ミト、アスナ、ネズハの3名が《体術》習得クエストを受けてから2日後。
カイとキリトは、《攻略組》の一団に紛れてボス部屋の目に居た。
「ミト達は間に合わなかったか……」
「………みたいだな」
この2日間、キリトは心ここにあらずと言った具合で、攻略は真面目にやっていた物の、何処かやる気が無さ気だった。
そんなに気にしてるなら、様子見に行けばいいじゃんっとカイは思ったが、思いの外、キリトは頑固だったらしく、カイが誘っても頑なに様子を見に行こうとしなかった。
「よぉ、まるで《実家に帰らせて頂きます》って書き置きを見た旦那みたいな顔してるぞ」
そんなキリトに、黒人の斧使い“エギル”が声を掛ける。
「アンタか……別に俺たちはそう言う関係じゃない。それより、前回のボス戦は助かったよ、今回もよろしくな」
「それはこっちの台詞さ。所でなんだが、お前さんたち俺たちのパーティーに入らないか?俺たちは4人だし、お前さん達が良ければなんだが……」
「え?いいのか?」
「俺たちは」
「《ビーター》と《
ニヒルな笑顔で、エギルは手を差し出す。
「じゃあ、お言葉に甘えるかな」
「よろしく頼むよ」
カイとキリトは、エギルの手を取り礼を言う。
後ろにいるエギルの仲間たちもカイとキリトの2人を快く迎え入れた。
「ところで、そのパラサイトってなんだ?」
「知らないのか?お前さんの嫌な二つ名だよ。《ビーター》に寄生して楽して美味しい思いをしてるから、《
「なるほど。俺にピッタリだな」
カイは、《
「それで、あんた達の役割は?」
「俺達H隊はG隊と取り巻きの相手だとさ。ボスはリンド派とキバオウ派で独占されてる」
「取り巻きって《ナト・ザ・カーネルトーラス》をか!?アレは中ボスぐらいだぞ!それをたった2部隊で相手しろってのか!?」
「大方、リンドとキバオウが、自分たちが確実に
「違いないだろう。ディアベルの野郎が見たら、頭を抱えそうだな」
エギルは肩を竦め、そう言う。
「………それで、G隊ってのは?」
キリトは、取り巻きを相手するもう1部隊のG隊について尋ねる。
「アイツらだ」
エギルが指さす方向には、《
《
「自分たちもボス担当に混ぜろってゴネてんだ。攻略集団で存在感を示そうとしてるって訳さ」
エギルの説明を聞きながら、キリトは険しい目つきで《
ネズハは、強化詐欺の一件は自身の独断だと言っていたが、キリトはそう思っていなかった。
あれは、ネズハが仲間を庇う為の嘘で、実際は《
そう思ってると、ゴネてる仲間たちを宥めていたオルランドが、キリトの視線に気づき近寄って来る。
「卿らが、我らとナト大佐の相手をするH隊であろう?差し支えなければ、卿らに加勢したい、どうだろうか?」
ボス攻略戦パーティーメンバーに入れろとゴネている仲間たちを他所に、オルランドは取り巻き担当であることに不満を持っていないのか、笑顔でそう言った。
「ちょ、ちょっとオルランドさん!そんなんじゃいつまで経っても俺達《攻略組》に追いつきませんよ!」
「そうですよ!ただでさえ、俺たちは出遅れてるのに!」
「そんな度量の狭い事を言ってどうする!伝説の勇者の名が泣くぞ!」
「でも、もう2層まで来てるのに………」
不満を言う仲間たちに、オルランドは指を2本立てる。
「まだ2層ではないか。この上には、98層もまだある。焦らずとも良い、いずれ分かる日が来よう………誰が、真の勇者なのか」
オルランドはそう言って、再びカイ達を見る。
「と言う訳だ!ぜひ、よろしく願う!」
「よろしく頼むぜ、オルランドさん」
「期待させてもらうよ」
「あ、ああよろしく頼む」
エギルとカイが普通に挨拶をするので、キリトも挨拶を返す。
