お腹は強い方
全国模試当日。もう少し寝ていたい欲と戦いながら登校する。朝起きたらクマがすごいのなんの。パンダになっちゃうよ。
横にいる風太郎も目の下にクマを作ってる。そんで牛乳飲んでる。風太郎は牛になるかもしれないな。
「やれそうか」
「んー、どうだろ。寝なきゃいけると思うよ」
「そうか」
緊張もあるだろうけど、やっぱり睡眠不足なのか元気が無い。途中でぶっ倒れなきゃいいけど。
「おはようございます。いよいよ試験当日ですね」
後ろから声をかけてきたのは五月ちゃんだった。その横には他の姉妹たちの姿もある。てかみんなしてクマ凄いね?
「綺麗な顔にくっきりクマ出来ちゃってるねみんな」
「そう言うユキ君も凄いけどね…」
「いやぁ、ここまでくっきり付くとは思いませんでしたよ〜アハハ…最後まで起きてられるかな…」
いつも元気な四葉ちゃんも流石に眠たそうにしている。空元気って余計パワー使うからね。ちゃんとセーブしとかないと。
「どうフータロー君。全国十位いけそう?」
「フッ、勿r「ハーッハッハッハッハ!!上杉君!ひとまずここまで逃げずに来たこと褒めておこう!!」
「出た……」
三玖ちゃんがウンザリしている。それもそのはず、凄いテンションの高い武田が階段の上で待ち構えていたのだ!!………まあ眠たい時にあのテンションで迫られたら正直ウザい。
「だがしかし!君は後悔することになるだろう!!あの時逃げておけばよかったとね!!」
「朝からうるさいわね……」
「上杉さんは負けません!あと幸村さんも負けません!!」
「いやぁ、お兄さんはちょっと難しいんじゃないかなぁ…」
「君たちには話していない!!上杉君、ここが僕も君の最終決戦…一騎討ちで雌雄を決そ「お前ら急げ。まだ開始まで時間がある。少しでも悪あがきしておくんだ」
まるで興味無し!と言わんばかりに武田の隣を通る風太郎。五つ子たちもそれに続いていく。まるでピクミン&オリマーだ。
「悪いな武田。こっちは7人いるんだ。一騎討ちにはならねぇよ」
セリフと目の下のクマも相まってまるで極悪人のようだ。少し前なら完全スルー決め込んでただろうな。成長したな上杉センセー!
◇ーーーーー◇
「顔色悪いぞ風太郎?」
「大丈夫だ…問題無い…」
1個目の模試が終わり休み時間。明らかに風太郎の顔色が悪い。寝不足ってだけじゃこんな顔色にはならないはずなんだけど…
「なんか変なもんでも食べた?消費期限切れの牛乳とか」
「俺がそんなヘマするかよ…」
「しそうだから言ってんのよ?テスト中に漏らすなよ?」
「漏らさ……漏らさねぇよ…」
ホントに大丈夫なのか不安になる。流石にトイレとテストを天秤にかけたらトイレを優先すると思うけど………優先するよね?
