◯◯◯◯があって今にも死にそうなんだがどうすればいい? 作:電脳図書館
「ふう、開幕精神攻撃をしてくるとはやるじゃないか。無効装備も貫通してくるとはな!」
「流石もう一人の私。容赦ないのだ」
『いや普通にお前達が互いにダメージを与えただけであろう・・・』
「取り敢えず殴って黙らせるか」
「抵抗出来なくさせてからの交渉は基本だからな!」
『まてまてまてー!?そうやってすぐに暴力に頼ろうとするな!』
開幕精神攻撃を繰り出して来たナヘマーが必死に戦闘行為を避けようとする。まぁこんな状態で戦闘が出来る訳が無いので当たり前なのだが。
『こういう時は説得などでどうこうするのがペルソナ使いってものでしょう!?』
「シャドウのお前から言うんかい!闇の側面なら闇の側面らしくしろ!」
『・・・いいだろう。ならシャドウらしいやり方でやらせて貰おう!』
「パレスが揺れて!?」
「ぬお!?流石にパレスを操ることは出来るか!十香手を離すなよ!」
ナへマーの叫びにパレス内部が変容していく。意識が一時的に断たれる直前に十香の片手を掴み離れないようにすると視界が暗転した。
私が気が付いたのはとある教室だった。最初は今通っている学校の教室かと考えたがすぐに違うと分かった。それは内装もそうだが何よりわざとなのか他のクラスメイトの視線とヒソヒソ話が聴こえて来る。
『あの子が幽霊を見たって子?』『そうそう、顔はいいけど嘘つきはね』『この前となりのクラスの子が怪我したのってあの子のせいなんだよね?』『怪我した子が廃墟で肝試しようとした所を無理やり止めたんだって?』
「・・・っ」
まだ私が香川県に居た小学校低学年のころのクラスメイトだ。シショーこと狩谷が調べてくれたのだが私達の家系は一神教系の霊能者の家系だったらしいがとっくの昔に没落していておばあちゃんの代ですら精々昔話程度しか伝わっておらずその手のオカルトの知識や力などは受け継がれてはいない。ただ私は一種の先祖返りに近いらしく並以上の霊能者としての才能があったらしいが、当然その手の知識が無い私達にそれを知るすべは無く逆にリスクばかり背負った形になってしまっていた。狩谷曰く覚醒をしていないが霊的素養の高い人間は悪魔からすればご馳走の様なもので今の日本の状態で私に直接的な被害が無かったのはただ単に住んでいた場所が良かっただけなのだそうだ。香川県と東京都、どちらにも地元を守護する霊的組織があり、神樹や帝都結界などの力が悪魔を遠ざけてくれて居たらしい。だがその代わり私は命の危険以外のデメリットを強く受けてしまっていた。
『お前/私は覚醒せずともその才能で霊視を行えていた・・・もっともオカルトの知識がない以上コントロールが出来ずに常時霊視状態の様なものだったがな』
「・・・街の中や遊びに行った場所で朧気ながらモヤの様なものが見えてはいたぞ。何となくだけど嫌な感じがしていた」
頭にナへマーの声が響く。明らかにこちらの動揺を誘っているのは分かる・・・大丈夫、狩谷やライネス達からシャドウの対応の仕方は学んでいる。気をしっかり持つのだ!
