原石達の軌跡・輝かぬ石など一つもない   作:kazuya2009

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第五話・新たなウマ娘達と未来への希望

 気に掛けていた五人に資料を渡した日の放課後。

 授業が終わったウマ娘たちが自主練したり、トレーナーやチームの下でトレーニングを開始する。

 うちのウマ娘たちも当然のごとくトレーニングするためにトレーニング場に集まった。いつもの三人に加えてエターナルガール。そしてお客さんが一人。

「トレーナー、もしかして声かけるウマ娘に自分の趣味入ってない?」

 そう尋ねるのはカントリークライシスだ。

 お客さん、つまり今日声を掛けてたイーグルファングを見て言うのだ。

「わたしと同じでちょっと背が低いよね? それに……」

 ブラッドスプラッシュは自分の胸とイーグルファングの胸を見ると、胸を隠すようなしぐさをしながら俺をジト目で見てきた。

 意図しているわけではないが確かにブラッドスプラッシュとイーグルファングは似ている。髪の色はともかく同じセミロングで背が小さく、そして胸がそれなりに大きい。

「トレーナーさん、ロリコンって言葉知ってるかしら?」

 ジェネラルブレインは何故か頭に井桁を作って俺を睨んできた。

 ちなみにダシにされているイーグルファングは困ったように笑い、やっぱり心なしか胸を隠すように両手で胸を覆う。隣りにいるエターナルガールは頭痛を耐えるように米神を押さえていた。

「待て! 偶然だ! 俺が声を掛ける子の基準はそんな不純な動機じゃないぞ!」

「どうだか? あ!もしかして、あたし達に優しくして、いつか隙をついてあんなことやこんな事をしようと思ってるんじゃ?」

「そ、そんな、わたしトレーナさんに押し倒されちゃうの!?」

「不潔だわ」

 三者三様に俺を追い詰めるウマ娘たち。

「そんなことしたら俺はトレーナー首だぞ!?」

 俺の必死な主張に、こらえきれなかったのか悪戯が成功したかのように三人は笑い出した。

 やられた。完全にいいように遊ばれた。

「お前らふざけてるとトレーニングつけてやらんぞ!」

「そーんなこと言ってもトレーナーは優しいから、トレーニングを付けてくれるのを知ってるんだな。あたし達は」

「あー、もう参りました。俺の負けです。で、なんだ?お前ら三人そろって嫉妬か?」

 エターナルガールに続いて更に一人追加で来たのが面白くないのだろうか?

「ちょっとだけそう思ってるわね。だってまたライバル増えちゃうじゃない」

「ねえ、トレーナーさん、あたし達だけじゃ不満?」

 目を潤ませてそんな事を聞いてくるなブラッドスプラッシュよ。

「あ、あの、あたし邪魔でしょうか?」

 せっかく体験トレーニングを受けに来たイーグルファングがおどおどしながら言う。

 こんな反応見たらそう言いたくもなるな。

「安心してくれ。こう見えて三人なりに歓迎はしてるみたいだ」

 そういうと頷く三人。

 だったら素直に歓迎しろ!と俺は心の中で突っ込んだ。

「さてリーク、ジェネス、ブラスの三人は昨日の続きで重りを付けた状態でのトレーニングを続けてくれ。リーク、昨日みたいな無茶は絶対にするな?」 

 カントリークライシスは罰が悪そうな顔をする。

「トレーナーを心配させるようなことは、もうしないよ」

 昨日のが効いているようだ。

「ならいい。昨日の疲れもあるだろうからタイムは二分五秒台に抑えろ。代わりに今日はラップ走法だ」

「わかったよ」

 次にジェネラルブレインとブラッドスプラッシュを見る。

「ジェネス、ブラスは昨日の感覚を掴んだなら重りを付けた状態で二人で並走だ。特にコーナーでの競り合いを意識しろ。コーナーリングでスピード落とさずにいるにはパワーが大事だからな」

