原石達の軌跡・輝かぬ石など一つもない 作:kazuya2009
夏合宿をしていると疲れも出てくるものだ。
毎日トレーニング、トレーニング、そしてまたトレーニングと。
身体的な疲れはもちろんの事、精神的な疲れもだ。
また今日の夜は毎年恒例の地元自治体が主催の夏祭りがある。トレーニングだけでなく息抜きもなければ伸びるものも伸びない。
「と、言うわけで本日のトレーニングは休みとする。各々、リフレッシュして欲しい」
合宿所入口に集合したいた皆に俺がそういうとウマ娘達は歓声を上げて喜んでいた。
早速どこに行くやら、何するやらと話が盛り上がっている。
去年までだと、この時期の時点ですでに受け持っているウマ娘は三人しかいなかった。カントリークライシス達だけというわけである。去年なら三人が俺と出掛けたいやら一緒に海で泳ごうとか声が掛かったのだが、今回はエターナルガールをはじめ本契約したウマ娘が五人もいる上にまだ仮トレーナー期間中の娘たちも五人。計十三人もだ。
今年はウマ娘達だけでグループが成立している。
これはこれで良い傾向だ。去年は俺にべったりだったからな……。いや、それはそれで俺も目の保養になったりで良かった。唯一辛かったのは三者三様にスキンシップしてくるわけだが、こう柔らかい二つの膨らみが色々なところに押し当てられて理性を保つのが一苦労だったことだ。正直、修行僧にでもなった気分だった。
「羽目を外すのはいいが、みんな程々になー」
俺の声が届いたのかみんな元気の良い返事が帰ってくる。これなら大丈夫だろう。
「それじゃ本日はこれで解散だ。また明日からトレーニングするから覚悟しとけよ」
疾風が俺の横を駆け抜けていく。
「……って、さすがウマ娘だな。もういない」
解散だという言葉を聞いた瞬間に皆、合宿所の中へ行ってしまい誰も残っていなかった。
大体が海で泳いだりするんだろうから後で砂浜へ行ってみるとするか。
そんな事を考えながら俺も合宿所の中へと戻る。
中に入り、トレーナー陣の部屋のあるエリアへ入ると他のトレーナーもちらほらとゆったりとした雰囲気で廊下で立ち話をしていた。
正面から綾峰も歩いてくる彼女のチームも今日はオフのようだ。
これから出かけるのか、白いブラウスに青いロングスカートという涼しげな格好である。
「あら、あなたも今日はオフにしたの?」
「そういう綾峰もオフみたいだな。これから町にでも行くのか?」
「ええ。友人たちのお土産を買いにね」
綾峰は毎年のように友人たちにお土産を買っている。
昨年の春に恋人関係を解消しているから去年の合宿では行っていないものの、ほぼ毎年、付き添いで良く一緒に買いに行っていた。
「あなたは今日はどうするの?」
暗に暇なら付き合わない? と聞いているのだろう。
一緒に買い物に行ってもいいが。
「今年はうちもそこそこの人数がいるからな。オフにしてはいるがウマ娘たちの様子を伺おうと思ってる」
「そう。あ、一つだけ釘を刺しておくわね?」
綾峰はそういうといたずらっ子のような顔をすると。
「あんまり、あの子たちをイヤらしい目で見ちゃだめよ」
人差し指を立てて可愛らしく忠告する。
「ば、馬鹿か!」
少し焦ったように言ったせいか、綾峰は面白そうに笑いながら、じゃあねと買い物へと出かけて行った。
全く、浅間辺りに言われるのと違って綾峰みたいな女性に言われるのは堪える。
……。しかし釘を刺されると男は返ってやってしまう生き物なんだよな。
ブラッドスプラッシュも去年より大きくなっているし、イーグルファングもなかなか。
例年通りなら彼女らも学校指定以外の水着を持ってきているだろうから堪能したくもなるっていうのが男の悲しき性よ。
なんて、馬鹿なことを考えるのをやめると自室に戻ってきた。
サーファーが波に乗っているイラストが入った白いシャツにカーキ色ハーフパンツというラフな格好になる。コンパクトなショルダーバッグに専用端末と財布を入れ、携帯端末を持つと俺も部屋から出た。
夏の日差しが照らす中、俺は浜辺近くにあるカフェへと足を運ぶことにする。
合宿所から出て、浜辺沿いの道を歩くと浜辺を一望できる位置にカフェが建っているのだ。
ここは俺らトレーナーが夜に自室以外で作業する際なんかにもよく使われるところでもある。
シックなコテージ風の造りをしており、中に入るとカウンターやテーブル、椅子、仕切りなど拘った木製のもので取り揃えられていて、観葉植物も適度に置かれており落ち着く雰囲気だ。
「おひとり様ですか?」
中に入るとスタッフの一人に声を掛けられる。
俺がそうだと返事をすると、気を利かせてか店内奥の海が見える席を進めてくれた。
ちょうど二人席で空席のようだ。
俺はスタッフにお礼を言うと勧められた席へと行く。
店内では、オフのチームが多いのもありウマ娘たちの姿もちらほら見えた。
オシャレでいいねという会話が聞こえてきて、そうだろう、そうだろうと心の中で頷く。
席に着くとすぐにスタッフが水を持ってくるとご注文はお決まりですか?と訪ねてきた。
「日替わりアイスコーヒーのブラックとシュークリームを一つ」
注文を聞くとスタッフは少しお待ちくださいと奥へと戻っていった。
ここのシュークリームは雑誌でも特集が組まれる程で、合宿所の近くでは文句なしの一番の店だ。
自家製の生クリームとカスタードクリームにシュー生地はカリっとした仕上がりになっていて蓋の部分にクリームをつけて食べるのがここでの定番となっている。
