魔王ってなんだろう。
当たり前の常識に、私は1年くらい疑問を浮かべ続けてきた。
先生からは、授業で魔王様は魔族を守ってくれるお方なんだよって習った。
お母さんとお父さんからは、魔王様は魔族でいちばん偉い方なんだよって教えてもらった。
宰相からは、魔王様は悪しき人族を滅ぼす意志を持った素晴らしき方々だと教わった。
大臣たちからは、魔王様は魔族を牽引する力と意志を持った至高の御方であると教わった。
魔王様はすごい人だってみんなが言う。
確かに魔族の尊敬を集める、すごい人だと思う。
でも人族を滅ぼすと聞いて、その人族って本当に悪い人たちだけなのかな、とも思ったのだ。
人族っていうのは本当に悪い人たちだけなのかな。
私達魔族が一方的に悪いって決めつけてるだけじゃないのかな。
そんな疑問が頭に浮かぶ。
確かに、侵攻して来ようとする人族は酷く邪悪だ。
こちらは何もしていないのに、村に住む魔族を殺し、嬲り、そして尊厳すらも踏みにじる。
でも。
『魔族がこっちにいたら危ないよ!? ほら、早く帰らないと』
『……アハハ。じゃあ、僕とキミはこれから友達! よろしくね!』
昔会った友達が人族だと言うのなら、やっぱり私は疑問に思いたい。
だってあの子は優しい人だった。
私のことをみんなに秘密にして、こっちまで送り返してくれた。
その頃友達の居なかった私と、友だちになってくれたんだから。
もしかしたら、人族も魔族も大きな勘違いをしているだけなのかもしれない。
そう思って、二つの種族間の平和を作ろうとした。
……それは、叶わなかったけれど。
「……魔王様。そろそろ」
「──ええ。わかっています」
……この国に、魔王が本当にすごい人なのか答えを出せる人はいない。
居るとすれば私だけ。
ちょっぴり重いドレスを着て、赤い絨毯の上を歩く。
最初は着慣れなかった、けれど気づけば気にならなくなっていた黒いドレス。
少しだけ、緊張が増した。
絨毯の先にはバルコニーへと繋がる大きな扉。
これまで何度も見た物なはずなのに、今日はやけに大きく見える。
少しだけ、緊張が増した。
私は扉の前で一度止まり、僅かに時間を置いて側近の魔族達によって魔法で開かれる。
ゆっくりと開く扉。その間を踏みしめるように歩いてバルコニーに出れば、眼下には沢山の魔族。
ふぅ、と一つ息をついて緊張を押し殺した。
少しずつ集まった魔族達の声も小さくなり、やがては消える。
静かになった空間、誰もが私の言葉を待っている。
目を一度閉じ、開く。沢山の魔族を見下ろす。
その魔族達が立つ大地は痩せこけ、ひび割れた大地。
現状の私達の余裕の無さを象徴しているかのようだった。
……これを言ってしまえばもう取り返しはつかない。
けれどもう、何もかもが限界だ。
だから。
「誇り高き魔族たちよ、聞きなさい」
私は今日、本当の意味で。
「我々はこれより──」
魔王になる。
「──人族への侵攻を、宣言します」