 二人は分かりましたと返事をしてくれる。

「タイム計測の方は三人で交代しながらやってくれ。悪いな」

 三人からは良い返事が返ってくる。

 あの三人なら俺の指示だけでトレーニングは可能だ。

 特にカントリークライシスが、かなり面倒見がいいおかげで、残りの二人も協力してトレーニングをする事が板について来ている。

 三人にストップウォッチを一つ渡すと、早速トレーニングを開始する三人娘。

 彼女達の後ろ姿を見送ると、残った二人に向き直る。

「エターナルガール。君にはまずリークにも指示したラップ走法を覚えて貰う」

 今回初のトレーニングになるエターナルガールへはラップ走法の指示だ。これはうちのウマ娘なら全員体内時計を作るために行っている。

「ラップ走法ですね。話には聞いたことがありましたが、初めてです」

 ラップ走法自体はペース維持にも使われるが、そもそも習得には集中力が必要だ。

「まずは簡単に一ハロン十二秒で千メートル走れるようしよう。一ハロン十二秒で走れれば芝二千メートルで二分ジャストだ。この訓練は君の中に時計を作ることにある」

「時計をですか?」

 普通に考えればペース維持を考えると思われるが体内に正確な時計を作り上げる事で正確なペース判断が可能になり結果、普通に走っても設定タイムで走り切れるようになる。

「そうだ。いかなる展開、ペースでも自分の中に時計があれば動揺は少なくなる。また同じペースが維持できればスタミナのロスも少なくなる。出走メンバーのベストタイムが自分より遅いなら全力の七から八割で十分勝てるようになるだろう。君はクラシック三冠を狙うのだろう?」

 俺の質問に頷くエターナルガール。

「であれば、全力で走るのはホープフルステークス、皐月賞、日本ダービー、菊花賞の四レースだ。それ以外は八割程度の力で勝てるようにすることで体への負担も減らせる。クラシック戦線は正直心身ともに消耗が激しいんだ。クラシック級でのGⅡ以下は二着か三着をキープできればいい。実際、日本ダービーを勝ってから全く勝てなくなったウマ娘もいるくらいだ。無敗の三冠ウマ娘のシンボリルドルフ理事や無敗で日本ダービーを制覇し菊花賞も二着というミホノブルボン教導官のように無敗を目指すなら話は別だが」

 今や伝説として語り継がれるシンボリルドルフは現学園長の後継者である。今は理事の一人として全ウマ娘のためにと生徒会長だった時以上に様々な事をしている。ミホノブルボンは機械のように正確な感覚がウマ娘を指導する教官が身に付けるべき感覚に近く、教官を指導する立場である教導官となった。教導補佐官にライスシャワーがいる。

 近年海外への遠征も増えている中で教官の質のさらなる底上げは急務になっている。彼女らもその一人として抜擢された。もちろん教導官には他にも名だたるウマ娘たちが名を連ねている。

「いえ、クラシック三冠が狙えるなら十分過ぎます。わたしがトレーナーさんに三冠をプレゼントしてさしあげましょうか?」

 挑戦的な目で俺を見てくる。

「おいおい、まだ仮トレーナーになったばかりだからな? 俺の下を離れても三冠が取れる地力だけはつけさせてやるさ」

 自分のようなウマ娘を誰かの下にやる事へ何も躊躇いがない発言に驚きを隠せないという表情をするエターナルガール。

「欲もないと伺いましたが、まさかこれ程までに欲がないなんて」

「言っただろ、俺には三冠なんて興味がないと。俺が興味あるのは君が叶えたい夢を応援するだけだ」

 エターナルガールにそう言うと頭をなでる。

 普通のウマ娘だと初日になでられたら怒るものだが、エターナルガールは大人しく俺に撫でられていた。

「次にイーグルファング」

 エターナルガールの頭から手を放してイーグルファングを見る。

「は、はい!」

 緊張しているのか少し声が裏がっていた。全く可愛いウマ娘だなこの子も……。決して趣味で声を掛けたわけではないぞ? 

