カレーライス。正式名称を、Curry and Rice。香辛料を用いたソースを米飯にかけて食べる料理。決まった香辛料による味付けさえしていれば、ソースのベースや材料が何であれ、それはカレーとなるというその定義の寛大さたるや、さしもの私も舌を巻いたほどである。
カレーに用いられる香辛料は生薬でもあり、
そして、その配合比率が海を渡り風土の異なる土地へと辿り着く毎に変遷、やがて日本という国で独自の
「いつでも、どこでも、誰であっても、同程度の品質を提供できるシステム」
特に
発祥地のインドにおけるカレーは元来、香辛料を炒めて抽出した香気成分や色素を磨り潰したり刻んだりした青果や油脂に定着させ、水分を加えて追加の香辛料で調味、というような過程を経て作られるのだそうだ。この際の香辛料であるが、その時々の用途や体調に合わせて完全に配合を変える為、『同じ味は1つとしてない』とまで言われるほどなのだという。
そこに、まずイギリスが手を加えた。予め多種類の香辛料を調合した粉末を用意することで調理の省力化を図ったのである。この配合粉末を『
カレー粉を用いたソースの主な調理手順を以下に述べる。まず、小麦粉を
カレー粉及び即席カレールウによる手順の省力化ならびに
「理解なくして価値はなし。普及なくして発展はなし」
0を1にする才と、1を10にも100にもする才は、全くの別種である。私は後者であるが故に、何としてもこの『
それにしても、だ。
(左に見える同じカウンター席の男性の皿に乗っているのは、恐らくハンバーグなる挽肉を塊にして焼き上げたもの。あちらの席の親子連れは、えびといかのシーフードに、ナス・トマト・ほうれん草とキノコ各種。窓際の席に座るご老人の皿のは、もしや噂の納豆とやらでは)
ソースの味付け、辛さの度合い、米飯の量、具材の種類、追加する単品食材や一品料理。この店におけるそれらの組み合わせの総数を計上すると、その数は優に一兆を上回る。それら全てにおいて一定以上の品質を約束する高い汎用性。事前に文献を紐解いて入念に知識を仕入れて来ているし、おでんやそばのツユも大概ではあったが、それでも実際にこうしてその様を目の当たりにすると、改めて目を見張らせられる。流石、『
選択肢というものは、多いに越したことはない。『選べなかった』と『選ばなかった』の間には絶対的な差があるのだ。故にこそ、私はそれらを狭め、減らし、奪う側であるのだが。
「お待たせしました。辛さ普通のポーク300、手仕込みとんかつとチーズトッピングに、らっきょうです」
「恐縮です」
そのようなことを考えている内に注文の品が出来上がったようだ。店員がカウンター越しに差し出す深めの丸皿には、丁度線対称になるようにしてカレーソースと白米が盛られており、それらの熱で程よい塩梅に溶解したチーズがカレーソースに、黄褐色の粗い
「こちら、とんかつ用のソースです。ご自由にどうぞ」
『芳醇ソース』と書かれた瓶入りの調味料を更に添えて、再び厨房の奥へと消えていく店員を見送り、紙ナプキンで先端を包まれたスプーンを抜きながらどのように食べ進めたものかと考え、まずは純粋に米と言うものを味わってみるか、と白米の一部を掬い上げる。
店内照明を受けて艶やかな照りを見せる白い粒は、小さいながらも一つ一つが非常に色濃く、香りは仄かに甘味を感じる程度。口に含み味を確かめる。香りからの想像に相違ない淡白さであるが、噛み締めるにつれて徐々に甘味が増してきているように感じられた。成程、ヒトの唾液が持つ
続いてカレーソースをひと掬い。蕩けたような茶褐色の液体には一切の混じり気がなく、ゆらゆらとした湯気と共に円やかな、しかし確かに刺激と判る独特の香りが立ち昇っている。口に含むとその香りと共にあらゆる辛味・酸味・苦味・渋味を絶妙な
「美味い」
嗚呼、と暫し余韻に浸る。どのような味かと問われれば仔細な言語化が実に難しいが、端的にはその一言に尽きる。おでん然り、そば然り、このカレーソースが土台として強靭であるが故に、あらゆる食材や他の料理と合わさっても呑まれることがないのだと理解する。
そして、より強く興味をそそられた。このソースが白米と合わさることで、一体どのような変化を見せるのか。
いざ鎌倉。スプーンの先をカレーソースと白米との境界線上にそっと沈め、一口分を掬い上げる。縁から滴り落ちるほどの茶褐色の濃いソースを纏うことで、米の白さや艶やかさがより際立っているように感じられた。勢いのままに口に含む。するとどうだ。あれだけ淡白に感じたはずの白米の味がカレーソースのそれと絶妙に混じり合い、勝たないまでも確りとした主張をしてみせているではないか。
「そうか」
ここでようやく思い至る。
カレーライス。なんと玄奥たる料理であることか。
「さて」
目の前には未だ手つかずの、料理の熱でいよいよ原型を留めないまでに蕩けたチーズと、一種の毛細管現象だろうか、一部の
普段は野菜三昧か納豆チーズ、作者のGeorge Gregoryです。少々リアルの方が多忙の為、本エピソードは短めでもある程度書き上がったら細かく更新していく方針にしますこと、ご了承ください。
本日の唐突な永遠に使えないかもしれない無駄知識~ッ。元板前の飲み友に聞く一説によれば、カレーライスとカレー丼の定義は『皿とスプーンで食べるか』『丼と箸で食べるか』の違いだそうです。また、『Curry』の語源はインドのタミール語『Kari(意訳:ソース)』という説があるので、『カレーソース』って書くと一種のダブルミーニングになります。頭痛が痛いですね。
では、また次回お会いしましょう。……ハァ、オナカスイタ。