アーサー王に聖剣エクスカリバーを渡した湖の乙女、それが僕の一族の先祖らしい。
結局アーサー王が死んだ時にエクスカリバーは湖に返されて、その後は何があったのかは知らないけれど教会側に所属して、かつての大戦の時にエクスカリバーが砕けた事の責任を取らされて追放されたのが先祖らしいけれど、今となっては追放の恨みとか悲しみとかは僕の世代にはどうでも良い話なんだけどね。
「さてと、今日のメニューは何だろう?」
「あっ! やったわ! 今日は甘い物が食べたかったの」
イッセーはランニングの途中だから軽く言葉を掛けて直ぐにリビングに戻り、バーヴァンシーがお風呂から上がって来るのを椅子に座って待つ事三十分、汗を流してスッキリした様子の顔でやって来た彼女が座ると何も置いてなかったテーブルの上に料理が現れた。
僕はベーコンとスクランブルエッグを添えたトースト、バーヴァンシーは蜂蜜とバターを乗せたフワフワのパンケーキ……そして。
「ねぇ、昨日は君のベッドに入り込んだのに起きたら外だったんだ。僕、体温が低いから温めて欲しいなぁ」
「あっ、そう? じゃあ暖炉の用意をしようか?」
後ろから首に回される柔らかく小さな手、そして甘え声。
振り返るまでもなく誰か分かっているって言うか、昨日もベッドに入り込んでいたんだ。
「……ねぇ、ちょっと恋人に冷たくない? 甲斐性無いよ? 死ぬの?」
振り返れば其処にいたのは自称恋人で居候の少女……尚、僕よりずっと強い。
何せ彼女の父親は二天龍の片割れ、白龍皇アルビオン。
因みに名前はメリュジーヌ。
昔、封印されていた彼女を僕が復活させてしまってからこんな感じ、今は凄く目が怖いです。
「はい、あーん」
ベーコンの内、それ程大きくない物をフォークで刺してメリュジーヌの口元に差し出して、そのまま開けた口に入れて食べさせる。
「えへへ。嬉しいな。これぞ恋人って感じだよね! じゃあ僕もベッドに戻る前に朝ご飯にするよ」
「……いや、ペットにオヤツをやる感じだろ」
ボソッと呟いたバーヴァンシーの声は幸せ一杯の状態のメリュジーヌには届いていないらしく、僕の隣に椅子を移動させて座れば彼女の前にも料理が現れる。
旗を刺したチキンライスやハンバーグ、何処から見てもお子様ランチなんだけれど、それを嬉しそうに食べる姿は可愛らしい。
いや、まあ、バーヴァンシーの方が可愛いんだけれどね?
時々凛々しい騎士のようで大体寂しがりやの甘えん坊、そして執着心が強いヤンデレ気質、そんな性格は両親ともに人間じゃないからだろう。
父親がドラゴンで母親はオーロラって名前の妖精で、とある部族の族長だったらしい。
そして恋人であるアルビオンに自分だけ見て欲しいからって娘に冤罪ふっかけて騙し討ちで重傷を負わせて封印した妖精の価値観からしても異常者。
「ねぇ、今日は学校を休んで僕とデートしようよ」
「学生の本分は勉強だからね。まあ、今度の休みにでも遊びに行こうか」
「やった! 二十四時間分の計画を立てておくよ」
二十四時間か……重いなあ、この子。
まあ、母親に裏切られた上に怒った父親が暴れ、それに巻き込まれた人の家族が母親殺したから和解は無理だし、その父親も封印されてしまっているんだ、寂しさから来る感情が全部僕に向かっているんだろうけれど……。
尚、その暴れた時に大怪我を負ったのがドライグの恋人で、復讐に行った際にメリュジーヌの封印された首飾りをアルビオンが紛失してしまったのが二天龍の因縁の始まりだとか。
「おい、あんまお兄様を困らせんなよ」
「なんで困るの? 僕、アーロンの恋人だよ?」
この恋人扱い、初対面から始まった上に理由を尋ねても”おいおい分かるよ”としか言ってくれない。
だからバーヴァンシーは面白くないんだろう、結構メリュジーヌに攻撃的だ。
母二人子二人の家に急に現れた兄の自称恋人だからね。
「所でバーヴァンシー。そろそろベルゼブブに研究成果を提出する頃なんだけれど、仕上げを手伝ってくれるかい? 放課後に友達と用事が無ければで良いからさ」
「良いわよ。お兄様のお願いだもの、どんな用事よりも……お母様との用事は除くし、母様の方なら内容次第だけれど、優先するわ」
「そう、バーヴァンシーは良い子だね。兄として誇らしいよ」
小さな頃から素直で良い子だったバーヴァンシー、人の良さに付け込まれる事が何度か有ったせいで母様が邪悪にさせようとしたのを母さんが何とか止めて、今じゃ敵と見なした相手に攻撃的に出る程度に落ち着いた。
たまに心配にはなるんだけれど、それでも優秀で素直な自慢の妹さ。
……尚、家の当主である母様と妻である母さんだけれど、僕の時は母様が産ませ、バーヴァンシーの時は産んだんだ。
だからかバーヴァンシーは母様の方に懐く比重が大きいんだよね、母さんも大好きなのには変わりがないけれど。
「私もお兄様が自慢よ。何せお母様から魔王の契約相手を受け継いでちゃんと認められているんだもの。だから頑張って力になるわね」
誉められて嬉しそうに微笑むバーヴァンシー。
思春期だってのに兄である僕に母さん以上母様未満の好意を向けてくれている。
「あっ、そうそう。はぐれ悪魔が廃墟に潜んでいるけれど、今度アレで遊んで来て良いかしら? 吊して手足切り落として虐めてやるの。凄く楽しそうだわ」
「うーん、駄目」
後は余計な残虐性さえ落ち着かせられたらなあ……。
「さて、食べ終わったし風呂で汗を流してくるよ。バーヴァンシー、ちゃんと宿題のチェックと授業の準備は済んでる?」
「宿…題…? だ、大丈夫よ、ちゃんとするから!」
あっ、これは忘れていたな。
しどろもどろになって慌ててパンケーキの残りを口に運ぶ妹の姿に溜め息が出そうになるけれど、時計を見れば余裕がある。
今日の予習をする時間が減った事はウッドワスに口止めをお願いすれば……黙っていてくれれば良いなあ。
チラッと視線を向ければクッションの上で寝転がっていたのをお座りの姿勢になって首を左右に振って、続いてカレンダーに鼻先を向ける。
「……フン」
あっ、鼻で笑った。
カレンダーに書かれた明日の予定、バーヴァンシーが母様達が帰る日の次くらいに楽しみにしているお小遣い日。
尚、お小遣いは訓練の成績とちゃんと宿題と予習復習をしたかで増減する。
新しいハイヒールを作りたいって言ってたし、僕から援助してあげるか……。
「所で何で君までお風呂に付いてきているんだい?」
「恋人だから背中を流してあげるよ。君も僕の背中を流してくれるよね!」
「うーん、駄目。僕、お風呂はゆっくり入りたいんだ。またの機会にね」
「……はーい」
尚、またの機会が有るかどうかは不明さ!
「さてと、さっと汗を流してスポンサーとの会談を終わらせるか。ルシファー派が管理する旧校舎でってのが面倒だけれどさ……」