『周りに話しても、危険からクラスメイトを守っても理解されずバカにされて来た』
「でもそれは私と違ってモヤが見えないだけで!別に恨んでいるとかそういう訳じゃないぞ!」
『そうだろう。お前/私が本当にショックだったのはその後の両親の対応だ』
「っ!?」
ナへマーの言葉に思わず後ずさる。クラスメイトの姿が消え現在よりも少し若い姿の両親が現れた。
『大丈夫、十香が嘘を言う訳ないもんな?お父さんとお母さんは十香のことちゃんと分かってるから』
『お父さんの言う通りよ。少し勘違いしちゃっただけなんだもんね、私達だけは十香の味方だから』
優しい両親の声、だけどそれは私の言っていることを信じている訳じゃなくて、私を思ってくれているとは分かっていても私の言うことは子供の言うことだからだと真に受けてなくて・・・それはとっても
『気持ち悪かった・・・だろう?お前/私のことを分かっている、味方だと言っていながらこちらの言葉は信じず、内心では子供の戯言だと思っているくせにと思っていたはずだ』
「そ・・・そんなことは・・・」
『否定しても無駄だ。お前は私なのだからな、結局香川県でいい思い出といえば物心着く前のまだ霊が見えていない頃の朧げな祖母との記憶が精々であろう?祖母の死後は周りの視線や霊に怯える生活だったものな?』
「・・・確かにあそこではあまりいい思い出はないかも知れない」
或いはそのとき大社が接触してくれれば何か違っていたのかも知れないが、ライネスによると良くも悪くもクラス内部で騒ぎが収まってしまったのが悪かったのだと言う。担任の先生や親達にバレる程派手なことはまだ幼いこともあってされることは無かったからだ・・・ライネスはそれを皮肉なことだと言っていたけど。
「でも今は違う!ライネスやトリムマゥ、ルヴィア、狩谷、折紙、イリナ、ゼノヴィア・・・皆んながいる!この街は私を受け入れてくれたんだ!」
左手に握っているはずの狩谷の右手を見る・・・何故か狩谷自身の声や姿は見えないから空を掴んでいる様な感じに見えるが手そのものは見えず、感触は無くても僅かながらの暖かさを感じる。大丈夫、ここでも一人じゃない!と思える程心強い暖かさで。
『なるほどね、でもまるで環境のせいみたいに言っているけどまさか自分は被害者で何の罪も無いとでも思っているのか?』
でもその暖かささえ掻き消えてしまうようなことを言われてしまう。
「な、何のことだ!」
思わず狩谷の手を更に強く握る。さっきの両親のことは自覚があることだったが、罪というのはまるで覚えがない・・・無いはずなのに。まるで覚えがあるように背筋から全身が凍てついていく様で、少しでも暖かさが欲しくて強く手を握る。
『そもそもこの街に来ることになった要因はもう知っているはずだな?』
「あ、ああ狩谷から香川県で支部建設時に起こった出来事は聞いているぞ。おばあちゃんの魂が認知異界に囚われていたと」
『認知異界、あそこで確認されているのはマヨナカテレビだけどあれはテレビと死者の魂を媒介にして出現する。しかしそれは認知異界を作る条件であり、マヨナカテレビを作り出した黒幕の目的とは限らん』
「マヨナカテレビの黒幕の目的を知っているのか!?」
『流石に全容まで知らんがあの家をターゲットにした目的は十中八九お前だったからな。正確に言えばペルソナ使いに至る素養を持つ者の魂を求めていたからだが』
「ペルソナ使いに至る素養を持つ者の魂?」
『文字化けのシャドウ、何故そうなったかの過程はネオベテルで議論されて居た通りだろう。だがそもそものきっかけは黒幕がシャドウとペルソナ使いの魂を掛け合わせようとしたことが発端だ。対ペルソナ使い用であり、いずれは認知異界外でも活動出来るシャドウを作り出す為の実験作のようなものだったのだろうな』
確かに文字化けのシャドウは現実に現れペルソナ使いではない異能者に倒されたという話は聞いている。今思えばそれらはペルソナ使い以外の異能者に倒される所までが全て黒幕のテストだったのだろうか。
「だがそれと私の罪とは関係があるのものなのか?」
『無論多いにあるとも。先程言った通り黒幕はペルソナ使いの素養を持った魂を求めていた・・・だが祖母はそもそも異能者や霊能者としての才能はない。本来文字化けのシャドウになど成れる訳がないのだ。しかし祖母はそれを無理矢理可能にしたのだ、孫を思う気持ち一つでな。直感から本命はお前/私だと思っていたのだろうな、取り込ませない為にポルターガイストじみた現象を引き起こし残った家族を家から追い出した。ああ、素晴らしい美談だな』
言葉を区切るナヘマーに心臓の鼓動が増していく。忘れて居た何かが顔を出す恐怖がそこにあった。
『お前/私が本当に孫と言えるのだったらな?そうだろう精霊の姫よ』
「精・・・霊?わ、私は人間で・・・」
『身体は人間だ。しかし胎児のときに精霊が宿った・・・黒幕が産んだ精霊がな。当然それは胎児のまだ弱い魂を上書きして余りあった』
