五等分の花嫁と約束と   作:無限の槍製

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幸村隼人の秘密

最近中野家のドタバタ音が誰の足音か少しだけ分かる気がしている。


第27話 最後の試験が隼人の場合

 

3月某日

 

今日は期末試験の1日目。2年の集大成のようなテスト。進級がかかった大事なテスト。だけど俺としては他にも気になることがあった。それはやっぱり五つ子たち。

 

いや1月からみっちりやったんだ……きっと大丈夫、今は俺自身の心配をしよう。

 

◇ーーーーー◇

 

1月

 

「こんな時間に呼び出されたと思ったら、まさか荷物持ちとはね」

 

「アイツと同じこと言ってるわね。でも荷物持ちとしてはアイツよりよっぽどマシよ。力学的にー、なんて言いながらへばってたわ」

 

「まあ、お兄さんはそれなりに鍛えてますから」

 

夜の6時。二乃ちゃんが俺の部屋に訪ねてきたと思ったら買い物に付き合っての一言。断る理由もないのでついて行ったらただの荷物持ちだった。

 

「昨日が特売日じゃなかったっけ?」

 

「そうよ。今日はちょっとした買い物よ。目当てはコレ」

 

「チョコレート?そんなに??食べるの?」

 

「鈍いのはアンタも?察しが悪いわよ」

 

「察しが悪いって……あぁ、バレンタインか。バレンタインなら2月だし今から買わなくてもいいんじゃない?」

 

「必要としてるのは三玖よ。今日も上杉にたくさん食わせてたわ。アイツの好みでも調べてるんじゃない?」

 

来たる2月14日はバレンタイン。高梨ちゃん曰く『女の子の関ヶ原』なんて言われたこともある。それだけ女の子には大事なイベントなんだろう。

俺としては正直、お返しに困ったりするのでチョコを貰えて嬉しい反面、悩むイベントだ。

 

「いつから食べさせてたのか知らないけど、上杉鼻血出してたわ」

 

「実はチョコレートと鼻血って医学的には関係ないらしいよ?ただ血行をよくする物質があるから、体質によっては鼻血の原因になるかもしれないけど」

 

「そうなのね。じゃあ本当にエロいことを考えてたのかしら…」

 

「可能性がゼロじゃないのがねぇ。特に刺激的なのが1人いるから」

 

「一花のアレに関しては私からも言っておくわ…流石にアレの繰り返しでアンタたちに怒るのも、ねぇ?」

 

流石に二乃ちゃんも一花ちゃんの脱ぎ癖には困っているようだ。癖は中々治らないと思うけど、もう高校3年生になるし、なにより女優だしね。

 

「…幸村、アンタに話すことがあるわ」

 

「なになに改まって。お兄さんにもチョコレートくれるの?」

 

「茶化すな。上杉からもう聞いてるかもしれないけど、昨日五月とパパが話をしてね……次の試験で落ちたら転校することになったわ」

 

「ちょいちょいちょい、スーパーいきなりすぎない??」

 

昨日今日はケーキ屋のバイトに入っていて家庭教師に行けていない。その間にそんなことが起きてたなんてねぇ。

 

「この前の試験結果を見ての話でしょうね。パパの言ってることは正しいわ。アンタと上杉の2人じゃカバーしきれない部分もある。パパはそれを分かっているわ」

 

「正論で殴られてる気分だ……」

 

「でもあの人は正しさしか見てないわ。五月たちはアンタたちと成し遂げたいって意見で固まってるわ」

 

「二乃ちゃんの気持ちは?」

 

「……勉強してテストでいい点を取るならパパが紹介しようとした家庭教師に教わるわ。だけど私はパパが嫌ってるアンタたちから教わった知識でテストを受けて、赤点回避していい点を取ってパパを見返してやりたいの。それだけよ」

 

「……それじゃあ!お兄さんも頑張らないとね!」

 

「話はそれだけ。これでも頼りにしてるのよ幸村」

 

より一層責任重大になったわけだけど、成し遂げてやるさ。これも約束だからな。

 

◇ーーーーー◇

 

「春休みのバイトどうするッスか」

 

今日俺はバイト先のケーキ屋に客として訪れている。家庭教師は午後から風太郎と交代だ。

俺以外にも高梨ちゃん、真田、佐助の3人が席についている。

 

