原石達の軌跡・輝かぬ石など一つもない   作:kazuya2009

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※2022/06/19現在、第十話で登場するオリジナルウマ娘の名称について競走馬登録はございません。


第十話・シニア級の力・七夕賞敗戦

 七夕賞出走時間。

 俺たちはブラッドスプラッシュを見送り、出走関係者スペースへと来る。と言っても観客席最前列が確保されてるだけだが。

 ファンファーレが終わり各ウマ娘がゲートへ入っていく。ブラッドスプラッシュも緊張感を程よく保ちながらゲートに入っていった。

≪ゲートが開いて今、七夕賞スタートです! まずは先陣を切ったのはドリームズポータル、アルファストッパーの二人! 三番手に二番人気のブラッドスプラッシュが追いかけることなく冷静につきました!≫

 スタートは上々だ。逃げる二人を一歩引いての三番手で続く。小回りな福島では前にいた方が有利だ。

 正面直線の坂を上り、ブラッドスプラッシュは落ち着いて前方を見ている。

≪先頭争いをアルファストッパーが制し、一気に坂を上り切る! しかし福島はここから下り坂になりペースも早くなるぞ!≫

 福島のアップダウンは意外と細かい。気を付けないとスタミナを食う事になる。ブラッドスプラッシュには中山をイメージしてとは言ったが中山に比べれば高低差はない分、この細かいアップダウンには注意が必要だ。

 ブラッドスプラッシュはその辺も分かっているのか、ペース配分は悪くない。ラップは十二秒六、十二秒ジャストで推移している。

≪先頭が第一コーナーを回り、後続も続いていく! ブラッドスプラッシュが三番手で淡々と前を見据えている! 更に末脚自慢のウルトラノヴァ! 一番人気バーストクラッシュも続いていく!≫

 ブラッドスプラッシュも第一コーナーを回った。最初の三ハロンは三十六秒六。先頭までは四バ身離れているが勝負は第三コーナーというところか。

「ブラス先輩、いい位置についてる。いつもはニコニコしてる先輩もあんな顔するんだ」

 キャプティブガールが真剣にブラッドスプラッシュを見ていた。

「よく見ておけ。先輩の走りを」

「はい!」

 良い返事が返ってくる。彼女もこれから更にトレーニングに打ち込めそうだな。

≪さあ先頭は向こう正面に入り、ペースが落ち着いてきました。二番手ドリームズポータルまでが三バ身、ブラッドスプラッシュまでは四バ身差を付けて逃げている! 一番人気バーストクラッシュは先頭から七バ身差ほどの位置だが十分射程圏内だ!≫

 先頭の千メートル通過が五十八秒五はハイペースだな。ブラッドスプラッシュは五十九秒二で通過。ここからだ。

≪ここでアルファストッパーのペースが落ちて来たか! さすがに前半を飛ばし過ぎてしまったようだ! 第三コーナーに入って後続がペースを上げて徐々に前が詰まってくる!≫

 二番手にいたドリームズポータルが先頭になり、ブラッドスプラッシュはぴったりとその後ろに付けてマークする。その横をバテ始めたアルファストッパーが下がっていく。

≪第三コーナー中間、大きくレースが動き始めて一番人気バーストクラッシュが先頭集団に並びかける!≫

「まさか! ここで並ぶだと!」

 思わず声を上げてしまった。

 第三コーナー中間過ぎて、残り六百メートルの位置だ。バーストクラッシュは差しが得意だからこの展開を読んでなかったわけではない。だが、やはり仕掛けるのが早い。普通なら第四コーナー終盤で並びかけてくるはずだからだ。

