聖剣創りの魔術師   作:ケツアゴ

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プロローグ

「……」

 

 とある西洋風の屋敷の一室、部屋の主と思しき少年が眠っていると扉が開いて一匹の犬が入って来る。

 頭の付近の毛が長髪のように長い白で、他は白と黒が入り混じった大型犬、フォルム的には狼に近いが犬種は不明だ。

ドアを開き無言で少年のベッドに近付いた犬が一瞬視線を送ったのは家族で写したらしき写真、銀髪で高貴そうな女性に抱かれた赤毛の赤ん坊と、その隣に立つ女性によく似た幼い男児……今眠っている部屋の主の幼い頃であろう姿、そしてこの犬だ。

 

 時刻は五時前、犬は最初前足を身体にそっと乗せて少年を揺するも起きる様子は無く、続いて毛布を咥えると引き剥がす。

 

「……うーん、後七時間」

 

「……」

 

 ベッドの中にもう一人、犬が昨夜見に来た時には居なかった筈の白髪の美少女の姿に犬は瞳に精神的な疲労の色を浮かべると一旦窓を開け、そのまま少女の襟首を咥えると勢い良く振って窓から投げ飛ばして何事もなかったかのように窓とカーテンを閉める。

 

「……ガゥ」

 

 この一連の流れの間も少年は眠ったままであり、犬は不本意だとばかりに耳元で鳴くも起きず、次の瞬間には犬が前足を大きく上げて少年の顔面に振り下ろした。

 

 

 

「あだっ!?」

 

 まるで重機による工事でも隣で行われているかのような揺れが起きる程の一撃に悲鳴を上げながら漸く起きる少年、悶絶しながら顔をさする彼に対して犬は”漸く起きたのか”と呆れ顔を向けながらクルリと反転し、扉の前で振り向いた。

 

 

「お早う、ウッドワス」

 

「……」

 

 返事代わりとばかりの会釈、完全に言葉を理解しているらしいこの犬は直ぐに部屋から出ていき、続いて隣の部屋へと入っていくと、間髪入れずに先程少年が食らった物と同じ一撃を部屋の主にたたき込んだ音と少女の悲鳴が聞こえて来た。

 

 

 

「きゃっ!? なにしやがるんだよ、このクソ犬!」

 

 

 続いて随分と柄の悪い少女の声を聞きながら少年はベッドから起き上がり、少女の部屋の前まで歩いていけば赤い髪の少女と犬が真正面からにらみ合っていた。

 

 

「お早う、バーヴァンシー。先に行っているよ」

 

「あっ、お早う、お兄様。待って、私も直ぐに着替えて行くから」

 

 少女に軽く手を振りながら少年が向かうのは今居る二階の奥の部屋、扉を開けば広大な面積を持つ石部屋が広がっているではないか。

 外観の面積よりも広い部屋の中央辺りに少年が移動すると何処からか槍を思わせる見た目の杖が自動的に現れてフワフワと少年の腕に向かって浮いて寄って来る。

 

「お兄様、待たせてごめんなさい!」

 

 少年が部屋に入って五分程経過した頃、先程の少女も寝間着を着替えてから慌てた様子で部屋の中央の少年の所にまで駆け寄り、それを待っていたかのように部屋の景色が一変した。

 空は青く若草色の草が生い茂る草原、周囲にはラミアやワイバーン、ゴーレム等の怪物が二人を取り囲み、空には時間の表示。

 

「今日はたった六時間なのね。お母様ったら調子が悪いのかしら? 最近は十時間耐久とかなのに……」

 

「昨日、訓練室の調子が悪いから短めにしておくって連絡があっただろう? ちゃんと覚えておかないと、また”どうしてお前は何時もそうなのだ”って叱られちゃうよ? 僕達が学校に行っている間に遠くからちょちょっと修理して置くけれど、今は時間を歪ませるのはこれが限界なんだろうね」

 

「うっ! そんな事よりも来たわよ!」

 

 二人が会話をする間にも怪物達は距離を詰め、一斉に襲い掛かる。

 両手の爪を突き出してラミアが飛びかかり、数匹纏めて細い糸に動きを封じられたかと思うと切断され、少年が杖を振るえば周囲の空間が歪んで高エネルギーを込めた闇の波動がワイバーンを消し飛ばした。

