五等分の花嫁と約束と   作:無限の槍製

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上杉風太郎の秘密

初めて隼人の成績を見た時、本気で留年を心配した。なお当時の隼人の成績は学年で中の下。


第32話 凡人なりの抵抗策

 

「やあ上杉君、幸村君」

 

「またコイツか…」

 

「そりゃ同じクラスなんだから挨拶ぐらいするでしょ?」

 

毎朝登校すると必ずと言っていいほど武田に声をかけられる。まさかトイレで声をかけられるとは思わなかったけど。まあ人当たりは良いし挨拶ぐらいはするんだろうけど、風太郎の方はあまり良い印象は持っていないようだ。

 

「大変そうだね中野さん達の家庭教師」

 

はい、お兄さんも少し警戒モードに入ります。

家庭教師のことを知っている人は俺の知ってる限りクラスにはいないはずだ。もしかしたら五つ子の誰かが言ったのかもしれないけど…

 

「ふふっ、どうだい?僕が代わってあげてもいいけど、ね?」

 

「それより、なぁんで俺たちが家庭教師してるって知ってんの」

 

「ああそのことかい?中野さんのお父様から話を聞いてね。成績不良の五つ子の皆さんを赤点回避させるべく、学年一の成績を持つ上杉君に白羽の矢が立った。幸村君はオマケだとね」

 

「オマケ……」

 

「なぜお前があの父親と面識があるんだ」

 

「僕の父がこの学校の理事長でね。お父様とはかねてより懇意にさせていただいている」

 

ボンボンコミュニティーめ……まさかそこから情報が流れ込んでくるとは…そして俺がオマケ扱いとは…

 

「そんな事は置いといて、君達は他にもバイトをしているみたいじゃないか。大変だろう?僕が代わってあげるよ」

 

「代われるもんなら代わってほしいくらいだが、生憎俺たちの雇い主はあいつら五つ子だ。俺たちが決める事じゃねぇ」

 

「ふぅん、確信しているんだね。彼女達が君たちを手放さないと。しかし君達はこんなことをしている場合じゃないだろう?特に上杉君は」

 

「?なんのことだ」

 

「…失望したよ。腑抜けた君にもう用はない」

 

お先にとトイレを後にする武田。あんなこと言われたら出るものも出ないってもんだ。

 

「どうすんの」

 

「どうって言っても……俺はいつも通りにやるだけだ」

 

マイペースといえばマイペース。風太郎もやはりブレないね。

 

 

その日の放課後。いつも通り集まって勉強をしていた時のこと。

 

「一花ちゃんは今日も仕事かぁ。確か試写会だっけ」

 

「そうなんですよ!あー私も行きたかったなー!」

 

「仕事で思い出したけど、五月……あんたバイトは…」

 

「ギクリ!!!」

 

口でギクリ!!!って言う人初めてみた。それはそうとして五月ちゃんはまだバイト先を決められていないみたいだ。

 

「あんたまだ決めてなかったの?」

 

「も、もう少しだけ考える時間をください!」

 

「まあもう少しゆっくり考えたら?今は全国模試も近いしね」

 

「そうだぞお前ら。口を動かす前に手を動かせ」

 

正直な話!『卒業するだけ』なら全国模試はさほど重要ではなかったりする。だけど今は華の高校三年生。進路次第ではこの全国模試が重要視されることもあったりする。

 

「一通り埋めたわ。はい、答え合わせよろしくユキ君」

 

「私も終わった。採点お願いフータロー」

 

「模擬試験結構難しかったねー!」

 

「そうですね。しかしそれほど不安でもないというか…一度乗り越えた壁ですし、少し余裕があるのかもしれませんね」

 

「こうなるといよいよ卒業も見えてきましたね!上杉さん!幸村さん!」

 

初めて会った時は正直いかがなものかと思ったけど、確かに見えてきた。薄ぼんやりだったゴールが割とはっきり見えてきたのだ。

 

「ううっ……お兄さん嬉しいよぉ〜ヨヨヨ…」

 

「よっしゃ!答え合わせするぞ!!!」

 

 

家庭教師採点中……

 

 

「う、嘘だろ…ほとんど赤点じゃねぇか…」

 

「お兄さんの涙を返してほしい」

 

採点結果は壊滅的!というわけではないが学年末試験から比べたら確かに下がっている。だけど五月ちゃんだけはさほど変動がないところをみるにやっぱりバイトの影響かな。

 

「んー、バイトも大事だけどこの点の下がり方は不安になっちゃうね…」

 

「すみません!すみません!」

 

「ふざけんな!お前らは学年が上がると頭の中がリセットされるのか!」

 

「なるほど!どうりで!」

 

「無事卒業とか言った途端これだ。俺の試験勉強もあるってのに……じゃあ間違えた箇所を順番に確認していくぞ」

 

少し前なら怒鳴り散らしてた風太郎も随分と角が丸まったもんだ。

 

それから勉強会を続けて午後7時。中野家のチャイムが鳴らされた。こんな時間に来るんだからなんとなく予想はできるんだけど……

 

「失礼するよ」

 

部屋にやってきたのは中野父だった。突然の来訪に風太郎や姉妹たちは驚いている。この人のことだし彼女たちがこの部屋にいることも分かっていたんだろう。

 

「ど、どうしたのよ急に…」

 

「もうすぐ全国模試と聞いてね。彼を紹介しに来たんだ。入りたまえ」

 

「お邪魔します。申し訳ない、突然押しかける形になっちゃって」

 

中野父が紹介したのは武田だった。この流れ…まさかとは思うけど、

 

「今日からこの武田君が君たちの新しい家庭教師だ」

 

「はあ!?」

 

