原石達の軌跡・輝かぬ石など一つもない 作:kazuya2009
宝塚記念はジェネラルブレインとマックスサポートの二人がレコード更新の同着優勝とドラマチックに幕を閉じた。
また宝塚記念史上初のダブルセンターということでウィニングライブも特別なものとなり、まさかのアンコールで二曲も歌うという事になる。記録にも記憶にも残る宝塚記念になったのであった。
宝塚記念の翌日。
トレーナー室にはウマ娘が十人程集まっていた。そこには以前、俺が資料を作って渡したイーグルファング以外のウマ娘も全員いたのだ。
「それで君たちは俺とトレーナー契約を交わしたいと言うわけか」
集まったウマ娘たちは元気の良い返事をしてくる。しかも彼女たちの瞳には羨望の眼差しはもちろんのこと瞳の奥に炎を宿している。
やってやる!わたし達だって頂点を目指すんだ!という気概が感じられた。
参ったな。いつもならこちらから声をかけた上で自信を付けさせて相性のいいトレーナーのところに行かせたいところだが。
ジェネラルブレインは俺が仮トレーナーとして声掛けて彼女の希望で残った。成績は掲示板の常連。地力があるから勝てても不思議はない。
しかし、今回はエターナルガールというクラシック戦線最有力と言われるウマ娘が直談判して、その噂が広がった。更に彼女が選んだトレーナーである俺の担当ウマ娘が、宝塚記念をレコードタイムで同着優勝というドラマを演出して俺への期待が異常に高まってしまった。
幸い来た子達の中には俺が面倒見ようかと考えていた子達もいて、十分に鍛え甲斐はある。彼女らの潜在能力を発揮させるのは俺としても本望だ。しかしだ。あくまで主体は彼女らであって俺への異常な期待は返って危険だ。
仕方ない。釘は打って仮トレーナー契約だけは結ぼう。
「一先ず、君たちとは仮トレーナー契約を結んでトレーニングを付けることはしよう。だが力を付けるのは君たちであって俺はそれを手助けするに過ぎないんだ。そこだけは勘違いしないでほしい。俺がトレーニングを付けるから強くなるんじゃない。君たちに力があるから強くなる。そのことを夢々忘れないでほしい」
俺の言葉に集まったウマ娘が呆けた顔で俺を見る。恐らく俺が君たちをクラシックに導く!など希望ある言葉が出てくると思ったのだろう。
あるウマ娘が声を上げた。
「あの私でもクラシックには出られますか? GⅠウマ娘になれますか? ううん! わたしはなりたいんです!」
彼女が熱意を持った思いで問いてくる。
まるで皆を代表したかのような言葉に回答を得んと視線が俺に集まった。
「君たちのデータは以前に簡単だが分析させてもらった。その結論から言えば可能性はゼロではないが簡単ではないぞ? 同期にエターナルガールもいるくらいだ。もちろん君たちの潜在能力は引き出せる自信はあるが、勝負は時の運だ。大事なのは今の気持ちを決して忘れないことだな。絶対に勝つ。その心が最後は勝利に繋がるさ。ジェネスのレースを見たならそれが分かるだろう」
回答を聞いたウマ娘達から、わずかな動揺を感じる。絶対とは言ってもらえなかった事への不安だろう。
「まあ、俺が言いたいのは、俺が君たちに出来ることは君たちの夢の手伝いなんだ。ちなみに言えば、今ここにいる君達全員、適性あるレースを適した時期でならGⅡの勝ち負けに絡めるだけの実力が眠ってると考えてる。それ以上は君たちの頑張り次第だ。俺のところでトレーニングの基本と目指すべき適性レースの指南をする。それでいいならトコトン鍛えてやるさ。それでいいか?」
全員がはい!と返事を返してくる。
一先ずはトレーニングを付けて各自の自信を付けさせよう。あとは頃合いを見計らって残るか相性の良さそうなトレーナーを紹介すればいい。浅間に手伝って貰えばより多くのトレーナー達に彼女らを託せるだろうからな。
何とか落ち着いたところで、トレーナー室にカントリークライシスが入ってくる。
「いや、今年の新人たちはみんな気合い入ってるねー」
「あ! カントリークライシス先輩!」
一人のウマ娘が彼女の姿を見て目をかがやかす。
「あの、わたし! 適性ダートで、先輩と適性距離が同じなんです! トレーナーのトレーニングを積んだら、わたしも先輩みたいになれますか!」
確かに今の子はダート適性でカントリークライシスと距離適性が同じだったな。カントリークライシスは性格は大雑把なところがあるが努力家だ。だとすれば彼女の答えは。
「ガンガン鍛えてもらいな。あたしみたいになれるかは別だけど、あんたにはあんたのオンリーワンな走りが見えるはずだよ。な、トレーナー?」
