「しっかりしろ、ヴォルフ!」
《鷹使い》が去った後、《近衛騎士》は悔しそうにしながらも、負傷した《狼使い》の元へと駆け寄る。
「ね…
「案ずるな、無事だ!」
そう言うと、《近衛騎士》は一本の瓶を取り出す。
その瓶を見て、キリトは声を上げた。
「あれは……《グラン・ポーション》か!」
「「《グラン・ポーション》?」」
知らないアイテムに、カイとアスナが思わず尋ねる。
「ポーション系アイテムの中でも、最上級のポーションよ。もっとも、βの時も存在するって情報だけで、実物を見るのは、私もキリトも初めてね」
ミトの説明を聞き、カイとアスナは貴重なアイテムなんだと思う。
《近衛騎士》は瓶の蓋を開けて、《狼使い》へと飲まそうとする。
「ま、待ってくれ……それは、ティルネルさんが調合した最後の……!」
「今使わずして、いつ使う。それに……お前の命を救うことに使ったとなれば、妹も喜ぶ」
《近衛騎士》は、無理やり《狼使い》の口にポーションを流し込む。
ポーションを飲まされた《狼使い》は、HPの減少が止まり、回復始める。
《狼使い》のHPが半分まで回復すると、《近衛騎士》は安心したのか息を一つ吐く。
「……すまないが、《秘鍵》を渡して貰えるだろうか」
「あ、は、はい!」
言われた通りに、アスナは《秘鍵》を《近衛騎士》へと渡す。
「これでひとまず聖堂は守られた、ありがとう。そなたたちのおかげだ。改めて礼を言わせてくれ。人族の剣士たちよ、我らが司令官より褒章があろう。野営地までご同行願えるか?」
《近衛騎士》が言うとクエスチョンマークが現れたため問題なく進行しているということは分かる。
「どうする、キリト?」
ミトは小声で、キリトに尋ねる。
「このまま進むか、クエストを放棄するか……か」
ミト同様、キリトも小声で呟く。
βの時とは違う展開に、知らないストーリー。
このまま何事もなく、クエストが進むとは思えない。
明らかに、不確定要素が多すぎる状況。
この状況に、キリトとミトは、クエストの放棄も考えた。
「ねぇ、キリト君、ミト。まさか、ここで降りるなんて言わないよね?」
アスナの言葉に、キリトとミトは顔を上げる。
カイはと言うと、最初からその気なのか、アスナの側で回収した剣を鞘に納めていた。
「降りられるわけ、ないじゃない………」
アスナは目の前で《狼使い》が斬られたことに、責任を感じてるのか、唇を噛み締めながら言う。
「……一度乗った船を、途中で降りるなんてことしないよ」
「終点まで、このまま行きましょう」
キリトとミトも、クエスト続行の意思を見せる。
「それじゃあ、お言葉に甘えます」
アスナが頭を下げてそう言う。
「アスナ、それじゃあNPCは反応してくれないから、YESかNOを、はっきりとわかるように「結構。我々の野営地はこの森を南に抜けた先だ、ついて来てくれ」……まただ」
またしても、NPCらしからぬ反応し、キリトとミトは唖然とする。
「βの時とはAIが違うのか?」
「可能性はあるけど、なんて言うか……まるで……」
「ああ、まるで人そのものだ……」
《狼使い》を抱えて、先を進む《近衛騎士》の《
霧の中を進み、15分後。
カイたちは野営地に到着した。
「結構あっさり着いちゃったわね」
「野営地全体には《森沈みのまじない》が掛けてある故、そなたらだけでは辿り着けなかったと思うぞ?」
《狼使い》を救護所へと預けて、帰ってきた《近衛騎士》がそう言う。
「まじないって、魔法みたいなものか?」
彼女の言葉に、疑問を抱いたカイが訊ねた。
「魔法などと、到底呼べる物ではない。言わば、古の偉大なる魔法の微かな残り香だ……大地から切り離された時より、我ら《リュースラ》の民は、あらゆる魔法を失ってしまったのだ」
アスナとカイが感心したような声を出す中、キリトとミトはまたしても衝撃を受けた。
「大地から切り離された、魔法を失った……SAOにそんな設定があったって知ってたか?」
「知らないわよ。まぁ、β時代から、SAOの物語は設定が希薄すぎると思ってたけど」
そんなことを話し、4人は《
司令官は《近衛騎士》と《狼使い》の帰還をと、《秘鍵》の死守に大喜びをし、《近衛騎士》を褒めた。
その後、《近衛騎士》から4人は紹介され、司令官はカイたちにもお礼を言うと、クエスト報酬のコル、そして、装備アイテムを与えた。
装備アイテムは選択式で、キリトとカイは筋力値を+1する指輪を、アスナとミトは敏捷値が+1されるイヤリングにした。
そこで、クエストクリアとなり、最後に経験値が加算されて、キャンペーンクエスト第二章となるクエストを受けて、司令官の天蓋を後にした。
「考えてみれば、まだ名前も聞いていなかったな……何と言うのだ?」
NPCがプレイヤーの名前を聞いてくると思わなかったキリトは、内心で驚きつつ平静を装って伝える。
「キリトだ。で、こっちは俺の相棒の」
「カイだ、よろしく」
「アスナです」
「ミトよ」
「ふむ、《キリト》と《カイ》、それに、《アスナ》と《ミト》だな。発音は会っているだろうか?」
「ああ、ばっちりだ」
キリトは、(発音調整のシークエンスだなぁ)っと思いながら、OKを出す。
「人族の名は複雑だな、よろしい」
そう《近衛騎士》が言うと 姿勢を正し左手の拳を右の胸に当て自己紹介をした
「私はキズメル。リュースラ王国近衛騎士団がひとつ、エンジュ騎士団の末席に名を連ねる者だ。以後よろしく頼む」
《近衛騎士》改め、キズメルの凛とした佇まいに、思わずカイたち4人も背筋を正して、頭を下げる。
「「「「よろしくお願いします!」」」」