ウマ娘 for Answer 【ウマ娘+フロム・ソフトウェア】   作:なんJお嬢様部

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続きました。
序盤のライバルっぽいウマ娘が出ます。


月光に叢雲の差す

 《中央》には、ダート2コース、芝5コースの計7コースが存在し、その内ダート1、芝2コースでは常にトゥインクルレースという新人レースが行なわれている。各コースにはバウムクーヘンのように柵が設けられ、省スペースで様々な距離に対応できるような配慮がなされている。

 

「さて、芝2000m右は第5コースといったけど……ここか」

 

 私の《戦場》である第5レース場は、校舎から一番離れたコースだった。恐らく、手前から1コースで作られ、芝のコースとしては1番最後に造られたコースなのだろう。柵やハロン棒に使われたペンキの塗りも、まだ新しさを感じさせる。

 柄ではないが、「《中央》での戦いを始めるには中々じゃないか」と思ってしまう。新しく、手入れが行き届いた設備は、何となく胸を踊らせる。

 

「だが、コースの良し悪しは問題ではない。私は、勝たなければならないんだ」

 

 私は自分の頬を強く叩いて喝を入れる。《中央》には、何も物見遊山をするためにやってきたわけではない。甘ったれた考えは自分を腐らせる。

 私の存在意義は、ただ《レース》に勝ち続けること。その他の一切は不純物、その覚悟でここに立っているのだ。

 

「……失礼します。レースの参加者なのですが」

「ああ、聞いてますよ。駆け込みでもう一名参加者が出たと。チケットと手帳を見せてもらえますか」

 

 コースに行くと係員がいたので、すぐにチケットと生徒手帳を見せる。係員はチケットと手帳を一瞥して、手帳だけを私に戻す。

 

「はい、確認が取れました。貴女の枠番は6番です……頑張ってくださいね」

「ありがとうございます」

 

 一言礼を言ってから、差し出された手帳を手に取る。その時、私の目を見る係員の表情はなぜだか少し暗かった。

 訝しく思った私が「どうかしましたか?」と尋ねると、係員は少し肩を震わせて軽く目を見開き、それからすぐに気まずそうに私から視線を逸らした。

 

「あ……気づかれましたか」

「ええ、このレース、何か気になることでも?」

 

 私がもう一度尋ねると、係員は辺りをキョロキョロと見回してから、意を決したような表情で、私に顔を近づける。

 

「……ここだけの話ですよ。実は、このレースに出場するウマ娘の中に、その……あまり良くないウマ娘が二人いるんです」

「……よくない、というと?」

「実力はあるんですが、性格の方がちょっと……」

「ああ、なるほど」

 

 思わず、私は呆れたような声を出した。

 自分の実力を笠に着て、偉ぶった態度をする輩は《地方》のレースでも幾らも見てきた。中には、自分の所属する《企業》の威を借りる者もいた。でも、そんな有象無象も、結局は《中央》に出れず《地方》で燻るお山の大将に過ぎなかった。

 その手合は、私がレースでぶち抜くと、大概そのまま身を持ち崩していって表舞台から消えていった。向上心もなく、薄っぺらい実力に相応しい安っぽいプライドで固めた蝋の翼は、融けて地に落ちるのも早かった。

 《中央》にもその手合がいることを知って、私は少し辟易とした気分になった。

 

「貴女は《地方》では無敗のようですけど、気を付けてくださいね。ここにいるウマ娘は言ってみれば《地方(・・)()()()()()()()()()。勝てなくても当然なんですよ」

 

 私の気分を読み取ったのか、あるいは顔に出ていたか、係員はかなり念を押して私に警告する。

 多分、彼女は《地方》から自信満々で《中央》にやってきて、その実力の高さに、伸びた鼻を圧し折られて消えていくウマ娘を数え切れぬほど見てきたのだろう。

 

 あるいは、悪意を以て潰されたウマ娘も。

 

「はい、よく分かっています」

 

 私のことを思いやってくれる係員に向けて、力強く頷く。《企業》に従わない生き方を《中央》でしていくことを選んだ時点で、茨の道は想定済みだ。ここから先、私の《レース》は数え切れないほどの悪意に晒されたものになるだろう。

 それでも、私は決して逃げない。

 亡き父母に捧げる、復讐の道を歩み始めたその時から、私は、何があろうと自分を曲げないし折ることもないと決めたのだから。

 

