甘いものは頻繁には食べない。
「前のカツラと違うけど…どうよ」
「まあ、前も暗かったし二乃もハッキリは覚えてないだろ」
ホテル1階のカフェで風太郎からカツラを受け取り装着する。二乃ちゃんが信繁のことを忘れられないと言っていたのは風太郎から聞いていたが、まさかこのタイミングで来るとは。
「んじゃま、行ってきますかねぇ」
「悪いな隼人」
「いや、信繁名乗ったのは俺だしな。俺がケリつけないといけない問題だよ」
エレベーターで二乃ちゃんの泊まっている階まで向かう。
俺が今日行うべきことは、
A.信繁を演じ抜き二乃ちゃんの未練がなくなるまで付き合う。
B.全てを告白して二乃ちゃんに許してもらう。
今後のことを考えると前者なんだろうけど…
「いらっしゃい信繁君」
「お、おう。邪魔するぜ」
部屋に入るのは2回目。だけど今回は信繁としてだ。緊張感は今の方が痛いほど感じている。刺されたりしないよね?
「ねえ信繁君、私に言うことあるでしょ」
「っ……そうだな、言わなきゃな…悪かった。実は俺「いいよ」…え?」
「キャンプファイヤーをすっぽかされた剣は水に流してあげます。ま、流すも何も私が一方的に言っただけなんだけどね」
「あ、あ〜…」
林間学校の頃の話か。アレも俺が一方的に断っただけなんだけど…
「はいこの話はこれで終わり。今日はずっと付き合ってくれる約束でしょ?あの約束馬鹿じゃないけど、今度約束破ったら許さないんだからね」
「約束馬鹿……」
「じゃあ適当に座ってて。お菓子作ってる途中なの。本当は信繁君が来るまでに作っておきたかったんだけど、思ったより早かったわね」
そう言ってキッチンの方へと引っ込んでしまった。俺の時は何も作ってくれなかったのにぃ!いやそんなわがまま言ってる場合じゃないでしょうが。
今は正体を打ち明けるにもタイミングが悪すぎるし…ならば、
「手早く終わらせよう。何を作るんだ」
俺が手伝えばすぐに終わる!1人より2人!2人より3人だけど3人目はいない!
「ご、ごめん!ちょっと電話!」
「え?ああ、おう」
◇〜〜〜〜〜◇
「もしもし上杉!?信繁君ちょー優しいんですけど!っていうか緊張してまともに顔見れないわ!」
『な、なんの用だ…?』
「ああ、ごめんごめん。信繁君ってシュークリーム嫌いじゃないよね?」
『大好きだと思うぞ…多分』
(あいつ甘いの食べるよな……多分)
「オッケー、ありがと」
◇〜〜〜〜〜◇
「シュークリーム作ろうと思うんだ」
「いいね、大好き」
こうして2人でシュークリームを作ることになった。なるべく腕と手の怪我が見えないように手伝うが、二乃ちゃんの手際が良すぎて俺の手伝うことがほとんどない。
元々手際は良い方なんだろう。それが料理を通して更に良くなっている。手際が良くて面倒見のいい姉となると頼りたくなるものだ。1番上の姉がズボラなら尚更。
「あとは焼くだけね」
あっという間に焼くだけになってしまい、現在待ち時間。二乃ちゃんは顔を合わせてくれない。それどころかまたしても電話と言って席を外してしまった。
◇〜〜〜〜〜◇
「会話が続かないんだけど、信繁君の趣味って何?」
『本人に聞けよ!読書かなんかだろ…多分!』
◇〜〜〜〜〜◇
「この前見た映画面白かったなー。あの原作って小説だったかなー。詳しい人いないかなー」
「ど、どうした??」
あからさまにコチラをチラチラと見てくる。なんだろう、これはこれで二乃ちゃんの貴重な一面を見れた気がする。
そんなこんなでシュークリームは完成……したのだが、なんか薄くなってしまっている。こういうものなのか?ここからクリーム詰め込んで膨らませるのか??佐助とか真田に聞けば答えてくれそうだが。
「嘘…失敗してる。霧吹き忘れたかも……」
「二乃が料理を失敗するとは」
「え、今…なんて?」
「え"ああ、いや風太郎から二乃が料理上手だって聞いたから!」
「そこじゃなくて…」
◇〜〜〜〜〜◇
「ねぇ、彼私のこと名前で呼んだわ!」
『どうでもいいことで電話してくんな!』
◇〜〜〜〜〜◇
それからもう一度作り直しシュークリームは完成した。よく見るコンビニで売っている食べたらクリームが溢れてくるタイプのシュークリームではなく、なんか……ハンバーガーみたいな、そんなやつ。
「凄いな……すっごい美味いし、お店でも出せそう」
「そ、そう?どんどん食べてね!たくさん作ったから!」
「いや本当にたくさんだね。男信繁、頑張ってたくさん食べることを約束します!」
机いっぱいに並べられたシュークリームは正直胃もたれを起こしそうな量だった。でも二乃ちゃんは信繁のために作ってくれたんだ。誰かのために頑張れる二乃ちゃんはやっぱり凄い人だよ。
