最近就寝中に下着は脱がなくなった。
「やっほー、外までドタバタ聞こえてたよ?」
「隼人か。あいつら今起きやがった」
五つ子たちがアパートで暮らし始めて少し経った。冬休みももうすぐ終わる今日この頃、迫る学年末試験に備えて勉強会というわけだ。
「5人一緒に寝てるんだね…そこの部屋5人だと結構キツキツだと思うんだけど」
「そういや隼人は下だったな。朝は隼人が起こしに行ってくれないか」
「いや〜お兄さん朝弱いから」
「朝にバイト入れてるくせによく言うぜ」
クリスマス時期に始めたケーキ屋のバイトはまだ続けている。貴重なホールだと店長が手放してくれないのだ。嬉しいけど俺としては彼女たちの勉強を見る時間に回したいんだよなぁ。
「ふぁ〜あ、おはようハヤト君」「朝からご苦労ね」「おはようハヤト」「おはようございます幸村さん!」「おはようございます幸村君」
「はいはいおはよう。一斉に喋らないでねー」
隣の部屋から五つ子たちが出てきた。だけど一花ちゃんはまだ眠たそうで、炬燵に入るなりウトウトし始めた。
「一花」
「あっ、ごめんごめん。フータロー君もさっきはお見苦しいものをお見せして申し訳ない。あ、それともご褒美だったかな?」
「冬くらい服着て寝ろ!」
「習慣とは恐ろしいもので、寝てる間に着てる服を脱いじゃってるんだよ。あ、家限定だから安心してね」
「一花ちゃん、それだと授業中寝てるって言ってるようなもんだよ」
鬼の形相で風太郎が一花ちゃんを睨むが、まあ仕方ない部分もあるのかなと思う。
父親に頼らずアパートを借りて生活をするということはお金は自分たちで払わないといけない。そうなるとやっぱり現在唯一稼いでいる一花ちゃんの負担が少し大きくなる。多少の貯金はあるだろうけど、貯金だって無限じゃないわけだしね。
「これからは勉強に集中できるように仕事もセーブさせてもらうよ。次こそ赤点回避してお父さんをギャフンと言わせたいもんね」
「やる気満々だねみんな。早速始めるか風太郎?」
「やれやれ。赤点なんて低いハードルにここまで苦しめられるとは思っていなかった。しかし三学期末こと学年末が正真正銘最後のチャンスだ!まずは俺たちと冬休みの課題を片づけるぞ!」
「え?」
「え?」
「フータロー…」
「あんた舐めすぎ。課題なんてとっくに終わってるわ」
炬燵の上に出されたのは冬休みの課題。夏休みと比べて流石に少ないとはいえ引越しとかでバタバタしていたはずなのにもう終わっているのだ。正直な話、失礼だが彼女たちの課題を終わらせることが残りの冬休みでやることと思っていた。風太郎も驚きの顔を隠せれていない。
「あっ…そう……隼人お前は…」
「いや教える側が終わってないのは…ねぇ?」
「…………」
「あなたは今まで何をしていたのですか…?」
「私たちが教えてあげましょーか?」
「うっ、うっせー!通常通りやるぞ!!」
◇ーーーーー◇
「幸村君、確信犯の意味はこれであっていますでしょうか?」
「どれどれ~?あー、確信犯って『悪いことと知っていながらやった』って意味じゃないんだよ」
「そうなのですか!?」「えっ、嘘」「初めて知った…」「幸村さん流石ですね…!」
「俺も驚いたな。隼人知ってたんだな」
「たまたま知ってただけだよ。で実際の意味だけど『法に照らし合わせると犯罪だけど、本人は正義であると本気で信じてやっていること』。結局犯罪者ってことに変わりはないけどね」
「むぅ、なんだか難しいですね…」
「『悪いことを悪いと思いながら犯罪する』か『悪いことを正しいことと信じながら犯罪する』の違いかな。正直俺もどっちも同じゃんって思っちゃったけどね」
