不屈の王は守りたい   作:霜月優斗

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不屈の王は守りたい⑦

 トレーナーの指示で坂路トレーニングをブルボンさんの手助けもいただきながら続けて早一か月経ち、今度は体幹のトレーニングで体を温めてからコースの走り込みをしている。

 彼も私を担当してから一か月も経てば業務にも慣れてきたようで、以前よりも顔色が目に見えてよくなっているのを横目に私は彼に気づかれないようにほっと息を零した。

 ……連続スクワット80回をこなしながら。

 

 その連続スクワット(そのまえにプランク二分を二セット終えている)を終えて、次はブルボンさんとの併走。

 クラシック二冠を取った彼女と併走できる機会なんて早々訪れないわ。

 今の私がどこまでミホノブルボン(クラシック二冠者)に通用するのかを試させてもらうわ!

 今回私たちが走るコースは芝2400m、本来ジュニア級で走ることはない距離。

 でも、そんなこと私には関係ない。

 何故なら私は誰よりも強い一流のウマ娘、『キングヘイロー』なのだから。

「準備はできたか?」

 ストップウォッチを片手で持ち、もう片方の手を挙げているトレーナーが問いかける。

「ええ、いつでもいいわ!」

「はい、問題ありません」

 私はじっと構え、号令が聞こえるの待つ。

「オーケー、よーい…スタートッ!」

 その掛け声が聞こえたと同時に地を蹴る。

「はっ、はっ……」

 スタートダッシュは完璧、ブルボンさんはまだリハビリ途中なのもあってほんの少し出遅れたけどすぐにハナを取っていき、私はその後ろに付ける。

「速い……」

 ターフに汗が滴り落ちるよりも速く駆ける。

 当然と言えば当然であるけど、クラシックの皐月とダービーを逃げ切り勝利しているだけあってかなりハイペース。

 なおかつこの感じ……恐らくラップタイムはほぼ同じなんじゃないかしら。

 とは言っても、あの坂路トレーニングのおかげで初めの頃よりも脚がまだ楽に動かせているのを感じる。

 

 それにしても……まだリハビリ中ではあるけれど、ブルボンさんの本気の走りを間近に見るのは初めてね。

 ほんとにまるでサイボーグのような精密なフォームと脳内時計、恐れ入るわね。

 本来あの人は短距離適性でありながら無敗でダービーまで制して、敗れた菊花賞でも二着に入る活躍をするにはいったいどれだけの努力をしてきたのかは疑うべくもないわ。

 でも、だからといって私はこのまま負けるなんて嫌。

 相手が格上だから?

 相手が二冠ウマ娘だからってやる前から諦めるなんて二流がすること、私は一流のウマ娘、キングヘイローなんだから! 

 とは言えど、そうこうしているうちに順位も変わらぬままあっという間に残り800の標識が視界の端に流されていく。

 

 まさかキングさんがここまでついてこれると思いませんでした、私の最初の想定であればキングさんがこのペースでついてきた場合、残り1000m前後でスピードが落ち始めると思っていたのですが……

「くッ……」

 根気よくキングさんが付いてきてくれたからって本気で坂路トレーニングさせるんじゃなかった、と初めて後悔というものを理解しました。

 一抹の後悔もありますが、ここまで私に粘ってくれたのだから……相応の()()はしなくては。

 

 全機能、オールグリーン、スパート用意。

「……行きます!」

G00 1stF∞ Lv2

 かつての輝きほどではないものの、そのブースターを開放しながらキングを突き放しにかかる。

 

 ずっと保ってきた均衡が破られていく。

 残り距離は600m、今行くべきかと一瞬よぎった。

 ――否、まだ溜める。

 勝負はこの先の直線からがこのキングの本番よ。

 この一か月で鍛え抜かれた根性で食らいつく。

「はぁぁぁ!!」

 対するブルボンも現状出せる限界の出力で逃げる。

 そして、残り400mを切った所でようやくキングも追い込み態勢に入る。

「ここからが……私の全力よ…!」

 すでに4バ身離されていたがじりじりと距離を縮めていく。

 気が付けばあっという間に残り200にまで来ていたが、前と違ってまだまだスタミナが有り余っている今なら……!

 一瞬深く息を吸い込み、踏みしめるように右脚を踏み込む。

 今度は左脚を強く踏み込み地を翔け飛ぶとさっきまでの景色が更に速く過ぎていく。

「まだまだッ、行くわよ……!」

 Call Me King Lv1

 

 グングンとその末脚が爆発するように伸びていき、前を逃げるブルボンに半バ身まで迫る。

「はあああぁっ!!」

「やぁぁぁ!!」

 無限とも思える一瞬でターフを駆け抜けた。

 

 しかし、先にゴールにたどり着いたのはブルボンの方だった。

「届かなかった……私はまだまだね」

 歩く余力もないぐらいに体力を消費したためか、膝にを手をついてどうにかバランスを取りながらキングは呟く。

 

「いえ、前までのキングさんならあと三バ身以上離せていました。ですが、ここまで差を詰めたのは貴方の努力の結晶です」

 そう言ってブルボンはキングに手を伸ばし、キングはその手を取った。

「それでは、少し休憩したらもう一回やりましょう」

「ふぇええええ!?」

 空にキングの叫びが木霊した……

 尚、二回目はスタミナ切れでボロ負けした模様。

 

 

 

 

 




aik24さん、御評価誠にありがとうございます。

今後深堀りしてほしい話は?

  • 勇の親父の現役時代の話
  • 勇の幼少期
  • 砥山トレーナーとミホノブルボンのお話
  • 勇のトレーナー養成学校時代
  • サンちゃん(サンデー)の話
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