ライスシャワーが、
宝塚記念の骨折から治療やリハビリを通して、
トレーナーと絆が深まり告白するまでのお話。

タイトルは再咲(さいしょう)と読み、
咲(しょう)には笑う・笑顔という意味があります。

骨折してしまったライスシャワーを、
もう一度笑顔にするという意味を込めています。

本編「コバルトブルー」
https://syosetu.org/novel/280936/

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再咲の青薔薇

 

 

元MotoGPライダーのトレーナー、

芥瀬流貴(あくたせるき)率いるチーム「ミストラル」

 

現段階でのメンバーは、

ライスシャワー

ウイニングチケット

エアシャカール

ファインモーション

 

ライスとチケットは、

乗り物好き同士で知り合った、

マルゼンスキーからの紹介。

 

シャカールは、

多くの数字が動くレースを経験して来た、

流貴の経歴に惹かれて加入した。

 

ファインはシャカールに付いて来た形である。

 

____

 

 

ライスシャワー、

シニア級の宝塚記念。

 

ウイニングライブのステージ等、

一部の施設に不具合が発覚。

 

阪神レース場から京都レース場へ、

開催地が変更された。

 

 

彼女からすれば、

やや短い距離に不安が残るが、

勝ってきたG1が全て京都レース場であり、

ライスシャワーの強い意志で出走を決めた。

 

しかし・・・

 

『ライスシャワーに故障発生!

第三コーナーで転倒!大丈夫か!?』

 

「やべェぞ!急げ!トレーナー!」

 

「てぇりゃあああぁぁ!」

 

「隊長達も来て!たあああぁぁ!」

 

まだレースが終わっていないため、

邪魔にならないようコースの外側を逆走して、

ライスシャワーの元へと向かうチームの面々。

 

ウマ娘達より少し遅れて、

トレーナーの男が到着する。

 

既に到着した娘達によって、

芝に寝かされているライスシャワー。

 

転倒の衝撃で気を失っているのか、

朦朧としている状態だ。

 

「隊長、ネクタイと警棒を貸してくれ!」

 

「はっ!」

 

スーツの上着を緩衝材として足に巻き、

ファインのSPから借りた警棒を添え木にし、

ネクタイで足に結び付ける。

 

慎重に体を動かし、

回復体位の姿勢を取り救助を待つ。

 

「救急車はまだかよ?早くしろ!」

 

とりあえずの応急処置はしたが、

早くしっかりとした施設の病院に運びたい。

 

と、その時。

 

「お兄さま・・・」

 

消え入るような声で呼ばれる。

 

「ここに居るよ。」

 

「えへへ、良かったぁ。

でも、ごめんなさい。」

 

「話は後で聞く、今は寝てろ。」

 

「すぅ・・・すぅ・・・。」

 

トレーナーが来た事で安心したのか、

ゆっくりと寝息を立て始めた。

 

謝っていたのは人気投票一位の、

期待に応えられなかった事に対してだろうか。

 

あるいは今回の宝塚記念が、

阪神・京都の両レース場スタッフ、

トレセン学園の協力によるものであり、

彼らへの感謝と謝罪の気持ちか。

 

(そんな事気にしてる場合じゃねぇだろーが)

 

大怪我をしても気づかいが出来る、

そういう優しさも彼女の良さではあるが、

色々と抱え込み過ぎたのかもしれない。

 

救急車が到着し京都の病院へ搬送される。

 

診断の結果は左足首の骨折。

 

しかし幸いにもギプスによる固定だけで済み、

ボルトを通して固定する状態ではなかった。

 

ボルトを通す治療は骨に穴が開くため、

後遺症が出やすくレースどころではない。

 

このような終わり方では、

彼女も納得出来ないだろう。

 

(治ったら走りたいって言うかもしれねぇ、

リハビリでなんとかなりゃ良いな。)

 

トレーナーの男も、

かつて骨折で選手生命を絶たれた経験があり、

その辛さを身をもって知っているのだ。

 

それだけに、

オーバーワークには気を配っていた。

 