「大丈夫なんですか上杉君。顔色が悪いですけど」
「名探偵ユキムラの名推理だと、昼まで我慢して昼食の時間返上でトイレに篭るね」
「どこが名推理なんですか!?」
「とにかく信じるしかないね。風太郎の腹の強さを」
それから模試は続いた。模試が終わるたびに風太郎の顔色は悪くなり、ついに昼休みに入った途端風太郎は小走りでトイレへと向かっていった。
「おーい、大丈夫かー」
「………今携帯確認したんだが……牛乳、ダメだったみたいだ」
「あー、朝のか」
「こんな日に、なんて不運だ……」
消費期限切れ牛乳は流石にヤバい。牛乳を拭いた後の雑巾の匂い並みに人体に悪影響があるんじゃないかってレベルでヤバい。これ以上腹痛&トイレが長引けば流石に今後に支障が出る可能性が非常に高い。
そうなったら家庭教師生活もヤバい。
「やあ、随分と長いトイレだね」
「武田?ああウンk「上杉君が見当たらないから探しに来たんだよ」
「不思議と来る気はしていた。こんなところで時間を無駄にするぐらいなら復習ぐらいしたらどうなんだ」
トイレの妖精と化した風太郎が武田に話しかける。それに対して武田は悪い笑みを浮かべてる。
「必要無いさ。これさえあればね」
「これ?…どれだ?」
「ああ、なんか封筒持ってる」
「これはね、この模試の答えだ。ここに全て書いてある」
ドヤ顔武田は風太郎にも分かるようにトイレの上から封筒を見せようと背伸びしている。それに対して風太郎は一言『便器の中に落とすぞ』と。
「てか、普通に言ってるけどめちゃくちゃ不正ーー!?」
「そう、確実に勝てる。どれだけ君の成績が良くてもね」
そう言いながら武田は封筒をビリビリに破り、そのままトイレに流した。
「………ん?いや、なんで?」
「今の音…まさか封筒を破って流したのか?」
「トイレ詰まっちゃうよ」
「安心してくれ。前半の科目でもあの封筒は開けていない」
いやまあそれもだけど、トイレの心配もして欲しいなぁ。それにしても父親が理事長だったら答えも貰えるんだなぁ………ちょっと羨ましいな。いやでも答え貰っても覚えてなきゃ意味ないか。
「上杉君、幸村君。僕はね……宇宙飛行士になりたいんだ」
「………?悪い、なんて?」
「宇宙飛行士になりたいんだって」
「地面も空も空気も無いあの空間に憧れているんだ。全てが無い、だからこそ全てがあるんだ」
「なるほど、深いね」
「感心してる場合か……」
「ずっと縛られてきた僕の人生で唯一見つけた道だ。無論それは険しい道。宇宙に行けるのはこの地球で一握りの選ばれた者のみ。世界中の人間がライバルだ」
「確かに、そう考えたら宇宙に行くのって凄いね…」
「だから僕はこんな小さな国の小さな学校で負けるわけにはいかない。夢があるから!実力で君を倒す!!」
武田、凄いかっこいいこと言ったのは分かる。風太郎に向けて言ったのも分かる。
でも俺から見たらトイレのドアに向けて啖呵切ってるんだよ。かっこよさ半減しちゃったよ。
「武田、受けてたってやるよ」
「………ハハハ!!何を今更!!僕らは永遠のライバルなのだからね!!」
「ついでに言っておくが、そこの幸村隼人を舐めると痛い目に遭うぞ」
「油断しまくってくれた方が嬉しいんだけどなぁ」
「フッ……油断も、慢心も、トイレと一緒に流したさ」
過去最高のキメ顔をしながら武田はトイレを後にした。ホントに風太郎探しに来ただけだったな。
「で、受けて立つ上杉殿のお腹の調子は?」
「過去最高に悪いぜ。まあ逃げるつもりもないが」
「さっすが。下半身丸出しじゃなかったら最高にイケてたよ」
◇ーーーーー◇
「見事、と言う他ないね」
全国模試から早一月。一月も経てば随分過ごしやすい気候になっている。動物が冬眠から目覚める理由、なんか分かる気がする。
俺と風太郎、そして武田の3人は公園でブランコで遊んでいた。正確にはブランコには風太郎と武田が乗って、俺は後ろから2人を押していた。
「君が十位以内に入ったとしても勝つつもりで臨んだ全国統一模試、八位というのは僕にとっても願ってもない順位だ。まさかその上を行かれるとはね。三位おめでとう上杉君」
「いい感じに締めようとしてるが、何故俺たちは昼間からブランコで遊んでいるんだ」
「童心に帰る時も必要ってことでしょ」
「昨日の敵は今日の友。これが青春なのかもしれないね」
全国模試、結果は風太郎は全国三位、武田は全国八位という結果に終わった。そして俺は校内七位。俺はなんとか目標達成できたが、風太郎はあと一歩届かずだ。
