闇の魔法を使える武偵っておかしいか?   作:トナカイさん

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高畑先生視点、完です。

長い間更新停まってましたが、こちらもぼちぼち再開いたします。

UQもアニメ化しますしね。


装填31 高畑・T・タカミチの決意

「堕天使?」

 

目の前の彼女が言った言葉に僕は疑問を浮かべてしまう。

堕天使……確かに彼女はそう言った。

『死を司る冥界の女神』の眷属だ、とも。

黒いヒラヒラのゴスロリ姿をして、黒い翼を生やす彼女は確かに普通の人間とは言えないが、一般人ではない人間が集う武偵高(この学校)や麻帆良、そして……あの世界を知る僕からしたら別に珍しいものではない。

交換留学生や交流事業でこの学園島にもあの世界から魔族や魔法使い達が大勢来ているし、麻帆良ほどではないにしろ、『認識阻害』の術式が学園島一体にはかけられているからね。

だから、彼女みたいな『異形』な人物が存在することについては、僕は違和感なく受け入れられる。

だが。

 

「君の正体が天使だろうが、悪魔だろうがそんなことは気にしないよ。僕はね。ただ……君から出てるそれ(・・)は見過ごせないな」

 

彼女の身体から溢れ出す多量の瘴気。

あれはマズイ。

僕はあれに似た瘴気を知っている。

今から20年前、もう一つの世界(アナザーワールド)で起きた世界大戦。

その時に感じた禍々しい魔力。見たものを屈服させる圧倒的な威圧感。

それを目の前の彼女から感じてしまう。

なんなんだ。なんなんだ彼女は?

 

「見過ごすがよい。わらわには誰も敵わないのじゃからな」

 

「そういうわけにもいかないんだよ。僕はこの学校の教師だからね! 学校の治安を守るのも僕の役目だ」

 

ズボンのポケットに両手を入れて、いつでも攻撃できるように準備を終える。

 

「……無駄じゃというのに」

 

黄泉と名乗った女は口元を歪ませて笑う。

その笑顔を見た僕は全身に悪寒を感じてしまった。

なんだ、この感覚は?

か、体が動かない⁉︎

呑まれているのか! この僕が?

 

「お主では役不足じゃ。おとなしくしておれ」

 

「くっ、うおおおぉぉぉぉぉぉ」

 

気合いを入れて、無理矢理体を動かす。こんなところで、立ち止まってなんかいられない。

気と魔力の合一(咸卦法)』を発動させた僕は、自身が一番得意とする技を黄泉に向けて放つ。

 

____居合拳!

 

ドゴォォォオオオオオオ!!!

 

大砲の爆音のような音を鳴り響かせながら、僕が放った豪殺居合拳は黄泉にヒットした。

手応えはあった。

タイミングは完璧で確実に黄泉の肉体を捉えていた。回避は不可能。

完璧に決まった。その確信ならあった。手応えならあった。

そのはずなのに……!

 

 

 

 

何故、目の前の彼女は傷一つ付いていないんだぃ?

 

 

 

確かに手心は加えた。

武偵高で生徒に教える教師という立場にある以上、武偵という身分にもなっているからね。本気で居合拳は放てない。僕はここにいる間は『武偵』だから。

だから、『武偵法9条』の枷が僕にはある。

つまり、武偵高で教師をやっている間は僕にも、『人を殺してはいけない』という枷があるのだ。

だが、本気を出していないとはいえ、咸卦法を纏った僕の居合拳を受けて平然としているなんて。

……そんなことがあるはずない。

 

「ふん、なんじゃ今のは?

パンチの打ち方も知らんのか?

本当のパンチというものはな……」

 

黄泉はそう呟くと、ヒラヒラのスカートの中に手を入れ。

 

「こうやるのじゃよ」

 

そして、そう言った次の瞬間。

僕の体は強い衝撃を受けて吹き飛ばされた。

体に激しい痛みが走る。

今のはまさか……⁉︎

 

「滅殺居合拳……どうじゃ? 妾が放つ真なる居合拳の威力は?」

 

馬鹿な! いや、間違いない。

今のは居合拳……⁉︎

 

「クククッ、妾の前で技を見せたのがお主の最大の敗因じゃな。

お主の技、確かに貰い受けたぞ!」

 

まさか……僕の居合拳を真似された?

