原石達の軌跡・輝かぬ石など一つもない 作:kazuya2009
店を出る時にジェネラルブレイン達の方を見ると、まだ談笑していた。
俺が出ると分かると軽く手を振ってきたので振り返すと笑顔が返ってきて心が和んだ。
カフェを後にすると砂浜へと降りていく。
家族連れや恋人、学生の友人たちと様々なグループが海で童心に戻ったように遊んでいたりしている。
時折大きな笑い声や、いたずらされたのか叫び声が響く。
中には一般のウマ娘たちもいるのかひと際大きい水しぶきが上がったりして、それを見る一般人の驚く声なども聞こえてくる。実に平和な、ひと時だ。
貸し切りエリアは職員が交代で見張りに立っている。
周囲とのトラブルを避けるためでもあり、合宿に来ている関係者は一般エリアには行かないように伝えられているのだ。
夜の祭りこそは見回りだけで、あとは節度ある行動をと伝えれていて祭りの会場でのトラブルは取材記者関連の方が多い。
貸し切りエリアに身分証を見せて入ると、こっちはこっちで黄色い声が響いており一時のトレーニングを忘れて楽しんでいるウマ娘が多い。
一応、トレーニングに使う部分は確保されており、今日もトレーニングに励むウマ娘たちもそれなりにいた。
学園指定の水着で思い切り泳ぐ娘もいれば、持ってきたプライベートの水着で楽しむ娘たちもいる。
プライベートな水着の持ち込みは許可さえ得ればある程度、自由に持ち込めるのだ。
ただし許可が得られればだ。つまり際どい水着とかは許可が下りない。
……。そんな際どいのなんて期待なんてしてないぞ?
しばらく歩くと聞きなれた声が聞こえてきた。
目を向けるとカントリークライシス、ブラッドスプラッシュと数名の娘達がビーチバレーをして盛り上がっていた。
カントリークライシスは学園指定ではないも競泳用の水着で動きやすそうだ。魅せるのではなく動くためのものだがデザインは悪くない。体のラインも綺麗で元々スポーティーなカントリークライシスにはピタリだ。
ブラッドスプラッシュは白を基調に赤い水玉模様の入ったビキニ姿だ。
彼女は少々天然なところがあるが、これは狙ったのだろうか? それとも一緒に買いに行った娘が狙ったのだろうか? 水玉だから血しぶきを思わすような事はないが、彼女の名前を知るものからすれば狙ったなと思いたくなるデザインである。
他のウマ娘たちも各々の水着を着てビーチバレーを楽しんでいるようだが。
うむ。実に福眼である。
カントリークライシスが気が付くとこちらに向かって大きく手を振ってくる。ブラッドスプラッシュなんて俺を見つけるとジャンプしながら手を振ってくるのだが、この距離からも彼女の大きな胸が今にもビキニからこぼれ落ちるのではないかと期待、もといひやひやしてしまう。
手を振り返すと、彼女らの元に少し足早に歩いていった。
近くまで来ると、サンドネイチャ、キャプティブガールもいる。
サンドネイチャはやはりカントリークライシスに似ているのか、スポーツタイプの水着を着ている。こちらもなかなかにスポーティー娘という感じで健康的な感じだ。
キャプティブガールの方は青と白のストライプの可愛らしいワンピースタイプ。ブラッドスプラッシュに勝るとも劣らない大きな胸が程よく収まっていて程よくその存在を主張するくらいである。
堂々と彼女らの姿を脳裏に焼き付けられるのはトレーナーとしての特権だな。
「ビーチバレーやっていたのか。遊びながらトレーニングといったところか?」
「そうそう。これなら楽しめるし、体も使うからトレーニングにもなるし一石二鳥ってね」
カントリークライシスが代表していう。恐らく彼女が提案したのだろうと思うが、とても彼女らしいな。
ジェネラルブレイン達はまさに休息を、カントリークライシス達の方は遊びながらトレーニングとホントタイプが分かれたな。
「去年は三人しかいなかったからビーチバレーなんて出来なかったしな」
「そうなんだよね。去年は去年で楽しかったけど、ね」
話を振られたブラッドスプラッシュはそうだったねと返す。
「トレーナーさんは何してたんですか?」
