不屈の王は守りたい   作:霜月優斗

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不屈の王は守りたい⑭

 本来ならやる前から決まり切っていた勝負。

 人間がウマ娘に速さで勝てることは絶対あり得ない、それが通説の筈。

 で、あるのなら。

 

 私の三バ身後ろにまで迫っているアレは誰なの? 

 確かにスタートダッシュで大差を付けてそのままどんどん離していった感覚はあった。

 第二コーナーで勝負はほぼ決まっていたと言ってもよかったと自分の事ながら思う。

 

 けれど、明確にその違和感を感じたのは第三コーナーを抜けた瞬間だったわ。

 後ろから形容しがたい怪物を起こしたかの様な悪寒が全身にヒリヒリするどころではない強さと意思で私の背中を突き刺してきた。

 

 一歩、また一歩進む度にどんどんその気配が蛇の様に這ってやって来る。

「もっとだ、もっと楽しませてくれよ…!!」

 

 本来ならいない筈の人間がウマ娘に追走してくる現状、この前スカイさんと見た映画のおかげでどうにか冷静にいれている、感謝するわスカイさん。

 それはそれとして…アレは一体…

 

「誰なのよ……」

 得体の知れない恐怖に私はらしくない弱音を漏らしてしまった。

 

「…ハハッ、面白れぇ!オレが()()()()雰囲気だなぁ!!」

 

 私の後ろにいる何者か、その外見は限りなく私のトレーナーだ。

 ただし、心なしか目の色が何時もの蒼い色から紫水晶じみた色に変色しているけれど。

 普段の彼では想像し得ないぐらい獰猛な笑みを露わにしたままに追走してきてる。

 でも私が知っている彼とは雰囲気がまるで違っていた。

 そもそも人間の身体でウマ娘と同じかそれ以上の速さで走ってる事がおかしいのだけど。

 正直、トレーナーがトレーナーじゃなくなったみたいで怖いわ。

 トレーナーがへっぽこな雰囲気だとしたら真後ろにいる彼は研ぎ澄まされた剣山が服を着て歩いてるような雰囲気で恐ろしい。

 けど。

「……私はッ!!」

 

 何がどうしてああなったのかを問い詰めるためににも、あの()()()()()()()()()()()()()()である私が得体の知れないものに負ける訳にはいかないのよッ!! 

「やってやるわ……!」

 そう意気込んで私はこの数か月間にブルボンさんに叩き込まれた技術を仕掛ける準備をする。

 一歩、息を整える。

『コーナー回復』 

 

 二歩、冷静に状況を整理する。

『読解力』

 

 第四コーナーが終わる直前だけど何とか間に合った、あとは実行するだけ…!

「行くわよ……!」

 

 三歩、放たれた弓矢の様に飛び出す。

『外差し準備』

 

「はああぁッ!!」

 爆裂の咆哮を起爆剤にして一バ身にまで詰められていたキングヘイローは再び背後にいる存在を引き離していく。

 

「仕掛けた!」

「おいおい、それはまだ早くないか!?」

「いや、今仕掛けないと追いつかれるから正解の筈だ。」

 

 残り二百メートル、後ろの『彼』とは何とか四から五バ身差までは引き離した。

 でもさっき彼が見せたあの末脚を考えるとまだここは射程範囲内、ここは決して安心できないわ。

 

「まだまだここからなんだから!!」

 

 『Call Me King Lv.3』

 

 全力で引き離す…!

 ブルボンさんとのトレーニングのおかげでこの速さでも何とか体力が持ってくれそうね。

 心臓から肺、そして脚に酸素を廻して全力でターフを蹴り飛ばして駆ける。

 

「…ッチ!今回はここまでか…」

 私が更に加速したのを逃がさないと『ソレ』は当然追おうとしたが、その身体が先に根を上げたのかずるずると後退していき私に追いつくどころか離されていき、そのまま私はなんとか先頭でゴールインした。

 

「なんとかあの子が勝ったな…」

「そう、だな…普通ならわかり切った勝負の筈なんだがな」

「違いねぇ。とは言え、なんであの新人は途中からあんな速度を上げれたんだ?ドーピングにしたってなんか飲む素振りも無かったし。」

「…昔の文献にはごく低確率ではあるが、人の身体にウマ娘の身体能力と魂が継がれてしまう事案があったらしい。」

「そんな御伽話じゃねぇんだからよぉ…」

 

 

「はぁ、はぁ…なんとか勝てた…そうだわ、トレーナーは…!」

 私は肩で息をしている状態で背後を振り返る。

 

 そこには残り五十メートルで力尽きるように彼は倒れていた。

 さっきまでの疲労もお構いなしに駆け寄りすぐさま彼の手を取って脈を診ると、規則的な拍動を聞いて私はほっと息をなでおろした。

 パッと見た感じは大怪我は無いみたいでよかったわ……

「よかった…」 

 

「あれれ~?何時ものキングらしからぬ心配ですな~」

 ほっとしている私を何時もみたいにからかいながらスカイさんは来たけれど、その目つきは心配一色ね。

「そういうセイちゃんも顔真っ青で心配してマシタ!」

 エルさんがニヤニヤとした表情でスカイさんをからかうと、スカイさんが目に見えて動揺していてちょっと新鮮だわ。

「エール―ちゃーん!?」

 

 まったく…締まらないわね。

 そう思っていると

「ぐっ…俺は…」

 ぐったりした呻き声は上げてはいるけれど雰囲気はさっきとは違って私が良く知っているトレーナーだった。

「…ようやく起きたわね、へっぽこさん」

 

 私の声を聴いてトレーナーは苦笑いを浮かべて私のゴール後に駆けつけたエルさんとスカイさんの肩を借りながら起き上がった。

「すまない、心配かけたね……」

 

「いいのよ、何時もより刺激的な練習だったから。…後で、何が起きてたのかきっちり聞かせてもらうわよ?」

 

「…わかったよキング」

 少し思案して覚悟を決めたらしい声色で彼はそう返した。 

 

「この感じじゃ今日の併走は無理そうだね~…」

 セイウンスカイはキングとそのトレーナーを見てぽつりと零した。

今後深堀りしてほしい話は?

  • 勇の親父の現役時代の話
  • 勇の幼少期
  • 砥山トレーナーとミホノブルボンのお話
  • 勇のトレーナー養成学校時代
  • サンちゃん(サンデー)の話
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