救われズの手   作:救われ⬜︎

2 / 5
 先日、〇〇駅ホームで成人〇性と列車の人身事故がありました。成人⬜︎性は〇〇△
 酔っ払いった〇⬜︎代の〇性が意識を失神したところ、この前にいた成人⬜︎性にぶつかり線路内へ転落したそうです。この〇⬜︎代の〇性は………


雨の日、煙草に伸びる手

 

 

 一時的な狂気がある。

 

 誰しもが抱く無垢な狂気。

 

 親しい人が死に、大切なものを失い、光を見失った時現れる。

 

 誰しもが抱く純粋な狂気。

 

 そんな狂気は人を壊す。

 

 誰しもが制御できると思うなかれ。

 

 持つ人よ、救いを。

 

 狂えず、狂う人に救いを。

 

 それでも、狂気に呑まれた者の自己責任なのです。そう、“アナタ”が悪い。

 

 

⬜︎◇⬜︎◇⬜︎

 

 

 死柄木弔、彼はNo. 1ヒーロー、オールマイトを殺す夢を持っているヴィランだ。

 

 そんな夢に誰もが言うだろう。無理だ。不可能だ。お前が捕まるだけだ。と、十人十色の反論が飛んでくるだろう。

 

 死柄木は普段は薄暗いバーの様なアジトに居るが、今日は曇り、腐った天気だと気分転換に街をふらついていた。

 

 この散歩に意味はない。誰に言われたわけでもなく、気晴らしという訳でもなく、ただ歩いているだけだ。腐った思考をクルクル練りながら歩くだけだ。

 

 彼は一般的言えば“クズ”というか、逸般人、狂人、救い難い阿呆、と言えるだろう。

 

 なんせ、ヒトを壊す事が夢なのだから。

 

 何か思いつく訳でもなく、歩いていると空が更に暗くなっていた。死柄木はヒキニートのガリガリタイプの不健康な体を持っているが、見た目と裏腹に体力はあるようで、彼自身が思うより長い距離を歩いていたことに気がついた。

 

 気がついた時には時遅く、ザーザーと雨が降り始めていた。クソッタレ、そう吐き捨てて雨宿りできる所を探し始めた。

 

 

 

⬜︎◇⬜︎◇⬜︎

 

 

 

 手入れされていない髪の毛が完全に濡れ切る手前、死柄木は路地裏に屋根付きの喫煙所を見つけた。

 

 まぁ、いいかと喫煙所に入る。死柄木は側から見て成人している様には見えないが、昼間にふらつくボロボロの人間など、不良にしか見えないだろう。例え子供でも、喫煙所に入る彼に誰が手を伸ばすというのだろうか。

 

 入ると1人だけ先客が居た。

 

「…ガキ、ここは喫煙所だ。副流煙吸いたくなけりゃ他の所に行った方が良いぞ。」

 

 そう言って、咥えていた煙草を手に持つと、死柄木の居ない方に煙を吐き出した。

 

「あぁ?舐めてんのか?」

 

 と言葉を無視して喫煙所の内のベンチに座る死柄木。

 そう言う訳じゃねぇよ。元気いいなオイ。と先客は言う。

 

「ガキ、オメーはまだ将来がある。煙草の毒を嗜むには少し早い。」

 

 そう言って煙草の火を消す先客。

 

 誰が見ても幼子を見守る大人の1人だった。その行為に言いようの無い苛立ちを覚える死柄木。

 

「なんだぁ?善人振りやがっててめぇ…」

 

「一般成人には未成年に対して善人振る義務があるんだよ。この国にはな。知らんのか?」

 

 なんだその言い分…うぜぇ、と顔を酷く顰める死柄木。

 

「知らねぇよ。さっさとこっから出てけ」

 

 死柄木はそう先客に言い放つ。

 

「安心しろ。警察やオマエの学校に連絡する気はない。」

 

