原石達の軌跡・輝かぬ石など一つもない   作:kazuya2009

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※2022/06/13現在、第四話で登場するオリジナルウマ娘の名称について競走馬登録はございません。


第四話・スカウトされないウマ娘達に

 エターナルガールの仮トレーナーに俺が就任したことは、瞬く間に広がった。

 ウマ娘データベースでエターナルガールのトレーナー欄に俺の名前と仮の印が付けば当たり前だった。

 いろんな奴からメールが届いて、祝福してくれるトレーナーからお前じゃ無理だから今すぐ降りろ、仮トレーナーだから本トレーナーには自分を進めるようになどだ。祝福してくれる同僚トレーナーや先輩、後輩トレーナーは良いとして全くもって言いたいことを言ってくれる。

 

 夜、俺はトレーナー室で一先ずエターナルガールのデータを例のごとく登録する。

 彼女の仮トレーナーを承諾した後、参考のためにと芝千六百メートルと千八百メートルを走ってもらいタイム計測をした。

 タイムは千六百メートルは一分三十四秒一、千八百メートルは一分四十七秒二だった。

 少し休憩を挟んで二本走ってもらったが選抜レースの二千メートル含めてデビュー前でありながら三勝クラスに通用するタイムを叩き出していた。経験と気迫も関係するものの展開次第によっては現時点でGⅢまで通用してもいいレベルだ。

 鍛えたら一体どれ程の好タイムを出しまくるのだろうかとトレーナーなら期待するなと言う方が無理なほどの将来性である。

 ダートのカントリークライシス。芝のエターナルガールと俺のところにダート、芝のエース級が揃うことになりそうだ。

 

 そんなことを考えてるとドアがノックされる。開いてるから入ってくれと言うと、浅間がやや興奮した顔で俺に詰め寄って来た。

「やっぱお前はすげぇな!取られたのは悔しいけど、逆オファーだろ? 俺の目に狂いは無かったな! あ、これお祝いな」

 畳み掛けるように話すと、俺に缶ビールを一本手渡してくる。めっちゃキンキンに冷えて開ける前から美味そうだ。

「久しぶりに直談判されてな。さすがに断れなかったわ」

 ビール缶を開ける。浅間も同じく開けると、二人で軽く乾杯をして一気に半分ほど飲んだ。

 初夏の暑さに加えてひと仕事のあとのビールは身に染みる。

「ああ、生き返るわ。ありがとな」

「いいって。俺もたまにはお前と飲みたいと思ったしな」

 浅間は本当にいいやつだ。俺がスカウトされないウマ娘のスカウトを始めた時も、お前なりの考えがあるんだろ? 応援しているからなと言ってくれた。

「しっかし、来年のクラシック戦線は下手したらお前に全部持っていかれるかもな」

「王道路線はそうかもな。ただ菊花賞はどうか。ギリギリ適正外の距離になるんだ」

 現段階の適性だが、エターナルガールは二千六百~二千八百メートルまでは行けそうだ。有馬記念は行けるが、菊花賞、天皇賞・春となるとまだ厳しい。

 とはいえ、現段階の話だ。まだまだ伸びしろはある。

「彼女の資質ならたぶん長距離も大丈夫だろうよ。お前だって、今の段階はって思ってるじゃねえのか?」

「まあな。彼女の資質は近年稀にみる高さだ」

「とか言って、彼女の名前をマークしてなかったんだろう? どうせ、俺がスカウトするウマ娘じゃないとか言って」

 コツンとビール缶で頭を小突かれる。

「お前にはバレバレか」

「いつもの事だからな。まあ、なんだ。俺としてはお前が活躍するのも自分のウマ娘が活躍するのと同じくらい嬉しいってもんなんだ。頑張ってくれよ」

「お前は俺の父親か?」

「せめて親友と言ってくれよ、同期じゃねえか」

 そういうと俺たちは笑い合う。

 本当にありがたい。カントリークライシスの時も直談判で担当になった。

 エターナルガールはまだ仮トレーナーとしてだが、期待がまるで違う。カントリークライシスはダートの才能を見てダートに活路を見出し俺自身もダート王者をという思いがあった。

 カントリークライシスが劣るとかそういうのではない。だが、最初からクラシック戦線の候補の一人。まして最有力にすらなりそうなウマ娘からの逆オファーに少し気を負っていたんだなと俺自身気が付いた。

 それを証拠に浅間と話して肩の荷が少し降りた気がした。

 知らずに気を張っていたんだ。

「ありがとな。浅間」

「なんのことだか、俺は知らないけど何かつかめたならビールを奢った甲斐があったってやつだな」

 こうして惚ける浅間にありがたく思った。

「浅間」

「ん? なんだ」

「俺が女ならお前に惚れてるぞ」

 俺の言葉に浅間の鼻からビールが噴出したのには盛大に笑わせてもらった。

 

