原石達の軌跡・輝かぬ石など一つもない 作:kazuya2009
ゲートが開くと十八人のウマ娘達が一斉にスタートした。
≪ゲートが開き、若きウマ娘達がデビューのゴールに向かって綺麗にスタートしました! まずエターナルガールが十七人のウマ娘を引き連れてレースを作っていきます!≫
実況の通り、先頭を切ったのはエターナルガール。
千八百メートルをラップ走法で一分四十八秒五で走り抜くわけで一ハロン十二秒〇五で走る必要がある。
ラップ走法とは言ったが時間管理が細かいと走りにくい。一ハロン目の時計を見ると十二秒五だ。これで残り八ハロンを十二秒で走り切ると一分四十八秒五になる。
≪エターナルガールが飛ばす飛ばす! 一ハロンを通過してすでに六バ身の差がついてる!このまま逃げ切るのか、それともペース配分を誤ったか!?≫
実況の声と、エターナルガールの差にすでに観客席ではざわざわと動揺が広がる。
「トレーナーさん、エターナルちゃん飛ばしすぎなんじゃ?」
心配するようにイーグルファング。
一ハロン目が十二秒台といえば普通にシニア級の重賞並だ。飛ばしすぎと思っても無理もない。だが、それは普通のメイクデビュー戦であればの話だ。
「エターナルガールを見てみれば分かるさ」
俺の言葉にイーグルファング含めて他のメンバーもエターナルガールの事を見てみると有ることに気がつく。
「大したものね、トレーニングと同じ感覚で走ってるなんて」
ジェネラルブレインが呆れ半分に言う。
そうなのだ。練習と大差ない走りである。このくらいならトレーニングと同じ走りで十分。
第二コーナーを曲がり終え向こう正面に付く頃にはすでに十バ身近い差ができており場内からは喝采が起こる。
前半三ハロンはきっかり三十六秒五とペースはしっかり守れている。正直、この時期でラップ走法を実戦で行えるのは凄い。体内時計をしっかり作れている証拠なのだ。
≪ここで千メートルを通過! タイムは六十秒五! メイクデビューとしてはハイペースだ! しかしエターナルガールは未だしっかりとした踏み込み! 本当にこのまま逃げ切ってもおかしくない! 後続もすでに十バ身以上の差が付き果たして後半追いつけることができるのか!≫
場内も大きくざわめく。
後続のウマ娘たちも、そのざわめきから焦りを感じたのか慌ててペースを上げ始める。
しかし、これは失策だ。下手にペースを上げれば一気にスタミナ切れに成りかねない。
≪後続が一気にペースを上げるが、一人ペースを崩さないウマ娘がいるぞ! それともついて行けないのか!≫
実況に俺もそのウマ娘に目を向けた。
他が焦っている中で確かに一人いる。
双眼鏡を用いて見てみると、呼吸の乱れはそこまでなくペースを守っているのが分かる。
表情は至って冷静だ。
双眼鏡を下ろす。
「トレーナーさん、何かあったの?」
ブラッドスプラッシュが気になったのか訪ねてくる。
「いや、特に何があったというわけではないさ」
そう返すと実況が盛り上がる中、俺は双眼鏡で確認したゼッケンの番号を出走表で確認する。
ガールオブラスト。これはこれで何とも嫌な名前だろうか。エターナルガールが永遠の少女ならガールオブラストは最後の少女。何かの当てつけかと言いたくなる名前だ。
事前のデータではエターナルガールの敵になるような要素はないがー
なるほど、彩峰がトレーナーか。じゃあ、この冷静さも納得だな。
顔を上げるとエターナルガールが第三コーナーを曲がり終え、第四コーナーに入るところだ。
彼女としては淡々と走っているだけなのだが場内の盛り上がりは凄い。大逃げに皆が湧いているのだ。
ペースも崩れておらず千四百メートル通過が一分二十四秒五。
≪さあ、エターナルガール最後の直線に入ってきた! 後続とはまだ十バ身以上開いたままだ!≫
最後の直線にエターナルガール入ってきたが、なんとも涼し気な顔だろうか。
後続を確認すると急なペースアップで他のウマ娘達は最終コーナを曲がっている足がすでに上がっていた。
だが、更に後ろからガールオブラストが他のウマ娘達を外から一気にゴボウ抜きにしていく。
しかしエターナルガールに届くことは当然なく。
≪エターナルガールが他のウマ娘達を寄せ付けることなく大差で今、ゴールイン! 見事デビューを飾りました! 二番手はガールオブラストがペースを崩さなかったために単独だ!≫
エターナルガールはあっさりと勝負を決める。場内でも大差勝ちということで大盛りあがりだ。
「エターナルちゃん、凄い……」
ブラッドスプラッシュのつぶやきに周りの子達も頷きあっている。
ガールオブラストもその約二秒程あとに単独二着でゴール。三番手以下は可哀想だが更に二秒離されて一団となってゴールしていった。
