明後日からの使者   作:カリフォルニア饅頭

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EP.05 作戦会議

オーバとヒョウタがテーブルに着席するや否や、サトシはオーバに声をかける。

 

「オーバさん、どうしてここに?」

「ヒョウタがポケモン協会経由で連絡してくれたんだ。シロナさんが倒れたんだ、実力のあるトレーナーがいなきゃな。ただ、良くないニュースだ。他の四天王は皆シンオウにいない。すぐには戻ってこれそうにない状況らしい」

 

「今はチャンピオンリーグはオフシーズンですからね。皆他の地方で修行したり、休んだりしてるんですよ。オーバさんの場合はたまたまハードマウンテンにいらっしゃったので、なんとかこちらに来てもらえたんです。ただ、他の地方にいる四天王の皆は、急いでもぎりぎり明日中に戻ってきてもらえるかどうか、というようです」

 

「ほんと、キクノさんはともかく、ゴヨウもイツキも肝心なときにいないんだからな……それで、ヒョウタから大まかには聞いてるんだが、何が起こっているのか、あらためて整理したい」

 

一同は、コクリ、と頷いた。

 

 

お互いに知らない顔があるために、一同が軽く自己紹介を行った後。

ヒョウタが進行役を買ってでて、ミーティングが始まる。

 

「まず、確定していることからです。昨日の晩にエイチ湖にいる伝説のポケモン、ユクシーがさらわれました。そして、今日の午前中には「しらたま」と「こんごうだま」も。続いて、リッシ湖のアグノム、シンジ湖のエムリットも同じく連れ去られています。」

「いや、事実なんだけどさ?なんかこうポンポンとおとぎ話の中の名前が出てくると、現実性がなぁ……」

 

オーバのため息まじりのコメントに、ヒョウタはそのとおりです、と頷いた。

 

「え、そうですか?旅をしていると結構……ふぐっ」

「はい、サトシはちょっと例外だからねーー」

 

とんでもないことを口走ろうとしたサトシの口を、アイリスが手で塞ぐ。もっとも、その言わんとすることはオーバやヒョウタにも十分に伝わっている。2人は一瞬アイコンタクトを取ると『やっぱりサトシくんて何かずれているのでは……?』という視線をほんの一瞬だけサトシに送る。しかし、そこは大人である。そのままもやもやを気取られることなく、ヒョウタはコホン、と気を取り直して続ける。

 

「犯人は、全て同一人物。サトシくんによれば『シロガネ山の亡霊』と名乗ったそうですね」

「はい、どこから出てきた渾名なのかはわからないんですが」

「……その詮索は時間があればにしましょう。それで、以上の行動から考えられる目的は」

「ディアルガとパルキアを呼び出すこと」

 

言葉を切ったヒョウタに変わって、サトシが続けた。

 

「うーん、ますます現実味がねえなぁ……いや、そりゃギンガ団が起こした事件の報告書は俺も読んだけどよ……悪い、続けてくれ」

「ええ、それで気になるのは、伝説のポケモンたちを呼び出して何をするのかです」

「それ、わたしも気になっていたかも。一体何のためにそんなポケモンたちを呼び出すの??」

「たぶん、ギンガ団がやろうとしたようなこと」

 

ハルカの問いに答えたのはヒカリだった。ヒョウタが、目でヒカリに続きを促す。

 

「あの時、ギンガ団ボスのアカギは、ディアルガとパルキアの力を使って自分に都合のいい世界を作ろうとしていた。本当に、そんなことができるのかどうかはわからないけど……きっと『亡霊』も同じことを考えているはず」

「そして、『亡霊』が望むのは、『ヒトとポケモン』の道が交わらない世界」

 

「サトシくん、聞いて大丈夫かな?」

「ええ、何でも聞いて下さい」

「『亡霊』の言っていること、サトシくんはどう思った?」

「あいつの言ってること、たぶん嘘は無いと思います。少なくとも、あいつは本当にあと十数年でこの文明は崩壊して、それはヒトとポケモンが交わったからで、その交わりを断つためにここに来ている、そう信じてると思います」

「そうか……」

 

 

「ああもう、まだるっこしい!……そんな未来がどうこうなんていうのは、結局俺たちが今ここで考えても仕方ねえよ。そこでうだうだやってるんじゃなくて、俺たちがどうするかを議論しようぜ」

「オーバさんの言う通りだと思います。俺達には、時間が惜しい。それで『亡霊』の次の1手は、間違いなくテンガンざん山頂の「やりのはしら」でディアルガとパルキアを呼び出して、その力を借りることだと思います」

