ウマ娘 for Answer 【ウマ娘+フロム・ソフトウェア】   作:なんJお嬢様部

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月光に桜花の舞う

「さて、ようやく念願の《中央》に来たわけだけど、まずはトレーナーを見つけないといけないか」

 

 《レース》に出場するウマ娘は、必ずパートナーとしてトレーナーを必ず付ける必要がある。旧い時代は、セルフマネジメントで名を挙げたウマ娘もいたらしいが、練習メニューの設定や試合の日程調整、メディアへの露出などの管理をしながらのトレーニングは無茶だという理由で、現在は禁止されている。

 故に私も、《レース》に出るために、いち早くトレーナーを見つけなければならないわけだがーー

 

「ーー《企業》の犬ばかりか。ふん、くだらない」

 

 《中央》の校舎を軽く歩いてみたが、目につくのは《バッジ》付のトレーナーばかりだ。《企業》に所属するトレーナーは、必ず自分の所属する《企業》の《エンブレム》が入った《バッジ》を付けなければならない。

 それは、同一企業や提携企業に所属するトレーナーが、同じウマ娘の雇用を巡って争うなどの無益な対立を避けるためだ。大抵のトレーナーは分かりやすく襟元に、襟のない服を着ているトレーナーは胸元や首から下げた名札ケースなどに付けることが多い。

 

 そして、私にとって《バッジ》付のトレーナーは、パートナー足り得ぬトレーナーだ。《企業》と対立する道を選ぶ私にとっては、《企業》に所属するトレーナーとの馴れ合いなど論外だ。

 だから、私が探さなければならないのは《バッジ》のない、フリーランスのトレーナーなのだがーー

 

「ーーこちらは、今一つパッとしないな……」

 

 今日、目にした幾人かのフリーランスのトレーナーは、どれも食い詰め者といったオーラが丸出しで、とても《企業》と戦える器とは思えなかった。

 

 ウマ娘と同じで、有能なトレーナーも《企業》にとっては金のなる木だ。そんなトレーナーを《企業》が取り零すはずはない、か。

 

 《企業》にとって有能なトレーナーはウマ娘よりも価値が高い。ウマ娘は複数の《レース》に並行して出ることはできないから、どうしても頭数を揃える必要がある。それに引き換え、トレーナーは一人で複数のウマ娘のマネジメントができる。有能なトレーナーならば、一人でチームを率いて全距離の《レース》で勝つことも夢ではない。

 故に、《企業》はウマ娘以上にトレーナーの勧誘に熱を上げ、フリーランスで残るのは歯牙にも掛けられなかった役立たず(産廃)というわけだ。

 

「……仕方ない。《新人(ニュービー)レース》に参加して、手頃なのが声をかけてくるのを待つ、か」

 

 トレーナーが如何にして自らのパートナーとなるウマ娘を品定めするのか。それはもちろん《レース》に他ならない。

 《中央》の学園内には、複数のコースが存在し、日中は年中無休でレースが繰り広げられ、これらはいわゆる《企業》の行う《レース》ではない。《中央》は、全ての《企業》に公平かつ公正なウマ娘との出会いを保証するため、そこで開催されるレースは《企業》の資本から完全に独立しているのだ。

 だからこそ《中央》には、あらゆる《企業》のトレーナーや、フリーランスのトレーナーが集う。一攫千金の夢を見て、己のパートナーとなるウマ娘が現れる日を今か今かと待ち受けているのだ。

 

 そうと決まれば善は急げだ。私は、すぐに《中央》学園の本棟一階にある、レース受付へと向かった。受付は全部で5つあったが、そのうちの一箇所は何故か列がない。時間が惜しい私は、なんの迷いもなくそこへと滑り込んだ。

 

「よく来たな、新入り(ルーキー)。さぁ、手帳を出して、どのレースに出るか言ってみろ」

 

 受付についた私を待ち受けていたのは、緩いウェーブのかかった淡桃色の髪の毛を無造作にセミロングにカットして裾を刈り込み、右目に眼帯を付けたウマ娘だった。白い革製の眼帯には、散りゆく桜花の衣装が縫い付けられ、裸眼の左目は抜き身の刀、その切っ先のように鋭かった。それはおおよそ、受付嬢が放っていいような眼光の鋭さではない。

 この受付にウマ娘が並んでいない理由を、今更ながらに私は理解したのだった。

 

「……芝2000の右回りで、今から最短で開催されるレースに登録をお願いします。もし、2時間以上待つことになるなら左回りや2400まで条件を緩めても構いません」

 