しかし天皇賞春の直前、

遅くまで自主トレをしていた事があった。

 

ライスシャワーは、

どちらかといえば消耗が激しく、

ダービーの直後にも倒れた事があった。

 

トレーニングを積んで、

基礎体力を伸ばしてはきたが、

燃費の悪さまでは変えられなかったようだ。

 

搬送されてからも、

ライスシャワーは眠り続け、

流貴は付き添いとして残る。

 

チームの全員で付き添いたかったが、

関東圏内ならともかく遠い京都の地。

 

レース当日ということもあり、

周辺のホテルが埋まっていたため、

SP達に引率を頼み、学園へと帰らせる。

 

「合宿までには戻るよ。

トレーニングメニューも考えて送る。」

 

「またね~、トレーナーさーん。」

 

「あァ、またな。お疲れさん。」

 

娘達を見送ると夕方になっていた。

 

病院の屋上で一服しつつ、

念のために切っていた携帯の電源を入れる。

 

「あー、やっぱりな。」

 

おびただしい数の着信と、

LANEのメッセージ通知。

 

学園へは病院から連絡が行っているはずだが、

全体に伝わるには多少の時間がかかるだろう。

 

(まずは・・・)

 

緊急連絡先として登録していた、

ライスシャワーの母親にメッセージを送る。

 

『こんばんは。

お世話になっております。

連絡が遅れて申し訳ありません。

 

まず、ライスシャワーの診断結果からですが、

骨折はしましたが命に別状はありません。』

 

『また、今回の件は、

自分の監督不行き届きであり、

誠に申し訳ありませんでした。』

 

それから各方向に似たような文面を送る。

 

彼女の友人達には少し砕けた言葉遣いをしつつ、

合宿には同行出来ないであろう事も伝える。

 

「とりあえずはこれでいいかな。」

 

するとそこへ着信があった。

 

「ん、アイツか。」

 

トレセン学園へジャージ等を提供している

スポーツウェアメーカーの社員。

 

トレーナーが学生の頃から付き合いのある男だ。

 

『もしもし。』

 

『やっと出たか。』

 

『悪ぃな、病院だから切ってたんだ。』

 

『あ、そっか。ライスちゃんの容態は?』

 

『とりあえず命に別状はなし、

骨折はしたが後遺症は出なさそうだ。』

 

『そりゃ良かった。』

 

『まぁ。とりあえずは安心かな。』

 

『あと、見てたぜ。』

 

『・・・はぁ?』

 

電話越しにニヤ付いている気配を感じる。

 

「ちょいと不謹慎だが」

と前置きされて言われたのは、

 

『お姫様抱っこ。』

 

『ぶふっ!げほっ!ごほっ!』

 

タバコの煙が動揺で気管支に入り盛大にむせる。

 

救急車に乗せる担架に彼女を運ぶ時、

お姫様抱っこの状態になっていたのが、

レース中継で全国に放映されていた。

 

『あの時は必死だったからなぁ、

カメラの事なんてすっかり忘れてたよ。』

 

『まぁ俺はなんか、

ほっこりさせてもらったわ。

大変だったのは分かるんだけどよ。』

 

『あーくそ、思い出したら照れてきた。』

 

『明日の一面が楽しみだな王子様、

いや、ライスちゃん的にはお兄さまか。』

 

『勝手に言ってろや。』

 

『んじゃあまた合宿でなー。』

 

『へいへい。』

 

そういって電話を切る。

 

「ったくあの野郎。」

 

そう言いつつも口元が少し緩むのを感じる。

どうやら男の緊張を解いてくれたようだ。

 

思い返せば彼はよく、

娘達に暗い顔を見せるなと言っていた。

今回も彼なりの気遣いなのかもしれない。

 

すると、

ライスシャワーの母からのメッセージ。

 

『ご連絡、お待ちしておりました。

娘からトレーナーさんのお話は伺っております。

 

皆さんの素早い応急処置のお陰です。

これからも、娘をよろしくお願いいたします。』

 