 

「ははっ! 消えろよ、ざーこ!」

 

「あまり汚い言葉は使わない! ほら、今日のゴーレムは少し頑丈だよ!」

 

 他の怪物同様に糸に動きを封じられ切られるかと思ったゴーレムだが、糸は途中で止まり、少年が放った魔法力の球を数発食らう事で漸く半壊する。

 崩れながらも向かって来るゴーレムを少年が蹴り壊せば空の彼方からワイバーンが、草の陰からラミアが湧き出して来ている。

 

 

「うぇっ!? 時間が短いから今日は楽だと思ったけれど、何時もより出現速度早くないかしら?」

 

「耐久時間が短い分、他がハードって事だろうね。ほら、次はバーヴァンシーがワイバーン担当!」

 

 少年の手にはいつの間にか神々しさすら感じさせる西洋剣が出現し、一振りすれば視界内の怪物達を飲み込む程の光の波動を放ち、砕けて消えて行く。

 だが、直ぐに次の剣が現れた。

 

「六時間全力で暴れ続ければ良い! 短いから何時もよりは矢っ張り楽!」

 

「そうかしら? お兄様が言うんだからそうなのよね? そうね、その通りだわ!」

 

 少し疑問に思ったもののバーヴァンシーは直ぐに納得して襲い来る怪物達を迎え撃つ。

 倒しても倒しても数が減る様子は無く、結局タイマーに表示された六時間が経過するまで二人の戦いは続くのであった。

 

 

 

 

 

「……ふぅ。最後の方、明らかに魔王クラスのドラゴンが出て来たけれど、意外と何とかなるもんだ」

 

 六時間が過ぎる直前、急に三十分の延長と共に現れたワイバーンに乗ったスケルトンの軍団と巨大なドラゴン、正直六時間を走り抜ける気で暴れていたけれど、それを見抜かれたからの追加かもね。

 まあ、何はともあれ僕も両親は同じだけれど腹違いの妹であるバーヴァンシーにも怪我が無いから構わないけれど。

 

「うへぇ。汗と土埃と返り血で汚れちゃったし、朝ご飯の前にお風呂に入るわね」

 

「そう。僕もご飯を食べたらお風呂にするよ。っと、評価が来た」

 

 息を乱して座り込むバーヴァンシーと隣に立つ僕の手元に現れたのはさっきの訓練の評価を細かく書いた紙。

 何処でミスをしたのかとか、何処が上手く行ったとか、割と厳しい事を書いてはいるけれど最後は誉めてくれているからバーヴァンシーも落ち込まずに済む。

 

 母様は少し言葉が足りない人だったけれど、母さんの方はコミュ力が高いから良い影響が出たんだろうね。

 

 

 

 

 おっと、名乗るのを忘れていたよ。

 僕の名前はアーロン、魔術師さ。

 

 

 

 

「新聞新聞っと。……ウッドワスが取ってきてくれたら良いのにさ」

 

 うちの警備員かつ僕達が馬鹿をやらかさないかの見張りでもあるウッドワスは母様が創り出した存在、だからか僕達の命令なんか聞いちゃくれない。

 犬を飼っているのに散歩に行かせないのは世間体が悪いからってリード付けての散歩だって母様の世間体を出さなくちゃ断られただろうしさ。

 

 僕達が訓練室に入ったのは五時過ぎで中での経過時間は六時間半、だけど部屋の外じゃ六時過ぎ、当然魔法だ。

 しかも母様が転移の行使に厄介な影響が有るらしい遠くから、あの人に比べれば僕もバーヴァンシーも半人前以下だと思いつつ玄関の新聞受けまで来れば、遠くから朝のランニングの途中である幼なじみが姿を見せる。

 

 

 

「やあ、お早う。イッセーもドライグも元気かい?」

 

 うちの居候兼自称僕の恋人である彼女のせいで面倒な事に巻き込まれた友人に挨拶をすれば向こうも足を止める。

 やれやれ、ベルゼブブ派の言い付けでトレーニングをしているんだけれど、どんなご褒美を用意されているんだろう。

 ……まあ、”性欲が満たされる事で才能が嵩上げされる”なんて意味不明の特殊能力の持ち主だ、予想は出来るけれど。

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