シン・メフィラスの食卓   作:George Gregory

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空の贈り物Ⅰ

 身も蓋もない言い方をしてしまえば、一種の自作自演(マッチポンプ)である。

 

 困窮状態に陥った、あるいは()()()()下位種族に対して『損失を補って余りある利益』を、即ち搾取するのみでなく、我々(わたし)の庇護下に入ることにより得られる他の外星人勢力に対する示威効果や先進的な技術・知識の提供等の恩恵を示した上で、()()()()()()()()()()を促す。そうして初めて私の考える『支配』は成立するのだ。

 

 故に、本計画において地球人(かれら)が星間戦争用巨大生物兵器、日本政府による暫定呼称『禍威獣第1号 ゴメス』を一国家の戦力のみで討伐したことを知った時はそれはそれは驚いたし、続く『第2号 マンモスフラワー』及び『第3号 ぺギラ』も見事に撃破してみせたのには素直に敬服の念すら覚え、多大なる興味を惹かれた私はこうして直に現地へと足を運ぶことを決めたのである。

 

 そして調べていく内に、彼らの適応力や逞しさに更に驚かされた。この日本という国は地震動(じしん)大型低気圧(たいふう)に頻繁に見舞われるのみならず、四方を海洋に包囲されていることから大規模な水害の頻度も決して低くはない。それが故か、災害に対する為政者の対応も極めて迅速かつ的確であり、国民の泰然自若(へいわボケ)振りなぞは()()()()の領域にすら至っているときた。中には何も知らずに全てが終わった後で得意げに『次善策(ああしていれば)』などを宣う個体まで()()()()()いる始末。政の苦悩はどこであろうと不変のようである。

 

 さて。()()()()で4手。私が観測している限りで近々動き出すであろう駒が1つと、手持ちが3つ。盤面は整いつつあるが、しかし。

 

「画竜点睛を欠く。苦手な言葉ですね」

 

 ()()()()()()()。図式は出来上がっているだけにもどかしいが、現時点における自助努力の範囲内で打てる手は既に全て打っているので、こればかりは待ちの一手である。

 

「未だ時期尚早、ということなのでしょう」

 

 直感とは、その者の蓄積された知識と経験に基づいた最も簡略的で優秀な生体演算である。それがまだ「待て」と言うのであれば、大人しく待つこととしよう。

 

「幸い、この惑星(ほし)は時間を潰すネタには事欠かない」

 

 間もなく開店時間(午前11時)。昼時に浮足立つ雑踏の中をすり抜けながら、本日の目的地を目指す。

 

 この日本と言う国は『食』という文化にかなり重きを置いており、一度(ひとたび)町へくり出せば、実際に現地へ向かわずともありとあらゆる地域や文化の食事を口にすることが出来る。そのような飽食の国にあって尚、日本人(かれら)が『なくてはならない』『切っても切れない』とまで言ってのける食材が存在する。それは。

 

「米」

 

 稲という植物の果実である籾から外皮を取り去った粒状の穀物。日本では主に適量の水分を含ませつつ煮て食しており、これを『炊く』というのだそうだ。数千年以上に渡って主食とされてきた米は、栽培されるのが水田であれば水稲・畑地であれば陸稲、含有する澱粉(でんぷん)の粘度が高ければ糯米(もちごめ)・低ければ粳米(うるちまい)といった具合で実に多岐に渡り、更に甘味や食感の加減の異なる途轍もない数の銘柄(しゅるい)が品種改良によって生み出され、それらを用途によって使い分けるという並外れた執着(こだわり)振りである。

 

 そんな米を使い、老若男女に広く愛され『国民食』とまで呼ばれる料理。本日の目的地は、その料理を提供する店だ。

 

 今回の店は勧められたのではなく、純粋に私自身の裁量で選んだ店である。今回そうした理由に、おでんの屋台とそばにてんぷらの店、共に『ここは良い』『美味い』という事前情報(くちコミ)があったという点が挙がる。そりゃあ何も知らぬ初心者に対して勧めるのであれば自身が知る中での最上ないし最適なものを選ぶのは当然であるし、その結果として私自身が良き出会いに恵まれているので大変喜ばしいことなのだが、『調査』という観点からするとこれは一長一短ともなるのではないか、と思い至ったのだ。物事を真に理解するには多角的な視点が必要だ。一方からの視点に偏っての誤った認識を第一印象としてしまうと、その修正には非常に手間がかかる。そのような手間は実に非生産的であるし、何より好ましくない。

 

 よって、私は今回の店を選ぶにあたっていくつかの条件を設けた。それが『広い市場を持ち』『評価数(データ)が多く』それでいて『地域に浸透している』という3点である。そして、この料理を提供していながらこの条件を満たす店はそれほど多くなく、真っ先に名前が出てきたのが。

 

「ここ、ですね」

 

 黄色の看板に茶褐色の文字。店名に『壱番(さいじょう)』を冠するとは、相当な自信が伺える。自動で開く扉を抜けると、辛味とも甘味とも酸味ともとれる複雑な、けれど確実に嗅神経を通じて唾液腺を刺激する独特の芳香(かおり)が届く。こういうのを『スパイシー』というのだろう、履修済みだとも。

 

「いらっしゃいませぇッ。空いてる席へどうぞォッ」

 

 気風の良い声に店内を見回し、あまり目立つのも好ましくないのでカウンター席の端の方を選んで腰かけた。

 

「ご注文、お決まりになりましたらお声がけ下さい」

「あぁ、早速ですが、よろしいでしょうか」

「あ、はい、どうぞ」

 

 メニュー表を開きながら、お冷を置いて一旦立ち去ろうとする店員を呼び止める。入念な事前調査の通り、凄まじい品揃えと組み合わせの数であるが、今回注文する内容は予め決めて来ているので抜かりはない。

 

「この基本のものに、辛さは普通で、量は300。そこに、手仕込みとんかつ、というのと、このチーズを」

「ポークの辛さ普通で300に、追加で手仕込みとんかつとチーズですね」

「はい。あぁ、それと―――」

 

 常連客を対象に実施したという統計データにおいて特に高い注文頻度を示していた組み合わせと追加の盛り付け(トッピング)を頼みながら、私は少なからずの期待を抱いていた。インドなる国家にて発祥し、イギリスなる国家を経て日本へと伝来。その過程で()()はまったく独自の進化を遂げたという。百聞は一見に如かず。果たして、どのような味がするのだろうか。

 

「―――この、らっきょう、というのもお願いします」

 

 この、カレーライスなる料理は。

 

 




 お久し振りです、George Gregoryです。ようやく新居への引越が落ち着き、祖父の三回忌も無事に終わりましたので、『カレーライス』編の開幕です。

 本作を練り始めた当初からこれを食わせるのは決定事項でした。何せマン兄さんとカレーライスは切っても切れませんし、感想欄でも既にいくつか声が上がっていましたし、何より最後のブツを食わさない選択肢がなかった。

 ご期待に副えるだろうかという不安を覚えつつ、本エピソードも生暖かい目で気長にお付き合い下されば、と思います。

 では、また次回お会いしましょう。ではでは。
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