エターナルガールは強かった。本当に他のウマ娘など眼中にない走りであったが、俺はガールオブラストに不気味さを感じていた。
あの冷静さは脅威になる。
タイム差こそ約二秒差近くつけたがそれでも、一分四十九秒八だ。エターナルガール相手でなければ十分勝てたタイムである。
今はまだ力の差があるが、彼女が力を付ければエターナルガールのライバルになってもおかしく無い。
杞憂で終わればいいが、トレーナーが彩峰では杞憂で終わらない可能性もあるな。
エターナルガールが柵越しに俺たちのところへやってくる。当然、勝利報告にだ。
「みなさん、しっかり勝ってきました」
「エターナルさん、デビュー戦の勝利おめでとう」
皆を代表するかのようにジェネラルブレインが祝福の言葉をかけると皆が次々におめでとうと声が上がる。
エターナルガールが皆からの祝福に照れるような笑顔を見せた。
「トレーナーさん、勝ちましたよ。宣言通り一分四十八秒五です」
俺たちの前に来るとエターナルガールが誇らしげに言った。
息切れは多少しているもトレーニングの後と言った感じである。ほとんど呼吸も乱れてない。
これは正真正銘、彼女の力だなと感じた。
「おめでとう。宣言通り、かつ鮮やかなデビューを飾ったな」
俺がそう言うとニッコリとした笑顔で応えてくれる。
勝つことはわかっていた。それは本人も同じだろう。しかし分かっていても実際はこうして勝つと全く気分が違うのがわかった。
「トレーナーさんの言う通りでしたね。一分五十秒前後だろうって」
「ああ。そうだな。ところでエターナル、君は二着のウマ娘をどう思う?」
「彼女のことですか? これから伸びてきたら厄介ですね。後ろは見なくとも実況は走ってても聞こえますから、その状況だけで考えてもわたしと勝負せず、きっちり二着を確保するのは凄いと思いました」
エターナルガールの話を聞いて俺も頷いた。
概ね彼女と同じ評価だからな。
「今後ライバルになってもおかしくないな。彼女は」
「ええ」
彼女も頷いて同意した。
「エターナルちゃんも、トレーナーさんも何か喜びが薄いよー せっかく勝ったのに!」
ブラッドスプラッシュが勿体ないと言わんばかりに言う。彼女は純粋にレースの勝利を喜ぶタイプなだけに気持ちはわからなくない。
「嬉しくないわけではないんですよ? わたしだってデビュー戦を勝利出来たことは嬉しいんですから。ただ今後の事も見据えないと行けませんので」
油断はしない。言葉にこそしないがエターナルガールはそういう雰囲気を出していた。
頼もしい限りである。
「それではウィナーズサークルへ行きますね」
エターナルガールが笑顔でこの場から去っていく。
その後ろ姿はデビュー戦を制した後とは思えない堂々としたものだった。
「はぁー、やっぱりエターナルちゃんは凄いね」
ブラッドスプラッシュがため息を吐きながら言う。
先輩の自分より凄いんじゃないかと言うような負い目は感じないが、やはり才能の違いを見せられたという感じだろうか。
「ため息付いてる場合じゃないでしょ、次はあなたの番なのよ」
そんなブラッドスプラッシュを見兼ねてかジェネラルブレインがブラッドスプラッシュの肩を軽く叩く。
「そうだよ、先輩! 次は先輩の番なんだから! 七夕賞のリベンジ、わたしに見せてくださいよ!」
と元気づけるのはキャプティブガールだ。
確かに次はブラッドスプラッシュの番だ。気持ちを切り替えてもらわないとならない。
「そ、そうなんだけどね! やっぱり見惚れちゃうというか凄いなーって思っちゃうというか」
言いたいことはわからなくない。だが、それと自分のレースは違う。
それにだ。
「エターナルがブラスに言った努力の量は違うと言っていただろう? 自信持て。次のレース、エターナルだって期待してんだぞ?」
エターナルガールはブラッドスプラッシュの事を凄いと評価した。天才だって努力しなければ力は出せない。自分の力を百パーセント出すにはトレーニングしかないのだから。
トレーニングに向かう姿勢、努力の密度はブラッドスプラッシュは誰にも負けないと考えても過言じゃない。
「そ、そうだよね! 今度はわたしが頑張る番!」
「そうだ。それに七夕賞の悔しさ、忘れたわけじゃないよな?」
発破をかけてやると見る見る闘争心が湧き出てくるのが見ていても分かる。
「もう、あんな悔しい思いはしないよ!」
この闘争心。前向きな力はやはりブラッドスプラッシュの武器だな。純粋だからこその原動力でもある。
「キャプティブガールにも勝利を見せてやらないとな」
「そうだよ、わたし先輩の勝つところをみたいんだから!」
キャプティブガールの声援もあり、ブラッドスプラッシュは力強く頷くのであった。