救われズの手 作:救われ⬜︎
禁煙をするならコレ!
広告の隣、ゴミ箱に新品のレシートと煙草の箱があった。
優しい人とはどんな人か。
貴方達は多くの答えを持っている事でしょう
それでも、本当に優しい人とは傷を背負っている人なのです
誰にも見えない様、誰かが同じ傷を負わない様、誰にも気づかれない様すごして居るのです
優しい人は救われるべきでしょう?
でも、誰も気付かないし、誰も優しい人に手を伸ばさないでしょう
それが溢れ落ちた人たち
救われた人たちを羨み、妬み、それを隠し、心で増幅して傷つく
ねぇ?持ってる人よ。
アナタたちが良い
⬜︎◇⬜︎◇⬜︎
ヴィラン、ステインこと赤黒血染は街外れの喫茶店のテーブル席でモーニングを食べてに来ていた。
どんな人であれ、個性の一言で体の異変は説明できる世の中。多少怪しくても個性の影響なのだろうと勝手に納得する人が殆どだ。
しかし、それでもステインというヴィランはヒーロー殺人鬼であり、活動している姿は不審者そのものだ。故に最低限の変装はしている。
長袖でダボダボな大きなTシャツにズボン、そして不織布マスク。そして、剣道部が使う様な竹刀を入れる為の縦長いバック。
鼻が無く、顔が平坦すぎる彼にとって不織布マスクが鼻の形に曲がっていれば、それだけでステインだと判断することは困難だろう。
ヴィランが野宿すると言えど、何処かで水を浴び、最低限の清潔程度は殆どの者が保っている。
ヒーローに見つかりたくなければ清潔を保て。人混みに紛れろ。
長く活動するヴィランの殆どは、大きな組織から支援を受けていたり、見つからない様、ウォーリーを探せの如く街に溶け込むのだ。
ステインもその後者の一人だ。
“こちら、コーヒーとモーニングになります。”
そうしてテーブルに並べられたコーヒーを一口飲み、モーニングで出されたパンを一つ齧った。
一口食べて息をついた時、店員が戻ってきた。
“申し訳ありませんお客様、現在店内が非常に混み合っておりまして、合席の方を願いたいのですがよろしいですか?”
もうそんな時間かとステインは思い、腕時計を見る。
針は出勤ラッシュの時間帯を指し示していた。
ここで揉める事もないと考え
「ハァ…問題ないです…」
“大変ありがとうございます”
店員がそう言い戻る時に、流石に五月蝿いのだけは勘弁願うなと、定員を引き留めた。
「すみません…ハァ…相席は個人だけで…お願いします…」
“えっ、あ!はい、かしこまりました。個人様がいらした時、合席の方お願いさせて頂きます。”
ハァ…お願いします…と店員を返し、コーヒーもう一度飲み。騒がしくなった店内の音を無視して時間を過ごしていた。
⬜︎◇⬜︎◇⬜︎
コーヒーの量が半分に達した頃、店員が合席の願いをしてきた。ついに店の座席がパンクし始めたらしい。ステインは快諾した。
店員は個人で異形型個性でない人を連れてきた。
“合席お願い致します。ではごゆっくり。”
お冷やを連れてきた客に店員は出して戻っていった。
「…えっと…合席ありがとうございます」
「ハァ…いえ、お気になさらず…」
案内されてきた相席相手と最低限の挨拶を交わし、ステインは新聞をとりに行くことにした。この旨を相手に伝え席を離れる。
見出しがよく見える様、棚に並べられた欺瞞に満ちた新聞を一覧し、最もまともそうな新聞を手に取り席へ戻った。
戻ると、ちょうど相手が注文を済ませた様で、ステインと店員が入れ替わりで席に座った。
新聞を最低限の広さで広げ、記事を流し読みしていく、どれもこれも腐っているなと心の中で溜息をつく。
「あっ!」
突然、相手が叫ぶと、ステインの持っている新聞とズボンがずぶ濡れになっていた。
思わずハァ…と溜息が漏れた。
⬜︎◇⬜︎◇⬜︎
どうやら、お冷を運んでいた店員と会計しようと立ち上がった隣りの客がぶつかった様で、その被害が全てステインに降りかかった様だ。
誰にでもある不注意が起こした悲劇。
定員が謝る最中、相手がくれたポケットティシュとタオルで濡れた部分を拭いていた。
幾ら偽物のヒーローに厳しいステインと言えど、一般の事故には寛容な様で。“問題無いです…ハァ…”と流していた。
「タオルとティシュ…ありがとうございます…ハァ…」
「あ!全然大丈夫ですよ。」
と相手は手を上げ、軽く会釈をしてきた。
感謝を交わす中、店員が相手側の注文の品を持ってきた。
店員は品の確認を済ますと、先程の件について改めての謝罪と合席の感謝を含めて、付け合わせのお菓子をステインへ2つ持ってきた。
ステインは2つは要らないな、と相手側に一つタオルとティシュのお礼として渡した。
「これ…どうぞ…ハァ…2つは食べれないので…」
「あ、えっと、…ありがとうございます」
そうして相手は受け取ったお菓子をコーヒーの横に置くと、小さな声で呟いた。
「…優しい方だなぁ…」
ステインはお冷を飲もうと、コップを手に持って硬直した。
相手はその様子に気が付いて、どうかされました?と言う。
「…あぁ…いや、思いもしない言葉が聞こえたので…ハァ…」
ステインは気にしないでくださいと、お冷をテーブルに置く。
相手は一瞬不思議そうな顔をすると、はっと何かに気付いた表情になる。
「…声、漏れました?」
「…えぇ」
恥ずっ…と顔を手で覆う相手。
何を反応するわけでもなく、ただ真顔になるステイン。
「…あの、全然気にしてませんし、普通の人は言われてると嬉しいと思いますよ…」
余りに気恥ずかそうにする相手に慰めというか、悪い事をしていないし、誇れる事をしているのに謝られても困るステインはそんな言葉をかけた。
「アハハ…ありがとうございます。」
手を後頭部に当てながら、相手は、はにかんだ。
⬜︎◇⬜︎◇⬜︎
それから、特に言葉を交わす事なくお互いの食事を進め、気がつけばカップの底が見えていた。
「すみません、相席ありがとうございました。本当に助かりました。」
「お気になさらず、当然の事をしただけですので…ハァ…」
相手の方が後に来たにも関わらず、先に退店する様だった。
お礼を言ってきた事はステインにとって非常に好印象だった。最後まで謙虚で、物腰が柔らかく、常識がしっかりしてる人であった。
「それでも、ああした対応が出来る方は、そうそう居ませんので、その、尊敬してしまいました。」
アハハと気恥ずかしそうにする。
「改めまして、相席ありがとうございました」
相手はそう言って軽く会釈をしてから、自身の伝票を持って席を立った。
ステインは相手に会釈を返して、無意識のうちに相手が退店する迄、目で追っていた。
特に意味はなく、思考に入る訳でもなかった。
⬜︎◇⬜︎◇⬜︎
茶菓子を食べ終え、お冷の氷が溶けきり、ステインは伝票を持って会計をしに行った。
定員が会計をする数秒、相席相手を思い出していた。
あんな奴がヒーローであって欲しかったのだろうか。
値段を言われ、現実に意識を戻して支払いをする。貰ったレシートをレジ横のゴミ箱に捨てて退店した。
街を歩いて思った。しかし、それではヒーローでは無いな。