「因みに間違った方の確信犯を類語で言い換えると故意犯になる」
「わー!上杉さん物知りですね!!」
「じゃなかったら家庭教師なんてしてねぇよ!」
新年明けて早々勉強となると正直面倒、ダルい、やりたくないという気持ちが勝つと思う。だけど彼女たちの集中して取り組む姿は去年からは想像つかない。
「おい、一花起きろ」
「あ…いやーごめん…寝て……ない…よぉ…」
「寝てるね」
「一花、前より仕事増やしてるみたいなのよ。貯金があるからって言っていたけれど、生活費のほとんどは一花が払ってるし」
「だからって無理して勉強に身が入らなきゃ本末転倒だ」
風太郎の言い分も分からないことはないが、こればっかりは難しい。俺も少しは手伝いが出来ればいいんだけど生憎俺も生活に余裕があるわけじゃない。
「あの…私たちも働きませんか?」
「え?」
意外にも働くことを提案してきたのは五月ちゃんだった。真面目な彼女のことだから勉強に集中したいはずだろうに。
「少しでも一花の負担を減らせたらと思いまして…」
「今まで働いた経験が無いであろう赤点回避で必死なお前らが勉強と両立できるのか?」
「うっ…それなら!私もあなたたちのように家庭教師を目指します!教えながら学ぶ!これなら自分の学力も向上し一石二鳥です!」
「やめてくれ、お前に教えられる生徒がかわいそうだ」
「それならスーパーの店員はどうでしょう!近所にあるのですぐに出勤できますよ!」
「四葉ちゃん、人が良いからレジ抱え込みそうだね…」
「私…メイド喫茶やってみたい」
「い、意外と人気出そう…」
「却下却下!」
「二乃ちゃんはやっぱり女王様?」
「やっぱりって何!?」
「二乃はお料理関係だよね。だって自分のお店を出すのが夢だもんね」
「へぇ、初めて聞いたな」
今の二乃ちゃんがあの腕前なのだ。勉強して練習したら大繁盛間違いなしのお店を構えられるだろう。
やっぱり真田とは気が合いそうだ。今度紹介しよう。
「居酒屋、ファミレス、喫茶店、和食に中華にイタリアン、ラーメン、蕎麦、ピザの配達。様々なバイトを経験してきたがどれも生半端な気持ちじゃこなせなかった」
「食べ物系ばっかりですね上杉さん」
「幸村は今までなんのバイトしてたのよ」
「ん〜?軍手を指定された場所に落とすバイト」
「は?何よそれ」
「ハハハ冗談だよ。数は少ないけどバイトは風太郎と似たようなもんだよ。コンビニにケーキ屋さんぐらい」
「とにかく!仕事を舐めんなってことだ!試験を突破してあの家に帰ることが出来たら全て解決する。そのためにも今は勉強だ。一花の女優を目指したい気持ちもわからんでもないが、今回ばかりは無理のない仕事を選んでほしいものだ」
風太郎も変わったと思う。以前ならそんなことより勉強だ!なんて言ってたかもしれないのに。今は他人の夢のことを考えながら家庭教師として接している。
そして件の一花ちゃんは服を脱ぎ始めていた。これが癖ねー
「フータロー!」「一度までならず二度までも!」「変態!」
「俺!?隼人は!」
「幸村君も見てはいけませーん!!」
デスヨネー
◇ーーーーー◇
次の日。今日は今日でケーキ屋のバイトだ。俺と風太郎は厨房でパイを作っていた。
「どうです俺の作ったパイ!店長のにそっくりだ!ランクアップして給料上げてくださいよ!」
「……幸村君、食べてごらん」
「…………生!」
「厨房に入れるのはまだまだ先、しばらくは幸村君に任せるよ。自分の片付けといてね」
上杉風太郎は勉強以外のステータスを全て置き去りにしてきたような男だ。その分勉強に特化してるからまあ……何も出来ないよりはね。