「黒衣の剣士殿に、紅衣の剣士殿の事は覚えている!先のフィールドボス戦ではなかなかの武者ぶりであったからな、既に二つ名で呼ばれているのも納得の強さであった。由来は存じていないが確か《ビーなんとか》と《パラなんとか》だったと思うのだが………」
「《
オルランドがカイとキリトの二つ名を思い出そうとしてると、エギルがそう言った。
「そうであったか!では、《ブラッキー》殿、《スカーレット》殿!心配されるな!我ら《
オルランドは芝居掛かって台詞を言い、自身の剣《スタウトブランド》を抜く。
「いや、それ《スタウトブランド》………」
「まぁまぁ、野暮なこと言うなよ」
訂正しようとするキリトに、エギルは声を掛ける。
キリトは頭を掻きながら、オルランドの様子を見る。
まるで子供の様に無邪気でいるオルランドに、まさか本当に強化詐欺の事を知らないのではと思った。
あんなことをやらせておいて、ここまで無邪気に居られるとはキリトは思えなかった。
だが、オルランド以外の《
そんなこんなで、担当調整が済み、リンドが扉に手を掛ける。
「よし!では俺達の勝利の扉を開けるとしよう!」
「ちょっと待ってくれ」
だが、それにエギルが待ったを掛けた。
「俺たちは前回の攻略戦で攻略本の情報を前提にし過ぎていた。その結果、攻略は失敗し掛けたんだ。第1層の時と同じように、βテストの時と違う変更点があると見た方がいいんじゃないか?」
「む、無論だ。少しでも事前情報と違うことが起きたら即時撤退。戦略を練り直す。そのつもりだ」
リンドの言葉に、エギルは納得し下がる。
「よし……では、改めて扉を!」
「ちょお待ってんか!」
すると、今度はキバオウが止めた。
「なんだ!」
「攻略本頼りはアカンのはワイも同じや。ゆうたら悪いけどあれを作ってるんわ、ボス部屋に入ったこともない情報屋や。そんなもんより、この中に確実に自分の目でボスを見た奴がおるはずや、そいつに聞かん手はないな」
そう言いながらキバオウの視線はキリトの方を向いていた。
「ビーターはん!ボス攻略にあたってになんぞ一言喋ってくれへんか!」
第1層では、βテスターの事を糾弾していたキバオウが、βテスターのキリトを頼る発言をしたことに、キリトは何のつもりだと訝しむ。
「……少なくともβでは雑魚トーラスと攻撃パターンは同じだった。ただ、《ナミング》をはじめとしたデバフ攻撃を2重で食らうのだけは避けてくれ。《
キリトは、死んでいった、というのは口にはしなかったが、皆察しはついたらしく、表情が僅かに緊張を帯びる。
「2発目は絶対回避。それを最優先にすればええってことやな。ほな始めよか」
「あ、こら!勝手に扉を!――皆いくぞ!」
リンドはそう言って、扉を開けた。
情報通り、ボス部屋の中にはフロアボスの《バラン・ザ・ジェネラルトーラス》と、取り巻きの《ナト・ザ・カーネルトーラス》しかおらず、情報は概ね正しかった。
カイ達取り巻き担当も上手く連携が出来ており、着実にナト大佐にダメージを与えていた。
「3連撃!来るぞ!」
キリトが指示を出し、エギル達が攻撃を受ける。
「ブラッキー先生!スカーレット先生!」
「分かった!」「任せろ!」
エギル達がナト大佐の体勢を崩した所を、カイとキリトが攻撃をする。
連撃技を同時に叩き込み、ナト大佐のHPが目に見えて減る。
その瞬間、ナト大佐は《ナミング》の態勢に入った。
「《ナミング》来るぞ!アスナ!」
キリトがアスナの名を叫んだことに、一瞬全員がぽかんとする。
が、すぐに何かを悟って全員がにやにやとする。
「くっ……!とにかく回避!」