「どれだけ泥に塗れても、成し遂げたい復讐(ゆめ)が私にはありますから」

 

 私は、係員の人を心配させぬように、強い口調でそう言った。彼女は、そんな私の態度から何かを汲み取ったのか、ホッとしたような、あるいは少し泣きそうな表情になった。

 

「……本当に、頑張ってくださいね。貴女の道行きの幸運を祈っています」

「ありがとうございます」

 

 先程、手帳を返されたときと同じやり取りを、私達はもう一度繰り返す。しかし、そこには確かに通い合った想いがあった。

 

 ……悪くはないな。

 

 私は幾分かマシになった気持ちで、ゲートへと向かっていった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 レース前、軽くコースの確認を終えた私は既にゲート前へとやってきていた。出走までにはまだ時間があるが、ギリギリまで慌ただしく何かをするよりは、最後は少し落ち着いた心持ちでむかえたいというのが、私なりの調整方法だった。

 私に与えられた枠番は6。そのゲートに入り感覚を確かめる。《地方》と大差ない作りのゲートだ。ウマ娘一人が入ればそれでいっぱいの、狭い空間がもたらす圧迫感は、レースに向けて今まさに解き放たれようとする、ウマ娘の力を溜め込むのに相応しい器だ。

 

「……むっ?」

 

 そんなゲートの門扉に手を掛けようとしたその時、私はあることに気づく。門扉の上部、ウマ娘たちの手がかかることもあるそこには、無数の手形が刻まれていた。

 ゲートはコースでは最も重要な設備だ。丁寧にメンテナンスされているはずのそれに、手形はそれでもなお染み付いたかのように残っていた。

 私は、手形の一つにそっと手を重ねる。そこから感じるのは、ここを潜ってきた数多のウマ娘たちの息遣い。

 勝利への闘争心。

 敗北への不安。

 認められないことへの焦燥。

 輝かしい未来への期待。

 それらが渾然と一体となって、私の体に流れ込んでくる。

 

 ーー読心術(マインドリーディング)

 

 それが、私に備わったウマ娘としての(スキル)だ。

 ウマ娘の中には、日々の《レース》や過酷なトレーニングの中で、特殊な力に目覚める者がいる。私もその一人だ。

 私の《読心術》は、レースなどで集中力が高まったときに、ウマ娘の心の声が聞こえてくる、という能力だ。他にも、物や場所に込められた強い想いを、残留思念として聞き取ることなども可能だ。速さなど身体能力に直接影響するような力ではないものの、レース中の駆け引きという点では、これ以上優れた能力は存在しないと思えるほどの力だと私は確信している。

 

「……………」

 

 たとえ《企業》の庇護を受けるにしても、レースにかけるウマ娘たちの熱い想いは本物だ。本物の想いは、私の心に火を点けてくれる。迫るレースに向けて、私は沸々と闘志を沸き立たせる。

 

「よう、見ねぇ顔だな」

 

 そんな私の調整を、無遠慮な声とゲートに手を掛ける乱暴な音が妨げた。

 振り返ると、そこには私が見上げなければならないほどの大きなウマ娘が立っていた。無造作に刈り込んだボサボサの茶髪に、途中で何本か剃り込みを入れた眉毛。耳にはリベットタイプのピアスを無数に付けているのが印象的なウマ娘だ。

 そのウマ娘は、下卑た薄ら笑いを貼り付けてこちらを見下ろしていた。

 

「……何か御用ですか?」

「おいおい、そんなツンケンすんなって!俺はただ、新しい奴がいたからお近付きになろうと声をかけただけだぜ!」

 

 調整を邪魔された私が、あえてつれない返事をすると、巨体のウマ娘は両手を広げて大げさに首を左右に振ってみせた。

 

「俺は、パースボムってんだ。トウィンクルでは、まぁ、名の通ったウマ娘だ。()()付き合いになると思うがよろしく頼むぜ」

「調整中に、急に声をかけてくるような無礼なウマ娘とはお近付きになりたくないんですが」

「おいおい、つれないこと言うなよ()()()()()()

 

 そう言って、パースボムが私のゲートに近付き、その入り口に手を掛ける。私は、ゲート内に押し込められた形となって、そこにさらに圧力をかけるようにパースボムが身を乗り出す。

