ウマ娘 for Answer 【ウマ娘+フロム・ソフトウェア】 作:なんJお嬢様部
主人公のトレセン学園編入パート。
ーーウマ娘トレーニングセンター学園。
通称《中央》と呼ばれるこの施設は、レースに出場することに特化したウマ娘を育成することで《国家解体戦争》以前からその名を馳せた、ウマ娘専用の教育機関だ。
しかし、《レース》の意味合いが変わった今日では、これらのウマ娘の教育機関は、《企業》による代理戦争の舞台となって久しい。
そんな、施設の中に設けられた一室、《生徒会長室》へと呼び出された私は今、目の前のデスクに座る《皇帝》シンボリルドルフ生徒会長の前に立っていた。
「なるほど……君の経歴は見させてもらったよ。地方の《レース》では、デビュー以来、芝のマイルと中距離で無傷の4勝。視察に訪れていた、学園関係者たちの目に留まり、その推薦によって我が学園の門を叩いた、というわけだ」
会長は手元の資料と私に交互に目を遣って、最後に私の目をじっと見据えた。こちらの心の底まで見通してしまうような、耐え難い眼光。恐らく、並のウマ娘であればまともに口を利くどころか、前後不覚に陥るだろう。
しかし、前世での記憶をもった私は、実質、目の前の会長の2倍以上は歳を喰っている。しっかりと、その眼を見つめ返し「はい、間違いありません」と答えると、彼女は大きく頷いた。
「よろしい、では君は今日から《中央》所属のウマ娘だ。生徒手帳を受け取り給え。これが《
「頂戴します。お心遣い、ありがとうございます」
会長がデスクの引き出しを開け取り出した、一冊の手帳を、私はそれが聖遺物でもあるかのように恭しく受け取る。実際、この手帳にはそれだけの価値がある。私の身の証を立てるための、これは切り札となるものだ。
「ふっ……、君は気味が悪いくらいに落ち着いているな。今まで見てきたウマ娘達がひよっ子に思えるほどに」
「………はっ、周囲からもよくそう言われます」
会長の口から溢れた言葉に、一瞬「ギャグか?」と考えてしまい反応が遅れた。しかし、すぐに彼女がそんなことを言うわけがないと思い、なんとか取り繕った返事をすることができた。
私が、そんな綱渡りを心中で繰り広げたことを知ってか知らずか、会長は苦い笑みを浮かべながら口を開く。
「……本来ならば、《地方》からの転入者には、理事長が直々に面談することになっているのだが、彼女は今、《企業》のお偉方のご機嫌伺いで出払っていてね。いずれまた、日を改めて顔を出してもらえるとありがたい」
「承知しました、それでは失礼します」
なんとか、会長の心証を損ねずに済んだようだ。私は、深く一礼をし、背後の扉へと向かう。ドアノブに手を掛けようとしたその瞬間、背中に「待て」という彼女の鋭い声が刺さる。
「まだ、何かありましたか……?」
「重要なことを聞くのを忘れていたよ。君は《
会長の口から出た耳慣れぬ言葉に、私は思わず「《首輪付き》……ですか?」と、問い返してしまった。
すると会長は、ホッとしたような、そして苦虫を噛み潰したような、精悍な佇まいの彼女には不似合いな微妙な表情を作った。
「……ああ、聞き方が不味かったな。君は《地方》にいたときに《
「……いえ、私はフリーランスの方と契約を結んでいました。その方も、《地方》のライセンスしか持たない方でしたので、今は完全なフリーのウマ娘です」
「そうか……」
私の言葉を聞いたルドルフ会長は、そう呟くと暫し沈黙した。次に自分が発するべき言葉はなんなのか、深い思考の海に潜り込んでいるようだった。
私は、扉の前に立ったまま、ルドルフ会長の言葉を待った。永遠にも思えるような深い沈黙の後で、彼女はゆっくりと口を開いた。
「転入生がこの学園に残るには、一ヶ月のうちに管理者であるトレーナーを見つける必要がある。そのトレーナーの中には、《企業》専属のトレーナーも数多くいる」
「はい、存じております。私の《地方》にも、そのようなトレーナーが青田買いをしに何度もきていました」
「そうか……」
私の返事に、会長は再び沈黙した。しかし、今度の沈黙は先程よりも遥かに短いものだった。
「ならば警告しよう。……契約するトレーナーは慎重に選べ。《企業》のトレーナーの中には、ウマ娘をウマ娘と思わないような外道も多い。奴らはウマ娘を《企業》の版図拡大のための道具程度にしか思っていない。毎年、使い潰されたウマ娘は100では効かないほどだ」
