ドラえもん のび太と織田信奈の野望 ~ヒーローと共に~   作:明星

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堀田道空

道三の家臣。原作アニメでは長良川撤退戦の最中に戦死してしまったものの、この世界では美濃動乱そのものが起こらなかった為に生存。


第二巻
雪花隊


◇西暦15X0年 5月18日 夕方 北近江

 

 のび太が満月の下で少女(信奈)を守ると誓う少し前。

 

 今川を混乱させることを狙った半蔵の手によって急速に広まった桶狭間の戦い詳細は、ここ北近江の国主──浅井長政の元にも届いていた。

 

 

「なに?野比のび太だと?間違いないのか?」

 

 

 聞き覚えのある名前(・・・・・・・・・)を聞いた長政は思わず目を見開いていた。

 

 現在の(・・・)日ノ本の多くの人々にとって、野比のび太という名を聞くのは初めてだろう。

 

 だが、長政にとっては違った。

 

 何故なら、彼女(・・)にとって野比のび太という名前の人物は昔の恩人であり、友であり、そして、初恋の人だったのだから。

 

 故に、長政は報告してきた家臣に対して確認するようにそう尋ねたのだ。

 

 

「はい、間違いありません」

 

 

「そう、か」

 

 

 家臣の返答を聞いた長政はそう言いながら目を瞑った。

 

 

(同姓同名の別人か。それともあいつの先祖に同姓同名の名前を持つ者が居たのか。あるいは・・・本当に本人なのか)

 

 

 いずれにしても確かめなければならない。

 

 そう考えた長政は近いうちに尾張を訪問することを決意した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇西暦15X0年 6月5日 尾張 訓練所

 

 尾張内に存在するのび太が作った私兵集団の訓練所。

 

 丹羽長秀の乱の際に一度放棄してしまったものの、その後の信奈の許可と桶狭間の戦いの報酬で得た5000貫の予算を使い、再建・増築が行われ、今では雪花隊という名称に改名されたのび太の私兵集団の訓練所として機能している。

 

 さて、そんな場所では現在、とある新兵器の発射実験が行われており、のび太と曉を初めとした数名の雪花隊の重鎮達はその光景を固唾を飲んで見守っていた。

 

 そして──

 

 

「・・・一応は成功だな。取り敢えず、真っ直ぐには飛んでいった」

 

 

 のび太はそう言いながら、実験は成功だと評価していたが、曉は何処か納得いっていない様子でこう言った。

 

 

「しかし、確かに真っ直ぐには飛びましたが、落ちた位置はバラバラです。明らかに大砲と比べて弾道が安定していません」

 

 

 そう、今回実験が行われた試験兵器。

 

 それは後の世でロケット弾と呼ばれる兵器であり、その値段の安さと高い火力から21世紀でも使われている代物だった。

 

 まあ、とは言っても、この時代に存在する設備ではどうやってもロケットエンジンを作ることは不可能なため、ブースターの部分を花火で代用し、竹と木で作ったカタパルトから火薬で打ち出すという原始的なからくりになっている。

 

 だが、ロケットエンジンが搭載されていないことによって打ち出されるロケットの軌道が安定しないため、当然の事ながら命中率は悪い。

 

 

「まあ、そうだけど、大砲に比べれば安いし火力も高く、射程もそれなりに長い。そして、なにより持ち運びがしやすいからね」

 

 

 そう、確かに今回のび太達が作ったロケット弾は命中率は劣悪ではあったものの、火力はそれなりに高い(だいたい75ミリ砲弾と同じくらい)上に射程は1キロを軽く越え、更に発射機そのものは簡易的な構造かつ(耐久性は少し犠牲にしているが)軽く作られているために簡単に持ち運べ、そして、なによりも安いというのは大砲の運用で散々自転車操業を強いられていたのび太からすればとんでもなく助かっていた。

 

 もっとも、砲弾のみは耐久性の関係上、鉄製である必要があるために60ミリ迫撃砲弾とほぼ同じ値段になってしまったが、威力の割りに安い値段ではあったし、逆に言えばそれ以外金は然程掛かっていない。

 

 そういうわけで、のび太はこの実験でロケット弾──後に火中車と名付けられる──が真っ直ぐ飛んだその瞬間からこの兵器を採用することを決めていたのだ。

 

 

「・・・のび太様がそう仰るなら」

 

 

「うん。・・・ああ、そうだ。防諜活動の方はどうなってる?」

 

 

 のび太はこの場に居る他の人間には聞こえないように曉の耳元に口を近づけ、小声でそう尋ねた。

 

 桶狭間の戦い以降、のび太の私兵集団の存在は周知され、雪花隊に入団したいと言ってくる人間が徐々に出てきていたのだが、そこには他国の間者も混じっていた為に容易に入隊させるわけにもいかず、かといって美濃攻略の為には組織拡大の必要性がある以上、完全に入隊を拒否するという訳にもいかない。

 

 そこで考えたのが、腹心である曉を一時的に実戦部隊から外し、更には五右衛門を顧問として桶狭間の戦い以前から居る人材で構成された防諜部隊を作り上げる事だった。

 