今日は午前でバイト、というよりお店が終わりだ。なんでも映画の撮影でお店を貸すことになっているのだ。主演の人はテレビで見たことがある人で、それ以外の人もまあ知らないわけじゃなかった。風太郎ほどじゃないけど俺もあんまり詳しくはない。
「失礼します。今日はよろしくお願いします」
「来た。サイン貰っちゃお…」
「ミーハーかよ」
「俺も貰ってこようかな」
「お前もか」
「風太郎のも貰ってこようか?」
「いらねぇ。それより早く帰ってあいつらの勉強を見たい。特に一花の遅れを取り戻すチャンスなんだ。隼人もさっさとサイン貰って合流してくれ」
「見学しないのかい上杉君」
「1人たりとも知らないんで!お疲れっしたー!」
意気揚々と帰る準備を始める風太郎。しかし風太郎が足を止める出来事が起きてしまう。
「よろしくお願いしまーすぅ………!?あっ、この店!!」
「………店長、やっぱ見学していきますわ。よーーーーーく知ってる女優がいたもんで」
◇ーーーーー◆
「ここのケーキ屋さん、一度来てみたかったのです〜」
私は今をときめく…なんてことはない女優の卵…にもなれてるかわからない高校生中野一花。
「え〜なんの話です〜?」
自分の夢のため、姉妹の生活費のために今日も今日とて女優の仕事。今回もホラー映画のチョイ役ってやつだけど。
「う〜ん、タマコには難しくてよく分からないのです〜」
仕事をこなして裏で勉強もして、我ながら順調に事が進んでると思ったけど、やっぱり何もかも上手くいくことなんてない。
「次一花だよ」
「あっ……すみません、少しだけいいですか…」
「カットー」
なんでよりによってフータロー君とハヤト君がいるのぉ!!!
「なんだよタマコちゃん」
「どうしたのタマコちゃん」
「2人とも…恥ずかしいから見ないでくれるかな…?」
なんで2人に壁ドンしてるの私ぃ!?普通は逆だと思うのになぁ!!
「恥ずかしがるような役やるなよ」
「あの子たちのためにも私が頑張らないといけないんだよ。だからどんな仕事も引き受けるって決めたんだ」
「俺も風太郎もその努力は否定しないよ。それに俺たちが家庭教師を続けられるチャンスを作ってくれた一花ちゃんには感謝してるよ。ね!!」
「まあな。だがお前ならもっと器用に出来るだろ。今だけは女優に拘らなくても」
フータロー君とハヤト君は私のことを心配してくれてるんだ。イケメン2人から心配されるのも悪い気はしないけど、だからといって引き下がるわけにはいかない。
アレを出すしかないか。
「いいから言うこと聞いて。でないとこの写真バラ撒くよ」
「なんこれ?」
「私のふとももの上ですやすや眠ってるところ」
「なんそれ!うらやまか風太郎」
「あの感触…そういうことか…ッ」
「因みにハヤト君のもあるよ。ほら」
「え?あ、え、嘘。なんこれ!」
私が見せたのは五月ちゃんとハヤト君が2人並んでソファで寝ている写真。写真を撮ってから少しして起きたからあの場面は私しか知らないのだ。
「いつ!?いつ撮ったの!?てかいつだこれ!?」
「去年の話だよ」
「でしょうね!!これは……お兄さんのピンチというより五月ちゃんにも被害が出るよね」
「そういうこと。五月ちゃんのためにもお姉さんの言うことを聞いてほしいな2人とも」
脅迫まがいだけど、なりふり構ってられない。私にも夢があるんだから。
「う〜ん、おいしいのです〜!」
「はいカットー。今のもいいけど、もう1パターンやってみようか」
「はい!」
撮影は順調。なんだか監督やスタッフとも違う視線を感じるけど……フータロー君かな?だったら私の演技力を見せてあげたい。私だって成長する女だって証明したい。
「スタンバイできました!」