会長の口から漏れたのは、私の身を案じる言葉だった。トレーナーを含め、魑魅魍魎が跋扈する伏魔殿と化した《中央》。まだ、何者にも染まらぬ私を、彼女は気遣ってくれたのだ。
……ルドルフ会長は信頼できるお方だ。
今の言葉でそう断じた私は、彼女に向かって最敬礼で頭を下げた。
「ご高配を賜り、感謝します。……私も《企業》に思うことがない訳ではありません。トレーナーとの契約も上手くやってみせます」
「ふっ……どうやら余計な世話だったらしいな」
私の態度に満足したのか、会長は少し微笑むと深く椅子に腰を下ろした。
「では、退室してよろしい。君の活躍を期待しているよ、ムーンライト」
「はい、ご期待に添えるよう、努力は惜しみません」
そう言い残して、私は今度こそ生徒会長室を後にした。生徒会長室から少し離れた廊下の曲がり角で立ち止まった私は、手の中の生徒手帳を見つめてそれをしっかりと握り直す。
ここからいよいよ、私のウマ娘としての生が始まる。
走って、走って、私はウマ娘として身の証を立てるのだ。そして、《企業》に縛られることのない、古き佳きウマ娘の時代を取り戻すのだ。
私の胸の内に宿った青い炎は、今、隈なき月光のように輝きを放っていた。
◇◇◇《side シンボリルドルフ》◇◇◇
「……ああ、入り給え」
《中央》に新たに所属したウマ娘ーームーンライトの退室を見送って暫く。生徒会長室の扉が音高く叩かれると、私はすぐにその音の主に入室を促した。
扉を開けて入ってきたのは、艶のある黒髪を肩口あたりで切り揃えたウマ娘ーー名をエアグルーヴというーーは、デスクに歩み寄ると同時に、その上に一枚の紙切れを置いた。
「傍聴の結果、彼女に
机の上の紙は、エアグルーヴが先程まで生徒会長室に向けて使っていた探知機の
「やはり、彼女ーームーンライトは《
「そのようですね……ですが、そう簡単に信用してもよろしいのですか」
エアグルーヴの視線が私を射貫く。そこには「なぜ私に相談しなかったのですか」という非難も多分に含まれていた。
「ああ。どうやら彼女は《企業》にあまり良い思い出は無いらしい。加えて、あの老成したような振る舞い。彼女は軽々にことを勧めるタイプではないよ」
ムーンライトと《企業》の確執は、先程のやり取りで見て取れた。内実は分からないにしても、《企業》に容易く与しないという点で、彼女は疑いようもなく私にとって有用なウマ娘だ。
「だといいのですが……」
「問題ないさ。それに、彼女は先程の私のジョークに気づいたようだ。振る舞いだけでなく察しのよさもいい」
「……それを聞いてますます不安になりましたよ、私は」
悩まし気な表情で頭を抱えるエアグルーヴに向けて、私は久しぶりの高笑いを放つ。
「はっはっは、なに、君は私の見立てを信じて見ているといい」
そう言い放った私の視線の先、この部屋の壁には一つの額縁が飾られている。そこにはここ《中央》のモットーとなる言葉が、大きく筆で刻まれている。
ーー
「《企業》たちの道具ではない、純粋に、そう、純粋に速さを追い求めるウマ娘たちの時代ーー」
それこそが、私の目指す
《企業》の尖兵となり、失われたウマ娘としての誇りを、この手に取り戻す。
そのために、私を含む《中央》上層部は《地方》のまだ《企業》に染まる前のウマ娘を選別して、学園の門を潜らせているのだ。エアグルーヴに任せた傍聴も、全ては彼女が《企業》と繋がっていないという確証を得るためのものだった。
《企業》の手は大きく広い。一度その庇護を受けてしまえば、二度とそこから出ようと思えなくなる。
しかし、元来ウマ娘とはそのような存在だったか。何者にも臆することなく自由に大地を駆けることこそがその本質ではなかったか。
曇ってしまったウマ娘たちの目を覚ますには、もっと大きな力がいる。そう、それこそ《企業》に頼らずとも燦然と光輝く、彼女たちの希望となるようなウマ娘が。
「ーーウマ娘に、黄金の時代を。だからこそ、大いに輝いてくれ、ムーンライト」
私は、大きな期待を込めて、
《中央》がドロドロし過ぎで、ドン引きですわ。
でも、フロムの世界観って大体こんな感じですわよね!(偏見)