サンタを信じている
「へーい、風太郎こうたーい」
「やっぱり冷えるな…」
新しくケーキ屋のアルバイトを始めた俺と風太郎は早速クリスマスのケーキ販売に苦しめられていた。俺たち2人ともこういう店で働くのは初めてではないがやはり数の暴力というのはどの職場でも苦しいものだとつくづく感じる。
「今日は早めに終わるんだよな」
「ああ、従業員にもクリスマスは必要だって店長が言ってたぜ」
「優しい店長だことで。まあ頑張れよ。俺は中でぬくぬくさせてもらうぜ!」
俺は今から営業終了の19時まで中で厨房担当だ。作るのもケーキぐらい、しかも予約客の分は取りに来る時間に合わせて作ってるから俺が作る店内注文分はさほど多くない。
「店長、水飲んできまーす」
ロッカールームで水を飲みながら携帯を触る。最近携帯を触る時間が増えてきた気がする。今まで家庭教師補佐で触る時間もあんまりなかったからかな。
「ん、五月ちゃんからメール!?」
学校でも話しかけても避けられていた五月ちゃんからメールが来た。なんだろうこの気持ち……あれだ、付き合いたての頃に高梨ちゃんからのメールでウキウキしてたのと一緒だ。
「……………は?」
メール内容は簡単だった。
一枚の画像と指定の場所に来いというもの。メールの文面、指定した場所を見るにこの前の奴らだ。
「…………ぶっ殺してやる」
◇◇◇◆◆◆
「悪い風太郎!あと頼んだ!」
「え???あ、おい隼人!!」
鬼気迫る表情で隼人が店から出て行きバイクに乗って走り去ってしまった。何があったのか店内に入ると店長はいつも通りの表情で接客していた。
「店長!隼人に何かあったんですか!」
「ん?あー、なんか切羽詰まって『行くとこできました!』って言うから行かせた。ウチももうすぐ閉めるしいいかなーって」
「適当かよ」
◆◆◆◇◇◇
指定された場所はケーキ屋から遠くなかった。それも分かって指定してきたのだろう。向こうは俺を完全に潰す気でいる。だったら俺もそれ相応の答えを出さないといけない。
「ここか…」
薄暗い廃工場。ここら辺は不良の溜まり場として有名だ。しかしクリスマスの時期にここを使う奴らはいない。有名だからこそ警察が巡回しているのだ。こういうイベントのタイミングでバカする奴らが多いからだ。
だけど今警察はここら辺を巡回していない。来るのも時間の問題だろうが、事を大事にしないためにも来ないでほしい。
建物の中に入るとこの前河原で泣かせた奴らを中心に多くの男たちがいた。数は20ぐらいか。流石に1人でこの数はしんどいな。
そして男たちに囲まれて椅子に座っている女の子が目に映った。五月ちゃんだ。
「……おい、来たで」
「幸村君!」
「よお幸村ァ!この前は随分やってくれたなぁ!」
「雑魚は黙ってろ。五月ちゃんを離せ」
「口の聞き方に気ぃつけぇや幸村!俺たちのご機嫌次第でこの子の顔に傷がついちゃうぜ〜?」
「………何が目的だ」
「まずは土下座、その後に死ねや」
ナイフをちらつかせる男。五月ちゃんの顔は怯えきっている。
「五月ちゃんのためなら土下座だってするし靴だって舐めてやるよ。まずは彼女を離せ。話はそこからだ」
「さっきの話聞いとらんかったか幸村。まずは土下座や。頭地面に擦り付けろやって話」
無理矢理にでもさせるけどな!と男が言った瞬間後頭部に衝撃が走った。意識が一瞬ぶっ飛びそうになったがなんとか踏ん張る。
しかしそこに膝蹴りが俺の顔面に叩き込まれ、俺は地面に倒れた。
「ッ…ァァ……」
「幸村君!彼を殺す気ですか!やめてください!」
「殺す気じゃなくて殺すんだよ」
「舐めんじゃねぇ……ぞ!」
倒れた俺目掛けて振り下ろされたバットを回避してすぐに立ち上がり、バットの男を蹴り飛ばし馬乗りになって顔面を殴……
瞬間五月ちゃんの顔が視界に入った。怯えきって今にも泣き出しそうな顔。そして思い出した、彼女との約束を。
「……ガッ!?」
顔を殴られた。腕を踏まれて、腹も蹴られた。髪の毛を掴まれて更に顔を殴られた。
視界がボヤける。こんなに痛めつけられたのは久しぶりだ。
「君も散々やねぇ。あんなのに関わっちまったからこ〜んな怖い目にあっちまって」
「やめて…お願いだから……」
「あんなの捨ててまえや。俺らと遊んだ方が楽しいぜ〜?今日はクリスマスだし楽しい夜にしようや〜」
「………そうですね…」
「おっ?話が早いやん」
「もう知りません……あの人との約束なんて!もう知らないんだから!!!」
その瞬間、俺の中で何かが切れた。
「ッ…らぁっ!!!」
俺を殴っていた男を蹴り飛ばす。鼻血が止まらないが折れてるわけではなさそうだ。