「もう3年生になるんだし、いつもみたいに1週間は出来ないね」

 

「まあ俺は家庭教師も控えてるから取れても3日4日くらいかなぁ」

 

「すいませーん!チョコレートケーキ1つー!」

 

俺たち4人は春休みに1週間程度の短期バイトに参加するというのを去年やったことがあった。それが思った以上に楽しかったし、勉強にもなったし、何よりお金が結構貰えたので今年も短期バイトを探してみることにしたのだ。

 

「遊園地のアルバイト…レストランのホール……色々あるッスけど、なんかどれも専門職臭が強いッスね……」

 

「仕事なんてそんなもんだろ。なるべく4人で参加したいけど、都合よく見つかるかねぇ」

 

「去年のやつはもういっぱいだって言われたしねー。あそこ割と楽しかったのになぁ」

 

「すいませーん!チーズケーキ1つ!」

 

「お前さっきからケーキばっかりじゃねぇか!タルト食えタルト!」

 

春休みの短期バイトを探すも人数が集まって募集を終了してるか、募集人数が3人で4人で参加できないなど中々見つからない。

 

「あ、これなんてどうッスか。温泉旅館で4人募集ってあるッスよ!」

 

「期間も5日間だって。これならちょうどいいんじゃない?」

 

「よし決まりだな。すいませーん!フルーツタルト1つ!」

 

「ちょいちょいちょい、勢いで決めるな決めるな!日にちとか時間帯とかもう少し見るもんがあるでしょ」

 

「えーっと、期間は3月の14日から18日で14日と15日は実質インターン期間ってやつで、本格的な業務は16日から18日みたいッス。時間は9時から17時でそれ以降は夜間担当の従業員に変わる温泉食事付きの泊まり込みッス」

 

ちゃんとインターン期間を設けてるとはしっかりしてるな。バイトだしそこまで重要な役割は与えられないだろうし温泉と食事付きでお金が貰えるのは正直嬉しい。温泉旅館のバイトなんてよく見つけたな……というよりよくバイトを募集したな…

 

「ここの温泉旅館、一応ネット評価はついてるけど件数は少ないね。でも高評価だから隠れた名湯ってやつなのかも」

 

「金貰えりゃなんでもいいっての。どうすんだ隼人」

 

「……ま、評判がいいってことはスタッフさんの対応がいいってことだから、色々勉強になるかもね。他に見つかりそうもないし……とりあえずは応募してみるか」

 

「決まりッスね!んじゃ連絡いれてくるッス!」

 

そう言って席を外し女性客2人と入れ替わりで店を出た佐助。

春休みの短期バイトだが、結局は期末試験の結果次第なところはある。赤点があるなら当然バイトは無くなる。いや短期バイト以前に五つ子たちの家庭教師に立つ側なのに赤点とか笑えないから。

 

「そうそう。あれから五月ちゃんとはどうなの?」

 

「あ?お前自分のこと五月ちゃんって言ってんのか?」

 

「龍我うるさいよ!でどうなの隼人」

 

「どうって……まあ変わらずだけど」

 

「えーー!?進展無し!?短期バイトの話してる場合じゃないじゃん!お互い忙しくなるんだろうし遊びに行く計画立てたら?」

 

「今は期末試験が迫ってるし、五月ちゃんの集中をなるべく切らせたくないんだよ」

 

「これから楽しみがあれば頑張れると思うよ?私はそうだし」

 

「みんながみんな高梨ちゃんじゃないんだからさ」

 

「うーん…じゃあ私が誘おっかなぁ〜」

 

「別にいいんじゃない?五月ちゃんも高梨ちゃんのこと嫌いじゃないでしょ」

 

「コラー!!そうじゃないでしょ!!」

 

「情緒不安定かよ。生理か?」

 

「龍我ァァァ!!!」

 

高梨ちゃん、元気なのはいいけど店の中でアイアンクローをするのはやめてほしい。でも面白いから黙っておく。

 

でも息抜きは必要だよなぁ。タイミングを見計らって遊びに行けたらいいけど。

 

◇ーーーーー◇

 

2月

 

1月は行く、2月は逃げる、3月は去るといったように時間の経過が早く感じる。

 