「声が裏返っているぞ?」

「あううう」

 俺に指摘されて耳がふにゃりと垂れるイーグルファング。

「まあいい。で、だ。君は、まず中距離以上を想定した走り方を覚えよう。データを確認したが今までマイルを走っていたようだな。俺の見立てだと資料に書いた通り中距離以上が向く」

「あたしも資料を読んで驚きました。ずっとマイルから二千二百メートルくらいだと思ってたので」

 彼女の適性距離はデータ上だと千六百メートルから二千二百メートル。だがそれは彼女と教官の思い込みだ。どっちが先にそう思ったのかは分からないが。

 もっとも鍛えれば、マイルで走れなくもない。この時期の千八百メートルで一分五十四秒台はデビュー前、かつトレーナーが付く前なら少し遅い程度の認識だからだ。

「君が本領を発揮するなら恐らく二千二百メートル以上だと思った方がいい。今後は二千メートル以上のみを走るようにして中距離以上の距離の感覚に慣れるのが先だな。中距離レースはジュニア級では少ない。ダービーの勝ち負けに絡むには成長が間に合わないかも知れないが、菊花賞はエターナルガールと競えるかもしれないぞ?」

 菊花賞という言葉を聞いてイーグルファングは驚いて思わずエターナルガールを見る。

「クラスメイトとクラシック最後のレースを競えるなんて面白そうですね」

 エターナルガールは本当に楽しみだというようにイーグルファングを見ていった。

「あ、あの本当にあたしが菊花賞を狙えるんでしょうか?」

 少し及び腰だが、彼女の瞳からはわずかに燃えるものが垣間見る。これだ。俺はこういう下剋上的な野心が好きなんだ。

「もちろんだ。だから俺は君に声を掛けた。正直、あのままマイル、中距離前半で走っていたら宝の持ち腐れだ。君の場合、長距離路線でこそ十分戦える資質がある。ただ長距離路線はしっかり体を作らないと走れない。そういう意味だと君のピークはシニア級になってからだ。成長次第ではシニア級春秋三冠で勝ち負けに絡むいいレースが出来るはずだ」

 シニア級春秋三冠という言葉にイーグルファングの瞳に完全な炎が宿るのを感じた。まだ小さい炎だがこれは大化けするかも知れない。

「なるほど、ウマ娘のためのトレーナーという言葉の意味がここにあるわけですわね」

 エターナルガールが感心した様に言う。

「あたしも分かりました。トレーナーさん凄いです! 今の話を聞いただけであたし凄く希望が持てるようになりました!」

 イーグルファングが興奮するように言う。

 だが二人はまだ勘違いをしているな。

「やる気を出させるのはトレーナー共通のテクニックだ。俺でなくても君たちをその気にさせる事は十分できただろうさ。俺の場合は君たちの、特にイーグルファング、君のような方向性を誤らなければ大化けする可能性を秘めたウマ娘の手助けをしてるだけに過ぎないんだよ」

 イーグルファングが感動した様に俺を見つめる。

 彼女の瞳には羨望のまなざしが込められてた。

「これを手助けの一言で済ますからこそですね。ウマ娘の事しか考えていないという所以も」

 エターナルガールも興奮した様に言う。聞いた話が本当だったこと、そして彼女の瞳からはそれ以上に期待以上のものを見つけた目をしていた。

「やめろ、やめろ。照れるだろう。俺をおだててもトレーニングメニューしか出ないぞ?」

 そう言うと、二人はくすくすと笑いながら言うのだった。

 トレーニングメニューは大歓迎ですと。

 

  




2022/6/14 誤字報告適用
ご報告下さった方、ありがとうございます!
2023/7/2 一部表現変更
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