いや、落ち着け。偶々だ。居合拳はそんな簡単に取得できるようなものじゃない。それを誰よりも知っているのは他ならない僕自身じゃないか!

そうだ! 居合拳は血を滲むような努力を重ねて初めて使えるようになる技だ。

僕の居合拳がそんな簡単に真似されるわけない!

普通の居合拳が効かないのなら……これならどうかな?

 

「……っ、七条大槍無音拳(しちじょうたいそうむおんけん)!!!」

 

「クククッ! 無駄じゃ。七星冥王無音拳!!!」

 

咸卦法によって強化された無音拳の拳圧にさらに気を纏わせて極太のレーザービームのように放つ光の無音拳を繰り出したが、僕がそれを放つのとほとんど同じタイミングで黄泉も漆黒の極太レーザービームを放っていた。

ぶつかり合い、せめぎ合う二つの光線。

拮抗していると思いきや、僕が放った光の無音拳は漆黒の無音拳になす術なく押されてしまう。

極太のレーザービームを僕はその身に浴びてしまう。

(うおおおぉぉぉぉぉぉ!!!)

気合い防御で、全身を鋼のように硬くして技のダメージを緩和させるが……ダメだ。

防ぎきれない。魔法が使えない僕は防御魔法陣や回復魔法、魔法による身体強化などは全くできない。

できるのは気を体に纏い、煉り鋼のように硬くすることだけ。

だが、いくら鋼のように硬くしてもダメージを無くすことなどできはしない。

だけど、こんなところで倒れるわけにはいかない!

約束したからね。光君と。『彼が来るまで時間を稼ぐ』と。

生徒に教える立場の教師が生徒とした約束を破るわけには……いかないんだ!

痛む体に鞭を打ち、無理矢理動かし、足腰に力を入れて僕は……ボロボロになりながらも耐え抜いた。

 

「はぁはぁ……マズいな」

 

居合拳も七条大槍無音拳も効かないか。

これはマズい。大技を使えば使うほど、手の内を晒せば晒すほど僕は不利になっていく。

こちらの攻撃は届かないのに、相手の攻撃は確実に僕に届く。

それも僕が放つより遥かに強力になって返ってくる。

これは効くね。

やられたよ。戦場で一番簡単に相手を無力化するのに一番簡単で、確実な方法をやってきたな。

それは……相手の心を折ること。

戦意を喪失させることさえ出来ればその者は戦わずにして勝者となる。

古典的だが、有効で確実な方法だ。

全くしてやられたよ。

だけど……

 

僕には逆効果だったね!

 

____無音拳、無音拳、居合拳、無音拳、無音拳、居合拳、無音拳、無音拳________!!!

 

拳圧で相手を吹き飛ばすただの無音拳と、咸卦法で強化された豪殺居合拳をランダムに繰り出して、黄泉に読まれにくくする。

 

「ぬっ、馬鹿な……ナゼじゃ? ナゼ……主の心が、行動が読めないのじゃ?」

 

それはね、黄泉。

心を落ち着かせたからだよ。

昔、アスナ君が言っていたんだ。

咸卦法を取得するコツは心を落ち着かせること、だって。

何も考えず、頭を空っぽにする。それはつまり……仲間を信じて戦うってことだと思う。

そう考えただけで僕は。僕の咸卦法が強くなったのが解る。

 

「喰らいなさい、千条閃鏃無音拳(せんじょうせんぞくむおんけん)!!!」

 

超高速で放つ無音拳による弾幕。その名の通り、千の拳を相手に叩き込む無音拳最大の技だ。

これに耐えられる人はそうそういない。

その超高速の拳を繰り出す。

ドガドガドガ、ドガァァァン、と爆音が鳴り響き僕が放った最速の無音拳が黄泉にクリーンヒットした。

城の床を砕き、大穴が空く。

舞い上がった土煙によって、視界は遮られてしまう。

 