バレンタインの日にみんなからチョコレートを貰ったり。五月ちゃんからのチョコレートは貰った瞬間に謎の圧を感じたので五月ちゃんと半分こした。すっごい笑顔だった。

 

勉強に行き詰まった時は俺と風太郎でお金を出して遊園地にも遊びに行った。

一花ちゃんと四葉ちゃんとジェットコースターで叫んだり、五月ちゃんと二乃ちゃんとお化け屋敷に入って五月ちゃんが号泣したり、三玖ちゃんと2人してベンチで魂が抜けたり。

最後風太郎と四葉ちゃんが中々観覧車から降りてこない珍事が起きたが、いいリフレッシュになったのか次の日から勉強に力が入っていた。

 

 

 

 

 

そして更に時は流れ、

 

3月

 

「やーやーどーもどーも幸村さんが来ましたよ〜」

 

バイト先のケーキ屋に集まった五つ子と風太郎と俺。いや二乃ちゃんがまだ来てないか。

 

「それでどう?皆さんのテストの結果は」

 

「今のところは一花が1番ですね。私はてっきり今回も三玖が1番かと」

 

「お仕事もあったのに凄いよ一花!!」

 

「え、あっ…三玖、私そんなつもりじゃ」

 

「一花、おめでとう、私もまだまだだね」

 

「今のところ全員赤点を回避しているな。次はお前の番だ隼人」

 

「俺?お兄さんのは後でいいじゃないもぉ〜」

 

別に見せられない点数というわけじゃないけど、なんか今は見せたくない。

 

「試験突破おめでとう。今日はお祝いだ。上杉君の給料から引いておくから好きなだけ食べるといい」

 

「もー店長ったら冗談ばっかり〜。俺と隼人でしょ?」

 

「ありがとうございます。でもまだ1人来ていなくて」

 

「二つ結びの子なら君たちより先に来てこれを置いていったけど。それと君たち2人に伝言」

 

 

『おめでとう。あんた達は用済みよ』

 

 

店長が見せたのは二乃ちゃんの試験結果の紙。これだけ置いて二乃ちゃんは何処に行ったのか。いや1箇所だけ心当たりがある。あの子が今回、何の為に勉強をしたのか。

 

「わーっ!二乃も赤点回避だ!!」

 

「見事全員赤点回避、成し遂げましたね!」

 

「よくやったお前ら。特に三玖、お前はいち早く安全圏に入り教える側に立ってくれた。助かったぜ」

 

「よし、それじゃ二乃ちゃん連れてくるよ。祝賀会は全員参加でしょ?」

 

「ああ、悪いな。二乃のこと頼む」

 

「任せな。店長、バイク借りますね〜」

 

リュックを風太郎に預け店を出る。勿論試験結果を盗み見られないように紙はポケットに突っ込んできた。

さてさて、迎えに行くとしますか。

 

◇◇◇◆◆◆

 

「帰ってきたか二乃君」

 

マンション前に止まった車からパパが降りてくる。パパはいつも私たちのことを君付けで呼んでくる。それがまた私たちとの距離を感じる。

 

「パパ、その君付けはやめてって言ってるでしょ」

 

「悪かったね二乃。先程全員赤点回避の連絡をもらったよ。君たちは見事7人でやり遂げたわけだ。おめでとう」

 

「あ、ありがとう」

 

パパは結果しか見ていない。だから全員赤点を回避すれば褒めるのは当たり前のことと思っている。だけどパパからの褒め言葉っていうのはなんだかムズムズする。

 

「どうやら上杉君と幸村君を認めざるを得ないようだ。だから明日からはこの家で「あいつらとはもう会わない!それと……もう少し新しい家にいることにしたわ」

 

パパの表情が少し険しくなった気がする。分かりにくいけど。

 

「試験前に5人で決めたの。当然一花だけに負担はかけない。私も働くわ。自立したなんて立派なことをしたつもりはない。正しくないのも十分承知の上。でもあの生活は私たちを変えてくれそうな気がする……少しだけ前に進めた気がするの」

 

私をこんな気持ちにさせたのはあの家での生活……だけじゃない、きっとあの2人がいたから……特にあいつがいたから。

 

「理解できないね。前に進むなんて抽象的な言葉に何の説得力もない。それに君たちの新しい家とやらも見させてもらった。僕にはむしろ逆戻りに見えるね」

 

