「胃が痛てぇ、何故にデビュー前に自分の担当の母親と話すことになってんねん……」
キリキリと痛む腹を抑え、俺は職員室にズリズリと重い脚を動かす。
俺の担当ウマ娘であるキングの母親はかつてアメリカでその名を轟かせた名ウマ娘、
獲得したG1タイトルの数はあろうことか永遠なる皇帝、シンボリルドルフと並ぶ7冠である、ぶっ飛んだ母親にもほどがある。
……母親か。
今更どうこう思ったりはしない、が。
────
「とは言っても、幾らごねたところでオチは決まってんだから腹をくくろう……」
ツカツカと足が悪くなりそうな革靴で職員室に着くとたづなさんが入口で待っていた。
「すみません、遅れました!」
「いえいえ、全然時間前ですので大丈夫ですよ。早速
たづなさんはさらっとそう言った。
待て。ご案内……?
何かがおかしい、まさかな。
一応それっぽく聞いてみるか。
「たづなさん……もしかしてなんですが、この後うちの
「しますね♪ 、貴方にどうしてもお話したいことがあるそうですよ?」
たづなさんは綺麗な笑顔でそうおっしゃってくれました。
ガッテム!! やっぱり予感どおりだよチキショウ!!
なんかやらかしたりしたかな……と、ここ数ヵ月の行動を思い返したどうあがいても心当たりしかなかった。
(主に過労で死にそうな状態になるまで残業したり、担当に気を遣わせてしまうなど)
「緊張するなぁ……」
がくりと肩を落とし、五分ほど歩くと応接間の前に着いた。
「それでは、頑張ってくださいね♪」
「招致、致しました……」
目に見えてガチガチに緊張にしている俺を見て、たづなさんが不安を和らげるらめに
「……貴方はちゃんと努力しているのは私たちはちゃんと知っています。どうか落ち着いて、ゆっくり話せばちゃんと相手に伝わりますから安心してください」
そう言ってたづなさんは戻っていった。
さてどうしよう、どうにか相手に対して粗相のないようにしなくては。
キングに迷惑かけるわけにはいかないし。
取り合えず今は目の前の事に集中しよう。
コンコン、とノックする。
「どうぞお入りください」
挙動不審になりつつガチャ、とドアノブを回し引っ張る。
「し、失礼致します」
扉を開けるとそれはもう美麗なウマ娘がいた。
よく見ると所々がキングに似ている。
この方が恐らく遠路はるばるやって来たキングのお母様こと『グッバイヘイロー』なのだろう。
緊張で頭がおかしくなってしまいそうだ、誰か助けてくれ。
「こんにちは、
「い、いえ。こちらこそ……お忙しい中わざわざ来ていただいて誠にありがとうございます」
なんとか口から言葉を絞り出せはするが……苦しい、こんな時、
「そんなに緊張しなくても大丈夫よ、落ち着いて深呼吸よ。ほっほっひっふー」
「はっはい、ほっほhh……てそれはラマーズ法ですっ」
「ふふっ、ごめんなさいね? あまりにも緊張してらっしゃっていたからつい、ね?」
緊張しているのが
これじゃまたアイツに怒られるな……」
俺が脳裏で反省しているの姿を彼女は凝視した後に彼女は俺の眼を突き刺すような視線で言った。
「……ねぇ、トレーナーさん。貴方、名前なんて言うのかしら?」
それは拒否権は無いと言葉にしてなくとも判るぐらいの圧をもった聞き方だった。
「えと、舞踏勇……です」
たどたどしい状態で俺が自分の名を言うと、彼女は〝これが血筋なのかしら……”と呟き、途端になにか確信を得たように俺に対する目つきの色が変わった。
「大きくなったな、勇。こうして会うのは16年ぶりね」
目の前の彼女は懐かしむ様に俺にそう言った。
何を言っているんだ? 少なくとも俺にはその年の頃の記憶では彼女のようなウマ娘は居なかったはずだ。
「貴方が覚えてないのも無理もないわよ、
ヤンチャと聞いてもう一度記憶を掘り起こしてみると確かに目つきが悪く、トレーナーの親父とよくケンカしてたウマ娘がいたなぁ……あれ、まさかな? 気のせいかもしれないしちゃんと聞いてみよう。髪色も違った気がするし。
「……もしかして昔親父と取っ組み合いしてボコられてた?」
「ええ♪ あれから一回も勝てなかったわ、本当に人間か疑うレベルで強かったわ……」
彼女はどこか遠い目をしながら肯定した、なんてこったい。
というのも、俺が幼い頃の事だ。
俺の親父はかつてアメリカでトレーナーをしていたんだが、まぁ名トレーナーと言われるぐらいには腕が良かった。
数々のG1を担当ウマ娘と共に手にしてきた、ある時は何人も病院送りにするぐらいの気性難の塊を御し、ある時は運命に噛みついたウマ娘と。
何故かウマ娘と取っ組み合いして勝利したりするのは正直分からない、恐らく隔世遺伝か突然変異で起こる過剰な身体能力が原因じゃないかと思う。
とまぁ俺は親父のそんなカッコいい姿に憧れてトレーナーを目指していた。
尤も、親父にこの姿を見せることもはしたくても、もうできないんだがな。
「貴女でしたか……それは兎も角、今日はどのような用事でいらっっしゃったのです?」
俺がそう問うと、キングのお母さまもといグッバイヘイローがわざとらしくハッとした表情を浮かべた。
「あ、そうだった。今日は貴方に用があって来たのよ、今日会って確信したわ」
貴方、最近無理してるでしょ。それも重度の。
彼女はいとも簡単に俺の疲労が治っていない事を暴くように、あの頃と変わらない鋭い瞳で問い詰めた。
「あはは……さすがにバレちゃうよね」
「バレるもなにも隠せてないわよ。ぱっと見は解らなくても行動に出てるの。これでもG1ウマ娘なんだから解って当然よ?」
おーほっほっほ、と彼女は高笑いをしながら俺にそう言った。こういところは凄いキングに似ているなぁと思う。
「まったく、うちの
「あったりまえだ……、教習と違ってやることがあまりにも多すぎるからなかなか終わらないよ」
「新人にあんな量を寄越すなッ!! って貴方のお父さんも言っていたわね……ふふっ、懐かしい気分」
過去を懐かしむ様にグッバイヘイローは少し悲しげに笑いながら言葉を零した。
俺の知っている親父はテキパキと仕事をこなしている時のことしか知らないが、意外と親父も初めはヒ―ヒー言ってたんだな。
「親父にそんな時期が……なぁ、教えてくれないか? 親父がトレーナーとして心がけていたことを」
「……いいわ、但し、決して絶望しない事、無理をしないこと、身を削るような真似はしない事、これを守れるって約束するなら話してあげる」
どんなに比べられても、決して絶望しない。そのことの覚悟は、彼女と契約したあの時にもう決めている。
「ああ、約束する」
「……分かったわ、覚悟して聞きなさい────」
俺の覚悟を受け止めてくれた彼女は親父の事を語り始めた。
大変お待たせいたしました。
就活やらなんやらで書く時間が全然取れなかった……
これからも不定期になることが多々あるかと思いますが、この作品をよろしくお願いいたします。
今後深堀りしてほしい話は?
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勇の親父の現役時代の話
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勇の幼少期
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砥山トレーナーとミホノブルボンのお話
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勇のトレーナー養成学校時代
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サンちゃん(サンデー)の話