「アカギも同じようにやったんだよな。ディアルガとパルキアの力を借りるためにはそれが必要か。てなると、テンガン山の山頂にアイツを追いかけていかなきゃならないよな」

「ええ、そうなると思って、すでにポケモン協会の方にヘリコプターを手配しています。明朝までには到着するとのことでした」

「そうか、それじゃあそれを待って出発だな」

「あの、良いですか?四天王の方々は難しいということでしたけど、他のジムリーダーさんたちの力は借りられないんですか?デンジさんとか、力を借りれるとすごく心強いと思うんです」

「ヒカリちゃん、それはいいアイデアなんだけど、難しいんだ。僕はこの非常時にはクロガネシティを離れられない。ジムリーダーはその街のポケモン関係の総元締めのような立ち位置にいる。もし何かが起こったら、その場でポケモンやトレーナーたちを率いてことに当たらなければならないからね。隣のマサゴタウンくらいならともかく、ね。他のジムリーダーが街を離れられないのも同じ事情なんだ」

「そうですか……デンジさんやメリッサさんがいてくれればと思ったんですが」

 

 

「それじゃあ、ミーティングの最後です。『亡霊』とそのてもちのポケモンたちについて」「今わかっているのは、ピカチュウ・リザードン・フシギダネ・ゼニガメの4匹ですか?」

「実は、もう1匹。カビゴンです。あの巨体で素早く動くカビゴンに、シロナさんも相当苦戦したようで……僕も直接は見聞きしてはいないんですが」

「カビゴンか……」

 

サトシはその名前を苦々しく口にした。ここ一番というときにはとても頼れるポケモンだ。ジョウトリーグ、バトルアリーナなどなど、何度となくサトシの勝利に貢献してきた、まごうことなき貫禄十分の一匹。しかし、敵に回すとこれほど恐ろしいポケモンになる。

 

「これで5匹は解ったけど、ここまで聞いてサトシに残りの1匹の心当たりはない?」

 

アイリスが問いかける。

 

「残りの1匹……それも過去に飛んで世界改変なんて大それたことをしようとするときに連れて行くとしたら……やっぱり相当絞られると思います。たぶん、ジュカインか、ゴウカザルか、ワルビアルかそれかルカリオ。未来で捕まえたポケモンを使ってくるかもしれませんけど、なんとなく、この中の1体だと思います」

 

サトシの脳裏に、もう一匹だけ候補が挙がる。カロス地方で出会った、そのポケモン。みず・あくタイプなんて分類とは裏腹の、正義感のある男。彼だって連れて行く時の候補にはなりえたかもしれないけれど……だがなんとなく、彼はないような気がしていた。直感だけれど、未来がそんな危機にあるのなら、彼はあくまでその力をカロスのために捧げている、そんな気がするのだ。

 

「そうか……いずれも手強い相手だな」

「……本当に、ね」

 

オーバとアイリスが、しみじみと実感の篭もった言葉を零した。いずれも、サトシのポケモンたちとバトルを繰り広げてきた。そのタフさ、しぶとさ、素早さをよく知っているのだろう。今の時空でさえもそうなのだから、未来のサトシのポケモンともなれば、そのバトルは一層厳しいものとなるだろう。サトシ自身にとっても、それは同じだ。

 

「それじゃあ、最後の最後です。誰が、どのポケモンと戦うか」

「その前に、だ。『亡霊』には申し訳ないが、そんなメチャクチャをしようとしてるなら、なんとしてでも『亡霊』を止めなくちゃならない。そうなると、俺たちもそれなりのやり方をしなきゃいけない」

「それなりのやり方……」

「律儀に1対1を複数回、なんてのをやってる場合じゃないってことさ。つまりは、総掛かりだよ。複数対複数でかかって、なんとしてでもあいつを止める。しかも、シロナさんとのバトルの様子を聞く限り、俺たちとも容易には埋められないレベルの差があるんだろ?だとしたら尚更、だな」

「それは……」

 

ヒョウタがオーバの提案に何か反論をしようとして、口をつぐんだ。オーバの案、すなわち複数人で同時に戦いを挑むということについて、若干抵抗があるのはこの場の全員がそうであった。だが、それをどうこうと言っていられない、というのもまた事実。やがて一同は消極的な賛成で同意した。そのままもともとの割当に話が移る。

 

「ピカチュウとリザードンは、俺に任せてほしい。あいつらも、きっと悔しいだろうからさ」

「うん、サトシならきっと大丈夫」

「ありがとう」

 

「他は、突破力のあるカビゴン、連携が厳しいゼニガメとフシギダネ、そしてまだ見ぬ6匹目か……」

 