訪ねてきたのはサンドネイチャだ。カントリークライシス側にいる。
「ちょっと前まで海辺にあるカフェに行っていたんだ。知ってるかも知れないが、シュークリームが有名な店でな」
「あ、知ってる! ジェネスが去年、行きがっていたお店だね!」
ブラッドスプラッシュが言うと他のウマ娘たちも、あのお店って口々に言う。
「で、戻ってきてお前たちの様子を見に来たってとこだな」
「あたし達の水着を見に来た間違いじゃないのかな~?」
ニヤニヤとしながらカントリークライシスが少し前屈みになりながら自分の身体をアピールしてくる。さすがに抜け目ないな。俺の争奪戦に関しては一番どん欲だな。
ブラッドスプラッシュはそんな言葉に反応したのか少し恥じらい気味に自分の武器である胸を強調してアピールしてきた。この子はこの子で控えめながらもしっかりと争奪戦に参加してくるからちゃっかりしている。
アピールする二人を見た新人のウマ娘達は、逆に俺に見られるということ意識してしまったのか恥ずかしそう俺の方をチラチラと見てくるのが可愛い。
「後輩の目もあるだから少しは自重しろ二人共。まあ水着を見に来たのはあながち間違いじゃないがな」
「あはは。トレーナーさんってホント正直だよねー あたしそういうとこが好き」
カントリークライシスも正直なやつだ。俺もそういうのは嫌いじゃない。
「わ、わたしだって」
こうやって対抗してくるブラッドスプラッシュも可愛くて良い。
「あ、あの、わたしの水着はどうですか?」
遠慮がちにサンドネイチャが聞いてくる。
先程心の中で勝手に評価したスポーティな水着を改めてみる。実はカントリークライシスより少し胸もあり水着越しで見るだけでも綺麗な形をしているのが分かる。
視線を少し感じてか頬を赤らめるも感想を待っている、その姿は男心をくすぐるは十分な魅力だ。
「スポーティな水着がサンドのスタイルとも相まってとても良く似合ってるな。普通の海水浴場にいたら絶対声を掛けられるだろうと思うくらいにはね」
「あ、ありがとうございます」
先程より顔を赤らめながら少し嬉しそうな表情をして照れ笑いを浮かべる。今日はこの子、最高にかわいいぞ。
俺がそんな批評をしたからだろう。残りのウマ娘達もわたしは? と聞いてくるので全員の批評をしながらそれとなく褒めてやると全員が可愛らしく恥じらうのであった。
水着の批評会が終わるとカントリークライシス達はビーチバレーを再開した。ちなみに昼はどうするのかと聞いたらバーベキューの用意をしてるとのこと。誘われたが、せっかくトレーナー抜きで気ままに出来るんだ。俺は遠慮させてもらった。
熱中症に気をつけろよと声をかけると合宿所に戻ると伝えて俺は海水浴場を後にする。
戻ってくると昼を合宿所の食堂で食べようと思っていた者たちが多かったのか、食堂はそこそこ混雑していた。
簡単に食べられそうなサンドイッチを二人分頼むとセルフドリンクコーナーでアイスコーヒーを入れて自室で食べることにしようとしたのだが。
「なんだ、一人か?」
ドリンクコーナーで浅間に声をかけられてしまった。どうやら浅間も一人のようで考えも同じく自室で食べようと思ったのか向こうもサンドイッチを二人分だ。
「ということは浅間もか」
「ああ。ま、静かに食べようかと思ったんだけどよ。お前の姿を見かけちまったからなー」
暗によかったら一緒に、どうだと言ってきてるのが分かる。
「俺達、二人くらいなら席もあるみたいだな」
俺の言葉でじゃあそこだなと、一番近くの席を顎でさしてくる。
可愛らしいウマ娘が数人グループで食べている隣だ。
「ウマ娘のナンパを合宿所でするわけじゃないだろうな?」
ジト目で浅間を見るが、涼し気なものだ。なんのことやらとサラリと交わしてくる。
グループに隣の席をいいかと浅間が尋ねると、どうぞと言われ二人で座る。二つしか席が空いていない上に向き合う形でしか空いていなかった。
「で、どうよ。エターナルちゃんの調子は」
席に座るなりエターナルガールの事を聞いてくる。敵情視察にしては大胆だが。そもそも浅間が知らないわけがない。