カントリークライシスが軽くウィンクをしてくる。つまり希望を持たせろというわけか。言ってることに間違いはない。彼女の言うとおりでもあるから俺も反論する理由もないな。
「リークの言うとおりだ。誰かを目指すのはいいが最後は君たち自身、オンリーワンの走りでレースを勝ち取ることになる。他の誰になるんじゃない。君たちこそが主役なんだ」
「あ! はい! ありがとうございます! わたし頑張ります!」
「あたしも!」
「わたしも頑張ります!」
カントリークライシスも本当に姉御肌で面倒見がいいな。さすが俺のところに直談判するだけの事はある子だ。
全く、良く出来たウマ娘だよ。カントリークライシスは。
その後、新たに仮トレーナーとして担当する事になったウマ娘の子達を加えてトレーニングをするのだが、思った以上に皆真剣でこれはトレーニングのし甲斐があるなと思うのだった。
新たなウマ娘達を迎える中、砂のグランプリレース帝王賞の日を迎えた。
この日は朝から雨が続いていたが夕方前には止んではいた。大井レース場のバ場状は重バ場からのスタートになる。
大井のレースはナイターレース。発走時間も帝王賞は二十時五分と遅めだが、平日開催というのもあり仕事帰りの人たちの熱気も合わさって中央では味わえない魅力があるのだ。
新たなウマ娘達を含めて十数人でやって来た大井レース場。若い子たちは皆、ナイターレースに興奮していた。
「まさか、こんな大所帯で来ることになるとは思わなかったが、応援は賑やかになっていいな」
隣を歩くカントリークライシスに話しかけると、彼女も笑顔で返してくる。
「ホント、今年はエターナルガールの事があったせいで来た子達も気合入ってるし、あたしも皆に先輩としての走りの見せ甲斐があるよ」
彼女の仕上がりは最高の状態に仕上がっていた。
ジェネラルブレインの宝塚記念制覇も相まって、カントリークライシスの気力、気迫も十分。前年覇者のヴィクトリーメイカーを倒しに行くにもこれ以上ないくらいの状態である。
ヴィクトリーメイカー。カントリークライシスと並んでダートの強者だ。
前年の帝王賞、南部杯、ジャパンカップダートを制している。カントリークライシスが取れなかった三つのレースの勝者でもあり実質、カントリークライシスのライバルだ。
ダートハンターのカントリークライシス。対して彼女はサンドブレイカーの異名を持つ。彼女の怪力で巻き上がる砂に後ろを走るウマ娘たちがまともに走れず避けなけなければならないくらいだ。まあ、巻き上げる砂が凄いのはカントリークライシスも変わらないが。
「まさか、先輩の帝王賞を同じチームメイトとして見れるなんて思いもしませんでした」
そういうのはカントリークライシスの斜め後ろを歩く、カントリークライシスと同じようなウマ娘になりたいと言った子だ。
名前はサンドネイチャー。適性はカントリークライシスと被るが、正直に言えばカントリークライシス程の資質はない。だが、彼女のカントリークライシスに憧れる想いと努力次第でカントリークライシスと同じように活躍することは不可能ではないと感じていた。
「サンド、あたしの走りをしっかり見てな。あたしがダートだって捨てたもんじゃないところを見せてやるよ」
彼女の存在はカントリークライシスにも刺激になっているようだ。
「リークには、いい妹分だな」
「同じチームに、あたしを慕ってくれる子がいるというのは気分がやっぱり違うね。あ、でもトレーナー争奪戦は容赦しないから」
「えっと、あははは」
サンドネイチャーは俺のを顔を見て苦笑いをするのであった。
俺の取り合いは今の三人で十分だ。これ以上、頭痛のタネは作りたくない。
「それにしても、ホントに今年は気合い入った子たちが多いわね」
ジェネラルブレインが俺の隣に来ると改めてというように話しかけてくる。
「ああ。エターナルガールの事、ジェネスの宝塚記念も大きく影響しているな。例年以上に俺も気合い入れないと彼女らが納得いくトレーニングは付けてやれなさそうだ」
「そんなこと言って、いつも手は抜いてないから。トレーナーは」
カントリークライシスが半分呆れたように言う。
まあ手を抜かない、抜くつもりもないし、手を抜くなんて失礼な事は出来ない。
「まあ、トレーニングの事は今日はなしだ。リークの応援に集中しよう」
俺がそういうと皆が元気に返事をするのであった。
ファンファーレが鳴り響き、帝王賞のゲート入りが行われる。
≪ファンファーレの演奏が終わり、各ウマ娘がゲートに入って行きます。上半期のダート頂上決戦、帝王賞。連覇を狙うヴィクトリーメイカーか、それともカントリークライシスがリベンジを果たすのか≫