(怒られるんじゃないかと思ってたけど、

優しい人だな)

 

そういえば彼女の絵本好きは、

母によく読んでもらった事かららしい。

 

今後治療やお見舞いで、

顔を合わせる機会もあるだろう。

 

「そろそろ戻るか。」

 

病室に戻ると、

ライスシャワーが起きていた。

 

「お、お兄さまあぁぁー!」

 

「悪ぃ悪ぃ、寂しかったな。」

 

ケガで弱っているのか、

男を見るなり泣き出してしまう。

 

泣き止むまで手を握り、頭を撫でる。

 

「ふぅ、ありがとう、お兄さま。」

 

「落ち着いたか?看護師さん呼ばないとな。」

 

「うん、そうだね。」

 

医師と看護師が来て足の状態の説明をされる。

 

「お兄さまに迷惑かけちゃうね・・・。」

 

「気にすんな、無事でいてくれりゃそれでいい。」

 

「ライス、いつかまた走れるのかな?」

 

「やっぱり走りたい?」

 

「うん。今日だって、

せっかく選んで貰ったのに、

こんな事になっちゃった。」

 

また泣きそうな顔になる、

彼女に優しく男は言う。

 

「バカ野郎。そういうのは、

後から付いてくるモンだろーが。」

 

「?」

 

「一番人気って肩書きも、

無事な体あっての物だ。

まずは人より自分の心配をしろ。」

 

「そう・・・だね。」

 

「とりあえず今日は風呂入って寝ろ。

看護師さんに手伝って貰ってな。」

 

再び看護師を呼び、

ライスを風呂に入らせて貰う。

 

「汗も涙も流してさっぱりしてこい。」

 

数十分後、ライスが風呂から上がってくる。

 

「痛みの方はどうだ?」

 

「鎮痛剤を打って貰ったから大丈夫だよ。」

 

「ならいいけど、しっかり寝とくんだぞ。」

 

「あのね、お兄さま。」

 

「あ?」

 

「ライスが眠るまで絵本読んでくれる?」

 

「しょうがねぇなぁ。」

 

「えへへ、ありがとう。」

 

遠征にも絵本を持って来ていたようだ。

 

絵本を読んでライスを寝かし付け、

男は病院を後にした。

 

(さぁて、どうすっかな?)

 

今日の遠征は元々、合宿の準備も考えて、

新幹線を使い日帰りで往復する予定だった。

 

まずは自分も一風呂浴びようと、

銭湯を検索するが徒歩圏内にない。

 

(レンタカーでも借りるか)

 

レンタカーで移動し、

コンビニで替えの下着を買い銭湯に入る。

 

風呂から上がり寝床を探すが、

やはりホテルは開いていない。

 

(明日になりゃ開きそうだけどな)

 

今日の所は仕方がないので、

ネットカフェで朝を待つ事にした。

 

念のために鍵付きの個室を取り、

遅い夕飯を頼み、ネットニュースを見る。

 

(やっぱりニュースになってるか・・・)

 

ライスシャワー骨折のニュースは、

早くもネット記事になり、

トレンド入りしていた。

 

(俺の評判はどうなってるかな?)

 

トレーナーの男に対しては批判もあったが、

先月同じチームのウイニングチケットが、

日本ダービーを勝利しているお陰か、

まだお祝いムードが残っている印象だった。

 

(そういや、

ウマッターで報告するのを忘れてた)

 

ウマッターにライスシャワーの容態、

関係者達への謝罪を書き込み、

夕飯を食べて眠りについた。

 

 

翌朝、レンタカーを返却し、

空きが出たホテルの部屋を取り病院に向かう。

 

(パパラッチは居ねぇか?)