「……やっぱりこんなにたくさんあるんだ。二乃の姉妹も呼んでみんなで食べようぜ」
「え……そんなこと言わないで…せっかく2人きりなんだもん。邪魔されたくないよ……私は信繁君さえいれば」
「二乃、キミが一緒にいるべきなのは俺じゃない。姉妹達4人だ。5人で一緒にいるべきなんだ」
確かに俺や風太郎は彼女達を支える家庭教師、パートナーだろう。だけど本当に必要な支えっていうのは家族だと思う。
母親の代わりになろうとしている五月ちゃんも、信繁を忘れられない二乃ちゃんも、陸上部に縛られてしまっている四葉ちゃんも、トラブルを解決しようとする一花ちゃんと三玖ちゃんもみんな辛そうにしている。
そんな時こそ必要なのは家族、姉妹同士の支えだと俺は考える。
「二乃、俺は…「ごめん信繁君。ちょっと席外すね」
俺の言葉を遮って二乃ちゃんは部屋から出て行ってしまった。確かにずっと会いたがってた男からこんなこと言われちゃって感じだな。もう少し言葉選びに気をつけるべきだったな。
「……?二乃ちゃんから電話……はぁいこちら幸村の携帯ですよ〜」
『あんた電話だとそんなテンションなのね。まあいいわ、今どこにいるのかしら』
「今?あー、期末試験対策でシャドーボクシングしてるよ」
『要するに暇ってことね。私の泊まってるホテルの1階に来なさい。そこのカフェで待ってるから』
◇ーーーーー◇
「遅いわよ」
「これでも全力で走ってきたんだよ?」
「だからそんなに汗かいてるわけ?すみませーん、こいつにアイスコーヒーお願いします」
信繁の格好をなんとかやりくりして幸村隼人の格好にし、更に全力で走ってカフェに向かう。時間にして10分もかからなかったがかなり疲れた。肉体的にも精神的にも。
「私、信繁君に告られるかも」
「随分思い切った話の入りだね…」
「だってあんな真剣な顔して大切な話って何よ。そんなの1つに決まってるわ」
「そうかなぁ…?」
「あんたはどう思う?」
「俺はなんとも言えないかなぁ」
「つまらない答えね。ま、あんたの意見なんてどーでもいいわ。ただ人に聞いて貰って自分の状況を整理したかっただけだもの」
「まさか、ここの飲み物代節約のために俺を呼んだ?」
「これから彼の話を聞くことにするわ」
無視された。それよりここからどうやって二乃ちゃんより先に戻って変装するか。どうあがいてもエレベーターには勝てないぞ。
「この先どういう結果になっても、彼との関係に一区切りつけるわ。だから話して幸村…いいえ、信繁君」
◇◇◇◆◆◆
お願い、否定して。自分は信繁じゃないって、否定して。この際嘘でもいいから…お願い。
「……いつから?」
「否定しないのね……シュークリームを作る時、やけに手を庇ってたじゃない」
「なるほどね…」
幸村はアイスコーヒーを飲んでいる。
私は平静を保つのがやっとだった。
「もし信繁君が上杉だったら、睡眠薬でも飲ませてたところよ」
「怖いこと言わないの」
「上杉に今日私が言ったこと伝えてくれる?っていうかあんたは覚えてる?」
「どれだったかな」
「約束を破ったら許さないって言ったはずよ。こんな明るいところで会わせるなんて詰めが甘いわね。おかげでよーく顔が見えたわ」
だけどあの時、一緒にいる時に見せたあの顔が信繁としてなのか幸村としてなのか、それだけが分からなかった。なんであんなに楽しそうに笑うのよあんた。
「変装なんてすぐにバレるのよ。五つ子じゃないんだから」
「身をもって実感した……ごめん」
「泣いて謝ったって許さないんだから……バイバイ」
頭を下げる幸村を置いて私は自分の部屋へと戻った。
『5人で一緒にいるべきなんだ』
信繁君の、幸村の言葉が頭の中にこだまする。
部屋に戻ると机いっぱいに置いてあったシュークリームは5つだけ残して無くなっていた。エレベーターで降りてくるだけなのにやけに遅いと思ったら……
「なによ……信繁君としての約束、守ってるじゃない…………」
大粒の涙が、頬を伝った。
◆◆◆◇◇◇
「市販ので悪いな。ほれシュークリーム。それと二乃ちゃんから、約束破ったら許さないってさ」
「まあ、信繁に会わせるって約束は守ったとも言えると守ってないとも言えるからな…」
「これからどうしたらいいんだろうな」
「…………俺に少し考えがある」
「……どんな?」
「…………期末試験が終わったら、家庭教師、辞めようと考えてる」
い、五月の霊圧が消えている!?あ、やめて!次回はちゃんと出ますから!肉まんを投げないでください!
次回からは四葉の問題を解決だぁ〜