全てのウマ娘がゲートに入り、スタートの瞬間を待つ。
ゲートが開て、各ウマ娘が一斉に飛び出していった。
≪さあ、帝王賞スタートしました! 前を狙うのはやはりこの二人か! 内のヴィクトリーメイカーと外から付いていくカントリークライシスだ!≫
正面直線をカントリークライシスとヴィクトリーメイカーが競うようにレースを引っ張っていく。
「さすがね、二人とも気迫は他のウマ娘たちと違うわ」
ジェネラルブレインがカントリークライシスとヴィクトリーメイカーの先行争いを見て感心した様に言う。
確かに二人の気迫は頭一つ抜きん出ている。
≪二人が後続をグングンと離して、その差は第一コーナーを前にすでに六バ身差だ!≫
後続を全く気にせず飛ばす二人。第一コーナーを曲がると最初の三ハロンのタイムが出る。三十五秒三だ。やはりハイペースだ。後続をもう十バ身近く離してもはや前半からマッチレース状態だ。
そして展開は昨年と同じ―
≪昨年同様、後続置き去りのマッチレースとなっている帝王賞! このハイペースに後続は最後届くのか! 内ヴィクトリーメイカーが走り、ぴったりとマークする形で並走するカントリークライシス! 今、二人が千メートルを通過! 五十九秒七だ!ハイペースでレースが展開して後続は依然、十バ身差あります!≫
早いな。このペースで推移するとなると最後の直線はどちらが脚を残せるか、また粘り切れるか、か。
≪ここで、後続もペースを上げてきた! マッチレースにさせないという気迫が伝わってくる! しかし先頭二人は第三コーナーの手前まで来ているぞ!≫
さすがにこのままでは届かないと思ったのか後続がペースを上げてきたが、マッチレース状態を崩すには厳しい距離だ。
二人が今、千六百メートルを通過する。つまり最終コーナー終盤だ。タイムは一分三十六秒六。最後の直線のためにペースを落としたか。となると。
≪最終コーナーを曲がって、ヴィクトリーメイカーとカントリークライシスがスパートを仕掛けた!≫
ほぼ互角!外を走っていた分ヴィクトリーメイカーの方が距離的に有利だが、カントリークライシスの気迫はそんなわずかな有利なんて関係ない。
「カントリークライシス先輩! いっけぇぇぇぇ!」
サンドネイチャーが大きな声でカントリークライシスに声援を送る。
もちろんジェネラルブレイン含め他のウマ娘達も声援を送っているが、サンドネイチャーの声援が届いたのか、ちらりとカントリークライシスがこちらを見る。
≪カントリークライシスがヴィクトリーメイカーをかわした! 昨年の雪辱を晴らすかカントリークライシス!≫
気迫が凄い。カントリークライシスもきついだろうに声援が後押ししたのか、ヴィクトリーメイカーを半バ身抜け出した。
残り二百メートル。勝負はついたか!
≪後続も直線に入っているがもうカントリークライシスで決まりだ! カントリークライシスが昨年覇者ヴィクトリーメイカーを打ち破って、今、ゴールイン! カントリークライシスリベンジを果たしたぞ!≫
ゴール版を駆け抜ける時、カントリークライシスの顔には後輩に勝利を見せる誇りが見えた。誰かのために走る。その姿は以前以上に力強く、また惚れ惚れする姿だった。
タイムは二分一秒九。上がり三ハロンは三十七秒九。上がり三ハロンは平均的だが、あのハイペースを考えると後ろはお手上げだ。
「勝ちました! 先輩が勝ちました!」
サンドネイチャーが嬉しそうに飛び跳ねている。本人以上に喜んでいるんじゃないだろうか?
「やっぱり見事ね。リークは。わたしは芝だけどまだまだ負けてられないわ」
カントリークライシスの姿に刺激を受けたのか。まだ宝塚記念を終えたばかりだというのに既に次への闘志が燃えているのが分かる。
頼もしいうちのエース二人だ。
「トレーナー! きっちりリベンジ成功!」
カントリークライシスが息を整えながら俺たちのところに来る。
その顔は先輩としての威厳が放たれている。負けれられない戦いだったが、後輩に勝つところを見せるためにより負けられない戦いになったようだ。
「ああ。これで二大グランプリ制覇だ。おめでとう、リーク」
「ありがとう、トレーナー。みんなも応援ありがとうな! 特にサンドの声、力が出たよ!」
サンドネイチャーに拳を突き出して言うカントリークライシス。
「ホントに勝って欲しくて、思いっきり叫んじゃいました」
照れくさそうに言うサンドネイチャー。だが、その甲斐あってカントリークライシスは着差以上に強いレースを見せたのだ。
思わぬ形で増えた新メンバー達だったが、彼女たちのおかけで先輩三人はこれからまだまだ力を付けそうだと思うのだった。
一部表現修正。