀が悪いですよ」
行儀が悪い、というのは風太郎はいつもご飯を食べながら簡単に勉強しているのだ。まあ確かに良いとは言えないわな。
「なに?『ながら見』してた二宮金次郎は称えられるのに俺は怒られるの?」
「状況が違います!」「状況が違うわな」
「テストの復習をしてるんだほっといてくれ」
「食事中にまで勉強をするなんて、よほど追い込まれているんですね」
「あー、コイツ100点だったよ」
「はぁ!?」
驚きの声を上げながらトレーに乗っていた風太郎のテストの点数を読み上げる。更にデカい「はぁ!?」が出てきたのは言うまでもない。
「あー!!めっちゃ恥ずかしいわー!!」
「……ッ!!」
「ほらほら、そんなに怒らないでやってよ。お兄さんの唐揚げあげるから」
「べ、別に怒ってなどいません!!あと、唐揚げはいただきます!」
「食い過ぎだろ。太るぞ」
「ふ、ふとっ!?…あなたみたいな無神経な人は初めてです!」
「あっそ、ご馳走様。先に戻るぞ隼人」
焼き肉定食を食べ終えた風太郎はそのまま食堂を後にした。残されたのは頬を膨らませた隣の女子と丁度カレーを食べ終えた俺だけだった。
「ま、まあ。風太郎も悪い奴じゃないし、少しは仲良くしてやってよ」
「無理です!あんな無神経な人……せっかく頭の良い人を見つけたのに…」
「頭の良い人?もしかして勉強教えてもらおうとしてた?」
「うっ…お恥ずかしい話、勉強は得意ではいので……彼の点数は羨ましいです」
「まあ全国一位だしなぁアイツ」
「で、でも!あんな無神経なら頼まなくて正解でした!!」
「相当嫌われたねぇ風太郎…」
「それに比べてあなたは人当たりも良くて、唐揚げまでくださって、本当に良い人です!!」
良い人のハードルがかなり低い気がする。大丈夫?将来騙されたりしない?
「彼がテストの復習をしていたということは、あなたもテストが帰ってきてますよね。何点だったんですか?」
「この前のテストなら74点だよ。平均だよヘーキン」
「74……羨ましいです…」
見るからに落ち込んでる。そんなに酷いのかな。
「俺で良かったら教えてくれそうな人探そうか?」
「教わるなら、できればあなたがいいです……この学校も来て間もないので知り合いがいなくて…」
そうきたか。俺は教えるのはどっちかというと苦手なんだけどなぁ……でもこんな可愛い子が頼んできてるのに、それを断るのもなぁ。
「分かったよ。お兄さんでよければ教えれそうなやつは教えるよ。ただし点数アップは約束出来ないからね?」
「ありがとうございます!!では今日の放課後、少しお時間をいただけますか?」
「いいよ放課後ね。それよりほら、早く食べないと冷めちゃうよ」
こうして勉強を教える約束をしてしまった俺なのでした。ま、可愛い女の子と一緒の時間を過ごせると考えたら、これくらいしないとねぇ?
◇ーーーーー◇
「聞いてくれ隼人……人の腎臓は片方無くなっても大丈夫らしい…」
「いきなりだな……どうしたの」
「実は新しいバイトを始めることになってな。家庭教師なんだ」
「へー。お前の頭の良さなら生徒さんも100点間違いなしってやつじゃん」
「お前なぁ……俺のことを多少は理解してるなら「仕事だ。割り切れ」
まあ風太郎の顔色が悪くなるのも若干わかる。人付き合いが苦手で知り合いが俺くらいな風太郎には精神的にキツいのだろう。
「くっ……なぁ、明日からそのバイトなんだが、ちょっと着いてきてくれないか?」
「あのね?僕は保護者じゃないんだよ?生徒だって教わる立場なんだからいきなり鈍器で殴ることなんてしないさ」
「そういう心配じゃ」
タイミング良くチャイムが鳴り風太郎の言葉が遮られる。まあ相当困ってるみたいだし、着いていくだけなら……まあいいっしょ。
「ねえねえ幸村くん。今日午後から転入生が来るみたいだよ」
「へぇ。そういや他のクラスにも来るんだっけ転入生。この時期に珍しい……」
席に座ったタイミングで隣の席の人が話しかけてきた。そういえば食堂の女の子、ウチの制服じゃなかったよな。
「中野五月です。どうぞよろしくお願いします」
まさかの同じクラス。そして示し合わせたかのように俺の隣が空席になってるぅ!
周りからは「女子だ…」「黒薔薇女子の制服じゃない?」「超お金持ちじゃん!」「幸村許せねぇ!」などなど声が聞こえる。
悪いね諸君、お兄さんは一足先に勝ち組になるぜ!
「さっきの食堂ぶりですね。改めて、中野五月です」
「幸村隼人だよ。幸村でも隼人でもお好きな方で」
「はい、よろしくお願いしますね幸村君」
周りからの視線が痛いが、俺は挫けない。俺だって可愛い女の子は好きなんだよ!