 

病院前に記者が居ないか確認し中に入る。

 

昨日は簡単な骨折の状態の説明だったが、

今度は治療にかかる期間や、

リハビリ等の詳細な説明を受けた。

 

「東京への移送はいつ頃出来そうですか?」

 

「もう少し状態が良くなってからですね、

あとはリハビリ施設や薬剤等が揃っている所で。」

 

「分かりました。」

 

「それと復帰についてですが・・・。」

 

「はい。」

 

「後遺症が出なければ、

不可能ではないと思いますが、

再発の可能性もあり、お勧めはしません。」

 

医師が部屋から出ていき二人になる。

 

「さぁ、キミはどうしたい?」

 

「ライスは、もう一度咲きたい!」

 

「そうか、じゃあ俺は、

咲かせる為に頑張るよ。

トレーナーとして。」

 

「うん!」

 

その後1日、

ライスシャワーと絵本を読んだりしながら過ごし、

ホテルへと帰りながら今までを思い出していた。

 

(泣き虫は相変わらずだけど、

昔に比べりゃ強くなったな)

 

レース中の骨折はきっと怖かっただろう、

恐怖がきっかけで引退するウマ娘だって居る。

 

(きっとそろそろピークも来るはず、

俺に出来るのはなんだろうな。)

 

本格化を迎え三年近く経ち、

アスリートとしての絶頂期も、

そろそろ終わりが近い。

 

治療とリハビリにおよそ一年、

さらにそこから鍛え直すとなれば、

きっと次が最後のレースになる。

 

有終の美に青薔薇を咲かせるべく、

自分に出来る事をしようと、決意を新たにする。

 

 

翌日ライスシャワーが、

精神的に落ち着きを取り戻したのを確認。

 

きっと次が最後のレースになるだろう事を話し、

目標を来年の有馬記念に定めるのだった。

 

「ライス、自分の特技に気付いてるか?」

 

「?」

 

「キミは坂道を走るのが上手い。」

 

小柄で軽い体のお陰なのか、

登りではパワーロスが少なく、

下りではつんのめりにくい走りが出来ていた。

 

「中山の坂を、攻略しよう。」

 

「うん!」

 

「時間はゆっくりかけられる。

最後を最高のレースにしよう。

キミを中山のターフに咲かせる。」

 

「ありがとう、お兄さま。」

 

____

 

 

有馬記念を目標に決め数ヶ月後、

夏合宿が終わり徐々に肌寒くなる頃、

ライスシャワーは都内の病院へ移送された。

 

ほぼ毎日のようにトレーナーの男や、

友人達がお見舞いに訪れていた。

 

「こっちに帰って来れて良かったな。」

 

「うん!ありがとう。」

 

「俺はただ催促しただけだ、

こっちの方が色々と教えたりしやすいからな。

これも仕事だよ。」

 

・・・ドクン・・・

 

(あれ?なんだろう?)

 

「どうした?」

 

「ううん、なんでもないよ。」

 

「ならいいけど・・・おっと、

そろそろ面会時間が終わりだ、また明日な。」

 

「うん!またね。」

 

トレーナーの男が帰った後、

ライスシャワーは不思議な気持ちになっていた。

 

思えば京都の病院でも男が「トレーナーとして」

と言った時に同じような気持ちになった。

 

(この気持ちはなんだろう?)

 

彼は間違ったことは言っていないはずなのに、

どうしてかモヤモヤした気持ちになる。

 

持ち来んだ絵本を読んでみるが、

そういう気持ちは絵本には書いていない。

 

絵本が教えてくれない事、不思議な気持ち。

 

(誰かに相談してみようかな?)

 

 

数日後、

 

「・・・んしょ・・・よいしょ。」

 

松葉杖で通話可能エリアへ行き、

母親に電話をかける。

 

『あ、お母さま、今大丈夫かな?』

 

『どうしたの?珍しいわね。』

 

『その、あの・・・ね。』

 

ライスはトレーナーと話す時、

モヤモヤした気持ちになる事、

その前後の会話も伝える。

 

『あら、とっても素敵じゃない。』

 

『ふぇ?』

 

『貴方も大人に近づいたのね。お母さん嬉しいわ。』

 

『え?え?』

 

『でも教えちゃうのは勿体ないかしら?ふふっ。』

 

そういって電話は切れてしまった。

 

(どういう事なの?)