 ゲートに隠れて、外から表情が見えなくなった瞬間、パースボムの顔が般若のように歪む。

 

「テメェ、あまり調子にのるんじゃねぇぞ。この時期の新顔だと、ちょっと《地方》でいい成績を出したようだが、《中央》でもうまくいくと思ってんのか、あぁ?」

「私も、そこまで楽観的な性格ではない。それよりも、貴女の無駄にデカい図体のせいでむさ苦しいのだけど。早くどいてもらえますか」

「……っ! こんの……!」

「それ、ニーニャも同感〜」

 

 私の挑発で、パースボムのこめかみに青筋が浮かぶのが見えた次の瞬間、その巨体の後ろから幼い声が聞こえてくる。声に釣られて振り返ったパースボムの後ろには、彼女とは正反対の小柄なウマ娘が立っていた。セミロングの髪を2つのお下げに括り、上半分が黄色で、下半分が水色のメンコをつけている。

 恐らく、ニーニャというそのウマ娘は、パースボムの顔を見て「パースちゃん、顔怖いよ~?」と小馬鹿にした口調で言ってから「シシシ」と意地の悪い笑みを浮かべた。

 

「……ニーニャ、テメェも見てやがったのか」

「そーだよ、ニーニャも新入りは気になるもんね~」

 

 パースボムとニーニャは、それこそゴリアテとダヴィデほどの身長差があるように見えるのだが、ニーニャはそれに全く動じていない。それどころか、パースボムのほうがニーニャに対して圧されているような印象すら受ける。

 

 ……なるほど、序列はニーニャというウマ娘が上か。

 

 私は、瞬時に二人の力関係を理解して、ニーニャに対しても相応の警戒心を抱く。すると、ニーニャが私の方へと近寄ってきて、パースボムはそれと入れ替わるようにゲートの入り口の脇へとずれた。

 

「やぁ、こんにちは!」

「こんにちは」

「うん、ちゃんと挨拶ができて偉いねぇ! もう、何となくわかってると思うけど、私はニーニャ。よろしくね〜」

 

 そう言って、ニーニャは右手を差し出してくる。ちゃんと名乗られた以上、握手しないのは不自然なので、私も右手を差し出して彼女の手を握る。

 

「私は、ムーンライトです」

「ふーん、そっか、ムーンライトっていうんだね。ま、多分すぐに忘れちゃうけどね! シシシ!」

 

 私の名前を聞いたニーニャは、先程パースボムに対して見せた毒のある表情で笑った。愛らしい外見とは裏腹に、こちらが彼女の本性のようだ。

 

「ニーニャはもう、トウィンクルでは4勝してるからね~。《企業》からもい〜っぱい声がかかってるしね~」

 

 ニーニャは、ニヤニヤとした笑いを崩さない。それは確実に私を下に見ている表情だ。選考レースとはいえ、《中央》での勝利が彼女をここまで増長させているのだろう。

 

「パースちゃんも、あれでももう3勝してるからね」

「おい、あれってなんだ、あれって」

 

 「あれ」扱いされたパースボムからツッコミが入るが、ニーニャはそれを無視して話し続ける。

 

「いや〜、でも助かったよ、ムーンライトちゃんが来てくれて。最近、ニーニャちゃんが強すぎて一緒にレースを走ってくれるウマ娘がいなくてさ~。レースに出るの久しぶりなんだぁ~。ありがとね!」

 

 ニーニャは、両手を後ろ手に組んで上体を乗り出してニコリと笑う。それは、先程までとは違う、悪意のない無邪気な笑顔だ。本当にころころと感情の変わるウマ娘だ。

 あるいは、そのどれもが作り物か。

 

「ということで、私はムーンライトちゃんには感謝してるんだけど、これだけは言わせてね〜」

「はい、なんですか」

「パースちゃんの言うとおり、《地方》で少し勝ったからって、調子に乗らないほうがいいよ? 思い上がった雑魚は、みんなニーニャがぶっ潰しちゃうからね〜?」

 

 ニーニャは先程乗り出した上体を、さらに私の方へと近付けて凄むと、相変わらずの「シシシ」という笑いを浮かべたまま、自分のゲートへと帰っていった。

 

「おお、(こわ)っ! じゃあな、ルーキー。《中央》のレースで、ビビってちびんなよ?」

 