 電源切らしちまったし。と言いポケットから携帯を取り出し、死柄木に画面が見えるようボタンを何度も押す。

 画面は真っ暗なままだった。

 

「だからなんだよ。」

 

 死柄木としては、この目障りな先客が早く消えて欲しかった。

 

「あ?気の済むまで此処に居れば?ってだけだ。雨宿りしにきたんだろ」

 

「テメェが他所行けって言ったんだろうが…ふざけてんのか…?」

 

 先の言葉と真逆の事を言う先客に苛立つ死柄木。

 

「ふざけてねぇよ。ガキが喫煙所来たら帰れって最初に言うわ。毒が蔓延してる所に居るよう催促する奴がいるわけないだろ。」

 

 ましてや個々は屋根付きだ。煙はよく篭る。と言い、喫煙所の窓から道を見る先客。

 

「このヤロウ……‼︎」

 

 周りに誰も居ない道外れの喫煙所。雨で外からは中はよく見えない。湧き上がる苛立ちに身を任せる前に確認をする死柄木。

 死柄木は個性を使う為、立ち上がり手を大きく開いた。

 

「にしても、くそみてぇな天気だな。」

 

 喫煙所のベンチ座ったまま呟く先客。

 

 その一言で、開いた手の力を抜いた死柄木。何故辞めたのか、憂鬱そうに言う先客に同感したのか、此処で1人孤独な様には見えてしまったのか、毒気が抜かれたのか、死柄木は此処で個性を使う必要は無いと判断し、ベンチに乱暴に座り直した。

 

 

 

⬜︎◇⬜︎◇⬜︎

 

 

 

 先客の呟きから幾許かかたった。此処には時計が無いので明確にはわからない。だが、死柄木の髪の毛が大分乾いてきた事を見るにそれなりには時間が過ぎたようだ。

 

 しかしこの時間、2人は何も話さなかった。先客は外を見て退屈そうに座って、死柄木は貧乏揺すりを時折して苛立つを覚えながら過ごしていた。

 

 そんな時間を過ごしていると、雷が鳴り更に雨脚が強くなった。

 

「うおっ、雷か…こりゃ当分帰るのキツそうだねぇ…はぁ…」

 

 酷く怠そうに呟く先客。

 余りの退屈に疲れたのか、死柄木は無意識のうちに聞いていた。

 

「煙草は吸わないのか?」

 

 その言葉に先客は目を少し開く。

 

「吸わない。」

 

「吸えよ、オレは気にしない」

 

「ありがたいが、吸わない」

 

 その言葉にカチンとくる死柄木。オレが気を遣ってやってんのに無下するとは何事かと苛立つ。

 

「煙草は吸えば気持ちがいい。だが、吸っている瞬間以外はクソたれな時間になる。身体能力は落ちるし、怠いし、煙草は吸いたくなる」

 

「ヤケに饒舌だな矛盾クソヤロウ」

 

 自分みたいな被害者を減らすためさ、とぼやく先客。

 

「にしても、止む気配がないなこの雨」

 

 仕方ねぇ捨てるか…と、灰皿に乗せていた火を消した吸いかけの煙草を手に取り、握りこむとその姿を灰に変えた。

 

 その様子を見て目を見開く死柄木。

 

「…オイ矛盾ヤロウ。お前の個性はなんだ。詳しく答えないと殺す。」

 

 どうした急に?まあ良いけど。と死柄木の質問に答える。

 

「自分の個性は“劣化”。掌で触る範囲が広い程早く、小さい程更に早く劣化させれる。」

 

「劣化…」

 

 火を吹いたり、水を操ったり、身体が変化したりするこの現代においても、劣化など、物を壊す事を得意とする個性はそう多くない。

 

「珍しいだろ?昔は自分ツエーとか思ってたよ。小学生頃、持ち方が下手くそでね、よく鉛筆握ってしまって灰にしたさ。」

 

 立ち上がり、灰皿の上で手を叩き元煙草を払う先客。

 