みんなの気持ちを代弁するかのように二乃ちゃんが声をあげる。確かに今更なんで感はあったりするけど……妙に納得してしまってる自分もいたりする。

 

「どういうことでしょう?説明してください」

 

「上杉君、幸村君。先の試験では君たちの功績は大きい。成績不良で手を焼いていた娘たちだが、優秀な同級生に教わることで一定の効果を生むと君たちは教えてくれた。もっとも幸村君はイレギュラーだがね」

 

「それならフータローもハヤトも代える必要なんてない」

 

「いや、それは俺はともかく風太郎が今も優秀だったらの話なんだろうね。風太郎、お前の順位が少し落ちてるのは流石に知ってんぞ。それってつまり点数も下がってるってことだ」

 

「ったく、いつ知ったんだか……」

 

「物の管理が出来ていないからテスト用紙を落とすんだと思います!」

 

「痛いとこつくな四葉…」

 

「そして新たに学年一位の座に就いたのが彼だ。ならば家庭教師に相応しいのは彼だろう」

 

中野父も痛いところをついてくる。確かに言いたいことは分かるし正論だと思う。成績だけ上げるならそれが最効率だろう。

でも言葉は悪いけどある意味ポッとでの武田の授業をこの子達がまともに受けてくれるか……いや流石に受けるとは思うけど。

 

「上杉君!長きにわたる僕らのライバル関係も今日で終止符が打たれた!ついに僕は君を超えた!この家庭教師も僕がやっ「いやお前誰だよ」

 

風太郎の一言が時を止めた。

これは煽りでもなんでもなく、風太郎は本気で武田のことが分かっていないのだろう。

 

「風太郎、流石に……酷くない?ほら武田冷や汗かいちゃってるよ。可哀想だよ流石に」

 

「いやクラスにいるのは知っている。だがそれ以上は知らん」

 

「いや、ほら…ずっと二位で君に迫っていた武田…」

 

「ああ。あんなに突っかかってきたのはそういうわけか。ずっとわからなかったんだ。今まで満点しか取ったことなかったから二位以下の順位も隼人のしか気にしたことなかったわ」

 

最近はコイツらのも気にしてるがな!と謎のドヤ顔をぶちかます風太郎。それはそうと憐れだな武田。五つ子との出会いで少しは丸くなったと思ったけど、やっぱり根は上杉風太郎だった。

 

「わかりました。学年で一番優秀な生徒が家庭教師に相応しいというのなら構いません。恐らくそれだけが理由なのではないのでしょうが。しかしそれなら私にも考えがあります」

 

五月ちゃんの中野父に詰め寄る姿はまるで母親のようだ。迫力と説得力を感じる。

 

「私が三年生で一番の成績を取ります」

 

「ふむ。いいだ「ちょちょちょちょ待って待って!!タイムタイム!!」

 

中野父から五月ちゃんを引き離す。なんかとんでもない事口走ってない!?それってつまり今の風太郎以上の成績出すって事だからね!?

 

「お父さんに何言われても関係ない!フータローとハヤトは私たちが雇ってるんだもん!」

 

「そうよ!ずっとほったらかしにして今更「いい加減気づいてくれ」

 

二乃ちゃん、三玖ちゃんと中野父の間に入ったのは武田だった。真剣な表情にはさっきまでの憐れな武田はいなかった。

 

「上杉君と幸村君が家庭教師を辞めること、それは他ならぬ彼らのためだ。君たちのせいだ。幸村君はともかく君たちが上杉君を凡人にした」

 

「あの、さりげなくお兄さんのこと凡人呼ばわりにするのやめない?」

 

「彼らには彼らの人生がある。解放してあげてはどうだい」

 

うん、まあ言ってることは分かるよ。そりゃあ何より大事なのは……

 

「確かに自分の人生のほうが大事ですよ。でも、解放してあげたら…なんて、まるで俺が縛られてるみたいじゃないですか。この家庭教師も俺の人生なんです。自分の人生なら逃げ出すことなんてしないでしょ?それに決めたんですよ。もう2度と目を背けない、約束は破らないって」

 

「こいつらと出会わなかったら、俺は凡人にもなれていなっただろうよ。教科書を最初から最後まで覚えただけで俺は知った気になっていた。知らなかったんだ。世の中にこんな馬鹿どもがいるってことを。俺がこんなにも馬鹿だってことも。こいつらが望む限り俺は付き合いますよ」

 

「そこまでする義理はないだろう」

 

「義理はありません。ですが」

 

「この仕事は俺、幸村隼人とこいつ、上杉風太郎にしかできない自負がある」

 

「こいつらの成績を二度と落とすことはしません。俺の成績が落ちてしまったことに関してはご心配をおかけしました。俺はなってみせます。そいつに勝ち、学年一位……いや全国模試一位に!」

 

俺も姉妹たちが言ってやったぜドヤ顔風太郎を押さえつける。

 

「う、上杉さん!?」

 

「全国は無茶ですって!」

 

「フータロー、もう少し現実的に…」

 

「あ!?校内一位だけじゃ今までと変わんないだろ!」

 

それから少し話し合い……

 

「全国で十位以内!これでどうですか!」

 

「俺は校内で十位以内で。って……なんでお兄さんまで…」

 

「……大きく出たね。無理に決まっている。それも5人を教えながらなんて」

 

「……わかったよ。もしこの全国模試でそのノルマをクリアできたのなら、改めて君が娘たちに相応しいと認めよう」

 

VS中野父も何度目だろうか。いや、何度だってかまいはしない。何度でも乗り越えるだけだ!

 




迫る誕生日と全国模試。ここからは男の戦い、そして近づくのは女の戦い。全国十位はともかく校内十位もかなりなもの。私はそんな順位を気にする前に赤点取らないことで必死でした。
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