パパはバッサリ切り捨てた。いつもそうだ。幸村も言っていたけれどパパはいつも正論で殴りつける。私もそれが正しいと分かる。だけどただ正論を言われ続けるのは嫌。

 

「5年前を忘れたわけではあるまい。いい加減我儘を言うのはやめなさい」

 

「パパ……私はッ」

 

パパに反抗しようとしたその時、バイクが私たちの前に止まった。ライトが眩しくて目を逸らしてしまうけど、改めてバイクに乗っている人を見るとその人は白馬の王子様に見え……

 

「やっぱり、ここにいたんだ二乃ちゃん。帰るよ」

 

「は、はぁ!?ゆ、幸村ぁ!?」

 

白馬の王子様じゃなかった。にへらと笑う間の抜けた顔の幸村。バイクに乗る姿は様になってるけどその表情とバイクは似合ってないわ。

 

「ほら、みんなとケーキが待ってるよ」

 

「えっ…ちょっ……」

 

「二乃。君たちが行こうとしてるのは茨の道だ。上手くいくはずがない。後悔する日が必ず訪れるだろう。こちらに来なさい」

 

「………パパ、私たちを見てて…行って」

 

「お父様、娘さんを頂いていきまぁす。そんじゃまぁしっかり掴まってな二乃ちゃん」

 

私は幸村の後ろに乗り、幸村は鋭い目つきでパパに宣戦布告とも言える言葉を残しバイクを発進させた。

 

◆ーーーーー◆

 

「なんであそこにいるって分かったの!?」

 

「そりゃあ!二乃ちゃんのことだから勝利宣言すると思ってさ!」

 

「ていうかあんたらは用済みって伝えたはずだけど!」

 

「あー聞こえない聞こえない!風で聞こえませーーん!!」

 

絶対聞こえてるでしょ。確かにバイクと風とヘルメットで聞こえにくいけど。

 

「知って───けど、他の4人────よ!!」

 

「えー??他の4人が何!?風で聞こえない!!」

 

他の4人ってことは一花たちのことでしょうけど…もしかして試験のこと?。となると幸村のポケットからはみ出してるこの紙のことかしら。そっと紙を抜き取ってみる。

でもその紙は4人の試験結果の紙じゃなくて、

 

幸村隼人

国語 89 数学 49 理科 57

社会 72 英語 33 合計 300

 

「あんた……これ」

 

「1番最初に見られたのが二乃ちゃんとは。ハハッ、みんなにはしばらく内緒ね」

 

赤信号で止まった幸村は私に困り顔のような笑みを浮かべる。

 

「もしかして私たちのせい?」

 

「違うよ。そんなことよりケーキ何食べるか考えときなよ?早い者勝ちだからね〜」

 

◆◆◆◇◇◇

 

こうして長いようで短かった高校2年の試験が終わった。結果はみんな赤点回避。これで一区切りだ。

 

卒業まで、となるとまだ不安はあるけど…でも五つ子は一つの壁を乗り越えたんだ。きっとそれは進級してからも糧になるだろう。

 

そうなると、俺たちは本当に用済みになるのかな………

 

「寂しくなる、な……」

 

不意に口からこぼれてしまった。まあ今は走り出してるし風で聞こえてないだろう。もし聞こえていたら『あんたとやっと離れられるわ!』なんて言われる………ことはもうないと信じたい。いやないだろ。うん、ないない。

 

「女子にスイーツの話を振るのはよしなさい。甘いものが好きとは限らないんだから。三玖みたいにしっぶいお茶を飲んでる子だっているかもしれないし」

 

「あー、ごめんごめん。次からは気をつけるよ」

 

「全く…上杉よりはマシとはいえ、あんたもデリカシーに欠けるわね。ほんとそういうところが嫌い、最低、最悪、あとは……そうね

 

 

 

 

 

◇◇◇◆◆◆

 

 

 

好きよ」

 

 

 




駆け足になりましたが期末試験終了になります!ここから恋のダービーが始まるわけです。

それから更新スピードですが徐々に戻していけたらなと思っております。巻数で言えば7巻がこれで終わりましたからね。残り半分と言ったところです。

次回からはスクランブルエッグになります。隼人一味と五つ子の絡みも色々と考えておりますので!
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