「……ふぅ………散々殴りやがって……仕返しされても文句は言わせねぇぞ」
「な、なんやねんいきなり!」
「入ってこいお前ら!」
俺が手を叩くと倉庫の入り口が開かれて男が11人ほど入ってきた。1人は俺の旧友の真田。残りは佐助を筆頭に集まった俺の後輩たちだ。
「遅いッスよ兄貴!」
「久々にボコボコにやられてんな幸村」
「うるせぇ。頭から血が流れてないうちは怪我じゃねぇよ」
「お前…真田龍我か!じゃあコイツらは…テメェの!!」
「前は俺ら2人のチームだったんだけどよ。今は俺のチーム、真田十勇士ってやつだ。イカすだろ?」
「テメェら、覚悟出来てんだろうな」
11人が一斉に走り出す。1人2人ずつ相手すれば俺の出番はないだろう。俺はゆっくり五月ちゃんの元へと歩いて行った。
五月ちゃんの側に立っていた男は逃げ出していった。
「幸村君…ごめんなさい…ごめんなさい……」
「俺の方こそごめん。怖かったよね…」
「…貴方は優しい人ですから…きっと私との約束を…喧嘩をしない約束を守ってくれていたのでしょう?それが貴方を傷つけてしまいました…本当にごめんなさい…」
「……いいや、実は守れてないんだ。守れてないから君をこんな目にあわせてしまった」
あの時だっていくらでもやりようはあったはずだ。だけど殴り合いという手段を取ったのは俺だ。誰に言われたでもない。俺自身がそれを選んだんだ。
「謝って許されることじゃない………俺が1番分かってることだ」
「いえ、私の方こそあんな酷いことを…」
「俺は約束を破ったんだ…正直君に合わす顔がなかった」
「それでしたら、私も今後あなたとどう接すればいいか…」
「何夫婦漫才してやがんだ」
「誰が夫婦だよ」「誰が夫婦ですか!」
「兄貴、コッチは全部終わったんで早く帰りましょう!あ、タクシー呼ぶッスか?」
いつの間にか喧嘩は終わっており、真田達が全員倒してしまった。頼りになるなこういう時は。
「ありがとなみんな。俺は五月ちゃん送って帰るから、お前らも気をつけて帰れよ」
「次からはもっと早く連絡寄越せよ幸村。ケーキ予約してんだからよ」
「悪かった。ありがとう真田」
「へっ、シュークリーム忘れんなよ!」
颯爽と現れて颯爽と消える。真田らしいといえば真田らしい。今回ばかりは本当に助かった。
「……帰ろっか」
「…はい」
◇ーーーーー◇
流石にバイクを運転して帰る自信がなかったので、五月ちゃんには申し訳ないが2人で歩いて帰ることにした。
「え、引っ越ししたの!?俺の住んでるアパートに!?」
「はい…何処かいい場所がないかと姉妹で探した結果、あそこが家賃も比較的安い方でしたので」
「いや誰か引っ越ししてるなとは思ったけど…まさか中野家だったとは」
「……家庭教師補佐の件ですが」
「俺も、辞めるのが嫌だったからさ。今日みんなで集まってどうにか出来ないか話そうと思ってたんだ」
「それであのカンニングペーパーですか」
「風太郎が『あいつらはテスト中に見ることはしないが、必ず見る』って言っててさ。家庭教師っていう立場で教えることはできなくても、教えることはできると思ったんだ」
きっと大事なのは『何処でやるか』じゃなくて『7人で集まる』ことだから。
「2回も約束破った俺が言えた口じゃないけど、もう一度君に勉強を教えたい。約束を今度こそ守りたい」
「……何言ってるの。私は君から勉強を教わりたくないなんて言ってないし、言うつもりなんて無い。改めて、私に勉強を教えてください幸村君」
「いいのか…?」
「うん、よろしくお願いします幸村君」
「…ありがとう五月ちゃん………ってあれ?今喋り方」
「どうかしましたか?早く帰りましょう。ケーキが待ってま………ああ!!!ケーキを受け取りに行く予定でした!!」
「ハハッ、じゃあ急いで帰ろうか」
俺のしたことは到底許されることじゃないだろう。だから俺はそれをしっかり胸に刻んで、今度こそ約束を守ろう。
それが彼女を怖い目に合わせてしまった俺に出来る唯一の償いだから。
「え、幸村君あれ!二乃が溺れていませんか!?」
「え??ええ!?なん、な、なんでぇ!?てか風太郎と他の姉妹も川の中にいるし!!」
トラブル続きだった今年。これでも彼女達と出会ってから半年も経っていない。
今までの自分達にさよなら。
そして俺達の新しい年が始まる。
これにて八つのさよならは終わりになります。八つのさよならなのに7話で終わりました。次回からは新年、そして最後の試験に入っていきます。
あとお気に入り150件にいってました。二十数話でここまで行くのは初めてです。これもごとよめパワーの賜物…これからも頑張ります!