原石達の軌跡・輝かぬ石など一つもない   作:kazuya2009

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※今回、自棄になったウマ娘がトレーナーを襲撃するという悲しい事件が起きるので苦手な方は飛ばすことをおすすめします。
また今回タイトルの通りヒトミミー人間がウマ娘に単純な力では敵わない事に対して編み出したもので対抗出来るというものも描いています。


間話・トレーナー襲撃・ヒトミミの抵抗

 デビュー控えた三人娘は外出した翌日から調子が戻りタイムも再び伸び始めた。

 笑顔を戻りもう大丈夫だろうと感じる。

 また俺に対する突き刺さる視線も日に日に減って行った。だが、まだ一人程、突き刺すような視線を送ってくるウマ娘がいるのだ。

 ケアがまだなのか? たぶん、そのトレーナーも手を焼いているんだろうな。

 その程度に考えていたが事はそんなに単純ではなかったらしい。

 

 この日、夕食後に喫茶店でエンジェルアサシンのデビュー戦と夏合宿明けの選考レースの両方の準備にデータを整理していた。

 エンジェルアサシンはたぶんこのまま本契約を結ぶ流れだが、もし彼女が新たなトレーナーを望むならそれもありだと考えている。

 残り四人はもう一度選考レースに挑戦してみたいと言っていたからそっちの準備は進んでいた。それでスカウトされなかったらもう一度声をかけやるつもりだ。

 来るものは拒まず、去るものは追わず、しかし迷うようなら再び拾うのが俺のスタンスだ。

 エンジェルアサシンは中距離以上が基本だ。

 九月の選考レースは芝二千二百メートルがあるから、その辺として、デビューするなら東京レース場か。

 どうも左回りが得意のようだし、末脚はそこまでではないが悪くない。たぶん良い脚を長く使える方だ。

 それは東京レース場でも十分通用するだろう。

 と、考えてると俺はいつもの視線を感じてることに気がつく。

 ここは喫茶店だが夜だ。トレーナーこそ多いが学園のウマ娘はこの時間は合宿所にいるはずなのだ。

 まさか付けてきているということか? しかしなんのためだ? 普通に考えると文句の一つでも言いに来てるか。

 もし文句を言いたいなら周りに人がいない方がいいだろう。で、文句をぶちまけて罵倒でもなんでも俺にぶつけて立ち直るなら安いものだ。

 俺はそう考えると作業を切り上げ会計を済ませる。店を出て真っ直ぐには帰らず砂浜の方に降りた。

 気配は俺を追ってきている。

 周りに人がいないことを確認すると、俺は立ち止る。気配は止まることなく俺に近づいてきた。

「ここ最近、ずっと俺のことを見てたようだがー レースのことだな?」

 振り返った先にいたのは黒鹿毛のロングヘアーで白いTシャツに黒い短パンを履いたウマ娘が泣きそうでかつ恨めしそうな顔で俺を見ていた。

 間違いでなければエターナルガールと一緒に走った子だ。たしか最下位だった。

 なるほど恨みが強そうだ。

「あんたのせいよ、あんたがエターナルガールに変な指示出したせいであたしはペース乱されて……」

 やはりそうだ。あのレース以降に調子を崩したウマ娘が多かった。一緒に走った子たちは顕著にそれが現れていた。俺も気になってトレーナー達に話は聞いたがだいたいはこっちの問題だから気にするなと言ってくれ、彼らのケアの甲斐もあってか俺へ恨みがましい視線はなくなっていたのだ。

「調子は崩れたままなのか?」

「そうよ! あたしのトレーナーにも、いつまでも引きずるなって! あたしだって引きずりたくないのに、あの日の時の事がフラッシュバックしてトレーニングにも身に入らなくなって! 全部、あんな勝ち方を指示したあなたのせいだ!」

 逆恨みも甚だしいが、まあ言いたいことを言って吹っ切れてくれたらー

 風が俺の居たところを薙いでいた。

 とっさにバックステップで後ろに下がってなければ彼女の脚が俺の胴を捉えていただろう。

「なっ……。ヒトミミのくせにあたしの蹴りを躱すなんて」

 目の前のウマ娘は驚愕の表情をしていた。あの蹴りは何か格闘技をやっていた一撃だ。並の人間だったら確実に捉えられていただろう。そして、内臓が破裂していた程の威力だったのが分かる。

「さすがに今のは感化できないな。俺を殺す気だったのかな?」

 殺す気は無かっただろうが確認も含めて問う。

「……。あの子のせいであなたが大怪我すれば、あの子を砕くことが出来る。そしたら今度はあたしが勝つんだ!」

 そう叫ぶとさっきより早い速度で間合いを詰めると力強く踏み込み右の拳で殴り掛かってくる。脚が一番の脅威だが、ウマ娘の拳も人間には凶器に等しい。一撃喰らえば大怪我は避けられない。