「おいおい敵情視察ならもっと上手くやれよ。大体、情報はそれとなく集めてるんだろ?」
サンドイッチに手を伸ばすと一口。これはベーコンレタスか。マスタードが効いていてなかなかに上手い。
「片方三キロのアンクルウェイト付けて二千メートル二分フラット。たぶん、重りを外して全力出せば一分五十八秒フラットってところだよな?」
親指立ててどうだ当たってんだろうと言う。ホント食えないやつだ。
「そこまで分かってるなら、聞くことないんじゃないか?」
「むしろ聞きたいことはありまくりだぞ? ウマ娘の力を引き出すためならトコトン、ウマ娘達に尽くすので有名な、お前が来年のクラシック候補ー今じゃ三冠ウマ娘候補を担当してるんだ。気にならないわけないだろ」
言いたいことは分かるが、そんな話をしても浅間に一銭の得はないんだがな。弱点もない。その気になれば逃げても勝てる力を彼女は有している。
今はアメリカでウマ娘の育成をしていると聞く異次元の逃亡者の伝説を持つサイレンススズカに優るとも劣らない力を持っていると考えてもおかしくない。しかも距離適性は天皇賞春も狙える三千二百メートルだ。
もしかしたらエターナルガールには三冠を逃げだけで勝てる可能性すらある。
「で、お前は他のウマ娘達の邪魔をしたいがためにそんな話を出したのか?」
実はエターナルガールの話を始めてから隣のウマ娘達が静かになってしまったのだ。完全にこちら側の話を聞いている。たぶんエターナルガールと同期もいるだろうに。
「あ、その聞く耳を立てるつもりは無かったんですが」
「エターナルさんのトレーナーさんって聞こえたので、つい……」
グループでたぶん年長者なのだろう栗毛でポニーテールの娘と芦毛のセミロングで片目が隠れた娘が申し訳無さそうに言う。
「いや、こんな大きな声で話されたら聞こえてしまって仕方ないさ。すまないな」
「いえ。でもお噂は本当なんですね」
ここでも俺の噂か?
「ウマ娘のためなら人生も掛けるって聞いてます」
「それは誇張されすぎだな。俺はただウマ娘のために尽くしてるに過ぎないーってこれじゃ噂通りの回答になってしまうのか」
俺が困ったように苦笑いをすると、隣に座るウマ娘たちがくすくすと笑う。誇張されすぎてはいるが、要は結局のところ俺が噂通りの行動を取ってしまっているというわけだ。
「わたし、今からでもエターナルさんのところに移籍しようかなー」
そういうウマ娘には見覚えがあった。神トレーナー騒ぎの時にメールを送ってきた娘の一人だ。レース映像を見てるから間違いない。確か、彼女には彩峰から推薦があったトレーナーを薦めたはずだ。
「おいおい、気持ちは嬉しいがせめて今のトレーナーじゃ自分に合わないと思ってからな? 」
「はーい」
返事があったがやはり不満げだ。
それを察したのかー
「でも、その気持ちは分かるわ」
と先輩ウマ娘だろう一人が言うのだった。
浅間の方を見るとしてやったりの顔。
そういうことか。こんなところで俺の広報をするとはな。
「浅間」
「ん、礼なら要らないからなー」
「今度酒奢れ。それで許してやる」
「えー、なんでだよぉ」
少しオーバーなリアクションをすると隣の席のウマ娘たちは可笑しそうに笑うのであった。
あの後、浅間が今なら独占で聞きたいことを聞けるぞーとウマ娘達に話を振ってくれたせいで専用端末で何人かのレース映像を見てアドバイスをするはめになってしまった。担当のトレーナーに悪いから、そのアドバイスをもとに担当トレーナーとトレーニングメニューなども相談するようにと、あと俺から聞いたのではなく悩みとして聞くようにと釘は刺しておいた。
食堂での一件。浅間なりに同期の俺をもっと広めたかったのだろうな。
一部のトレーナー達からは未だに変人扱いだ。
せめて実際に接するウマ娘たちからの評判くらいは良くなって欲しいという友人としての思いなのだろうが。
「あいつは少し喋り過ぎなんだよな」
と、自室の布団に横になりながらそんな愚痴を零す。
気持ち自体は嬉しい。俺の理解者という点においてはだ。
そんなことを考えても仕方ない。
今は目の前のウマ娘たちのことの方が大事なのだから。