 パースボムの方も、わざとらしく両腕で身体を抱いて震える仕草をした後に、私のゲートから去っていった。

 

 ……この二人が、当面の私のライバルか。

 

 その背中を見送りながら私は、係員が言っていた厄介なウマ娘は間違いなくこの二人であると確信した。実際、これだけのことを仕掛けてこられたら、それに飲まれて潰れるウマ娘もいるだろう。

 なまじ、二人に他のウマ娘を潰せるだけの実力がある分、余計に厄介だ。このような盤外戦術ができるのと、盤外戦術()()できないのでは雲泥の差がある。

 多分、あの二人は結託してこのようなの形で新人を潰して回っているのだろう。自分をより高く《企業》やトレーナーに売り込むために。ならば、私のやるべきことは一つだけだ。

 

 ……あいつらの鼻っ面をへし折って、二度と立ち上がれないまでボコボコにしてやる。

 

 二人がこのままの調子でトウィンクルを勝ち抜いたら、どこかの《企業》の犬になることは目に見えている。そうなれば、いずれ私にとっての障害となる可能性は否定できない。

 ならば、禍根は早めに絶つべきである。雑草は伸びる前に根から絶やすのだ。

 

「……とりあえず、このレースでは、先の勝利への布石を打つ」

 

 ひとまずの方針が決まったところで、私はこのレースは()()()にすることに決めた。元より、《地方》での無傷の4連勝にそれほどの価値はない。それよりも、あの二人を完膚なきまでに打ち砕く方が有意義だ。

 

 ……私は、名を捨てて実を取る。全てが終わったその時に、ターフの上で拳を突き上げているのが私であれば、過程はどうだっていいんだ。

 

 そう、これは復讐という大義のための一歩。それ以上でもそれ以下でもない。大義を見誤ることがなければ、たとえ途中でどれだけ泥に塗れることになろうとも、私はやっていけるだろう。

 遠くからファンファーレの音が聞こえる。レースの始まりが近い。

 

 さぁ、ここから私の復讐を始めよう。亡き父母に、そして理不尽に潰されたウマ娘たちのために。

 

 目を瞑りそう心に念じてから、私は目を見開いた。

 さぁ、レースが始まるーー!

 




【オリウマ娘紹介】
ニーニャ
【身長】138cm
【体重】微増(平均以下)
【所属】デビュー前
【地形】芝B ダートE
【距離】短距離C マイルB 中距離B 長距離E
【脚質】逃げA 先行D 差しE 追込E
【戦績】 6戦4勝 (トゥインクル戦のみ参考記録)
【出典】アーマード・コア MoA
 身長140にも満たない小柄なウマ娘。ニーニャとはスペイン語で「小さな女の子」を意味する。小柄な体で逃げを打ち、先頭で自分のペースを作りながら僅差で逃げ切ることが得意。小さな体で精一杯逃げる愛らしい姿が一部のファンに好評だが、本人は腹黒い性格をしている。
 逃げを成立させるだけのスピードとスタミナ、それを適切に管理するだけの頭脳はあるが、馬群を切り裂くようなパワーや根性はなく、馬群に埋もれると勝ち目が全く無いのが課題。また、ハナで自分のペースを作れないとあっさりとやられることもあり、良くも悪くもいかに自分のレースができるかがカギを握るウマ娘。

パースボム
【身長】178cm
【体重】変化なし(重)
【所属】デビュー前
【地形】芝B ダートB
【距離】短距離B マイルC 中距離C 長距離E
【脚質】逃げE 先行A 差しC 追込E
【戦績】6戦3勝(トゥインクル戦のみ参考記録)
【出典】アーマード・コア NEXUS
 高身長&筋肉質のウマ娘。スカートの下にスパッツを履いているが、それがはち切れそうなほどの大腿筋の持ち主。とにかくパワーや根性などフィジカルが優れており、競り合いでパワー負けすることはほぼない。したがって、先行や差しの戦略で、他のウマ娘の仕掛けに合わせて相手を潰しながら勝利することが得意。本人もそれは自覚しており、細くて小さい他のウマ娘を小馬鹿にしている。
 反面、頭を使うことは苦手であり、逃げや追込のような、ペース配分や仕掛けのタイミングを自分で計らなければならない戦略は不得意。また、加速力はあるが持久力はいまいちで、トップスピードを維持できる時間が短いという欠点も抱える。
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