 だが、俺は冷静に軌道を見極めると逆に彼女の右腕を取り勢いを借りて軌道を反らす。

「な! ど、どうして!?」

 軌道を反らされた彼女は勢い余って俺から離れる形になった。

 一度ならず二度も避けられた事に驚く彼女に俺は油断なく様子を伺う。

「あなた何なの! ヒトミミのくせに二度も!」

「対ウマ娘護身術。名前くらいなら知ってるよな?」

 対ウマ娘護身術。並の人間が唯一ウマ娘に対抗するために編み出された護身術だ。

 ウマ娘が暴れれば人間は何かしら武器でもなければ対抗することは難しい。

 だが生身でもある程度対抗出来る術とし開発されたのが合気道を取り入れて相手の力を利用する護身術だ。

 マイナーな護身術な上にウマ娘の助けを借りて動体視力も鍛えてこそ身に着けられるものだけに修めてる人もそう多くない。

 しかし警察と自衛隊は必修科目。そしてトレセン学園のトレーナーも同じく必修科目となっている。

 トレセン学園のトレーナーが修めるのは自衛隊員相当のレベルのものとなる。理由は常にウマ娘と関わっていることがあった。

 過去に自暴自棄になったウマ娘が暴れた事件があった。止めに入ったトレーナー五人、全員が重症を負う結果となったのだ。

 それをきっかけにトレーナー必修科目に対ウマ娘護身術三段相当を修めることになっていた。

 三段は一対一でウマ娘と対峙して逃げ切れるもしくは救援が来るまで持ち堪えられる程度の力となる。

 またレース場での、テロ対策としてもトレーナーは対ウマ娘護身術は必須なのだ。

「たかがヒトミミの悪あがきで!」

 三度の攻撃。今度は加速してから右脚で飛び膝蹴りだ。

 だが直線的な動きなら躱すのは容易だった。

 サイドステップで小さく飛んで躱す。

「なんで当たらないのよ! ヒトミミが!」

 当たらない苛立ち。怒り任せに蹴りに拳と繰り出してくる。

 ウマ娘の攻撃を躱すのに無駄な動きは出来ない。

 軌道を見極め最小限の動きで躱し、軌道を反らす。

 風が空を切り、一撃一撃が人間には必殺の一撃。

 正直、肝が冷えるが恐怖心はなかった。

 なぜなら、それらは俺の知っているウマ娘の速度だからである。

 普段から間近でトレーニングの指導していれば追えない速度ではない。

 的確に捌き、一定の距離を保つ。

 トレーナーは自衛隊所属のウマ娘に指導を受けている。そして殺気の籠もった攻守も経験させてもらっていた。

 殺気が込められた一撃の速度は目で捉えるのは至難で、経験から来る先読みさえ必要になっていた。

 それだけに彼女の一撃は油断さえしなければどうにか対処出来るレベルだった。

 時間にしたら二分くらいだろうか。

 彼女の攻撃を躱し続けると。

「どうして、よ。どうして……」

 黒鹿毛のウマ娘はそういうとその場に崩れ落ちて泣き出してしまった。

 もう戦意を感じられない。

 俺は携帯端末出すとこの子のトレーナーを呼ぶ。

 理由はレースのことで俺に文句言ってきたが、正論を返すと泣き出してしまったと。

「あなたなんなの……。人の身で、あれを受ければ大怪我必至なのにさ……。しかも正論言われて泣くって……」

 もう苛立ちは感じられない。諦めているようにも感じる。

「こんな事しても解決しないのは本当はわかっているんだろ? そもそも攻撃に殺気が籠もってなかったしな。自棄で当たったら当たっで構わない程度。俺をビビらせることが出来ればよかったか?」

「だからなんなのよ……」

「まあ、なんだ。そんな自棄になる元気があるなら、その分、思いっきり走って走って走り抜け。君は自分に負けてしまってるんだよ。一回負けたくらいでなんだ。デビュー戦の一回だろ。次は勝てると自分を信じてやれ。強いやつがいるのは当たり前だ。それを打ち砕くためのトレーニングなんだ。悔しさはバネにもっと強くなってうちのエターナルガールを日本ダービーで倒しに来い」

 俺がそういうと彼女はポカンとした顔をしていた。

「なんなの。日本ダービーで倒しに来いとか。スポ根アニメの青春じゃない……。あーあ、あたし本当、何やってるんだろう」

 そういうと、また泣き出してしまう。

 だが今度は悲壮感はない。

 しばらく泣くと。起き上がってくる。

「噂は本当だったのね。ウマ娘のためのトレーナーって」

 そんなことを言うと彼女は空を見上げた。

 俺も見上げると満天の星空が広がる。

「トレーナーさんが、強い人で良かった。もしあなたに大怪我をさせてたら、わたし絶対に後悔してた」

 声はとても澄んでいた。さっきのように憎しみはもう籠もっていない。

「憑き物は払えたようで良かったよ」

「本当にごめんなさい。謝って済む問題じゃないとは思うけど謝らせてもらいたいの」

 一撃でも当たってたら洒落にならない大怪我をしてただろうし下手すれば殺されていた。

 それだけに謝って済む問題じゃないのは確かだが、出来るなら走ることに集中して欲しい。

「そう思うなら、トレセン学園のウマ娘として素敵な走りを見せてくれ。それが俺への償いだ」

「女ったらしって言われる噂も本当だったんだ」

 くすりと笑う彼女に俺は知らなかったかというのであった。

 少しして担当トレーナーが迎えに来ると迷惑を掛けたと彼女と頭を下げると彼女を連れて行った。

 後日、彼女の調子が戻ったらしく俺はようやく突き刺さる視線から開放されるのだった。




文字数1500文字程度の話にしようとしたら倍以上になってしまいました(汗)
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