とある修練所
そこで、2人の《
女の方はキズメル、男の方はヴォルフ。
キズメルは騎士で、ヴォルフは狼使いだ。
最初に動いたのは、ヴォルフだった。
身体を低くし、下からの斬り上げを放つ。
が、キズメルはこれを容易く受け止める。
「これから3層に降りると言うのに、今ではなければならんのか?」
「今だからこそ……です!」
狼使いのヴォルフの本来の戦い方は、相棒とも言うべき狼と共に敵を翻弄しつつ戦う。
だが、今のヴォルフは狼を使役していない。
対してキズメルは騎士。
剣同士の戦いなら、彼女に軍配が上がるし、何より、キズメルとヴォルフでは戦いの際の役割も、戦場に出た場数も、経験も違う。
それでも、ヴォルフは狼を使役せず、剣のみでキズメルと戦う。
(ふむ、最初のころと比べて随分と太刀筋が良くなったな)
ヴォルフの剣の腕の上達ぶりに感心しながらも、キズメルは涼しい顔で剣を受け流す。
「(だが)まだ甘い」
そう言い、ヴォルフの剣を弾き、渾身の居合斬りを放つ。
「!?」
ヴォルフはキズメルの気迫に圧倒されながらも、受けて立とうと、弾かれた剣を引き戻し、防御の態勢を取る。
そして、キズメルの剣と、ヴォルフの剣がぶつかる。
甲高い金属音が修練所に響き渡る。
「くっ……!ち…ッくしょ……!」
ヴォルフの身体と剣は地面に転がった。
勝敗は決した。
と、思われたが、ヴォルフはすぐに身体を起こす。
「まだ、一撃食らってませんよ……!」
2人の試合の勝敗は、先に一撃与えた方が勝ち。
まだ、攻撃が当たってないヴォルフは立ち上がる。
「まだまだここからです!」
落ちた剣に手を伸ばそうとしたその時だった。
「もうやめて!」
1人の《
「ティ、ティルネルさん!?」
ティルネルと言う女性が現れた瞬間、ヴォルフは驚く。
「それに、ロボ!?お前か!ティルネルさんを連れて来たのは!」
ティルネルの傍らには、彼の相棒である狼のロボが居た。
「ああーもう!こんなに無茶して!怪我はない?見せて!」
「だ、大丈夫!大丈夫ですから!」
ティルネルはヴォルフの側に座り込み、ヴォルフの手や顔を触って怪我の有無を確かめる。
「そのあたりでいいかな?ティルネル」
キズメルがそう声を掛けると、ティルネルは怒った表情でキズメルを見る。
「良いわけないでしょ!いくら私たちの事が反対だからって、弱い者いじめは良くない!」
「よ、よわっ………」
弱い者いじめと言う言葉に、ヴォルフが落ち込む。
そんなヴォルフの流す悔し涙を、ロボは舐めて拭う。
「安心しろ、もう勝負はついた」
「なっ!?」
キズメルの言葉に、ヴォルフは声を上げる。
「ま、待ってください!俺はまだ!」
「勘違いするな」
まだ戦おうとする、ヴォルフをキズメルは制する。
「お前の勝ちだ。腕を上げたな」
そう言い、キズメルは髪をかき上げ、頬に付いた一筋の傷跡を見せる。
ヴォルフは防御と同時に、カウンター技を使い、キズメルに反撃をしていた。
これには、流石のキズメルも驚いた。
あの瞬間、まさしくヴォルフは、騎士キズメルの上を行った。
「じゃ、じゃあ!」
ヴォルフと、ティルネルの顔が期待に満ちた表情になる。
「私も騎士だ。剣に誓って、約束したことは違えんよ。祝福しよう、心から……………心から…」
キズメルは数秒葛藤し、溜息を吐く。
「結婚おめでとう」
「「や、やったあああああああああああああああああ!!」」
キズメルからのその言葉に、2人は喜んだ。
手を取り合い、その場で抱きしめ合った。
ロボも嬉しそうに、2人の周りをぐるぐると回る。
「それで、子はいつもうけるのだ?」
「ちょっ!?子!?」
「ね、姉さん!?そんなの気が早すぎるよ!」
「早すぎるものか。いいか、男でも女でもいい。元気な子を生むのだぞ。そして、生まれた子は騎士にするんだ。《狼使い》などは許さんからな」
「ワウッ!バウッ!」
言葉が分かるのか、《狼使い》を馬鹿にされたロボがキズメルに吠える。
「こ、こやつ!誇り高きリュースラの騎士に楯突くか!お前は大人しく主人に従っておれば……あーもう!これだから《狼使い》は!」
怒りながらも、どこか楽しそうなキズメル。
そんな姿に、ヴォルフとティルネルは幸せそうに笑う。
この姉(義姉)に、自分たちの子供を見せて上げたい。
そんな気持ちだった。
そして、3層に降りてからしばらくたったある日。
《
ティルネルは薬師と言う身分で、部隊に同行していた。
仲間が傷つく中、戦場を走り、傷の手当などをしていた。
だが、部隊が壊滅になる瀬戸際で、ティルネルは指揮官より《秘鍵》を預けられ、本隊と合流し、《秘鍵》の安全を確保するように言われた。
ティルネルは、まだ戦う仲間たちを置き去りにし、《秘鍵》の安全の為に走った。
それと同時刻、ヴォルフもティルネルの元に向かっていた。
後方部隊の奇襲の知らせは早急に本隊に届き、機動力に優れたヴォルフ達、《
走り続けた数刻、ヴォルフの視界に走って来るティルネルが見えた。
ティルネルも、ヴォルフの姿を見つけた。
互いに安堵の表情になった。
その瞬間、ティルネルの身体を一本の剣が貫いた。
ティルネルはその場で崩れ落ち、手にしていた《秘鍵》も零れ落ちる。
それを一匹の鷹が回収し、ティルネルの身体を貫いた《
糸目の《
ヴォルフは、ティルネルの身体を抱きしめる。
ティルネルの身体は崩れてゆき、そして、指輪だけを残して消えた。
それから間もなく、キズメルたちも追い付き、キズメルはその光景で全てを悟った。
「………ヴォルフ、仇を見たか?」
「はい……奴は……《鷹使い》です……!」
それから一ヶ月、2人は《鷹使い》を探した。
キズメルにとっては最愛の妹、ヴォルフにとっては最愛の妻。
その仇を取る為、2人は《鷹使い》を探していた。
そして、一ヶ月後
キズメルとヴォルフは、仇を見つけ出した。