「ただ、鉛筆が限界だった。成長しても鉛筆の芯を灰にするので精一杯だったね。勝手になるから、消しゴムも灰にしちゃって良くため息ついてたよ。」

 

 再び同じ場所のベンチに腰を下ろして、退屈そうに外を見る。

 

「そうか…」

 

 猫背になり、手を顎に当てて思考している死柄木は、この“劣化”の上位互換であるような個性をもつ。だからこそ共感出来るところがあった。

 だが、裏腹に個性の扱い方が下手すぎるとも思った。

 

「…矛盾ヤロウ、お前は何故制御の練習をしなかった」

 

 言葉に対しため息をつく先客

 

「“出来なかった”」

 

「結果を聞いてるんじゃねぇよ」

 

「言葉が悪かったか、制御をする器官、臓器がなかった。あれだよ、異形型の個性と一緒。個性を育てるとか制御するとかの話じゃ無い。掌の皮膚が“劣化”という個性なんだ。」

 

 おわかり?そう言って背伸びする先客。それを死柄木は無視して続ける。

 

「…つまり、お前の掌は爪が硬いように、皮膚が劣化させる力があるだけ。って事か」

 

「そういうこと、キミ凄いね今まで1番わかりやすい説明だ。これからはその説明使わせてもらうよ。」

 

 制御出来たら多分ヒーローとかなれたんやろうなぁ。と先客は言う。それに対して死柄木が言う。

 

「お前はヒーローになりたかったのか?」

 

「いいや、全く。ただ、ヴィランになりたいとも思ってないよ」

 

 そう言って煙草のケースを出す先客。よく見ると所々変にケースが破れ、中身が見えている。死柄木の方を向くとすぐにしまう。吸いたくなって無意識に出したのだろう。

 

「若い頃の話だけど、酔っ払って気付かないうちにお店のモノを灰にして、ヴィランとして警察に捕まった事はあるけどね。」

 

 あればかりは自分のせいじゃないんだけど…と嫌そうに言う。

 

「少しばかり、自分語りをし過ぎたね。」

 

そう言い終えて死柄木を見ると不思議そうな、苛立っているような、訳がわからないといった複雑な顔をしていた。

 

「キミ、どうしたそんな顔をして」

 

「あぁ?うるせぇ…ただ」

 

 死柄木はそんな顔を今しているのかと、自身で不思議に思った。

 

「ただ?」

 

「フツーはヒーローになりたいって奴か、ヴィランになる奴だ。」

 

 ヒーロー。人に優しく、人を救い、皆の憧れとなる職業。

 ヴィラン。己の欲の為、己の目的の為、社会等に囚われず個性を用い、違法行為を行う者たち。

 大抵の人はヒーローになりたい思い、ヴィランになりたいと思う人が少ないのは、ヴィラン的行為が違法でかるからこそ。

 明確に法が作用しているからだ。

 

「キミ、一般人はどこ行ったんだよ。」

 

「そんな有象無象なんてどうでも良いだろ」

 

「…成る程。確かに有象無象だねぇ、一般人は」

 

 だけど、と付け加え

 

「一般人は頑張ってんだ。ヒーローにも、ヴィランにも負けないくらい。それに気付かない奴はダサい。センスが皆無だ。」

 

 だからキミ、覚悟するといいよ。と先客はベンチから立つ。

 

「良いかい、1番カッコいい奴ってのは1番ダサい状態でも、1番前を向いているんだ。それが違法であれ、なんであれ」

 

 死柄木の前を通り越して言う。

 

「だから、前を向いてることは死ぬより辛い。耐えられる奴はそんなにいないんだ。」

 

「キミはどっちなんだろうね。」

 

 そう言って先客は雨脚が弱まった街へ溶け込んだ。

 

 

 

⬜︎◇⬜︎◇⬜︎

 

 

 1人残された死柄木は訳がわからないと席をたった。

 

「なんだったんだアイツ…」

 

 帰り道一人でそう呟いた。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。