悪役は敵足りうるか   作:プロポリパレン

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[2]-ある男の一生

 

 その男は平凡だった

 

 と言っても恵まれている方だろうな、と男は自覚していた、平凡な親、平和な社会、普通の恋人、ヴィラン犯罪にも特に巻き込まれることも無く生きてこれた。恋人は家族になって、子供も生まれた、そろそろ1歳になる頃だ。

 

 少しだけ平凡に嫌気がさしてしまった、とは言っても自分から大きく人生を変えようとは思わず、ヒーロー因子の有無を確認する検査を受け、もしあるんだったらヒーローに、なんて考えてしまった。

 

 思えばあれが間違いだった、いや、間違っていたのは私自身か。

 

 検査から数日後、家のインターホンが鳴った、郵便かしらなんて言って、妻が玄関へ向かった、その時だった。

 

 ガチャリ、と扉の開く音、戸締りはきちんとしていたし、妻が開けたにしては早いタイミングだった、違和感を感じ立ち上がろうとした時、妻の悲鳴が聞こえた、

 

「何なんですか! いきなり入って来るなんて!」

 

「ヒーロー機関です、大人しくしてください」

 

 ヒーロー機関? と思った時には武装した黒服に囲まれていた。

 

「■■■■、貴方は5日前、ヒーロー因子検査を受けましたね? その結果、貴方にはヴィラン因子が入っていることが分かりました、大人しく、投降していただけますか?」

 

 息子の泣き声が遠く聞こえた

 

「赤子……? おい、調べろ」

 

 待ってくれ、と言いたかった、それは本当なのか、と問いたかった、息子は関係ないだろう、と文句をつけたかった、だが私の喉は混乱の中意味のある言葉を為すことが出来なかった。

 

「やめてください! 何か……何かの間違いです! 夫と私はは普通に暮らしてきただけです! 待って!」

 

「申し訳ありません、ヴィラン因子を持っている方の子供にはヴィラン因子が含まれている可能性が高いのです」

 

 妻の声がした、黒服は何かを言っていた、私は茫然自失のまま、拘束を付けられ車に乗り、何処かへと連れ去られた、車の外は見えなかった、窓がなかった

 

 ──────────

 

 私は尋問室のような場所に連れられ、医者を名乗る男に質問をされていた

 

「今まで自分の中にスーパーパワーを感じた事は?」

 

 ……ありません

 

「では人を傷付けたいと思ったことは?」

 

 ……ありません

 

「ではふと気づいた時に記憶が飛んでいたことはありますか?」

 

 ……あの、息子は無事なんでしょうか

 

「こちらの質問に答えてください、ふと気づいた時に記憶が飛んでいたことはありますか?」

 

 ………………

 

「質問に答えてください、ヴィラン因子が確認された貴方にはこの質問に答える義務があります」

 

 ……本当に私にヴィラン因子があったんですか? 

 

「………………はい、貴方はヴィラン因子を持っています、検査は何重にも行われ、ミスを起こさないように厳重に管理されています、検査のミスは起きません」

 

 ……私の息子は無事ですか

 

「ヴィラン因子を持っていなければご家族の元へ戻ります、質問を再開しても宜しいですね? ふと気づいた時に記憶が飛んでいたことはありますか?」

 

 ……ありません

 

 その後いくつか質問に答えた

 

「では質問は以上になります、あなたの危険度は[E-]と判断されました、この器具を付け、生活へ戻ってください。今後貴方に子供を作る権利は存在しません、ヴィラン因子を持つ者をこれ以上増やさないようにしてください」

 

 片手にだけつける手錠のような器具が渡された、ヴィラン因子抑制装置だと医者は言った、これをつけている限り貴方の基本的人権は尊重されます。等と言ってパンフレットを渡された、そこには[猿でもわかるヴィランの人権]とコミカルな文字で書かれていた

 

 ──────────

 

 

「別れましょう」

 

「……考え直してはくれないか」

 

 あれから半年、私は妻に離婚を申し込まれていた、息子はヴィラン因子を持っていないことを確認されて1週間後に帰ってきた

 

「無理よ……貴方のことは今でも愛してる、でも……あの子の今後を考えるとヴィラン因子を持った親がいるっていうのは虐めの原因になる、それなら片親の方がマシだわ」

 

「せめて別居とか……いや何でもない、わかったよ、離婚しよう、養育費は口座に入れ続ける、いや、貯金をすべて持って行ってくれ」

 

「ありがとう……本当に、ごめんなさい」

 

 妻は泣いていた、私がヴィラン因子を持っていたばせいで、私がヒーロー因子検査を受けたせいで。それから私は、独りで暮らすようになった。

 

 仕事は上手くいかなくなった、営業に向かえば因子抑制機をつけているからと敬遠され始めた。会社でも、人のいい同僚は「お前はお前なんだから」と言ってくれたが上司は露骨に態度を変えた、最初はヴィランに対する怯え、それから嫌悪、そしていつの間にか見下されるようになった、成果をあげれば「ヴィランだから脅しでもしたのか」と言われ、成果がなければ「ヴィランはまともに仕事もできないのか」と言われた。

 

 

 首を吊ろうと決めた、給料は貰えていたし生活もできていたが、ふと死にたくなってしまった、離婚してから引っ越した部屋には縄を括り付けられるところがなかったので近くの山奥で吊ることにした。

 

 足場から飛び、宙に浮く、首に全体重がかかり骨が軋む、気道が閉まり息が出来なくなる、血管が締まり、意識が消えた

 

 死体は誰にも見つけられることも無く腐り始めた、そこにハエが集り、ウジが湧き、虫が這う

 

 そうした死体を見ていることに気がついた

 

『………………ハ?』

 

 私は、ワタシになっていた、人を象った蟲の群れ、人ではない、ヴィランになっていた

 

『ナゼ……ドウシテ……ワタシハ』

 

 羽音が声を形成している、ワタシが1つでは無いことが感覚で理解できる、ワタシがワタシの上でワタシとワタシを象ってワタシは──

 

「ヴィランを確認、異形系ヴィラン、対象を討伐する」

 

 ワタシの身体を構成していた蟲はバラバラにされた、ヒーロースーツを着た人物に……いや、ヒーローに

 

「……? 異様に脆かったな、だがヴィラン反応は──無し、帰還する」

 

 蟲は群れからバラけ、街中に散った、ワタシの意識はそのままに、街中の全てを見た、全てを聞いた、蟲がワタシで、ワタシが蟲だった

 

「なあアンタ、ヴィランだよな?」

 

 その男はワタシを見ていた、虫に話しかけていたが、その奥にワタシを見ていた、気がした

 

「街の全区域ですこーしだけヴィラン因子の反応が高まった、人口密度に対するヴィランの数でも増えたかと思ったがヴィランの数には絶対数がある、つまり違う、なら強いヴィランが現れたのか? それも違う、それなら街の1区画だけ反応が高くなるしヒーロー機関にすぐに補足される、なら広範囲に散らばるヴィランってことで……虫だと予想したんだが、合ってるか?」

 

 ワタシはワタシタチを人型にした

 

『合っていル、ワタシがそれダ、それがワタシダ』

 

「そりゃよかった、俺はローグ、ヴィランになる男だ、お前の願いを叶えてやる」

 

 ワタシは差し出された手を取った

 

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