『つまりお前/私はマヨナカテレビの黒幕である存在の子ということだ。そうとも知らずに健気に守ろうとした祖母は哀れだな』
「私が・・・黒幕の・・・子供」
『そうだ。夜刀神家が巻き込まれたのはお前がその家に生まれたからだ。黒幕によって産み出されまだ意志の無い精霊だったお前/私は現世に送られ、人として生まれる為に適合する母体と胎児を探し憑依したということだ。今まで忘れていたようだがな』
マヨナカテレビの被害は日々増えていると狩谷は言っていた。当然被害もそれ相応に増えているはずだ。そんな奴が私の本当の親?・・・シャドウを受け入れるということを自分の闇の部分、自身の全てを受け入れるということ・・・つまり私が人間ではないことと・・・お母さんの本来の子供になるはずだった"夜刀神十香"を殺し成り代わったことを受け入れること。
『さぁこれを聞いた今でも自分に罪はないと思うか?私を受け入れられるか!』
「あ・・・ああ!?違う!私は人間・・・で!」
認めたくない認めたくない、だって認めてしまったら生まれたこと自体が罪だと認めてしまったら・・・今までの頑張って来たことや皆との思いでが全て覆って、本物の夜刀神十香が歩むはずだったものになってしまって・・・ワタシは
「ワタシは偽物なんかじゃない!」
動揺からか目の前の教室の光景さえあやふやになっていく。目が白い光でチカチカしていくもう狩谷達が教えてくれたシャドウ戦での注意事項すらもう頭に無くて。いつもの間にか目の前に現れたナへマーに言ってはいけない一言を・・・。
「お、お前なんて私じゃ!・・・へ?」
『ちょアイツマジでやる奴がいるかーー!!』
言えなかった。すぐそばで起こった爆発にナへマーと揃って吹き飛ばされたからだ。気絶する直前ふと思う。
「あのチカチカしていた白い光・・・シショーの【メギドラ】だったのか・・・ガクリ」
「おーい起きろ十香!ダメージ覚悟のゼロ距離【メギドラ】までしたんだから起きてくれー!」
「う、うーん・・・は!?死んだかと思ったのだ!シショー、急に【メギドラ】はやめるのだ!」
「いやだってずっと棒立ちしてて声を掛けてもアムリタソーダ使ってもうんともすんとも言わないからもうこれは爆破するしかないと・・・後ナヘマ―の煽りがウザかったし」
狩谷に頬を手でペシペシと叩かれ目が覚める。如何やら狩谷なりに私を助けようとしてくれたようだけど。
「・・・私のことを聞いたか?」
「ああ、煽られながら」
「そうか。私は偽物だったようだぞ」
思わず苦笑が漏れてしまう。私の思いも経験も友達とのコミュも本物の夜刀神十香が本来持つ筈のものを私が奪ってしまっていたのだ。シショーの狩谷も本来なら偽物の私ではなく・・・
「偽物って俺があったことがある夜刀神十香はお前だけだぞ?本物も偽物もないだろうが」
「だ、だが本来なら!」
「だから俺もライネス達もそんなifは知らないって!・・・十香がそれを罪だと思い背負うのは自由だ。だがなだからと言ってそんなifを持ち出して今までのことを否定すればそれはお前と共にあった俺達を侮辱することに等しい!後今までの人生を本物が現れたらポンと譲るのかお前は!」
普段とは違い有無も言わせぬ勢いだった。正直悩んでいたことをそんなこと扱いされて唖然となってしまう。
「俺達は今のお前だがら友人になったし、今のお前だから俺は弟子に取ったんだ!成り代わったのが罪だと思うならそれは自分で背負え、他人にまで背負わせるんじゃねぇ!・・・その代わり今の十香を俺達はいくらでも肯定してやる!」
「一人で背負え・・・か」
「ああ、罪は確かにときには誰かと一緒に背負ったりすることも出来るがその身体に憑依した経緯がどうあれ自分の意識ならその罪を自身だけで背負わなければならない。だってそれは自分が生きたいと思ったから犯した罪だろ?生き物に取って罪とはその生き物が生きてきた足跡であり、証だ。そもそも生き物は皆罪を背負ってるんだから俺は十香に罪がないとは言わない、罪を奪うということは、その存在の生き方や在り方を奪うことになるからだ。勿論冤罪とかは別だけどな」
罪とはその存在の生き方であり在り方である。だからこの罪は私だけが背負うべきものであり、他人に背負わせても他人が奪ってもいけない。小難しいことを言っているが何故が胸にスッと入ってくるのだから不思議なものだ。何よりも今の私を否定しないでいてくれたのが堪らなく嬉しかった。
「手厳しいなシショーは・・・でもありがとう」
「おう、誰が何と言おうがお前は俺達の友人で俺の弟子の夜刀神十香だ!」
狩谷の手が頭に伸び撫でてくれる。・・・確かに今まで人生を誰かに渡すというのは・・・なんか嫌だ。例えそれが本物の私だったとしても渡したくはないとそう思えた。
『おい、私の存在忘れてないだろうな?』
「「あ」」
ナへマーのことを忘れてた。
読了ありがとうございました!十香の正体は古代日本にもあった精霊の概要を見て「あ、黒幕の悪魔と設定が符合するな」とか思って付け足したりしました。