「……やったか?」

 

手ごたえはあった。躱された様子もない。

今度こそは……そんな手ごたえは確かにあった。

あったのに。

 

「効いていないか。頑丈だな」

 

煙が晴れた後、そこには無傷姿の堕天使が直立していた。

 

「ふっ、ふふふ……ふはははっ!」

 

黄泉が笑う。笑い続ける。そして、笑うのをやめる。

笑いをやめた黄泉は眼光を鋭くし、僕を睨む。

 

「なかなかやりおるな。ただの人間風情が!」

 

黄泉が片足を上げ、床を踏んだそれだけの仕草をしただけで、ドン、ととてつもない衝撃、破壊力を生み出す。

僕はその余波を受けただけで、後退せざるを得なかった。

 

「妾が持つ能力の一つである、『深淵を覗く者』。お主らが解るように言うと、心を読む力を破るとは流石はなかなかやりおるな。じゃが、妾が持つ力はそれだけではないぞ? 108つある妾の技を受けてみよ! 次は……この技がいのかのぅ。『紫鏡』!」

 

黄泉の身体が発光した。紫色の光が広がり、やがて収まると僕の前には見知った顔の人物がいた。

それは……。

 

「し、師匠……?」

 

僕の師匠、ガトウ・カグラ・ヴァンデンバーグその人だった。

馬鹿な! これは幻だ!

師匠がいるはずない。だって、師匠は……。

 

「師匠がいるはずない。だって師匠は……」

 

「『ああ、そうだ。死んだ。高畑少年、君のせいで死んだ』」

 

「っ⁉︎」

 

「『『黄昏の姫御子』を麻帆良まで連れて行く道中、君のミスのせいで死んだ』」

 

「僕は……僕は……」

 

「『君が殺した』」

 

「ウワァァァァァァ」

 

頭の中に蘇るのは僕が生きてきた人生の中で犯した最大の過ち。

師匠の最期の場面。

アスナ君を麻帆良まで連れて行く道中、僕が犯したミスによって、師匠は殺された。

僕のせいで、師匠は死んだ。

償いきれないほどの過ちを僕は犯してしまったのだ。

これは報いなのかもしれないな。

僕に人を愛する資格はないと、アスナ君に告げたが。

それは僕は敬愛する師匠やナギ達、『完全なる世界(コズモ・エンテレケイア)』残党との戦いで救えなかった人々……彼らを救うことが出来なかった『英雄になり損ねた男』だからだ。

師匠……僕は。僕は本当は貴方みたいになりたかった。

貴方のような英雄に。

全てを諦め、両目を閉じた僕だが、何故か。

何故かはわからないが、その時、師匠が言った最期の言葉を思い出した。

 

『ドジった。気にするな。これは俺のミスだ。……1つ頼みがある。嬢ちゃんの記憶消去の件だけどよぉ。……俺の記憶だけ……念入りに消してくれ』

 

なんで最期にあんなことを師匠は言ったのだろう。

自分の存在を全否定するかのような、あんな言葉をなんで残したのだろう。

わからない。僕には師匠……あなたの考えはわかりません。

 

『嬢ちゃん、アンタには幸せになる権利がある』

 

ああ、そっか。師匠がいいたかったことが今なら少しだけわかる気がする。

僕は師匠のような英雄にはなれない。

ですが……。

これだけはハッキリわかる!

 

「師匠、貴方はアスナ君に心から幸せになって欲しかったんですね」

 

何故か、師匠から常日頃言われていた言葉を思い出す。

 

『なあ、タカミチ。強さってなんだと思う?』

 

師匠の問いかけに僕は思い浮かぶありとあらゆる強いものをあげていく。

しかし、師匠はその答えには首を振った。

 

『力の強さ? 魔法が使えること? 頭の良さ? どれも違う。本当の強さっていうのは案外簡単なものなのかもしれないぞ? ナギやラカン達のような馬鹿を見てるとな、よくわかるんだ。本当の強さっていうのは……』

 

「諦めない心。才能の良し悪しじゃない、心の強さ。そうだ、僕が諦めるわけにはいかないんだ!

