シン・メフィラスの食卓   作:George Gregory

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噴煙突破せよⅠ

 事後処理(アフターケア)というものは実に難しく、そして評価され難いものである。

 

 何せ顧客からすれば一刻も早い被害の復旧あるいは補填が最優先事項であり、そういった結果さえ齎してくれるのであればその過程や手段の合法・非合法すら不問ないし正当化されたり、時には()()()()()()()()()()()()()()()()()()事例(ケース)も、決して少なくないのである。無論、迅速にして万全であることが最上であり、業者は常に迅速と万全とを天秤にかけ、その都度に応じて絶妙な匙加減を探るのだ。十中八九徒労に終わると承知の上で、想定しうる問題全てへの対応策を可能な限り揃え、更にその上で臨機応変までもが求められ、だのにそれら尽力の結晶を顧客は当然のように享受するのである。

 

(尤も、契約を交わし相応の対価を報酬として頂いている以上、それが当然ではあるのですが)

 

 その名を『溶解禍威獣 カイゲル』とされた敵性巨大生物第5号の齎した被害は甚大であった。

 

 全長20m。体重20000t。固い地盤を容易に掘り進めるドリル状の刃が多量についた栄螺(サザエ)のような貝殻を背負い、蝸牛(カタツムリ)のような軟体。両目から放つ溶解液によって主要なライフラインの通った目抜き通りの大部分が陥没・崩落。都市機能を完全に麻痺させた。

 

 だが、私が想定していた被害は更に甚大であったので、自衛隊なるこの国の軍隊の実力、そして禍特対とやらの手腕がどうやら確かなものであると解ったし、被害現場に残留した有害物質の除去から復興作業の開始までの期間も極めて短かったのも良い意味での誤算であった、のだが。

 

「……何と、手際の良い」

 

 71時間48分37秒。何を表す数字かと言えば他でもなく、日本政府により手配された数々の業者が着工してから都市機能の回復までに要した時間である。連日夜を徹しているとはいえ、これは私の想定していた工期の半分を優に下回る驚異的速度であり、ライフラインの復旧に限れば僅か24時間弱の時点で完了していたのだから、これには私も脱帽やら何やらを通り越して一抹の畏怖すら覚えたほどである。

 

 決して文明基準の高くない環境にありながら、しかしその技術力と作業効率を維持し続ける精神性には確かに目を見張るものが、地球の現生人類(Homo sapiens)にはあるようだ。一体その動力源は何なのだろうか、と作業に従事していた者たちをつぶさに観察していると、概ね全ての個体に共通した行動が見受けられた為、その効力を身をもって確かめるべく、私は今、夜の街並みを歩いている。

 

 時刻は間もなく午後の9時といった頃合い。僅か4日前の災害などとうに忘れたかのように忙しなく行き交う人影の合間を縫って向かう先は、区画全体を巨大な屋根(アーケード)に覆われた、年季の入った商店街。煤けた街灯が照らす通路は車両が余裕をもって擦れ違える程度には幅広く、弧状をした半透明の天井からは建ち並ぶ店舗の案内板に混じって、近日開催されるらしい祭事(イベント)の広告が幾つも吊り下げられ、夜半の涼風に静かに揺らめいている。

 

 急ぎ足で家路を行く者。与太話に花を咲かせる者。赤ら顔の千鳥足で鼻歌なぞを歌っている者。千差万別の様相を見送りながら歩を進める内に、目的の店舗へと至る路地への入り口をようやく見つけた。一際暗いその路地へと踏み込んだ途端、先刻までの喧騒が引き波のように遠のいて、明確に何某かの境界線を踏み越えたような錯覚を感じさせる。

 

 目的地は直ぐそこだ。それが証拠に、ほんの微かに香りがし出した。煙るような香ばしい、肉の焼ける香り。それを頼りに奥へと進み行けば、煌々と灯る幾つもの真っ赤な、あれは確か提灯(ちょうちん)と呼ばれる照明器具であったか、それを軒先に吊るした、いかにも使い古された木製の引き戸が視界に映った。その真上に吊るされている、長きに渡って煤や油交じりの煙に晒され続けて()()()()()()()()()、しかし何故だか()()()()()()()()()()と感じさせる暖簾には、放胆で力強い筆文字でこう書かれている。

 

「炭火焼鳥」

 

 よくよく見れば軒先の提灯にも同じ字体で何やら色々と書かれていた。砂肝、レバー、せせり、はつ、つくね、等々。この店の名物、あるいは自慢の一品、といったところだろうか。留意しておこうと決め、ゆっくりと引き戸を開ける。

 

「いらっしゃいませぇッ。ご予約の方ですか?」

「はい。21時から、1人で」

「あぁ、メフィラス様ですね。本日はご来店、誠にありがとうございます。こちらのカウンター席へどうぞ」

 

 愛想の良い女性店員の案内に従い、指定の席に腰を下ろしながら店内を観察する。少々手狭ながらもどこか懐古心を掻き立てられるような奇妙な感覚のする店内に、ほぼ満席と言って良い程の客入りである。その大半は私と同じようなスーツ姿であり、恐らく終業後の給与所得者(サラリーマン)なのだろうと推測する。特に座敷席の一角で纏まっている大人数の団体は、飛び交う言葉の親し気な雰囲気から、内輪の集団であるように窺えた。

 

 店舗の従業員は全員、毛髪混入の防止の為だろう頭に被っている頭巾(キャップ)を含めた全身を黒で統一しており、襟や袖口が広く余裕のある独特の意匠をした上着、確か法被(はっぴ)と呼ばれるこの国独特のものであったか、その胸元には提灯や暖簾と同じ字体で店舗の名前が記されていた。この店の制服、という訳か。食事を提供する店舗として付着しやすい汚れや染みが目立ちにくい、という観点からも非常に合理的な選択だ。大変に好ましい。

 

「ご予約内容は、こちらの『おまかせ満足』コースに飲み放題付き、でお間違いなかったですか?」

「はい、お願いします」

「では、最初の1杯目はどうなさいますか?」

 

 卓上のメニュー表を指し示しながらの確認に首肯し、そのまま飲料の欄へとページを捲る。見開き2枚を全て使って書き込まれたその様は実に懊悩させられるが、こと最初の1杯に限っては、習慣や慣例のようなものがあるとのことなので、一先ずはそれに倣うこととする。真っ直ぐに店員へと視線を向け告げるのは、ここ数日観察していた個体、その殆どが必ずと言っていい程口にしていた常套句らしきもの。

 

「とりあえず、生、1つ」

 




 お久し振りです。先月18日、とうとうAmazonPrimeにて『シン・ウルトラマン』が配信されましたね。当日以降、じわりじわりと本作の視聴数が伸びていて、皆やっぱり山本メフィラス大好きなんじゃな、となったものです。

 さて、今回は焼き鳥を肴に飲酒回です。相変わらず実生活に無理のない程度、そして精神がメフィラスに侵食されない程度に気を付けながら不定期更新していきますので、宜しくお願いします。


(できる限り)近い内にまたお会いしましょう。ではでは。
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