キリトは羞恥に顔を真っ赤にしながら叫ぶ。
全員の回避が間に合い、G隊、H隊、共に《
「デュレイ入ったぞ!G隊、スイッチ!」
「承知!《
オルランドの声を合図に、《
「キリト、アスナが居なくて寂しいのか?」
「そんな訳ないだろ!ただ、ここ数日の癖が抜けてないだけだ!」
「照れるなよ、俺も何度かミトの名前呼び掛けたし、お互い様だろ?」
「言ってないだけマシだ!」
「よう、背中が寂しそうだな」
恥ずかしそうに叫ぶキリトに、エギルがそう声を掛ける。
「相棒無しじゃ、やっぱ辛いか?」
茶化す様に笑って、エギルが回復ポーションを差し出す。
「あんな分からず屋、知らないね!それに、俺の相棒はカイだ!」
キリトは引ったくる様にポーションを受け取り飲む。
「そう言えば、エギル。1層のボス戦の時に使ってた斧はどうしたんだ?」
そんな時、カイはエギルの持ってる斧が、1層で使ってたレア物の大型斧ではなく、店売りの中型斧なのに気づき尋ねる。
「ん?ああ、ちょっとな……だが、パフォーマンスは落とさんから安心してくれ」
「そこは心配してないさ………」
キリトはそう言って、ナト大佐と戦ってる《
「カイ、もしかするとエギルは………」
「ああ、強化詐欺の被害者かもな。どうする、言うか?」
「……いや、止めておこう。それに、今するべき話じゃない」
カイとキリトは小声でそうやり取りをし、《
《
いくら、最大強化されてる武器と防具とは言え、レベルやスキル熟練度が《攻略組》の平均より下であるにも関わらず、ここまで善戦するのは大した腕だった。
「あいつらなりだけじゃないな。実力もちゃんとある、負けてられないぞブラッキー殿」
「分かってるさ。でも問題は《大佐》の相手をしてる俺達じゃなく」
「本体の方だな……」
カイが、バラン将軍を相手してるパーティーを見て言う。
今さっき、バラン将軍の《ナミング》の回避が間に合わなく、何人かのプレイヤーが《
既に、何人かは《麻痺》状態になり、身動きが取れない状況だった。
「キリト、あの状態だともっと麻痺者が増えるぞ。このままだと撤退も難しい」
「そうだな………リンドと話してくる!カイ、ココは任せた!」
「おう!」
カイはキリトを見送り、ナト大佐へと向かう。
「キリトが戻るまで持ち堪えるぞ!なんなら倒す勢いで行こう!」
「「「「応!」」」」
エギル達H隊の景気が良く頼もしい声が響く。
「なぁ、スカーレットさんよ」
「その呼び方、言い辛くないか?カイでいいぞ」
「そうか、なら、カイ」
エギルが、腑に落ちないと言って表情で、カイに尋ねる。
「どうして《将軍》なんだ?」
「は?」
「1層のフロアボスは《
「…………言われてみると、確かに」
「俺は、その部分がどうにも腑に落ちなくてな。杞憂ならいいんだが………」
エギルはそう言うが、カイも今の話を聞き、同じ考えを抱く。
「戻ったぞ!後1人、《麻痺》が出たら撤退だ!」
そこに、リンドとの話を終えたキリトが戻って来る。
「なぁ、キリト。エギルと今話してたんだが、どうして1層のボスは《
「………そう言えば、どうしてだ?」
その話を聞き、キリトは今までどうしておかしいと思わなかったのかと不思議に思った。
だが、次の瞬間、何も思わなかった自分を全力で殴りたくなった。
何故なら、突然轟音が響き、ボス部屋の中央の床が開いて、そこから何かが上がって来た。
「なるほど…………そういう事か………!」
「これが答えかよ………!」
エギルとカイは、冷や汗を掻き、そう言う。
巨大な二足歩行のそれは、頭にある王冠を輝かせる。
それの名は《アステリオス・ザ・トーラスキング》
本当の第2層フロアボスが、《