◇ーーーーー◇
「隼人……隼人!」
「なんだよ小声で気持ち悪いな…どうしたの」
「お前、中野五月と仲良くなったのか?」
「仲良く……なれてたらいいな」
放課後、風太郎がコソコソ話で話しかけてくる。その間中野ちゃんは他の女子に囲まれて話をしている。転入生が受ける宿命というやつだ。
「実は……バイトの家庭教師の生徒がアイツなんだ」
「わぁお。運命の赤い糸で結ばれてる?」
「やめろ!考えたくもない!ンンッ、そこでお前に頼みたいことがある」
「ご機嫌取りでしょ?怒らせたのは上杉君だもんねぇ〜」
「うぐっ!……流石に昼からの今じゃ向こうも引きずってるだろうからな。俺自身は明日仕掛けてみる」
「仕掛けるのはいいけど、女の子に対する言葉選びは慎重にな風太郎」
「分かってるよ…じゃあ今からバイトだから、頼んだ」
「はーい、いってらっしゃーい」
中々人に頼らない風太郎の貴重なお願いだ。報酬は弾んでもらおう。
「すみませんお待たせしました!」
「お、もういいの?転校初日なんだしもう少し周りと親睦を深めても」
「いえ、私としては一刻も早く勉強をしたいんです」
真面目だ。これで風太郎の性格と風太郎の問題発言がなければ良い生徒と先生の関係を築けただろうに。仕方ない、アイツの生活のためだ。ここは一肌脱ごうじゃないか。
「案内も兼ねて図書室に行こう。そこなら落ち着いて勉強出来ると思うよ」
「はい、よろしくお願いします幸村君」
◇ーーーーー◇
「いきなり闇雲に勉強するのもアレだし、まずは少し解いてみようか。苦手な科目とかある?」
図書室…と言ってもこの学校は図書室というより図書館みたいな規模だ。まあデカいことで。そして同じように勉強をしている生徒もいるおかげで多少の会話は許されている。
「苦手な科目……理科は割と得意です!」
「つまり理科以外が苦手と……OK。とりあえず今日は国語…漢字問題からやってみようか」
【秀才】
「これなんて読むか分かる?」
「ええっと……ひでさい?」
「これはしゅうさい、ね。じゃあ秀才の意味は分かる?」
「確か…優れた才能……とかそのような意味だったような」
「そうそう!秀才と天才は似たような意味なんだけど……今は置いとこうか」
あまり情報を一度に放り込むのもよろしくない。少しずつでも着実に頭に入っていけばいい。
それからというもの、
「これ!」【翁】
「じい!」「おきな、ね」
「これは!」【糾弾】
「きょうだん!」「惜しい!きゅうだん!」
「これならどうだ!」【忍者】
「これは分かります!にんじゃです!」「正解!」
色々な漢字問題を出してみたけど。
「うん、解ける問題は割とあるね。正解不正解を見るに中野ちゃんは中学3年以降の漢字が苦手かな」
「うっ……なんというか…ここまでは出かかってるんです!」
中野ちゃんが喉を指差しながら訴える。分かる分かる。俺もそんな時あるもん。
「幸村君はいつも漢字はどのように覚えているのですか?」
「俺?うーん、お兄さんはなるべく分からないのは調べてるかなぁ」
「調べる、ですか?」
「うん。まあ新聞でも小説でも、たまにこの漢字なんだっけってなったら調べてるね」
「ですが、分からないものを調べるにしても、読み方が分からないのでは調べようがないのでは?」
「そこは文明の利器だよ。分からないなりに『この読み方かな?』ってヤツを携帯に入力してみれば、たまに予測変換でヒットすることがあるんだよ。それでも分からなかった時は人に聞く。これも情報収集、調べることだよ」
「なるほど……私も転校前の学校では分からない箇所は先生に聞いていました」
「そうそう、それが良いんだよ。分からないをそのままにするのが一番ダメなんだ。その点、中野ちゃんは放置しないから偉いねぇ。お兄さん感動しちゃう」
「もう、茶化さないでくださいよ」
「何事も継続することが大事だよ。勉強も人付き合いも。話は逸れるけど、転校初日で喧嘩したままってのはスタートしてあまりよろしくないんじゃない?」
中野ちゃんもそれを少し感じていたのか顔を逸らしてしまう。転校初日でいきなり無神経なこと言う風太郎もだが、ここまで踏み込む俺も大概だな……
「私も、疲れていたとはいえ少し乱暴な口調になっていました。彼については明日謝ろうと思います」
「お節介が過ぎたかな。話が逸れてごめんね。続きをやる……にしても時間が時間だな」
「本当ですね。ここまで集中出来たのは久しぶりです。ありがとうございます」
「いえいえ、こちらこそ」
転校初日の可愛い女の子とここまでおしゃべりできるとは、そろそろ何か痛い目に遭いそうだな。下心丸出しな考えも改めないとな。
「それでは、また明日」
「おう、また明日ー」
とまあ、今日は今日で楽しい一日で終わって良かったぜ。明日以降、今日ほどでなくてもいいから楽しい日々を過ごしたいもんだねェ。
◇ーーーーー◆
「懐かしいなぁ。最初に会ったのって」
「五月だよ。あの時は俺も中々酷いこと言ったな」
「お、流石に結婚する身となればあの時の発言が無神経だってなるか?」
「そりゃあ……まあ…」
「まあ無神経なところがお前らしいってのもあるし、無神経なところがあったから今こうしてお前は結婚出来てるんだ風太郎」
「……ありがとな隼人。お前のおかげだよ、俺があの姉妹に出会えたのは」
「着いていっただけ、だけどな。俺としてもいい出会いだったよ」
◆ーーーーー◇
こうして中野ちゃんこと中野五月との出会いを終えた俺と風太郎。
でも本当の戦い……色んな意味でのバトルはここからだった。
簡単なオリ主紹介
幸村隼人 ゆきむらはやと
誕生日 3月10日
身長 180
風太郎の友達。勉強はそこそこ。一人称は基本俺だが、たまにお兄さんや僕になったりならなかったり。男子は呼び捨て、女子はちゃん付け。過去に何か重大なことがあったりなかったり!
基本隼人目線の話になるので所々話を飛ばすかもしれませんし、オリジナルの話をぶち込むかもしれません。
次回は原作1話の後半部分です。