「にしても、公園に呼び出すなんて。まさかブランコで遊びたいのかな」
「あの仏頂面でブランコ漕いでたら流石に笑うぜ」
「おや、噂をすればだね」
公園に呼び出した張本人の中野父が姿を現した。真昼間の公園に似合わないキッチリとしたスーツ姿はいつ見てもラスボス感を漂わせている。ホントこえ〜。
「待たせてすまないね。まずは武田「いや、流石にブランコからは降りますよ」
流石にブランコで遊びながら人の話を聞くつもりはない。
近くのベンチに移って話の続きをすることにした。
「まずは武田君。全国八位おめでとう。出来の良い息子を持ててお父さんも鼻が高いだろう」
まあその親父は息子に答え渡してたんだけどね。
「君は医師を目指していると聞いた。どうだろうか。君のような優秀な人材ならば僕の病院に「申し訳ございません。大変光栄なお話ではありますが、僕の進路についてはもう少し考えたいと思っています」
「…そうかい。良い返事を期待しているよ」
表情の変わらないただ一つのパパフェイス。ここで医者の話に乗っても表情変わらないんだろうなぁ。
「上杉君、幸村君。君達には家庭教師の仕事を再度頼みたい」
「えっ」
そういえばそうだった。勉強教えてたけど今は家庭教師の仕事としてではなかった。
「報酬は相場の5倍。アットホームで楽しい職場だ」
「ブラック企業かな?」
「それにしか聞こえねぇからやめろ…」
「また君達に依頼するのは正直不本意だ。本来ならプロでさえ手に余る仕事。だが、君達にしか出来ないらしい。やるかい?」
「勿論、願ったり叶ったりですよ」
「言われなくてもやるつもりだったんだ!給料が出るなら尚のこと!!」
「それは良かった。では当初の予定通り卒業まで「そのことで一つお伝えしたいことがあります」
「成績だけでいえば彼女達はもう卒業までいける力を身につけています」
「それで良いと思ってた。だけど五月の話…そして武田の話を聞いて思い直しました。次の道を見つけてこその卒業。俺たちはアイツらの夢を見つけてやりたい」
これは模試が終わった直後ぐらいに風太郎と2人で話し合ったことだ。ここまで来たら最早家庭教師じゃなくて進路指導の先生みたいなもんだけど、俺もみんなの夢を見つける手助けをしたいと思った。
まあ俺自身夢を見つけられていないけど、もしかしたら俺の夢を見つける一歩に繋がるかもしれないから。
「…随分な変わりようだ。どのような方針を取ろうが君達の自由だ。間違ってるとも思わない。だが忘れないで欲しい。君達はあくまで家庭教師。娘達には紳士的に接してくれると信じているよ」
「も、勿論一線を引いてます!俺は!俺はね!」
「あ!それじゃあ俺が一線引いてないみたいじゃねぇか!!俺は二線引いてますよ!二線!」
一応、彼女達の心配をしてるってことでいいんだよね…これ……
◇ーーーーー◇
「はあ、あの人と話すると寿命が縮む気がする」
アパートに帰る途中、コンビニに寄ってカレーと唐揚げを買った。たまには自分にご褒美をあげなくては人間壊れてしまうってもんだ。
「あ、ハヤト」
「あら三玖ちゃん。今帰り?」
「うん。パン屋帰り」
バイト終わりの三玖ちゃんとばったり会う。美少女と道端でばったり……なんて状況だけど、同じアパートなのもあって結構こういうことあるんだよね。ほぼ定番イベントになりかけてる。
「ちょうどよかった。私の作ったパン食べて」
「パン?」
そう言って三玖ちゃんは紙袋からパンを一つ取り出して渡してきた。三玖ちゃんのパンは何度か食べたことあるけど……言葉を選ばずに言えば好みの味ではなかったことが多い。
それは三玖ちゃん自身も分かってるみたいで、ここ最近は毎日頑張って作っている。
「いただきまーす!」
「……どう?」
「うん……うん!おいしい!!これもしかして出来立て?」
「作ってから少し時間は経ってる」
「ホント?いや凄い美味しいからさ。これ風太郎にも食べさせよう。アパートに行くって言ってたから今から戻ればまだいるかも!」
「もう少しだけ待って…フータローにはとっておきの舞台で食べてもらうから」
今の三玖ちゃんはとっても素敵な笑顔をしている。これが恋する乙女ってやつか……恋は人を成長させるとはこのことか。
「で、とっておきの舞台って?」
「ほら、修学旅行で行く京都の」
「ああ、修学旅行!修学旅行ね……修学旅行…」
やっべー、修学旅行のことすっかり忘れてたわ。
しかも京都かぁ。色々思い出がありすぎてなぁ……何も起きなきゃいいんだけど……