「ブラス先輩!」

「ブラッドスプラッシュ先輩!」

 キャプティブガールとイーグルファングが悲鳴に近い叫びを上げた。

 エターナルガールも握りこぶしを作って展開を見守っている。

≪第四コーナーを曲がり切って、ブラッドスプラッシュとバーストクラッシュが並んで直線に入った! 人気の二人のマッチレースだ!≫

 ブラッドスプラッシュが必死の顔でバーストクラッシュに食らいついてるが。

≪バーストクラッシュ突き放す! 凄い脚だ! 二バ身、三バ身差と差を広げる! ブラッドスプラッシュは粘るも単独二番手が精一杯か!≫

 ブラッドスプラッシュも十分いい脚だ。後続に三バ身差を付けている。だがバーストクラッシュの末脚はブラッドスプラッシュを大きく上回ってた。

≪今、バーストクラッシュが一着でゴールイン! 四バ身差で圧勝です! ニ着にはブラッドスプラッシュが入った!≫ 

 シニア級のバーストクラッシュ。決して甘く見てはいなかったが地力が違ったな。

 ブラッドスプラッシュも三着に三バ身半差を付けてた。決して彼女が劣ってたわけではないのは分かる。

「そんな、ブラス先輩が負けちゃった……」

 キャプティブガールがショックを受ける。ここ最近、一番近くで彼女を見てただけに無理もない。

 ストップウォッチを見る。ブラッドスプラッシュのタイムは一分五十八秒九だ。しかし掲示板は一分五十八秒三だ。

 ブラッドスプラッシュのタイムは福島としては十分すぎるタイムだが、相手が悪かったとしか言いようがない。

「俺の認識が甘かった。たぶん、こっち側のデータを分析して仕掛けるタイミングを早めたんだ。しかも末脚も十分に温存出来るようにトレーニングを積んでいたと見るしかない」

 ブラッドスプラッシュの調子は良かった。上り調子だったのは確かだし、タイムを見ても七夕賞を勝ててもおかしくないタイムだ。一時期、一分五十八秒台での勝ちが続いた時期は確かにある。だがここ近年は二分からコンマ五秒前後程度のタイムが続いていた。例年なら確実に勝てたタイムだ。

 ブラッドスプラッシュが苦笑いをしながら俺たちのところへと来る。

「あははは。負けちゃったよ、あの人強かったね」

 無理している。俺には分かった。絶対に勝ちに行っていたんだ。悔しくないわけがない。でも、後輩の前で強がってるようにしか俺には見えなかった。

「ブラス、二着だが十分トレーニングの成果は出ていたぞ。勝った相手が強かっただけだ。三着に三バ身差なら立派だ」

「うん、ありがとう。トレーナーさん」

 笑顔であるも元気がない。

「あれがシニア級の力なんですね……」

 エターナルガールが独り言のようにつぶやく。

「ああ。あれだけの末脚を温存してたのも敵としてもあっぱれだ。ブラス、次に繋げよう」

「うん、わかったよ!」

 元気よく言うが、やはりショックは隠しきれていなかった。

 ジェネラルブレイン、カントリークライシスの勝利で俺自身も過信していた可能性がある。ブラッドスプラッシュの調子も良かったし、トレーニングの成果も十分だと思っていた。

「今回の事は俺にも責任がある。ブラス、一人で抱え込まないでくれな?」

「大丈夫だよ、トレーナーさん」

 笑顔で答えてくれるがやはり元気はわずかにないのが分かるのであった。

 

 二着とは言え十分な成果であったのは確かだった。レース後、ブラッドスプラッシュはウィニングライブでセンターサイドとして見事に踊り切って見せた。

 七夕賞はカントリークライシス、ジェネラルの二人が輝かしい成果を出していただけに続けなかった事に少し後味が悪い幕切れとなってしまった。

 合宿所に戻り、ブラッドスプラッシュに労いの言葉を再度かけて時間も遅かったことから、その日は解散する事にする。

 俺と言えば、部屋に戻ると早速データの解析を行った。

 今回の七夕賞をしっかり勝つにはどうすれば良かったのか、今後第三コーナー中間で並ばれることを想定してのスパートのかけ方、末脚の温存をどうするかを考えなければならない。