一先ず注文の品を待ちながら浜辺を見てみると海水浴で来ている家族連れが多い。
少し離れたところから先はトレセン学園がこの時期貸切になっており、海水浴場の三分の一程をトレーニング場として使わせて貰っている。
正直、この規模を毎年貸し切り出来るのだから相当の資金力だ。
「お待たせしました」
浜辺を眺めているとスタッフの人がアイスコーヒーとシュークリームをテーブルの上に置く。
アイスコーヒーについては本日の使用している豆の紹介をしてくれ、何でもフルーティーな香りと酸味が楽しめるもののようだ。
注文票を備え付けのホルダーに入れると、ごゆっくりどうぞと戻っていった。
「あら? トレーナーさん」
そう後ろの方で声が聞こえて振り向くと、ジェネラルブレインがエターナルガール、イーグルファングと新たに仮トレーナー契約中の一人の栗毛のウェーブの掛かったロングヘアーが特徴的なエンジェルアサシンの四人で席に座るところだった。
俺は席を立つと四人のいるテーブルに行く。
「お前らもこのカフェに来たのか。やっぱりお目当てはシュークリームか?」
そう尋ねると四人とも頷いて答える。
「去年、雑誌で特集が組まれてたから来てみたかったの」
ジェネラルブレインは少し恥ずかしそうに答える。
なるほど、確かに去年の冬に特集記事が組まれてて、もう少し早ければ行ったのにと悔やんでいた姿を思い出す。
「去年は来られなくて悔しがってたな」
「ええ。トレーナーさんが、そこのカフェは結構いいぞって。去年連れて行ってくれれば良かったのに」
少し不貞腐れたようにいうジェネラルブレインに残りの三人が連れて行ってもらえなかったら拗ねられちゃいますよと俺をからかって来る。
「去年はリーク、ブラスの三人で俺を散々連れまわしたろうが。忘れたとは言わせないぞ」
「そ、そんなこともあったわね」
誤魔化す様にメニューの方に視線を落とすジェネラルブレイン。
「そう言えば、エンジェルの方はどうだ? 一応、だいぶタイムも伸びて来てはいるが」
話題をエンジェルアサシンの方に移す。
しかし天使の暗殺者とはブラッドスプラッシュに負けじ劣らずの物騒な名前である。しかし名前とは裏腹に顔立ちは良くジェネラルブレインのようにスタイルがいい。モデル向きな娘だ。
「そうですね。走り方のフォームをほんの少しだけ修正しただけで一秒以上もタイムが縮んだのは驚きました」
エンジェルアサシンの場合、フォームがわずかに悪かった。ほとんど問題なく教科書どおりと言っても過言ではない。だからこそ微妙な部分の調整で良くなった。
彼女はモデル向き。言ってみれば細身でありながら女性としてのプロポーションは良いのだが、アスリートとしてだとわずかに周りとフォームが合わなくなっていたのだ。
俺でなくても経験を積んだ中堅トレーナーなら十分見抜いただろう。
「この夏でしっかり鍛えればクラシック戦線である程度は戦えるようになるだろうな」
「じゃあエターナルちゃんとも一緒に走れるかも!」
エンジェルアサシンがエターナルガールの方を見る。
エターナルガールは優しく微笑みながら頷いて見せるとお互い頑張りましょうと声を掛け合った。
しかし、エターナルガールと一緒のレースに出ることは出来なく無いだろうが能力という点においてはエターナルガールは頭二つくらいは周りから抜け出している。
トレーニングを重ねた結果、実はジェネラルブレインのトレーニングにある程度ついていけるのだ。
デビュー前のジュニア級が宝塚記念を取ったシニア級とである。
エターナルガールの底しれぬ才能に凱旋門賞を目指してたくなるレベルなのだ。
現時点で芝二千メートルのタイムも重りを付けた状態で二分フラットだ。恐らく重りを外せば一分五十八秒フラットくらいだろう。
今のブラッドスプラッシュより強いことになる……。
「勝負は時の運もある。その時にならないと分からないが二人共頑張れよ」
はいと返事が返って来た。
「さて、俺は自分の席に戻るから」
そういうと俺は自分の席へと戻るのだった。
シュークリームを食べながら、専用端末で各ウマ娘たちのデータを確認する。
トレーニング開始時期から今に至るまでの全体のタイム、ラップの伸びだ。
言うまでもないが受け持っている全てのウマ娘は何かしらの結果が出ている。
今、一番気にかけているのはブラッドスプラッシュだ。
前走の七夕賞以来、気合いの入り方は他のウマ娘と比べても目を見張るくらいの取り組み様なのは知っている。悔しさをバネに力は明確に伸びてきていた。
次走のクイーンステークスは油断さえしなければ勝つことは十分可能だ。
札幌記念も勝ち負けに十分絡むことが出来る。しかし、ここも勝つ。
そしてクラシック級での最終目標が秋華賞だ。
ここだけがまだ未知数である。
「やはり厳しいな」
出走予定のウマ娘はまだ発表されていない。
しかし予想なら出来る。ティアラ路線で戦っているウマ娘全てに皐月賞、日本ダービーの王道路線からも距離不安から転向してくる上に、ブラッドスプラッシュ同様に夏でレベルアップしてくるウマ娘もだ。
夏を休養するウマ娘だって、この夏合宿には参加している。決して油断出来ない。
「それでも勝ちに行くわけなんだけどな」
独り言を言いながらコーヒーを飲み切ると専用端末を仕舞ってカフェを後にすることにする。
後編は水着回です。
(誰に対してのアピールだw