 しかし、私に怯んでいる時間はない。その眼光に臆することなく、手短に要件を伝え、懐から手帳を差し出すと、受付嬢は「ほう」と感心したように呟いた。

「私の眼光に竦まぬとはな。見上げたルーキーだ……新顔だな、名前はなんだ?」

「ムーンライト、先日《地方》からこちらに編入したばかりです」

「そうか、私はセレンヘイズという。現役のウマ娘なのだが、見ての通り《レース》で負傷してな。回復まで受付嬢の真似事で糊口をしのいでいるというわけだ」

「なるほど……しかし、トレーナーはどうしたんですか。現役のウマ娘なら、負傷中の面倒はトレーナーが看るはずでは?」

 

 私の問いに、セレンは首を左右に振った。

 

「私は元より、育成方針でトレーナーと揉めていてな。怪我をしたら、これ幸いとばかりに契約解除されたよ」

「呆れたトレーナーですね。蹴り殺しても文句は出なかったでしょうに」

 

 私が心底見下したように吐き捨てると、セレンは「ふっ、中々言うじゃないか」と、こちらは心底楽しそうに笑った。

 

「あれはあれで恩義も多少はあったからな。それに、少々《首輪》も窮屈だと思っていたところだ」

 

 そう言ってセレンは獰猛に笑った。それは、飼い馴らされた牧畜のそれではなく、獰猛なる狩猟者のそれだ。

 

 ……《企業》に飼い慣らせるウマ娘じゃないか。

 

 自分以外にも、《企業》に縛られることのないウマ娘がいる。その事実が、少しだけ私の心を温かくしてくれた。

 

「……よし、お前の望み通りの条件のレースを確保した。今から一時間後、第5レース場のレースだ。今のところ出走数はお前を入れて8名、ライバルを確認しておくか?」

 

 私は、セレンの差し出すレース参加用のチケットと共に手帳を受け取ったが、その後に出された出走者一覧表は首を振って固辞した。

 

「いえ、結構です。どうせ《中央》に来たばかりで、付け焼き刃の知識では、相手を知ってもさしたる意味はないでしょう。それよりも、まずは何も考えず、ありのままで《中央》の《レース》を感じたいので」

「……ますます面白いな、お前は。この眼が万全なら、すぐにでも走りたかったのだが」

 

 セレンは楽しくて仕方がないという表情を一瞬作ったが、すぐに不満げに目を細めて右眼の眼帯を撫でた。

 

「大丈夫ですよ」

「ん?」

「《中央(ここ)》で生き残れば、必ずいつか戦うことになりますから」

「……! ふふ、そうだ、そうだな……」

 

 私の言葉にセレンはハッとして、それから噛みしめるような笑い声を漏らした。恐らく、これから先の私との《レース》を想像して、その闘志をたぎらせているのだろう。

 私も、久しぶりに心が温かいを超えて熱く滾る。

 

「では、私はこれで。受付ありがとうございました」

「ああ、次は上の《レース》で会おう」

 

 どちらともなく差し出した手をガッチリと握り合って、私とセレンは別れた。ウマ娘は多くを語らない。相手の言わんとする事は、一度同じ《レース》で走ればそれで事足りるのだ。

 

「そのためにも、まずはトレーナーだ」

 

 私は、高鳴る胸の鼓動を鎮めることなく、第5レース場へと足を運ぶのだった。




【オリウマ娘紹介】
セレンヘイズ
【身長】174cm
【体重】変化なし(やや重)
【所属】インテリオル・ユニオン→フリー
【地形】芝A ダートC
【距離】短距離E マイルA 中距離S 長距離A
【脚質】逃げE 先行A 差しA 追込E
【戦績】GⅠ2勝 GⅡ6勝 GⅢ10勝 (全26戦)

 《中央》の高等部1年に所属するウマ娘。元々は、インテリオルのエースで、同《企業》の広告塔だった。
 最新技術の使われた《装備》を惜しげもなく使って《レース》に参加し、華々しい戦績を収めるも、《装備》の力に頼っていると思われるのが嫌で、あくまでも広告塔としての役割を求めるトレーナーとの関係は、お世辞にも良好とは言えなかった。
 そんな中、あるウマ娘とのレース中に右目を負傷し、長期休養を余儀なくされると、これ幸いとばかりに契約解除された。現在はフリーのウマ娘として学園のレース受付でアルバイトをしている。
 《レース》運びは、中団の先頭で後続を抑えつつ、逃げを打った先頭集団をいつでも捉えられる位置をキープする、馬群のコントロールの上手さが武器。仕掛けるタイミングでの恐ろしいまでの加速力は《レールガン》と持て囃された。
 
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