 ブラッドスプラッシュはGⅢ、GⅡは今のところ掲示板から外れてはいない。あと一歩なんだ。

「現時点ではスタミナもスピードも春に比べれば十分レベルアップを図れている。となると、やはり地道にトレーニングを続けるのと、まくりの練習も入れるか。ブラスならまくりを覚えれば十分勝てるはずだ」

 今日勝ったバーストクラッシュもまくりで一気に上がってきた。ブラッドスプラッシュは敗れたとはいえ良く付いていったと思う。あの足をまくりで使っていたら今日の結果も変わっていたかもしれない。先行しながらのまくりも使えないだろうか?

 反省する材料、今後ブラッドスプラッシュが成長する材料が得られただけでも十分な成果だな。まだ彼女には成長の余地があるのだから。

 そう考えているとドアがノックされる。

 時間を見ると夜中の二時だった。俺も随分遅くまで分析してたものだ。

 俺は立ち上がると、ドアへ行くと鍵を開けてドアを開く。

「トレーナーさん……。ごめんなさい。部屋の明かりが見えたから来ちゃった」

 ドアの前にいたのはブラッドスプラッシュだった。

 目を見ると赤い。たぶん悔しくて泣いた後だろう。

「外でも歩くか?」

「うん」

 俺は部屋の鍵を手に取るとサンダルを履いて部屋を出る。

 

 外に出ると海からの風が心地よく吹いていた。

 宿舎から砂浜の方へ俺たちは歩き出す。

 砂浜まではブラッドスプラッシュは何も言わずに俺の手を握って歩いていた。

 一人では辛くて俺のところに来たのだろうな。

 砂浜まで来ると俺はブラッドスプラッシュに切り出す。

「今日のレースの事を気にしてるんだろ?」

「うん。わたし、頑張ったよ。でも、リークちゃんやジェネスちゃんみたいに勝てなかった……」

「わたし、何が足りなかったんだろう? 何がいけなかったのかな?」

 ブラッドスプラッシュに足りないものは無かったはずだ。あれが今出せる精一杯だった。

「向こうでも言ったが、俺にも責任がある。ブラスは十分に走ったよ。あれがシニア級の底力ということでもあった。そこを計算しきれなかった俺の責任でもあるさ」

 責めるなら俺自身だ。展開次第では十分勝てた可能性はある。しかし、もしもなんてのは終わった後では空しいだけだ。

「でも、走ったのはわたしだから」

 落ち込む気持ちは分かるが、この子がこうやって落ち込むのは余程だ。あの二人を見て自分もと強く思ったのだと言うのがよく分かる。

 俺は、ブラッドスプラッシュを引き寄せて自分の胸に収めると少し強く彼女を抱く腕に力を込めた。

「ブラス、君は全力を尽くした。実際、一分五十八秒九は今出せる全力だったはずだ。何せ自己ベストに近いタイムだったんだ。それともブラスは手を抜いて走ったのか?」

 首を降るブラッドスプラッシュ。

「だったらブラスに、いけないところは無かったし、足りないものも無かったのが分かるはずだ。強いて言うなら俺が彼女の力を見くびってた事だ。だからブラスは悪くない。ブラスは本当によく頑張ったんだ。それは誇っていい」

 俺がそういうとブラスが俺の胸の中で震え出す。そして声を出して泣き出した。

「トレーナーさん、悔しいよぉぉ! リークちゃんもジェネスちゃんもしっかり勝ったのにぃ、わたしは勝てなかったの、悔しいよぉぉぉ!」

 ブラスの背中をさすりながら、そうだな、悔しいよなと繰り返す。

 カントリークライシス、ジェネラルブレインに負けたとかは考えてないだろう。でも、勝ちかたった思いだけは痛いほど分かる。

 真夜中の砂浜で俺はブラッドスプラッシュが気が済むまで泣くのを付き合ってやるのであった。

 見上げた星空はそんなブラッドスプラッシュを励ますかのように綺麗に輝いていた。

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