 

そして夜、差し入れを持って、

トレーナーの男がお見舞いにやってきた。

 

「悪ぃな、遅くなっちまった。」

 

「お兄さま!何かあったの?」

 

「今年の有馬はチケットが出るからな。

ちょっとした追い込みだ。」

 

「そうなんだね。」

 

・・・ドクン・・・

 

(あれ?まただ。)

 

「最近なんかボヤっとしてんな?

眠れてないんじゃないのか?」

 

「ううん、大丈夫だよ。」

 

「・・・・・。」

 

男が顔を近づけて来る。

 

「ひゃ!?」

 

「あぁ、クマも出てないし、

嘘じゃなさそうだな。」

 

「はわわわっ。」

 

照れて赤くなるライスシャワー。

 

「あー、悪ぃ。びっくりしちゃったか。」

 

「ううん、お兄さまなら大丈夫だよ。えへへ。」

 

「なんだそりゃ。」

 

男も気まずいのかそっぽを向きながら、

差し入れのお菓子を渡される。

 

「今日はもう遅いから明日のおやつだ。」

 

「ありがとう、お兄さま。」

 

「また明日な。」

 

ポンポンと頭を叩き、

トレーナーの男は帰っていった。

 

(また明日、えへへ)

 

気が付けば彼のお見舞いが、

楽しみになっている。

 

しかし時々感じる違和感と同じ感覚を、

男が他の娘の話をした時に感じた。

 

(ヤキモチ、なのかな?)

 

そしてそういった感情の沸く意味は、

もうそこまで考えれば、答えは近かった。

 

(お兄さまの事、好きなのかな?)

 

母親の言葉を思い出す。

 

(大人に近づいたって、そういう事?)

 

・・・・・ポッ

 

「はうぅぅ。」

 

その日は照れたまま布団に潜り眠ったのだった。

 

 

トレーナーへの好意を自覚してから数ヶ月。

年が開けてバレンタインが近づいてきた。

 

母親やマルゼンスキーに相談し、

彼への告白の計画を立てていた。

 

とは言うもののオーソドックスに、

チョコレートにメッセージカードを添え、

そこに告白の内容を書くという物だった。

 

バレンタイン当日。

 

リハビリ中のライスシャワーに、

男がお見舞いに来た。

 

 

「あ、お兄さま!」

 

「よぅ、順調か?」

 

「うん!お兄さまが見に来てくれるから。」

 

「そりゃー関係ねーだろ。」

 

「お部屋行こ。」

 

「もういいのか?」

 

「お兄さまと一緒に居る方が大事だもん。」

 

「しょうがねぇなぁ。」

 

そういって部屋に連れて行かれる。

 

「ハッピーバレンタイン!お兄さま!」

 

「あぁ、今日はバレンタインか。ありがとうな。」

 

「おうちに帰ってから食べてね。」

 

「ああ、分かった。」

 

「今回は手作り出来なかったのが残念だけど。」

 

「んじゃあ、来年に期待だな。」

 

 

トレセン学園のバレンタイン。

 

毎年カフェテリアの厨房を借りて、

手作りチョコの交換が行われる。

 

「手紙?」

 

「あ、それもおうちで読んで欲しいな。」

 

「そうか、分かった。」

 

「んじゃーちょっと早いけど、

気になるから帰って読もうかな?」

 

「お、お返事、待ってるね。」

 

「?」

 

 

何やらいつもより早口な気がするが、

手紙の内容が気になり帰るのだった。

 

 

そして、

 

〈お兄さまへ、〉

 

〈スカウトしてくれた時の事を覚えていますか?