僕は教師だ。今は武偵高生(この学校の生徒)に教える教師なんだ。『武偵憲章第10条。諦めるな。武偵は決して諦めるな』。教師の僕が諦めるわけにはいかないんだ____!!!」

 

僕は目の前にいる師匠に向けて最大限の敬意と感謝の意を込めた無音拳を放つ。

 

「貴方は師匠じゃない!!!」

 

____千条閃鏃無音拳!!!

 

戦車榴弾のような轟音を轟かせて、師匠の偽物を吹き飛ばす。

 

「『なっ、なんだと⁉︎ 何故だ、何故立ち上がれる? 何故立ち向かえる⁉︎』」

 

「人間を、師匠を、『紅き翼』を、僕を、そして、武偵を甘くみるなぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

「『そんな馬鹿な……こんなことが……ァァァ』」

 

消失する師匠の偽物。

僕はその偽物師匠に向けて、最期の別れを告げる。

 

「師匠、ありがとうございました。これで僕は先に進めます」

 

ポケットから煙草(マールボ◯)とライターを取り出し、(黄泉)がいる前でも構わず一服する。

 

「……もうよいのかのぅ」

 

「待ってくれたんだね。ありがとう。さあ、続けようか?」

 

「紫鏡……一番不幸な時を見せる闇属性の魔法。それを自力で克服するとはお主、やはり面白い奴じゃのう」

 

不敵に笑う黄泉の姿に、僕は警戒レベルを最大に引き上げる。

その時だった。

 

「ご無事ですか、高畑先生」

 

白い翼を羽ばたかせた刹那君が城外を飛び回る姿が目に入った。

 

「ほう、新手か。どれ、面白いものを見せてやろう。『黒雷招来』!!!」

 

黄泉が呪文名を口に出した瞬間、城外に爆音が鳴り響く。

嫌な予感がした僕が城の窓から外を見ると、城外の庭園で蹲る刹那君の姿を発見した。

僕はすぐさま刹那君のもとへと、駆け寄る。

倒れた彼女に話しかけると……よかった。意識はある。

 

「……っ、す、すみません。高畑先生……」

 

「大丈夫だ。後は僕に任せて安心しなさい」

 

僕は自分の心が乱れているのを感じながらも、それを制御できずにいた。

僕の大切な生徒に手を出されたのだ。

 

「覚悟は出来てるんだね、黄泉」

 

「ふふふふふ、あはははは! なんじゃ、なんじゃ、そんなにその女子が大事なのかぁ。

なら、きちんと守ってみせよ。『黒雷招来』!!! 」

 

黄泉が呪文名を呟いた瞬間、上空から漆黒の雷が降り注いだ。

 

「ぐがががああああああぁぁぁぁぁぁ……」

 

「あはははは。あはははは……なんじゃ、たわい無い。所詮、人間風情。妾の敵ではないな」

 

身に降り注ぐ、何十発もの黒い雷。

その雷の威力は千の雷と同等。

いや、それ以上だ。

このままではマズイ。

そう判断した僕は刹那君に覆いかぶさる。せめて。せめて彼女だけでも守らないと……そう思っていたが。

おや? 落雷が止んだ?

たった今まで降り注いでいた落雷が止んでいた。

何が起きたのかわからず、思わず上空を見た僕は目を見開いた。

そこには。

 

 

 

「____待たせたな、先生。

後は任せろ!」

 

 

 

白い雷を迸らせながら、雷の魔法を身に纏う。左右の手にそれぞれ長槍とおそらく雷で出来ているのであろう刀のようなものを持つ光君の姿があった。




タカミチ先生はなんだかんだでチーターだと思うのですよ。
いつか、無音拳VS不可視の銃弾とか書いてみたいなぁ。

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