だだっ広い食堂に、静寂が再び満ちた。それぞれがしばらく考えを巡らせた後に、アイリスが意を決したように言った。

 

「カビゴンと6匹目は、わたしとオーバさんが受け持ったほうが良いと思う。どっちがどっちというのは決めずに、6匹目が誰なのかによってその場で決めましょう」

「……そうだな。話で聞く限り、そのカビゴンてのが相当ヤバそうだからな。で、そうなると、残るのはゼニガメとフシギダネ。ヒカリちゃんとハルカちゃんがそれぞれ一匹ずつ預かる感じだな」

「その事なんですが……ヒカリさん、こちらに残ってもらえませんか?」

「え……?」

 

それは、ヒカリにとって寝耳に水だった。その話を切り出したヒョウタにとっても、心苦しいことだったのだろう。申し訳無さそうな表情をしている。

 

「ポケモン協会からの「お願い」なのです。前回、ギンガ団が起こした事件の際には空の色が変わり、シンオウ全土が大混乱に包まれました。今回も、同じことが予想されます。その時、シンオウで知名度があって、サトシくんとも知り合いであるヒカリさんの言葉をテレビで放送すれば、その混乱をある程度抑えられる。ポケモン協会はそう判断したようなのです」

「そんな……」

 

ヒカリは、ヒョウタとサトシの顔を何度も見比べる。このバトルの行く末を、どうしても見届けたい。自身もサトシやアイリスとともに戦いたい。でも、だからといって、今ヒョウタが示した役割がとても重大であることもよく解る。だからといって……。

 

狼狽えるヒカリは、何度も何度も視線を彷徨わせる。戸惑うように、選びきれない、というように。その様子を、脇から見守る視線が1つ。やがて、決心したかのように。その視線の主はヒカリの肩に優しく手を置いて、こう切り出した。

 

「ヒョウタさん、その条件、わたしにも当てはまりますよね?わたしに、その役目をさせてください」

「え!?それは」

「シンオウで知名度があって、サトシの旅仲間でもある。わたしは、その2つの両方の条件をクリアしてると思います。なんたって『ホウエンの舞姫』の知名度は、今や全国区ですから」

「…………それは、そうだが」

 

 

「でも、ハルカだって……」

「いいの。それに、きっとヒカリの方が、このバトルを見届けたいって想いは強いかも」

「本当に、ハルカはそれでいいの?」

 

ヒカリの問いかけに。ほんの一瞬だけ。ハルカは視線を伏せた。だが、それは本当に僅かな間のことで。ハルカを注視していたヒカリでさえも、それが本当に合ったことなのか覚束ないほどのことであった。ハルカはニコリと満面の笑みを浮かべると、明るい声で宣言した。

 

「それじゃあ、代わりにヒカリには帰ってきたらコトブキラーメン奢ってもらうかも!」

「え、おお手柔らかに……」

 

この場の一同が、それはそれで別のところが大変そうだけど……と思ったが。誰もそれを突っ込まなかった。当たり前だ。あまりにも無粋な茶々になってしまうだろう。

 

「うん。だから……ヒカリも、それからみんなも、絶対に帰ってきて」

「もちろん!」

 

ハルカの言葉に、ヒカリが返事をして、他の一同も頷く。

 

「では、それで決まりですね。話し合いの結果は、僕の方からポケモン協会の方に連絡しておきます」

 

 

 

『ふむ、話し合いは終わったかな?』

 

食堂のあらぬ方向から声が聞こえたのは、まさしくミーティングが終わったそんな時であった。

 

「え゛っ!?」

 

その声に、一番に反応したのはオーバだった。戦いなれている彼は、いの一番にその声の方向を向き、そして硬直した。

続くのはヒョウタ。同じく、声が聞こえてきた方に向いて、そうして固まる。

3番目にサトシが、その聞き覚えのある声に、まさか、と思いながら振り向いた。

 

そこには、白く美しいポケモンがいた。

長く大きな一対の羽。白いその羽と胴体の青の対比が美しい。鋭いながらもどこか穏やかで優しい目。その周りには、青く尖ったバイザーのような飾りが見える。

 

海神・ルギア。かつて、オレンジ諸島の果て、アーシア島でサトシ達が出会った伝説のポケモン。彼が、そこにいた。

 

「ルギア……あのときのルギア、なのか?」

『そのとおりだ、優れたる操り人……否、サトシよ』

 

白と青の、海の底で静かに世界を守っているはずのそのポケモンは。

サトシの問いかけに頷いた。

 

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