 翌日。選抜レースから一週間が経ったことになる。

 俺がマークしたウマ娘たちをチェックする。

 やはりと言うか。誰も仮トレーナーの登録すらなかった。

 ただ全体的に言えば変化があった。それは俺がエターナルガールの仮トレーナーになったことで二番手、三番手だった実力あるウマ娘たちのスカウトが一気に進んだのだ。それに加えて独自にチェックしていたウマ娘がいたトレーナーは踏ん切りがついたのか成績より将来性を見据えたスカウトも増えたようだ。

 五月末の選抜レースはダート四レース。芝八レース。登録数は各レース十六人。全部フルゲートだった。全レース含めて出走したウマ娘は全部で百九十二人。

 スカウトが決まったのは約六割だ。昨日まで二割だったのだからかなりの勢いである。

 さて、俺も動くことにしよう。

 マークした。五人のトレーニングメニューと改善点のポイントが入った封筒を持つと恒例のスカウトされないウマ娘巡りを開始するのだった。

 まずは今年のジュニア級A組か。

 時間的には授業の間の休憩時間に尋ねる。

 名前は―

「あ、君、このクラスにイーグルファングがいると思うが、呼んでくれないか?」

「え? あ、はい。ちょっと待っててくださいね」

 俺が呼び止めたウマ娘の子が教室の中を見回してイーグルファングを呼ぶ。

 呼ばれた子はトレーナーの俺がいるのを見て緊張しながら小走りに走ってきた。

「え、えっと、あたしがイーグルファングですけど……。あの何でしょうか?」

 来たのは小柄で青鹿毛のセミロングが印象な子だ。彼女が走った選抜レースは芝千八百メートル。タイムは一分五十四秒三で十着。ほかにも遅い子はいるが俺がこの子を選んだ理由の一つが走り方が体に合わないのと、もっと距離が長くなったほうが良さそうだと思ったことだ。

 俺の見立てが間違いなければ本格化はしたがこの子の成長は晩成型だ。シニアになってから伸びが期待出来ると考えられる。おそらくステイヤーとしてGⅡクラスまでは確実に行けるとみていた。

「俺はお節介なトレーナーでな。これは君のトレーニングメニューと改善点をまとめた資料だ。これを見て興味があったら俺のところに訪ねてきてくれ。興味がなくても次の選抜レースに出るなら良いアピールが出来る程度にはなるはずだ」

 俺がそう言って封筒を渡す。

「はぁ。えっと今見てもいいですか?」

「ああ」

 彼女が封筒を見てトレーニングメニューをさらっと見て、改善点のポイントを見る。そして静かに封筒にしまった。

「あの、ありがとうございます。改めてじっくり見たいと思います」

「ああ。それじゃあ」

 俺がそう言って去ろうとした時だった。

「あれ? トレーナーさんじゃありませんか? わたしのクラスに何か?」

 エターナルガールが声を掛けてきたのだ。ちょうど休憩中にクラスメイトと少し教室を離れていたらしい。

「え? エターナルちゃんが声かけたトレーナーさんって?」

 イーグルファングがまさかという顔で俺を見る。

「はい。彼です。ウマ娘のことしか考えない、ウマ娘のためのトレーナーさんですよ」

「ええ!?」

 これはこれは盛大に驚きを露わにしてくれた。

 まあ、俺はトレーナーとしては正直有名ではない。メディアへの露出もないしエターナルガールが俺を知っているウマ娘でない限りほとんど不審者トレーナーだ。

「まだ仮トレーナーだけどな」

「でもでも、エターナルちゃんから逆オファー受けたんですよね!? そ、そんな方からトレーニングメニュー頂いてたのに、そっけない態度でごめんなさい!」

 凄い勢いで頭を下げるイーグルファング。

 まあ、気持ちは分かるがそこまで恐縮されると体がかゆくなる。

「エターナルガールのことを抜きにすれば、ただの不審者トレーナーだ。気にしないでくれ。君の対応が普通だ」

「ううううぅ」

 自分が取った態度が恥ずかしいのか顔を赤くして唸っていた。

「あまり彼女からの逆オファーとかは考えずに自分の事だけに集中してくれ。変な色眼鏡で判断は誤らないようにな?」

 俺はそういうと今度こそ教室を後にした。

 後ろから元気よく、ありがとうございました!と言われて手を挙げて応えてやるのだった。

 

 その後、残り四人にも同じく資料を届けに行ったが対応としてはエターナルガールの事を知らなかったイーグルファングと同じだった。

 本当はこの方がいい。

 期待をしてない。冷やかしに来たんだ。どうせ売れ残ると思って見くびっている。こうした、あまり良い雰囲気ではないのが普通である。

 機会は与えた。例え今、見なくともスカウトされずにいれば必ず見てくれるはずだ。そうでなくても本当にスカウトされないでいれば、彼女らが去る前に声を再度掛けさせてもらうつもりだ。

 色眼鏡で見られない方が、トレーニングメニューと改善点が頼りになる。ある意味で真剣に見て貰えるはずなのだ。その結果自分でトレーニングして次の選抜レースで担当が決まればいい。

 ただ今年はエターナルガールが俺に直談判して入った事で変わるのだが、この時はまだ俺もその変化に気がついてはいなかった。

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