貴方は不幸を笑うと言ってくれました。

そんな事を言ってくれる人は初めてでした。〉

 

〈そんな貴方だから私は付いていこうと思いました。

今まで走って来れたのも貴方のお陰です。〉

 

〈そしてある日、気が付きました。

私は、貴方の事が、大好きです。〉

 

〈Rice shower〉

 

 

「言うように、なったじゃねぇか。」

 

男はトレーナーとウマ娘の関係は、

アスリートとインストラクターと考えつつ、

友達のような感覚も持ちながら接して来た。

 

ライスシャワーにはどちらかといえば、

妹のような感覚で接して来た。

 

告白を受け入れれば、

その関係は崩れてしまうが、

学園において珍しい例ではないらしい。

 

「惚れさせた責任は、取らねぇとか。」

 

そして、照れて布団でのたうち回る男だった。

 

翌朝、返事の手紙をしたためる。

 

今までの関係を崩すのは怖い部分もあるが、

惚れさせてしまったのならば、

一度しっかりと付き合う覚悟はあった。

 

 

(それで破綻するなら、

それまでだったって事だ)

 

(こういうのは苦手だけど、

メッセージで済むモンを、

わざわざ手書きでくれたんだ、

こっちもそれに応えねぇとな。)

 

 

そして夜。

 

したためた手紙を持って、

お見舞いに向かう。

 

「あ、お兄さま!」

 

「よぅ。」

 

「お返事、書いてきてくれたの?」

 

「あぁ。俺が帰ったら読んでくれ。」

 

「えへへ。」

 

 

ギュッ。

 

手を握られた。

 

 

「どうした?」

 

「お兄さまが手を握ってくれるの、

とっても安心するんだ。」

 

「じゃあ、これも?」

 

そういって頭を撫でる。

 

「うん、これも好き。」

 

「そうか。」

 

しばらくその状態が続き、

ライスシャワーが眠そうになっていた。

 

「このままじゃ眠っちゃう。」

 

「手紙読むか?なら帰る。」

 

「うん。またね。」

 

「また明日な。」

 

手紙には男らしいぶっきらぼうながら、

優しさを感じる返事が書かれていた。

 

〈ライスへ、〉

 

〈生きてりゃ不幸も幸せも起きる。

一々気にしてたら気が持たねぇよ。〉

 

〈不幸はツイてないって、

自虐的に笑っちまえば良い。〉

 

〈俺みてぇなレース馬鹿で良きゃ付いてこい。

どこまでも引っ張っていってやる。〉

 

〈これからも、よろしくな。〉

 

〈R.akutase〉

 

 

【挿絵表示】

 

 

そして6月、

あの宝塚記念からちょうど一年経つ頃。

 

ライスシャワーは退院した。

 

いつもはクールビズのトレーナーは、

しっかりとネクタイを締め、

青薔薇の花束を持って来た。

 

「退院おめでとう。ライス。」

 

 

退院日ではあるが友人達とは、

お見舞いで会っているので、

特別集まったりはしない。

 

手を繋いでトレーナーの車の前に来ると、

ライスシャワーが驚いていた。

 

「あれ?この車の色?」

 

そこにあったのは男の愛車。

 

見慣れているFD型RX-7だったが、

色がオレンジに変わっていたのだ。

 

「いつだったか言ってたろ?

カボチャの馬車に乗りたいって。その代わりだ。」

 

「こういうのって、大変じゃないの?」

 

「実はオールペンじゃないんだなこれが。」

 

「?」

 

FDに施されていたのは、

「フィルムラッピング」

というドレスアップであり、

簡単に剥がせる物だったのだ。

 

「カボチャの馬車の魔法も、

いつかは解ける。それと同じだ。」

 

「魔法を解くにはどうするの?」

 

「もう一度、青い薔薇、キミが咲く事。」

 

「!」

 

「だから二人で頑張って、有馬で勝とう。」

 

「うん!」

 

「さぁ、みんな待ってる、学園へ戻ろうか。」

 

帰りの道中、シフトレバーを握る男の手に、

小さな手が重なり、ふと助手席を見ると。

 

「・・・すぅ・・・すぅ・・・。」

 

 

(ちょっと運転しにくいけど、

しょうがねぇな。寝る子は育つ、かな?)

 

 

(私はライスシャワー、幸せの名前。

もう一度幸せの青いバラになります。)

 

(世界で一番大好きな人と一緒に。)

 

 

 


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