「本番!……アクション!」
テーブルの上の新しいパイを口に入れる。その瞬間口の中に広がったのは、生っぽさ。少し前までの三玖の料理のような味。正直あまり口にしたくないタイプだけど……
「う〜ん!おいしいのです〜!!」
どうかな、私、演技出来てるかな。
◆ーーーーー◇
「先上がりまーす」
「あれ、最後まで見ていかないのかい?」
「すいません、俺らこの後家庭教師があるんで」
一花ちゃんの演技が終わって撮影は一旦休憩に入った。俺も最後まで見学するつもりはなかったのでこの辺りで退散させてもらうことにした。
一花ちゃんの演技は…その、語彙力が無いんだけど、とても凄かった。ただただそう思わされた。女優の仕事を始めてから時間はそこまで経っていないと思う。だけどあの演技力はズブの素人な俺たちでも『凄い』と思わされるものだったんだ。
「ん、これ台本か…?」
「一花ちゃんの名前書いてない?」
「マジで物の扱いが雑だな…」
「そんじゃ、2人で褒めに行きますかぁ」
「そうだな」
スタッフさんによると一花ちゃんはお客さんが待つ長椅子の場所にいるらしい。他の人たちがお互いにセリフ確認している中、1人で何をしているのだろうか。
「いた」
「あれ…勉強してんのかな」
長椅子で1人に数学の問題を解いている一花ちゃん。集中している彼女は俺たちが近づいているのにも気がついていなかった。
「問5、間違えてるぞ」
「!あ……はは、見られちゃったか」
「隠す必要はないんじゃない?」
「こういうのは陰でやってるのがカッコいいんだよ」
「これお前のだろ。台本は見なくていいのか?」
「あ、ごめんありがとう。台本はもう全部覚えたんだ。私は序盤で呪い殺される役だから台詞も少ないんだよ」
「なんか一花ちゃんよく殺されてる気がするんだけど」
それも駆け出しの運命というやつだろうか。出番は短くとも必要な役割、欠けてはいけない歯車の一つ。それを担うには一花ちゃんのような売れ出した駆け出し女優という存在が必要になってくるのだろう。
「それよりここのケーキ大丈夫?さっきのケーキ、結構個性的…?な味がしたんだけど」
「あー……それはすまん。しかし助かった。大した嘘だ驚かされたぜ」
「演技って言いなよ。でも驚かされたのは本当だよ」
「なんというか…そうだな……女優らしくなってきたんじゃ…って寝てるし!」
「あらら。まあ今は休憩中だし、少しはお休みが必要でしょ」
「ったく……しかしあんな大勢の前でよく恥ずかしげもなくできるもんだ。本当にアイツらに見せてやりたいぜ。チケットが余ってたら観に行ってやるか」
「なぁに言ってんの。教え子の晴れ舞台なんだからチケット買わないと、ねぇ上杉先生??」
「俺が貧乏人なの忘れたか?…………お疲れ、一花」
風太郎の肩にもたれかかって寝る一花ちゃんの顔はどこか安らかで……それでいて本当に演技が上手だと思い知らされた。
◇ーーーーー◇
因みにあの映画は爆発的大ヒット!
なんて都合のいいようにはならなかったが、とあるシーンで男の霊が映っていると噂になり、バイト先は心霊スポットとして一部ファンの聖地となったのである。
「銀幕デビューおめでとう」
「嬉しくねぇ」
うぉぉぉぉ!!ギリギリセーフ!ということでお待たせしました。まさかここまでギリギリになるとは思ってもみませんでした。
次回は愚者の戦いをダイジェストで挟み、最後の試験に突入します。と言っても『最後の試験が隼人の場合』となると思います。
そして次回も少し遅れるかもしれません!申し訳ないです!幸村隼人が腹を切ってお詫び申し上げます!
五等分の花嫁の新しいゲーム楽しみですねぇ!!