 これによって新規入隊した者の中に居るかもしれない間者の摘発と情報漏洩を出来る限り防ごうと考えたのだ。

 

 まあ、ノウハウが不足しているのと人数の関係からその防諜能力はあまり高くないと予想された為に最終的に新規入隊者は50人程に留めることで間者が入るリスクを出来る限り小さくすることにしたのだが、それでも1人か2人くらいは間者が入っている可能性があった為に、のび太は念のため、防諜部隊の責任者である曉に防諜活動の様子を尋ねていた。

 

 

「はい、今のところ間者らしき存在が入り込んだ気配は有りません。これは私だけではなく五右衛門様も同様の見解です」

 

 

「そうか、分かった。でも、油断しないでね。間者であることを上手く隠しているだけかもしれないし、仮に今間者ではなかったとしても金を積まれたら間者になる輩も居るかもしれないからね」

 

 

「心得ています」

 

 

「なら良いんだ。・・・ああ、それと“例の作戦”だけど、僕たちと美濃から亡命してきた人達だけで行うことが決まったよ」

 

 

「・・・幾らなんでもそれは無謀では?我々だけでは兵力が少なすぎます」

 

 

「分かっているさ。でも、“囮”の方も場合によっては進撃する必要があるから突破力のある勝家さんは抜けないし、かといって長秀さんはこの前の事を抜きにしても僕たちとは相性が悪すぎる。そして、犬千代は信奈ちゃんを守るために必要だから引き抜きは無理。他の家臣達は大半が論外。・・・僕たちと斎藤さんの家臣の人達だけでやるしかない」

 

 

 のび太はそう言いながら、苦虫を噛み潰したような顔をする。

 

 実はのび太は美濃を落とす戦略を既に考えていて、それを纏めた計画書を信奈に提出しており、その内容の大胆さに信奈は驚いたものの、リスクはあれどその分効果的であるのは認め、作戦そのものはすぐに承認された。

 

 ただ、問題となったのは作戦に使う兵力であり、当初は自分達と道三の家臣団、あとはあの一件(丹羽長秀の乱)に偶々関わっていなかった織田家の家臣とその配下の人間を使おうとしたのだが、道三の家臣団の方からは道三の説得もあって意外とすんなり了承を得られたものの、織田家の家臣達の方は取り付く島もなく協力を拒否してきたのだ。

 

 

「・・・あの一件の爪痕はそこまで大きいということですか」

 

 

「そういうこと。まっ、元々この作戦の性質上、大兵力の投入は不可能だったから兵力は最低限で良かったんだけど、その最低限の兵力すら確保できなかったのは結構キツいな」

 

 

「まったくです。織田家の家臣達も過去の遺恨なんか捨ててこちらに協力してくれれば良いものを」

 

 

 曉は吐き捨てるようにそう言った。

 

 そもそも彼女からすれば織田家の家臣達が自分達に抱く感情は逆恨みも良いところであり、そんな彼らの下らない感情で自分達が苦労する羽目になるなど堪ったものではない。

 

 だが、そんな曉の言葉に対して、のび太はこう返した。

 

 

「仕方ないさ。あの戦いではこっちの被害は0で向こうの被害は甚大だったんだ。過剰防衛だと思う向こうの気持ちも分からなくもない」

 

 

「ですが、あの戦いは私達もギリギリで勝ったようなものです!!」

 

 

「分かってる。でも、向こうは被害者の人数でものを見ているから僕達が余裕で勝ったと錯覚しているんだよ。例え僕達が幾ら余裕がなかったと言ったところで、それは“勝者の余裕”としか思われない」

 

 

「くっ!」

 

 

 曉はその指摘に悔しげな表情を浮かべながら歯噛みする。

 

 のび太の指摘は正しい。

 

 実際、丹羽長秀の乱ではのび太達はほぼ無傷の損害で織田軍に甚大なダメージを与えているし、その後、やって来た今川軍相手に連戦したにも関わらず、僅かな損害で本隊に大ダメージを与え、敵将を捕らえることにも成功している。

 

 これで余裕が無かったと言ったところで誰も信じないだろう。

 

 

「まあ、今のところ恨みの感情は長秀さんのところにも行ってるだろうから、気にする必要は無いさ。・・・もっとも、なにかあったら報復を考えなきゃならないけどね。それより曉、さっきからみんなが見てるよ」

 

 

「あっ、す、すいません」

 

 

 その言葉に周囲を見渡した曉は、先程自分が叫んだせいで他の幹部達から注目されることになっていた事に気づき、慌ててのび太に対して謝った。

 

 それに対して、のび太は『気にするな。そういうこともあるさ』と言いつつも、今回採用を決定したロケット弾の活用法について考え始めた。




のび太の現在の手持ち戦力

総戦力280人

・内訳

雪花隊130人。

川並衆150人(原作ではこの頃は100人余り程だったが、この世界では五右衛門が諸国を回るうちにどうやってかは知らないが、集めてきた結果、ここまで増えた)。

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